鷺の停車場

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アニメ映画「火の鳥 エデンの花」

週末の朝、TOHOシネマズ柏に行きました。


9時すぎの時間帯、ロビーにはかなりのお客さんがいました。


この日の上映スケジュール。この日は18作品・22種類の上映が行われていました。直前に行ったMOVIX三郷と比べると上映作品は約半分、大型のシネコンとしては少なめの作品数かもしれません。

この日観るのは、「火の鳥 エデンの花」(11月3日(金)公開)。全国96館での公開。


上映は、179+2席のスクリーン8。お客さんは6~7人ほどと、かなり寂しい入りでした。


(チラシの表裏)


(チラシの中見開き)


手塚治虫の漫画「火の鳥」(望郷編)を原作に、アニメ映画化された作品で、監督:西見祥示郎、キャラクターデザイン・総作画監督:西田達三、アニメーション制作:STUDIO4℃などの主要スタッフ。

ずっと昔の小中学生時代、地元の図書館に、当時蔵書にあるのは珍しかった漫画本として「火の鳥」の単行本が何冊か置いてあって、借りたりして何度も読んだ記憶があります。全巻揃っていたわけではなかった気がしますが、「望郷編」も蔵書の中にあって、読んだことがあったと思います。ただ、その後は、「火の鳥」の各編を改めて読む機会はほとんどなく、ストーリーの細部はあまり覚えてませんでした。

 

公式サイトのストーリーによれば、

 

荒涼たる辺境惑星エデンに1台のロケットが降り立った。わけあって地球から逃亡してきたロミ(声:宮沢りえと恋人のジョージ(声:窪塚洋介は、この星を2人の新天地にしようと誓うも、未開の惑星での生活は厳しく、ジョージは井戸掘り中の事故で命を落としてしまい、ロミは一人息子のカインとAIロボットとともに、孤独なサバイバル生活を送ることに。

ロミはカインのために自分の命を少しでも引き延ばすことを決意し、コールドスリープに入る。だが、機械の故障で1300年間も眠り続けることに。ようやく目覚めたロミは、新人類が築いた巨大な町・エデン17の女王となる。 そんなある日、心優しい少年コム(声:吉田帆乃華)は、宮殿で悲しみに暮れる女王ロミと出会う。ロミの望郷の想いを知ったコムは、一緒に地球に行こうと、無謀な挑戦と知りながら、2人で広大な宇宙に飛び出していく。 旅の途上で、地球人の宇宙飛行士・牧村(声:浅沼晋太郎や宇宙のよろず屋・ズダーバン(声:イッセー尾形、そして人智を超えた未知の生命体の数々との出会いを重ねながら、故郷の地球を目指す。

 

・・・というあらすじ。

 

主要登場人物・キャストは、

  • ロミ【宮沢 りえ】:主人公の女性。新天地を求めてジョージとともにエデンにやってくる。

  • ジョージ【窪塚 洋介】:ロミの恋人で、一緒にエデンにやってくるが、不慮の事故で命を落としてしまう。

  • コム【吉田 帆乃華】:エデンで生まれ育った心優しい少年。人間とムーピ―の混血。

  • 牧村【浅沼 晋太郎】:地球に向かうロミとコムが出会った地球人の宇宙飛行士。

  • カイン【木村 良平】:ロミとジョージの間に生まれた息子。

  • ズダーバン【イッセー尾形】:ロミが意識を失った際に、牧村が頼った商魂逞しい宇宙のよろず屋。

という感じ。

 

大昔に読んだ「火の鳥 望郷編」のストーリーの記憶はもはや曖昧ですが、地球に一度帰りたいと願う女王とそれを叶えようとする少年が地球に向かう物語は、以前に読んだ記憶があります。その大きな物語の骨格は維持しながら、鮮やかな映像美で描き出し、心に響く作品でした。個人的には、かつて「火の鳥」の漫画を読んだときのおぼろげな印象が蘇って、冒頭のシーンから涙腺が緩みましたし、劇中でもいくつかの印象的なシーンでは涙がこぼれました。

結果論的にいえば、ロミが地球に帰り、生まれ育った故郷を見ることができたことと引換えに、エデンは悪徳商人ズダーバンの狡猾な策略によって廃墟と化し、コムも牧村が撃った銃弾によって命を失うことになります。第三者的に見れば、ロミの帰郷の代償はあまりにも高いものだったと言わざるを得ません(手塚治虫の作品には、そういう冷酷な現実をあえて突き付けるところがあります。)。しかし、本作の最後は、再び前に向かって歩き出すロミの姿で終わります。これは原作のエンディングとは違っているような気もしましたが、将来への希望を感じさせる形で終わるのは、作品のエンディングとしては良かったのではないかと思います。

 

ここから先はネタバレになりますが、備忘を兼ねて、記憶の範囲で、より詳しいあらすじを記してみます。

 

