鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

映画「パンとバスと2度目のハツコイ」

先日、昨年気になっていたけど観ていなかった映画をいくつか借りて観てみました。

1つ目は「パンとバスと2度目のハツコイ」(2018年2月17日(土)公開)。 

パンとバスと2度目のハツコイ [Blu-ray]

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昨年全国のイオンシネマを中心に公開された作品ですが、存在を知って観たいと思ったころにはほとんど上映が終わりかけでスクリーンで観ることがでませんでした。ディスクが出たのを知って観てみました。監督・脚本は今泉力哉、これまで何本も映画を撮っておられる監督さんだそうですが、私は本作が初めて。

美大出身だが絵を諦めパン屋で働くふみ(深川麻衣)が、恋人の柏木(勇翔)からのプロポーズを「私をずっと好きでいてもらえる自信もないし、ずっと好きでいられる自信もない」と正直な気持ちを告げて断るところから物語は始まる。ふみは、仕事帰り、バス会社の営業所で洗車するバスをパンを食べながら眺めるのがささやかな楽しみ。ある日、偶然にも、中学時代の初恋の相手でそのバス会社で運転手を務めるたもつ(山下健二郎)と再会し、その後何度も会ううちに、さらにたもつに惹かれていくが・・・というあらすじ。

もやもやっとした感情の揺れ動きをうまく切り取って描いているなあ、というのが率直な感想。

漠然としていた自分の恋愛感情を見つめ直し、最後は交際ではなく独りを選ぶふみ。さらに深い関係に踏み込んで好きでなくなってしまうことを恐れ、憧れ続けることを選んだということなのだろうと受け止めました。たもつと繰り返し会い、ともに過ごし、たもつを好きである自分を見つめる中で、ずっと好きでいられる自信がない自分の恋愛感情を肯定し、そうした自分を受け入れるようになっていく過程を描いた作品、と言えるでしょう。

洗濯機が壊れてしばし通うことになったコインランドリーで孤独についての本に出会うとか、さとみが仕事で留守の時にオーブンを借りたたもつとふみがパンを焼くとか、伊豆の高原でたもつとふみが互いの本心を大声で叫ぶとか、細かくはうーんと思う突飛な展開もありましたが、個々のエピソードが積み重なって描かれる世界はどこか印象的でした。スクリーンで観るともっと印象が深かったのかもしれませんが。

たもつ役の山下健二郎は個人的にはちょっとしっくりこない感じがありましたが、何といっても、ほんわかした雰囲気の中に孤独を恐れず受け止める芯の強さを感じさせる深川麻衣の空気感が素晴らしかった。姉をモデルにキャンバスに向かう妹・二胡役の志田彩良の表情も良かった。