鷺の停車場

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映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」

休みの日の午後、MOVIX柏の葉に行きました。


世間的には平日、15時ちょっと前の時間帯とあって、ロビーのお客さんは少なめでした。


この日の上映スケジュールの一部。この日は、22作品・23種類の上映が行われていました。


観るのは「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」(12月8日(金)公開)。この日は既に公開3週目に入っていましたが、上映館は全国332館と大規模です。


上映は292+2席のシアター9。興行収入ランキングでは公開3週目でも第3位をキープしているとあって、50人ほどの入り、主人公と年代が近いと思われる若い世代のお客さんが多いようでした。この映画館のこの時間帯としては、かなり多い方ではないでしょうか。


(チラシの表裏)

汐見夏衛による同名小説を原作に実写映画化した作品で、監督は成田洋一、脚本は成田洋一・山浦雅大。

 

公式サイトのストーリーによれば、

 

親や学校、すべてにイライラして不満ばかりの高校生の百合福原遥
ある日、進路をめぐって母親の幸恵中嶋朋子とぶつかり家出をし、近所の防空壕跡に逃げ込むが、
朝目が覚めるとそこは1945年の6月…戦時中の日本だった。
偶然通りかかった彰(水上恒司)に助けられ、軍の指定食堂に連れていかれる百合。
そこで女将のツル松坂慶子や勤労学生の千代出口夏希、石丸伊藤健太郎
板倉(嶋﨑斗亜)、寺岡上川周作、加藤小野塚勇人たちと出会い、
日々を過ごす中で、彰に何度も助けられ、その誠実さや優しさにどんどん惹かれていく百合。
だが彰は特攻隊員で、程なく命がけで戦地に飛ぶ運命だった−−− 。

 

というあらすじ。

 

主な登場人物、キャストは、次のようなもの。

  • 加納 百合【福原 遥】:18歳の女子高生。幼いころに父を亡くし、母と2人暮らし。

  • 佐久間 彰【水上 恒司】:21歳の特攻隊員。秋田出身で、早稲田大学で哲学を学んでいた。地元に百合と同い年の妹がいる。

  • 石丸【伊藤 健太郎】:彰と同時期に基地にやってきた21歳の特攻隊員。高知出身。明るい性格で、音痴だが歌うのが好き。

  • 板倉【嶋﨑 斗亜】:彰と同時期に基地にやってきた18歳の特攻隊員。大阪出身。許嫁がいる。

  • 寺岡【上川 周作】:彰と同時期に基地にやってきた32歳の特攻隊員。東京出身。妻と、生まれたばかりでまだ対面できていない子どもがいる。

  • 加藤【小野塚 勇人】:彰と同時期に基地にやってきた特攻隊員。千葉出身。父親は軍の将官だが、命に背いてフィリピンを撤退して世間から批判され、家の名誉のため特攻に行くしかないと信じている。

  • ツル【松坂慶子】:陸軍指定の食堂「鶴屋」を営んでいる。隣町に嫁いだ娘がいたが、自らの子どもとともに空襲で命を落とした。

  • 千代【出口 夏希】:勤労奉仕をしている女子生徒。魚屋の娘で、時々魚をお裾分けに鶴屋食堂を訪れてお店を手伝っている。石丸に思いを寄せている。

  • 加納 幸恵【中嶋 朋子】:百合の母。昼はスーパーの鮮魚売り場、夜はコンビニで働き、女手一つで百合を育てている。

  • ヤマダ【坪倉 由幸】:百合の高校の担任教師。

高校3年生の女の子が、突然、78年前の終戦直前にタイムリープし、特攻隊員となった男性に初めての恋をする、という切ない恋愛物語。観る前は、タイムリープものによくあるように都合のいい舞台として終戦直前の特攻隊を使ったのでは、と思っていましたが、実際に観ると、そういう印象は全くなく、当時の時代の雰囲気もきちんと再現され、敗色濃厚な戦局の中で、自らを犠牲にしても少しでもそれに抗おうとする特攻隊員たちの思い、そして、辛い別れを甘受せざるを得ない周囲の人々の心情が心を打つ作品でした。

原作となる小説は、執筆当時は教師だった著者が、自分が特攻隊の資料館で受けた衝撃を若い世代に伝えたいという思いから執筆されたのだそうです。終戦直前に主人公と同年代だった方は、まだご存命だとしても、もう90歳代後半、そうした方々の体験談を聞くことは、現実的にはなかなか難しいでしょう。映画化に際しては多少の脚色はあったのだと思いますし、恋愛映画の舞台に戦争を都合よく使ったといった批判もあるかもしれませんが、恋愛映画を期待して観に来た若い人たち先の大戦について知ってもらい、理解を深めてもらうきっかけになるのであれば、ひとつの良い取組ではないだろうか、と思いました。

 

