鷺の停車場

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三秋縋「三日間の幸福」

三秋縋さんの小説「三日間の幸福」を読みました。 その紹介と感想です。 

三日間の幸福 (メディアワークス文庫)

三日間の幸福 (メディアワークス文庫)

  • 作者:三秋縋
  • 発売日: 2013/12/25
  • メディア: 文庫
 

たまたま見かけて手に取ってみた作品。 

 

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

【いなくなる人のこと、好きになっても、仕方ないんですけどね。
 どうやら俺の人生には、今後何一つ良いことがないらしい。寿命の“査定価格”が一年につき一万円ぽっちだったのは、そのせいだ。未来を悲観して寿命の大半を売り払った俺は、僅かな余生で幸せを掴もうと躍起になるが、何をやっても裏目に出る。空回りし続ける俺を醒めた目で見つめる、「監視員」のミヤギ。彼女の為に生きることこそが一番の幸せなのだと気付く頃には、俺の寿命は二か月を切っていた。ウェブで大人気のエピソードがついに文庫化。(原題:『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』)】

上の紹介にあるとおり、著者のウェブサイトに掲載された小説を加筆・修正して文庫化した作品のようです。 

本編は、次の15章で構成されています。ネタバレになりますが、おおまかなあらすじを紹介します。

1.十年後の約束

幼馴染で、ともに頭が良く、クラスの中で嫌われていた「俺」とヒメノ。10歳のとき、20歳になって、お互い結婚するような相手が見つかっていなかったら、一緒になろうと約束していた。

2.終わりの始まり

20歳の「俺」は、金に困って本やCDを売りに行った店で、寿命を買い取ってくれる店があると聞かされる。馬鹿げた話だと思いながら、その店に行った「俺」は、なりゆきに身を任せて、3か月を残して、30年の寿命を売るが、その対価は、たった30万円だった。

3.三角座りの監視員

寿命を売った翌日、「俺」ことクスノキのもとに、20歳前後の女性のミヤギが監視員としてやってくる。余命一年を切った者には監視員が付くことになっており、最後の3日間だけ、監視員が外されるという。クスノキは、死ぬ前にやりたいことをリストアップするが、ミヤギは、その1つ「ヒメノに会って想いを打ち明ける」はやめておいた方がいい、ヒメノが17歳で出産しその後結婚するが、間もなく離婚し、2年後には自殺することになると忠告する。

4.答えあわせといきましょう

クスノキは、大学の後輩のワカナに会おうと電話を掛けるが、つながらない。メールを送ってみるが、受信者不在で返ってくる。ミヤギは、ワカナはクスノキを愛してくれたかもしれない最後の人だったが、今は自分の好意に応えてくれなかったクスノキのことを恨んでいる、と語る。

5.これから起こることすべて

クスノキはミヤギに、寿命を売った30年間はどう過ごすことになっていたのかを聞く。それは救いどころのない一生だった。

6.変わってしまった人、変われなかった人

クスノキは高校時代の友人のナルセに会うが、自分のかつての夢だった絵を嘲笑うように変わってしまったナルセに怒りを覚え、喧嘩別れしてしまう。

7.タイムカプセル荒らし

遺書を書こうとペンを持ったクスノキは、10歳の夏にクラスで小学校に埋めたタイムカプセルを思い出し、それを掘り出しに行く。全員の手紙を読んでも、「一番の友達」に自分の名前はなく、ヒメノの手紙はなかった。クスノキは自分の手紙だけ抜き出してタイムカプセルを埋め直す。駅に戻ると、もう終電の時間は過ぎており、クスノキは駅で一晩を過ごす。

8.不適切な行動

翌朝、クスノキがなぜ監視員をしているのかミヤギに尋ねると、母親が残した莫大な借金を払うために、時間を30年ちょっと売って、監視員をしているのだと聞かされる。

9.できすぎた話

クスノキはヒメノに会いに家に向かうが、ヒメノは留守だった。帰り道、神社の夏祭りを見掛けて足を向けたクスノキは、そこで偶然にヒメノに会う。

10.私の、たった一人の幼馴染へ

ヒメノと2日後に一緒に食事をする約束をしたクスノキ。しかし、ヒメノは、かつて17歳の時、助けを求めたのに応じてくれなかったクスノキを恨んでいた。

11.自販機巡りのすすめ

死ぬ前にやりたいことリストに書いたことはすべてやり終えたクスノキは、自販機をカメラで撮影して回ることにする。そこで、クスノキはミヤギが絵を描く趣味があることを知る。そして、ミヤギが死ぬ前にもう一度行きたいというある湖にバイクで連れていく。そこで、ミヤギは自分にもいた幼馴染の話をする。

12.嘘つきと小さな願い

2日間のミヤギの休日の間、代理の男が監視員としてやってくる。クスノキは、寿命を売った日から今日までにあったことをノートに記すことにする。代理監視員の一言で、クスノキは自分の寿命の代金として受け取った30万円がミヤギが出したものであることに気付かされる。戻ってきたミヤギにそれを問いただすと、実は自分の寿命が30円だったこと、最初はクスノキをそれにふさわしい人間だと思っていたが、次第に変わっていき、今は好きなのだと聞かされる。クスノキは、残り2か月の人生で、ミヤギの借金を返してやりたいと思うようになる。

13.確かなこと

どうしたら借金を返せるか考えても妙案は浮かばないクスノキだったが、あるきっかけで、ミヤギの幸せのために、一緒に過ごす時間を楽しむことにする。監視員の姿は他の人間からは見えないため、眉をひそめる人もいる一方で、心を和ませる人もいた。2人はミヤギの幼馴染を見に行くが、幼馴染は恋人と幸福そうにしていた。それを見た後、ミヤギと話すクスノキはミヤギにキスをする。

14.青の時代

ある出来事をきっかけに、ミヤギの存在は周囲の人間に受け入れられるようになってくる。ある夜、ミヤギが寝ている間に、ミヤギのスケッチブックを見つけたクスノキは、ミヤギの寝顔を描き始める。絵が完成して、小さな違和感を感じたクスノキは、それが何かを探り、理解する。そして一晩中絵を描き続けるのだった。ミヤギの休日の前日、クスノキの様子に、再び寿命を売ろうとしていると勘付いたミヤギは、いなくならないよう泣いてすがる。翌日、3日を残して30日分の寿命を売りに行くクスノキ。絵で美術史に小さく名を残す未来を失うことに、査定担当は引き止めるが、クスノキは迷わず寿命を売り、ミヤギの借金のほとんどを返す。

15.賢者の贈り物

人生の残りが3日となり、監視員もいなくなったクスノキ。それまでにあったことをノートに書き、ミヤギとめぐった場所を1人でめぐる。公園で、子供たちに手を振られ、ミヤギがいるフリをするが、逆に、ミヤギの不在を強烈に実感し、涙するクスノキ。そこに、ミヤギが突然現れる。クスノキが自分の借金をほとんど返したと聞いて、自分も残りの寿命をすべて売ったミヤギは、愛らしい笑顔で言う。「これから3日間、どんな風に過ごしましょう?」と。

(ここまで)

 

時間、健康と寿命を売り買いすることができるという設定は、もちろん現実にはあり得ないわけで、現実離れした話ではあるのですが、そういうところを気にしないで読んでいくと、深みや感動といった要素は薄いですが、シニカルなテーマながら小気味いい展開で、最後はホッとするエンディングに着地する物語、意外に面白く読むことができました。