鷺の停車場

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映画「ミッシング」

週末の朝、MOVIX柏の葉に行きました。


9時ちょっと前の時間帯ですが、ロビーのお客さんはわずかでした。


この日の上映スケジュールの一部。この日は、23作品・25種類の上映が行われていました。

観るのは「ミッシング」(5月17日(金)公開)。全国257館と大規模での公開です。


上映は103+2席のシアター6。入口で上映作品を表示するディスプレイは故障していますた。

中に入ると、お客さんは5人くらいでした。公開3週目になっても1日4回の上映、お客さんが多いのかと思っていましたが、意外に寂しい入りでした。


(チラシの表裏)


(その前に配布されていた別バージョンのチラシ)

 

𠮷田恵輔監督のオリジナル脚本によるヒューマンドラマ。

 

主な登場人物・キャストは、次のとおりです。

  • 森下 沙織里【石原 さとみ】:娘を探す母
  • 森下 豊【青木 崇高】:沙織里の夫
  • 土居 圭吾【森 優作】:沙織里の弟
  • 美羽【有田 麗未】:失踪した沙緒里の娘
  • 砂田 裕樹【中村 倫也】:TV局の記者
  • 不破 伸一郎【細川 岳】:カメラマン
  • 三谷 杏【小野 花梨】:テレビ局の新人記者
  • 駒井【山本 直寛】:砂田の後輩記者
  • 村岡【柳 憂怜】:失踪事件の担当刑事
  • テレビ局の番組デスク【小松 和重】
  • 圭吾の職場の先輩【カトウシンスケ】
  • 沙織里と圭吾の母親【美保 純】

 

公式サイトのストーリーによれば、

 

とある街で起きた幼女の失踪事件。
あらゆる手を尽くすも、見つからないまま3ヶ月が過ぎていた。

娘・美羽の帰りを待ち続けるも少しずつ世間の関心が薄れていくことに焦る母・沙織里は、夫・豊との温度差から、夫婦喧嘩が絶えない。唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田を頼る日々だった。

そんな中、娘の失踪時に沙織里が推しのアイドルのライブに足を運んでいたことが知られると、ネット上で“育児放棄の母”と誹謗中傷の標的となってしまう。

世の中に溢れる欺瞞や好奇の目に晒され続けたことで沙織里の言動は次第に過剰になり、いつしかメディアが求める“悲劇の母”を演じてしまうほど、心を失くしていく。

一方、砂田には局上層部の意向で視聴率獲得の為に、沙織里や、沙織里の弟・圭吾に対する世間の関心を煽るような取材の指示が下ってしまう。

それでも沙織里は「ただただ、娘に会いたい」という一心で、世の中にすがり続ける。
その先にある、光に—

 

・・・というあらすじ。

 

心が締め付けられるような展開で、途中には目を背けたくなるような描写もありましたが、最後はほのかに心が温まるところに着地して、救いが訪れるわけではないものの、前を向いてちゃんと生きていこうとする(ように映る)主人公の姿で終わり、終わった後も深い感銘が残る作品でした。
主人公の沙織里も含めて、100%の善人は登場せず(全く良い要素が描かれない人間はいましたが)、どの人も、どこかに悪い要素を持つ人間として描かれているのは、安易な感情移入を許さない𠮷田監督の姿勢の表れなのでしょう。沙織里が自分たちを助けてくれる唯一の存在のように縋る砂田も、基本的には善人寄りに描かれていますが、被害者の沙織里たちに寄り添おうとする思いと、上司のデスクなどからプレッシャーを受けて視聴者に受けるものを制作しなければという思いの板挟みに遭い、チラシ配りをする沙織里に視聴者受けしそうなリアクションを求めるなど、マスコミの悪しき面から無縁ではないことも描かれており、観ている観客にも自分ならどうするかを突きつけているような印象も受けました。

石原さとみの、良くも悪くも主人公の心情に入り切ったような演技は鬼気迫るものを感じましたし、夫役の青木崇高も、イタズラに遭って蒲郡で泊まることになった際に喫煙所で煙草を吸いながら親子連れが歩く姿を見て涙するシーン、2年後に沼津で発生した女児行方不明事件で美羽の事件と結び付けようとする沙織里を止めようと、(この事件は)母親が!と言いかけて何とか自制するシーン、駅前でチラシ配りしているときにその事件の母親の感謝の言葉に我慢できず泣き出すシーンなど、印象に残る演技がいくつもありました。

