鷺の停車場

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橋本紡「半分の月がのぼる空」(電撃文庫版)①

橋本紡さんの小説「半分の月がのぼる空」、以前に単行本化された「完全版」を読みましたが、もともとの、2003年から2006年にかけて電撃文庫から刊行されたライトノベル半分の月がのぼる空」シリーズの方も読んでみました。

 

以前に読んだ完全版では、裕一たち地元の登場人物は方言(伊勢弁?)でしたが、もとの本作では、基本的に標準語になっています。ストーリーの展開に違いはありませんが、個々の描写や台詞は、細かい変更がいろいろ加えられていて、中の構成も、若干の変更が加えられています。

 

以下は、ネタバレになりますが、各巻の各章ごとの大まかなあらすじ、そして感想です。

半分の月がのぼる空 looking up at the half-moon

プロローグ 縞パンとミカン

完全版の第一話「僕はそうして、彼女と出会ったんだ。」の1に当たる部分。全体のイントロダクション。

第一話 亜希子さんと少女と芥川龍之介

完全版の第一話「僕はそうして、彼女と出会ったんだ。」の2~5に当たる部分で、本話の1~4がそれぞれ対応しています。

肝炎で市立若葉病院に入院した高校2年生の戎崎裕一は、退屈な病院生活に耐えられず、病院を抜け出しては看護師の谷崎亜希子に怒られる日々を送っていた。入院してきた同年代の美少女が気になる裕一は、亜希子との取引でその女の子・秋庭里香の話し相手をすることになる。

第二話 僕たちの終わりある世界

完全版の第一話「僕はそうして、彼女と出会ったんだ。」の6~9に当たる部分で、本話の1~4がそれぞれ対応しています。

里香は外見は美人だが、内面は自分勝手でわがままな性格だった。裕一は里香に振り回されるうちに、里香に次第にひかれていく。ある日、里香は、自分が心臓の弁膜の病気で、命が長くないことを裕一に話す。

第三話 砲台山へ至る道

完全版の第一話「僕はそうして、彼女と出会ったんだ。」の10~13に当たる部分で、本話の1~4がそれぞれ対応しています。

ある日、裕一は里香と病院を抜け出し、里香の同じ病気で亡くなった父親との思い出の場所である砲台山に連れていく。頂上に登った里香は、死を覚悟して涙を流し、裕一は泣き続ける里香を抱きしめる。

エピローグ 覚えていない言葉

完全版の第一話「僕はそうして、彼女と出会ったんだ。」の最後の14・15に当たる部分。

砲台山で意識を失った裕一。里香に何かの言葉を伝えたが、自分ではその言葉を覚えていなかった。しかし、その言葉を聞いた里香は、手術を受ける覚悟を固める。

半分の月がのぼる空2 waiting for the half-moon

プロローグ 造反有理

完全版の第二話「カムパネルラの声」の1に当たる部分。

隣の病室で亡くなったエロ老人から裕一が託されて隠していた大量のエロ本が里香にバレてしまう。

第一話 戎崎コレクションの終焉 そのいち

完全版の第二話「カムパネルラの声」の2~8に当たる部分で、本話の1~7がそれぞれ対応しています。

裕一は里香に謝って仲直りしようと努力するが、里香に徹底的に避けられてしまう。亜希子が気を利かせてチャンスを作るが、新たに病院にやってきた里香の主治医・夏目吾郎の嫌がらせで、さらに誤解されてしまう。

第二話 戎崎コレクションの終焉 そのに

完全版の第二話「カムパネルラの声」の9~14に当たる部分で、本話の1~6がそれぞれ対応しています。

亜希子に恫喝された夏目が里香を説得し、裕一は里香と仲直りすることができるが、裕一の何気ない一言にカッとして里香が投げた本が病棟の窓の庇に落ちてしまう。裕一は夜に病室を抜け出し、雨の中、その本を取りに行く。

第三話 戎崎コレクションの終焉 そのさん

完全版の第二話「カムパネルラの声」の15~19に当たる部分で、本話の1~5がそれぞれ対応しています。

無理が祟って高熱を出してしまった裕一は、不思議な里香の夢を見る。すっかり仲直りした2人が屋上で仲良く語り合っている頃、夏目は里香の母親に病状と手術について説明していた。その夜、病室を抜け出した裕一は、酔っ払った夏目に見つかり、屋上に連れていかれてボコボコに殴られる。

