2016年からその翌年にかけて大ヒットした劇場版アニメ「君の名は。」の原作?ノベライズ版?となる「小説 君の名は。」を読んでみました。
よくある映画のノベライズ版とは違って、監督・脚本の新海誠さん自身が書かれています。新海さんのあとがきでは、小説はアニメ制作と並行して書かれたこと、小説を書くことで、自分の中で刷新されたイメージもあって、映画と相互補完的になっていることなどが記されています。その意味でも、通常のノベライズ版とはちょっと異なるようです。
小説は、
- 第一章 夢
- 第二章 端緒
- 第三章 日々
- 第四章 探訪
- 第五章 記憶
- 第六章 再演
- 第七章 うつくしく、もがく
- 第八章 君の名は。
という構成。
第一章と第八章は、映画で最後に出てくる三葉が東京で就職した後のシーン。
第二章と第三章は、映画の序盤、三葉と瀧が時々入れ替わって日々を過ごす場面。映画で2人の「入れ替わってる!?」のセリフでRADWIMPSの「前前前世」が流れ出す印象的なシーンは、第三章の中ほどに出てきます。
第四章は、入れ替わりが起きなくなった瀧が、三葉に会おうと岐阜に向かい、入れ替わっていた時の記憶を頼りに糸守の山頂にあるご神体を訪れる場面。非常に短い第五章は、映画では直接には描かれていませんが、瀧の中に流れ込む三葉の記憶が描かれます。
第六章は、瀧と三葉が再び入れ替わり、糸守にこれから起こる危機を避けようと必死になり、黄昏時に山頂で2人が再会するまで、第七章は、瀧と別れて糸守の危機を救いに向かう三葉の場面が、それぞれ描かれています。
正直、映画を離れて、純粋に小説としてどうかと考えると、それほどの作品ではないかなあと思います。うまく言えませんが、読み進めるうちに引き込まれていくような文章の積み重ね、といった要素が少なくて、どこか平板な感じがしました。ところどころに映画では非常に心に迫ってきたシーンも、あの映像を思い浮かべながら読むと違いますが、文章だけではそれほどのインパクトは感じません。あの映画のインパクトは、緻密な映像の作り込みや演出の上手さがあってのことなのだと改めて実感しました。
もっとも、新海さんは、作品の脚本は書かれているとしても、もともと小説家ではないのですから、これは仕方ないことだろうと思います。
それでも、瀧や三葉の表情や振舞いを外からの視点で見た映像として写し出す映画と違って、小説では、瀧や三葉の内面から見たの視点で描かれているので、映画では直接には表現されていない心の声もあって、あのシーンはこんな気持ちだったんだ、と思いを新たにするところも少なからずありました。これを読んで再び映画を観ると、見え方は少し変わってくるように思います。
DVDなどで映画版を今後もご覧になる人であれば、読んで損はない本だと思いました。