 

以下はネタバレになりますが、備忘も兼ねて、より詳しめにあらすじを記してみます。(本編中で描かれた順番を含め、多少の記憶違いはあるだろうと思います。)

 

冒頭、美羽との思い出を記録した数々の映像が流れる。

静岡県沼津市に住む森下沙織里とその夫の豊は、3か月前に失踪した6歳の娘・美羽の捜索活動を続け、毎朝駅前で情報提供を求めるチラシを配るが、解決につながるような情報は得られないままで、ネットでは、事件の日に沙織里がアイドルグループのライブに行っていたことなどが晒されて誹謗中傷もなされていた。チラシ配りをする様子を取材する地方テレビ局の記者・砂田は、情報番組のコーナーで取り上げるため事件当初から取材を続けていた。

そんな中、砂田は、上司であるテレビ局のデスクに、コンテンツがマンネリ化していることを指摘され、美羽が最後に一緒にいた沙織里の弟・圭吾への取材を命じられる。砂田は沙織里を通じて取材を依頼し、進展のない状況に焦りを募らせる沙織里の強引な説得で、圭吾は取材を受けるが、その内気な性格もあって、挙動不審な様子ではっきりしない回答を繰り返す。砂田は裏が取れた事実の報道に徹しようとするが、何かめたいことを隠すかのような圭吾の対応ぶりに、デスクの意向で圭吾への疑惑を掻き立てるような映像に仕立てられてしまう。

それが番組で放送されると、圭吾の車のライトが割られたり、買い物に行ったスーパーでチンピラに絡まれるなど、圭吾の生活にも支障が出る。沙織里は、ネットの書き込みを見ては憤り、その様子を見て豊は、わざわざ見ることはないと冷静に諫めるが、沙織里は、見たくないけど、見ずにはいられないと反論する。

有力な情報が得られない中、沙織里のスマホに情報提供のメッセージが届く。藁にも縋る思いの沙織里は、冷静に諫める豊の言葉には耳を貸さず、直接会うために豊の運転する車で蒲郡まで行くが、時間になっても相手は姿を現さず、その晩蒲郡に泊まった2人が翌朝蒲郡駅前でチラシを配っていると、そのアカウントは消され、イタズラだったことがわかる。

事件の日に美羽を圭吾に預けてライブに行っていたことや、ライブに熱狂して豊ひとりに奔走させたことに自責の念を抱いていた沙織里は、ネットでの誹謗中傷に精神状態は悪化し、自分の心を失くしていく。

そのころ、テレビ局では、砂田の後輩記者・駒井が市長のスキャンダルをスクープして局内で表彰され、新人記者・三谷からは駒井がキー局に転職すると聞かされ、このままで良いのか砂田は悩む。そして、テレビ局のデスクからは、再度圭吾を取材するよう強く指示される。圭吾は、美羽と別れた後まっすぐ帰宅したと答えていたが、近所の防犯カメラの画像から、その日の夜遅く、圭吾の車が通ったことが確認されていたのだ。

さらに沙織里たちの取材を続ける砂田だったが、チラシを配る沙織里に視聴者受けを考えて演技を付け始め、圭吾の取材をお願いすると、不信感を抱いた沙織里はチラシ配りを止めて帰ろうとする。砂田は仕方なく撤収して会社のワゴン車で駅前を離れようとするが、砂田しか頼れる人がいない沙織里は、引き返してその車に駆け寄り窓を叩いて訴える。

そして、沙織里は激しく脅すように圭吾に迫り、圭吾を砂田のもとに連れてくる。砂田は防犯カメラの画像も引き合いに出して、圭吾が事件当日に何をしていたか冷静に追及すると、圭吾は、美羽を家まで送らずに裏カジノに言っていたことを告白する。

そんな時、砂田が沙織里を取材中に、警察から美羽を発見したという電話が入ってくる。沙織里と豊は警察署に急行し、砂田も後を追ってスマホでその様子を撮影するが、電話は全くのイタズラだった。沙織里は取り乱して大声で泣き叫んで、失禁してしまい、それを見た砂田は撮影を中止する。同行したカメラマン・不破になぜ撮るのを止めたのかと文句を言われた砂田は、警察署の事件担当の刑事・村岡からは、テレビは事実でも他人は面白がるから報道する、と戒められ、違法カジノは元締めを捕まえるために泳がせているのだと放送しないよう釘を刺される。