ここから先は、ネタバレになりますが、原作小説との相違もあるようなので、備忘を兼ねて、記憶の範囲でもう少し詳しいあらすじを記してみます。(多少の記憶違いはあるだろうと思います。)

 

6月14日、担任との三者面談に臨む高校3年生の加納百合。進路調査票には、就職希望で就職先は未定と書かれていた。担任は百合の成績なら大学にも行けると進学を勧めるが、そこに遅れてスーパーで鮮魚を捌くパートをしている母親が仕事を終えて駆け付ける。母親から魚の匂いがするのが気に入らない百合は、気分が悪いので母と話してくださいと言って教室を飛び出し、自分のクラスに戻る。すると、近くの席の女子生徒から、お母さんと会えた?いい匂いさせてたけど、と皮肉られ、不機嫌になった百合は鞄を持って教室を出て、自転車に乗って自宅のアパートに帰る。

ソファに横になって何気なくテレビを見ていると、ニュース番組で終戦記念日まであと3か月、と特攻隊について取り上げたコーナーが映る。百合は、自爆じゃん、とつぶやいて、テレビを消す。

帰宅した母親は、東京は無理だけど地元の大学なら行ける、お金を貯めている、お父さんも百合は頭がいいからと楽しみにしていた、と百合に話すが、百合は昼はスーパーの鮮魚売り場、夜はコンビニで働き、下着をボロボロになるまで使う母親に、就職すると言い、他人の子どもの命を救おうとして命を落とした父親について、妻と子どもを見捨てて貧乏な暮らしをさせるなんて父親失格、と悪態をつく。我慢できなくなった母親が百合の頬を平手打ちすると、百合は雨が降る中、傘もささずに家を飛び出す。

家を飛び出して行くあてもない百合は、雨宿りに学校帰りに小さい男の子たちが遊びに入っていくのを見かけた防空壕のようなトンネルに入り、疲れてそのまま寝てしまう。

百合が目を覚ますと、朝になっていた。トンネルを出ると、これまであった街並みはなく、一面に田畑が広がっていた。戸惑う百合はトンネルを出て歩き出し、木造の建物が立ち並んでいるところまでたどり着くが、街並みは一変していた。

百合は戸惑いと暑さ、空腹で道端でうずくまってしまうが、そこに若い男性が声を掛ける。佐久間彰と名乗るその男性は、百合に水筒の水を飲ませ、鶴屋という食堂に連れていき、おかみさんに何か食べさせてくれ、と頼む。鶴屋は、ツルという女性が1人で切り盛りしている陸軍指定の食堂だった。ツルは残り物の食事を出してくれるが、テーブルに置いてあった新聞で、百合は今いるのが1945年6月14日であることを知る。ショックを受けた百合は、鶴屋を飛び出してトンネルに戻り、元の時代に戻りたいと壁を叩いて訴えるが、何も起こらない。

再びトンネルを出て街を彷徨う百合だったが、見かけたツルが声を掛ける。百合が空襲で身寄りを失くしたのだと思ったツルは、住み込みで働かないかと百合を誘い、百合は鶴屋で働くことになる。

彰は、同時期に特攻隊員として基地にやってきた石丸、板倉、寺岡、加藤とともに鶴屋にやってくる。彰たちは志願して特攻隊に入った隊員だった。彰は、百合に声を掛け、百合が一面に咲く丘に案内する。そこで彰は、ユキという妹がいること、百合がその妹に似ていると話し、百合に「アキラ」と名前で呼んでほしいと頼む。百合がアキラ、と呼ぶと、自分も百合を呼び捨てで呼ぶと言うのだった。

3週間が経ち、鶴屋の常連客である石丸たち隊員とも打ち解け、時々取れた魚を差し入れに来てくれる女子勤労学生の千代とも仲良くなっていた百合は、彰に惹かれていることを自覚しはじめる。

そんな中、百合はツルに頼まれ、ツルの着物を米に交換してもらうため隣町にお使いに行くことになる。その帰り、空襲に襲われ、ツルが心配になった百合は、逃げる人たちに逆行して火事になる街中に走るが、燃えて倒れてきた柱に足を挟まれ、逃げられなくなってしまうが、百合が心配で探していた彰が見つけて百合を救出し、足を痛めた百合を背負って逃げて助けてくれる。

そして、ツルとともに農家に野菜を分けてもらいに行った帰り、百合は建物の影に薄汚れた男の子が座り込んでいるのを見つけ、声を掛けて野菜を1つ分けてあげる。百合が家族を尋ねると、男の子は父親は戦死し、母親は空襲で着物に火が燃え移って命を落としたことを話し、号泣する。百合は男の子を抱きしめ、日本はもうすぐ負ける、でもいい国になる、もう少しの辛抱だと励ますが、近くにいてその言葉を耳にした警官が、非国民だ、と百合にからむ。そこに偶然通りかかった彰は警官を止めようとし、警官は彰を痛めつけようとするが、周囲の群集が、生神様に何をするんだ、と警官を咎め、警官は今回だけは見逃してやる、と言ってその場を去る。感謝する百合に彰は、警官が悪い、いや、彼をそうさせている何かが悪いんだ、と口にする。