エピローグ カムパネルラの声 

完全版の第二話「カムパネルラの声」の最後の20に当たる部分。

自分をボコボコにする夏目の悲しげな様子を思い起こす裕一は、里香の手術が失敗する可能性の方が高いことを悟る。

半分の月がのぼる空3 wishing upon the half-moon

プロローグ カムパネルラの声Ⅱ 

完全版の第三話「灰色のノート」の1に当たる部分。

夏目にボコボコにされた裕一は、屋上で月が出てくるのを待ちながら、里香のことを思う。そこに亜希子がやってきて、裕一を連れ戻す。

第一話 零れたものと拾ったもの

完全版の第三話「灰色のノート」の2~7に当たる部分で、本話の1~6がそれぞれ対応しています。

屋上で自分がしたことを覚えていない夏目は、バツが悪そうに裕一に話しかけ、里香を大切にしてやれと話す。里香から写真を撮ってほしいと頼まれた裕一は、病院を抜け出すが、仕事帰りの亜希子に見つかり、彼女の車で自宅に向かい、父親の形見のカメラを取ってくる。

第二話 一日だけのスクールライフ

完全版の第三話「灰色のノート」の8~13に当たる部分で、本話の1~6がそれぞれ対応しています。

カメラを持ってきた裕一は里香の写真を撮る。裕一の学校に行きたい、制服も着てみたいと言われた裕一は、幼なじみの水谷みゆきにお願いして彼女の姉のセーラー服を借り、親友の世古口司や悪友の山西保、みゆきの協力も得て、放課後の学校に入り込み、教室で授業ごっこをする。

第三話 とめられた一分

完全版の第三話「灰色のノート」の14~23に当たる部分で、本話の1~10がそれぞれ対応しています。

日が経ち、病院の屋上で、里香は裕一に何かを言おうとした瞬間、突然倒れ、面会謝絶となってしまう。里香に頼まれた本を手に入れようと病院を抜け出した裕一は、カメラを取りに帰ったときに会った亜希子の幼なじみの美沙子に偶然出会う。誘われるままに彼女の部屋に行き、一線を越えようとしたその時、2人を目撃した看護師の知らせで駆けつけた亜希子たちが踏み込み、裕一は連れ戻される。後悔する気持ちを隠して里香との日々を送る裕一。そして、里香の手術の日がやってくる。

エピローグ 灰色のノート

完全版の第三話「灰色のノート」の最後の24に当たる部分。

里香の手術の日、裕一は手術の成功を祈りながら、里香に渡された本を読む。栞がはさまれたページの一節に込められた里香の思いを知った裕一。そして手術が終わる。

半分の月がのぼる空4 grabbing at the half-moon

プロローグ 最悪の結末 

完全版の第四話「夏目吾郎の栄光と挫折」の1に当たる部分。

里香の思いを知った裕一の頭に、里香への思いが駆けめぐる。手術を終えた夏目は、手術はうまくいったが、おまえにとっては最悪の結末だ、と裕一に告げる。

第一話 生ぬるい日常

完全版の第四話「夏目吾郎の栄光と挫折」の2~7に当たる部分で、本話の1~6がそれぞれ対応しています。

里香の手術はひとまず成功したが、里香の母親の意向から、裕一は夏目から里香に会うことを禁じられる。そんなある夜、裕一の病室に突然山西が現れる。屋上で山西が持ってきた高級な酒を一緒に飲み出す裕一。

第二話 夏目吾郎の栄光と挫折Ⅰ

完全版の第四話「夏目吾郎の栄光と挫折」の8~14に当たる部分で、本話の1が完全版の8に、本話の2が完全版の9・10に、本話の3~6が完全版の11~14にそれぞれ対応しています。

宿直の夏目は、後に妻となった小夜子との思い出を亜希子に語り出す。高校の文化祭をきっかけに小夜子と付き合うようになった夏目は、東京の医学部に進学、小夜子も、地元への進学を望む親を説得して、一緒に東京に出ることになる。
一方、屋上で酒を飲む山西は、彼女にフラれたことを裕一に明かす。

第三話 夏目吾郎の栄光と挫折Ⅱ

完全版の第四話「夏目吾郎の栄光と挫折」の15~20に当たる部分で、本話の1~6がそれぞれ対応しています。

大学を卒業して小夜子と結婚し、研修医となった夏目、忙しくも幸せな日々を送る夏目だったが、小夜子が心臓病にかかってしまう。夏目は、小夜子の療養も考えて、教授の反対を押し切って、大学病院を出て、静岡の関連病院に転出する。

第四話 僕たちの両手は

完全版の第四話「夏目吾郎の栄光と挫折」の21~28に当たる部分で、本話の1・2が完全版の21に、本話の3・4が完全版の22・23に、本話の5が完全版の24・25に、本話の6~8が完全版の26~28にそれぞれ対応しています。

小夜子を連れて静岡に移った夏目は、小学生だった里香に初めて出会う。小夜子は再び入院してしまうが、一年持ちこたえる。また、小夜子のおかげで夏目は里香の信頼を得ることができたのだった。