ロミとジョージは、宇宙船の中で「冷凍睡眠」(コールドスリープ)から覚め、地球から彼方にある惑星エデンに降り立つ。故郷の地球から逃亡した2人は、新天地を求めて、生き物はいないものの地球と似た大気環境のこの星にやって来たのだ。ジョージは水を確保しようと探し回り、井戸の掘削を行うが、なかなか水源を見つけることができない。ようやく水源を掘り当て、歓喜するジョージだったが、地盤が崩落して、倒れてきた掘削機械の下敷きとなって命を落としてしまう。

残されたロミのお腹には、男の子の命が宿っていた。ロミは生まれてきた息子をカインと名付け、AIロボットとともに農作物を育て、カインを育てていく。しかし、ここままでは、ロミが死んだ後はカインを1人にしてしまうと考えたロミは、カインが成長するまで再び冷凍睡眠に入ることを決断し、AIロボットに指示して13年間の冷凍睡眠に入る。

残されたカインは、AIロボットの世話を受けて成長し、13年後のロミの目覚めを楽しみに待つが、機械の誤作動で、13年が経過してもロミは目覚めない。AIロボットがロミの目覚めが1287年後であることを告げると、怒りで我を失ったカインはAIロボットを殴打して壊してしまう。唯一の話し相手を失ったカインは後悔して詫びるが、AIロボットは再び動くことはなかった。

そんなある日、星に大きな落下物が落ちてくる。カインが落下場所までバイクを走らせると、岩のような宇宙船から出てきた自由に姿を変えることができる生物・ムーピーがロミの姿になってカインの前に姿を現し、カインを慰めるように声をかけ、カインは彼女を抱きしめる。

そして約1,300年後、ロミが冷凍睡眠から目覚めて宇宙船を出ると、宇宙船の周りは壁に覆われていた。そこに姿を現した侍女の姿をしたムーピーは、カインの子孫が新たな社会を築き上げたことを説明し、ロミをその外に案内する。宇宙船を覆うピラミッドのような巨大な建造物の外には、立派な街並みが広がっていた。

目覚めたロミは、エデンの「女王」として、穏やかな生活を送るが、日に日に美しい故郷・地球への思いを募らせていくようになる。

一方、エデンで生まれ育った心優しい少年コムは、野菜をカゴに入れて運ぶ途中で、誤ってカゴの野菜を落としてしまい、野菜は階段を転がり落ちていく。野菜を拾い集めるため階段を下りていったコムは、宇宙船のそばで涙を流すロミと出会う。ロミの、一度でいいから地球へ帰りたいという思いを知ったコムは、ロミの思いを叶えるため、地球に行きたいと考える。

かつてムーピーが乗ってきた岩の宇宙船を念力で動かせば地球に行けると考えたコムは、岩の宇宙船を探して歩き、岩の宇宙船を発見する。そのエリアは立入禁止となっており、コムはそのことを咎められるが、その夜、ロミからの使いがコムのもとを訪れ、旅立ちの準備をするよう告げる。ロミは、地球に帰ったら再びエデンに帰ってくる、それまでの間自分の代わりをしてほしいとムーピーにお願いし、コムとともに岩の宇宙船に乗り、コムの念力でエデンを飛び立つ。

地球がどこにあるのか知らないコムは、ロミがイメージする地球に当てはまる星を探して宇宙船を飛ばしていくが、その途中で移民星調査員の牧村が乗ったロケットと衝突する。ロミはロケットが壊れた牧村を岩の宇宙船に招き入れて救出するが、牧村は、地球はもう存在しない、と衝撃の事実を告げる。

諦め切れないコムは、ロミの地球のイメージに近い星を探して天の川銀河を離れて違う銀河のある星に到着するが、そこは、岩などの無機物が生命体として活動し、花を食べたりする不思議な星だった。そのうちに、円盤状の巨石が大挙して転がってきて、岩の宇宙船の周りを取り囲んだ後、塔のように積み重なって宇宙船を壊そうと倒れこんでくる。ロミたちは慌てて宇宙船に乗り込み飛び立つが、その際の宇宙船の激しい揺れで、ロミは身体を強打して意識を失ってしまう。

ロミとコムの姿を見た牧村は、実は地球は存在するが、ロミの思っている地球とは違う見にくい星になっていること、地球に住むことができる人はごく一部に限定されており、移住者が地球に帰ろうとしても不法侵入として攻撃されてしまうことを明かし、地球に着いた後のことは保証しないが、岩の宇宙船なら地球まで行けるのではないかと話す。牧村は、ロミの意識を回復させようと、ズダーバンの宇宙船に連れていく。ズダーバンは、コムにムーピーの血が入っていることを見抜き、需要が高いムーピーで儲けようと、ロミの治療の代わりにコムが来た星を教えるよう要求する。ズダーバンがどこかの宇宙人から入手した装置にロミを入れて作動させると、ロミは20代のころの身体に若返って意識を取り戻す。