そして、ついに彰たちに出撃命令が下る。いつもの5人で鶴屋にやってきた彰たち。食事を終えると、寺岡が2日後に出撃することになったことをツルに報告し、ツルはおめでとうございます、と頭を下げる。それを聞いた百合は、強い違和感を覚える。

その夜、板倉の姿が見えなくなり、彰、石川、寺岡、加藤は手分けして板倉を探す。それを手伝う百合は、街外れの橋のところで、逃げようとする板倉の姿を見つけ、声を掛ける。見逃してください、と頼む板倉に、百合はその背中を押すが、そこに彰もやってくる。俺たちは志願して来たんじゃないかと言う彰に、板倉は、覚悟は決めていた、だが、空襲で許嫁は家族全員を失い、一生歩けない身体になってしまった、死ぬことはできない、と本心を打ち明ける。さらに石川、寺岡、加藤も駆けつけ、加藤は、このお国の一大事に女にうつつを抜かすのか、この生き恥が、と糾弾するが、板倉は、加藤だってお国のためではなく父の逃亡で失われた家の名誉回復のためではないか、と指摘し、百合も生きたいというのを止める権利は誰にもない、と説得しようとする。そして、寺岡は、俺は止めない、俺たちの分まで生きてくれ、と言い、板倉は走って逃げていく。

その後、百合の咲く丘に行った百合と彰。彰は、教師になりたかった自分の思いを打ち明ける。百合は、特攻なんてただの無駄死に、命を捨てて敵艦に突撃しても結局負ける、自分と逃げて一緒に生きよう、と説得しようとするが、彰はそれを拒む。

出撃の前夜、彰たち4人は鶴屋で酒を飲む。悲しい気持ちを飲み込みながら、お酒を出す百合。そして4人はそれぞれツルたちへの感謝の言葉を述べ、敬礼する。千代は、作ってきた自分の姿の人形を思いを寄せる石川に渡し、泣きたい気持ちを抑えて笑顔で石川を見送る。4人はお店を出ていくが、思いをこらえきれなくなった百合は、彰を追いかけて店から駆け出し、出撃してほしくない思いをぶつけるが、何とか気持ちを抑え、思いを我慢することができなかったことを謝る。

出撃の日、ツルと千代は基地に見送りに出掛けるが、百合は前夜にちゃんとお別れができたから、と見送りには行かず留守番をする。部屋の掃除をしていると、棚の上に置いてあった文箱を落としてしまい、畳の上に文箱に入っていた何通もの手紙が散らばる。それは、出撃する特攻隊員が検閲を逃れるためにツルに託した手紙だった。それを文箱に戻していると、表面に「百合へ」とだけ書かれた封筒が目に入る。裏面を見ると、そこには彰の名があった。それを見た百合は、いてもたってもいられず、自転車に乗って基地に急ぐ。

基地では、ツルや千代たち住民に見守られながら、寺岡、加藤、石川、と順に基地から飛び立っていく。基地に駆けつけた百合が走っていくと、彰が乗った戦闘機が離陸するところだった、百合がその名を叫ぶと、彰は百合を見て敬礼し、空に飛び立っていく。戦闘機が飛んでいくのを見送る百合は、衝撃を受けてその場で意識を失う。

百合が意識を取り戻すと、トンネルの中だった。外に出ると、いつものように現代の街並みが広がっていた。家のアパートに戻ると、母親はいなかった。百合は、テレビを付けて、昭和20年にタイムリープする前から一晩しか経っていないことを知る。そこに戻ってきた母親に、百合は自分のしたことを詫びる。

高校に行った百合は、クラスの社会見学で特攻資料館を訪れる。展示室の一角には、特攻隊員たちの遺書などの展示があった。その中に、今は語り部をしている板倉の名前を見つけた百合は、展示されている遺書をじっくり見ていく。すると、その中に、出撃の日に見つけた、彰から百合への手紙もあった。そこには、百合を心から愛していること、百合の幸せを願っていることなどが書かれていた。それを読んだ百合は、彰への思いが蘇り、その場に崩れ落ちて涙を流す。

そして、帰宅した百合は、スーパーのパートの後にコンビニでアルバイトする母親のために夜食のお弁当を作る。スーパーから帰ってきた母親に百合は、夜食を用意したことを話した後、教師になりたい、大学に行かせてください、と打ち明ける。それを聞く母親は、幸せそうに笑顔を見せるのだった。

(ここまで)

 

なお、入場者プレゼントをいただきました。


原作者の汐見夏衛によるデジタル小説「君とまた出会うために。」が読めるビジュアルカードでした。(なお、QRコードはマスキングしています)