一方、飲んで気が強くなった裕一は、ベランダから里香の病室に忍びこもうと試み、世古口たちの協力もあって、里香と会うことに成功する。

エピローグ フィルム

完全版の第四話「夏目吾郎の栄光と挫折」の最後の29に当たる部分。

翌日、屋上に上がった裕一は、夏目と出会う。夏目は、裕一のカメラのフィルムが噛んでいるのに気づき、フィルムを巻き取って直してやる。裕一は自然と夏目に感謝の言葉を投げる。

半分の月がのぼる空5 long long walking under the half-moon

プロローグ 挑まざる勇気

完全版の第五話「半分の月の下、長く短い道。」の1に当たる部分。

裕一は里香の病室に向かうが、病室の前で夏目にばったり会い、里香と会うことを禁止されてしまう。

第一話 五千五十円 

完全版の第五話「半分の月の下、長く短い道。」の2~7に当たる部分で、本話の1~6がそれぞれ対応しています。

里香に会えず自分の病室に戻る裕一だったが、隙を見てやってきた里香と会うことができる。その頃、裕一は、留年を避けるためレポート作成を求められ、その監視役としてみゆきがやってくるようになる。里香に頼まれた本を買うためみゆきと古本屋に行った裕一は、以前に里香に渡された本を見つけ買おうとして、その意外な高値に驚くが、その場でみゆきがさっと代金を出し、裕一は複雑な気分になる。その後、亜希子に説得された夏目は、裕一に里香と会うことを許す。

第二話 過去へ、未来へ

完全版の第五話「半分の月の下、長く短い道。」の8~20に当たる部分で、本話の1・2が完全版の8・9に、本話の3が完全版の10・11に、本話の4が完全版の12~14に、本話の5が完全版の15に、本話の6~8が完全版に17~19にそれぞれ対応しています(なお、私が読んだ完全版では、なぜか16は欠番になっています。)。

夏目は突然裕一を連れ出し、以前勤めていた浜松に連れていく。夏目が裕一に会わせたのは、以前自分が手術した、弁膜症を患う男性とその妻の老夫婦だった。老夫婦に歓待された裕一は、夏目が自分と里香が歩むであろう道を見せたかったのだと悟る。その頃、みゆきは、山西の発案で、婚姻届の用紙を裕一に渡そうと、用紙をもらいに世古口と一緒に市役所に行く。窓口で自分たちの名前で試し書きをした2人は、その用紙もあわせて持ち帰る。

第三話 半分の月の下

完全版の第五話「半分の月の下、長く短い道。」の20~31に当たる部分で、本話の1~6が完全版の20~25に、本話の7が完全版の26~31にそれぞれ対応しています。

世古口とみゆきは婚姻届の用紙を渡しに裕一の病室を訪れる。裕一に付き合っているのか問われ狼狽して否定する2人だが、互いに意識するようになっていた。裕一は、古本屋で買った本にメッセージを込めて里香に渡そうとするが、自分が思い違いをしていたと直感して叩きのめされ、渡すことができない。動揺する裕一のもとを世古口が訪れる。みゆきを意識する世古口に、裕一は自分から積極的に話しかけるようハッパをかける。里香とともに生きる覚悟を固めた裕一は、里香の母親にその想いを訴える。その強い決意に、母親は裕一を認める。そして、母親と話すうち、裕一は思い違いが本当は思い違いではなかったことを確信する。

エピローグ 覚えていない言葉、ふたたび

完全版の第五話「半分の月の下、長く短い道。」の最後の32に当たる部分。

季節が変わって、裕一と里香は外出許可を得て思い出の砲台山に向かう。裕一は前は渡せなかった本を渡そうとポケットに忍ばせていた。頂上に着いた裕一は里香を抱きしめてキスし、自分の思いを伝える。

 

完全版に収載されているのは、以上の第5巻までの部分。


完全版が、より落ち着いた表現の大人向きの叙述になっているのと比べると、この電撃文庫版は、より躍動的な若々しい表現という印象を受けます。個々のエピソードのはじけ度合いからすると、完全版より技術的には拙いところもあるのかもしれませんが、本作の方が作品自体のテイストには合っているように思いました。

目が大きくコミック的でシンプルなタッチで描かれた山本ケイジさんのイラストも、そうした印象を強めています。実は、完全版を読んで私が抱いていたイメージとはけっこう違っていたので、読み進むうち馴染んでいったものの、初めのうちは違和感がありました。もし、よりシリアスな繊細で叙情的なイラストだったとしたら、読んで受ける印象はけっこう違ってくるのでしょうか。このあたりは、表紙だけでなく本編にもイラストページが挿入されるラノベならではの要素。イラストの巧拙や作品との相性で、作品自体の印象、売上げも変わってくるのでしょうね。


第6巻以降の巻も、引き続き読んでみようと思います。