岩の宇宙船に乗って地球に向かうロミたちが地球に近づくと、地球の周りには、地球に帰ろうとして破壊された移民の宇宙船の破片などが大量に浮遊し、土星の輪のようになっていた。岩の宇宙船はそれをかいくぐって地球に着陸するが、そこはマスクなしでは息もできないほど環境が汚染し、荒れ果てた世界になっていた。

一方、エデンに向かったズダーバンは、女王がロミの姿をしたムーピーだと勘づき、問い質す。女王はそれを否定するが、ズダーバンにここで商売することを認めざるを得なくなる。ズダーバンは人々が欲望を持つようになるカプセルを飲用水に使う水に投入し、酒や武器などを売って儲けていく。

地球に着いたロミとコムは、すぐに捕らえられ、収監されてしまうが、ロミの幼なじみだったチヒロが姿を現し、ロミとコムを助け出す。ロミはかつてAランクの個体として身体は各部位に分解され保管される運命にあったのだが、それを宇宙飛行士だったジョージが一緒に連れ出して地球から逃亡したのだった。そして、チヒロは、見た目は人間だが、各部位が分解・保管された後のロボットで、心はなく頭脳とメカニズムだけだと明かす。

そのころ、ロミとコムを連れて地球に戻ってきた牧村は、政府からその違法行為を咎められ、逃亡したロミを捕らえるよう命じられる。

一方、欲望から人々の間に争いが起きるようになったエデンでは、武器で殺し合いが起こるようになり、ズダーバンも殺され、ついには、エデンの町は廃墟となってしまう。

チヒロは、自分が育ったヘブン島に行きたいというロミの願いを聞き入れ、地下の用水路などを通ってロミとコムをヘブン島に連れていく。しかし、外部からのウイルスが侵入したことを察知した政府は、捕獲ロボットを島内に放つとともに、ヘブン島を爆破しようとする。

チヒロがロミたちを捕獲しようとするロボットを妨害する中、コムは念力で岩の宇宙船をヘブン島も呼び寄せ、それに乗ってエデンに戻ろうとする。宇宙船が飛んでいくのを見た牧村は、それを追ってヘブン島に向かう。

岩の宇宙船にたどり着いたロミとコムだが、その前には牧村がいた。コムが念力を使って宇宙船を動かして抵抗するが、牧村が放った銃弾はコムの胸を打ち抜く。ロミは倒れたコムを抱き上げて、エデンに帰ります、と言って岩の宇宙船に乗り込み、地球を飛び立つ。その直後、政府によってヘブン島は爆破され、大きな火の玉が上がる。

そして、岩の宇宙船はエデンに到着する。その地に降り立ったロミの目の前には、廃墟となったエデンの街が広がっていた。コムはもう命を落としてしまっていたが、その魂がロミに語り掛ける。ロミが顔を上げると、その前にはジョージ(おそらくその姿をしたムーピー)の姿があった。2人は強く抱き合い、歩き出していく。

(ここまで)

 

本作を観て、久しぶりに原作も読み直してみたいと思って、地元の図書館で漫画を借りてみました。

借りてきたのは、1998年刊行の朝日ソノラマ版。週刊・月刊のコミック誌と同じB5判で、コミック単行本で一般的なサイズであるB6判の倍の大きさとなっています。なお、同じバージョンは現在も入手可能です。

なお、火の鳥の各編は、望郷編に限らず、最初に発表した後も、手塚治虫が度々手を加えていたようで、バージョンがいくつかあるようです。この朝日ソノラマ版も、「月刊マンガ少年」1976年9月号(創刊号)から1978年3月号に連載されたオリジナル版から単行本化に際し手が加えられているようで、朝日ソノラマ版から更に手が加えられた角川文庫版も入手可能です。

書誌データをみると、オリジナル版は431ページ、この朝日ソノラマ版は417ページ、角川文庫版は367ページとなっているので、角川文庫版では、単純計算で50ページほどがカットされていることになります。

私が中高生のころに読んだのは、ハードカバーの本だったので、おそらく、1986年に角川書店から刊行された愛蔵版で、内容的には、現在の角川文庫版と同一だろうと思われます。作者の手塚治虫が最後に手を入れた版なので、いわばディレクターズカット、最終版ということになります。

そういう意味では、朝日ソノラマ版を読むのは初めて。

原作では、ロミが機械の誤作動で1300年間眠るという設定はなく、カインとの間に5人の男の子を産み、そのうちの1人が宇宙からやってきたムーピーとの間に女の子をもうける、という設定になっており、また、食糧不足に陥ったロミの子どもたちが亡くなったカインの肉を食べるという刺激的な描写も出てきます。こうした近親相姦、カニバリズムは、絶滅の危機に追い込まれた人間がそれを避けるための選択としては止むを得なかったといえますが、そういう状況ではない現代社会においてはタブーとなっているものであり、本作では、そうした批判を招きそうな描写は慎重に避けられていることが分かりました。


なお、入場者プレゼントをいただきました。4cm四方ほどの小さなステッカーでした。