しかし、デスクは、大人の勝手な都合で子どもが事件に遭った、といったテーマにまとめ、違法カジノについても放送する方針を決める。沙織里や圭吾のことを考えて強く反対する砂田だったが、聞き入れられることはなく、その番組は放送されてしまう。

それにより、ミキサー車でセメントを工事現場に運ぶ仕事をしていた圭吾は会社を追われることになる。会社の先輩が声を掛け、居酒屋に行った圭吾。先輩は自分が違法カジノに誘ったことを詫び、番組が放送されたとき、自分はそれを忘れてプロ野球の試合を見て歓声を上げていた、もう野球を見ることはできないだろう、と漏らす。一方、放送を観て事実を知った沙織里は、SNSで圭吾に罵詈雑言を浴びせ、絶縁状態になる。

2年後、もう取材はなくなっていたが、沙織里と豊のビラ配りは続いていた。そんなある日、沼津駅近くでスイミングスクールから帰る途中の女児が行方不明になった事件がニュースで流れる。それを見て、美羽の事件とつながっているのではないかと考えた沙織里は、すぐに動かなければと情報提供を呼び掛けるチラシを作ると言い出す。豊は、美羽の事件とは無関係だと諫めようとするが、沙織里に押し切られ、チラシの印刷をずっとチラシを印刷してもらっている印刷会社に急ぎで発注する。

沙織里は美羽の事件の際に協力してくれた地域住民の協力を求めてチラシ配りを行い、みかん農家のアルバイトで同僚だった妊娠中の女性も手伝ってくれる。女児は、母親の元交際相手の家にいたところを保護され、沙織里の予想は外れるが、沙織里は見つかって本当に良かったと涙を流して喜ぶ。

一方、し尿汲み取りの会社で働いていた圭吾は、汲み取りで訪れたアパートで、美羽のような女児を連れていた怪しい男を見かける。休みの日に、ひそかにそのアパートを訪れた圭吾は、男が白いワゴン車に乗って仕事に出かけたのを待って、女児のいる部屋を覗くが、隣の住民に見つかって変質者扱いされ、殴られ怪我をして警察に捕まってしまう。

身元引受人として警察署にやってきた沙織里に、警察署の事件の担当から、美羽の事件のときに脚立を積んだ白いワゴン車を見たと証言し、それを撤回したが、圭吾が子どものときに不審な男性に誘拐されそうになり、そのときの車が脚立を積んだ白いワゴンだった、今回もそんな車を見かけて怪しいと思ったのだろうと聞かされる。

圭吾が運転する車で警察署を出た沙織里は、駅で下ろしてもらおうとするが、その途中で圭吾は路肩に車を停め、初めて沙織里に涙ながらに謝罪し、沙織里は涙がこぼれるのを隠して笑う。その後、沙織里から圭吾に、映像が送られてくる。それは生前の美羽が圭吾と遊ぶ様子を撮ったものだった。圭吾はそれを見て涙を流す。

そのころ、砂田は呼び出されて久々に沙織里と会う。砂田は当時の報道について改めて沙織里に謝罪し、自分はどこかで決定的に間違えた、と後悔の言葉を口にする。

また、かねてからネットでの誹謗中傷などに対し裁判を起こそうと弁護士に相談していた豊は、悪質な書き込みを続けていた加害者への裁判を開始する。

そんなある日、沼津駅前で変わらず豊とチラシ配りを行う沙織里に、小学生くらいの娘を連れた母親が声を掛ける。それは先の行方不明事件で無事に保護された女児とその母親だった。母親は、沙織里たちの力で無事見つかったことを深く感謝し、美羽のためにどんな協力でもすると申し出る。その言葉を聞いて、豊は感極まって涙を流す。

沙織里はミカン農家のアルバイトだけでなく、小学校の近くの横断歩道で旗を振って誘導するアルバイトも初めていた。登校する児童たちを誘導する沙織里は、ふと見かけた女児に美羽の面影を見て、思わず、美羽がよく唇をブルブルブルと震わせていたのを思い出して自分もそれをやってみるのだった。

(ここまで)