鷺の停車場

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武田綾乃「君と漕ぐ2―ながとろ高校カヌー部と強敵たち―」を読む

武田綾乃さんの小説「君と漕ぐ2―ながとろ高校カヌー部と強敵たち―」を読みました。

以前に読んだ「君と漕ぐ―ながとろ高校カヌー部—」の続編となる作品で、新潮社の隔月刊の電子版雑誌「yom yom」の2019年2月号(Vol.54)から2019年8月号(Vol.57)まで連載されたもの。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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他校のライバル終結。富士の麓で火花が散る!

インハイ出場を決めた希衣と恵梨香の新ペア。カヌー部女子四人は休む間もなく練習を重ね、結束を深める。次の関東大会では、絶対的な強さの“孤高の女王”こと利根蘭子をはじめ、千葉からは繊細なパドル捌きで魅せる双子の大森姉妹、山梨からはパワーが武器の神田と堀ペアなど個性的なライバルらが集結。ながとろ高校の勝利の行方は⁉ 揺れる想いと熱い闘志がきらめく青春部活小説。

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全体は次のような構成になっています。ごく簡単にあらすじを紹介します。

プロローグ

天神千帆は、自宅の廊下の飾り棚に並ぶこれまで出場した大会の記念品を眺めながら、初めて利根蘭子に追い抜かれた日のことを思い出す。もう彼女には勝てない、彼女は天才だと、全てを理解した千帆は、もう負けてもいいと心の底からほっとしたのだった。

第一章 栄光は箱の中に

コーチの芦田が営む喫茶「せせらぎ」で開かれたながとろ高校カヌー部の打ち上げ、1年生の湧別恵梨香、2年生の鶴見希衣・天神千帆が出場した一週間前の埼玉県予選のビデオを見る。
高校に入って初めての定期テストで、黒部舞奈は赤点を取ってしまう。補修で一緒になったクラスメートの渡辺秋穂は、同じ中学校だった恵梨香のことが気になっていた。
舞奈の補修期間も終わったころ、舞奈たちはオフの日に千帆の実家の和菓子屋「天神堂」に行くことになる。舞奈が居住スペースのトイレを借りることになって、廊下を歩いていると、千帆と同居している叔母・久美の6歳の娘・海美に話しかけられる。海美は恵梨香に憧れていた。

第二章 井の中の蛙、好敵手を知る

カヌーをやりたいという海美に、久実と希衣、恵梨香、舞奈は、喫茶「せせらぎ」で芦田にお願いし、レジャー用のカヌーに海美を乗せてみる。
翌日の放課後練習で、関東大会のライバル校の話になり、インハイ後の8月下旬に開かれる文部科学大臣杯の昨年の映像で千葉県・小見山高校の大森姉妹、山梨県・富士曙高校の神田・堀ペアのレースを見る。
練習の帰り、希衣と一緒に帰る千帆は、海美がカヌーに興味を持ったことで、久美もカヌーのボランティア講習に興味を持っている、2人が何かやりたいというのは嬉しいと語る。

第三章 あの子は合わせ鏡がお好き

休日午後の川での練習に、舞奈と恵梨香が待ち合わせて早めに向かうと、ながとろ高校を偵察に来た大森姉妹に出会う。
練習には海美と久美もやってくる。希衣、千帆、恵梨香が流れに漕ぎ出し、初心者の舞奈は海美と一緒に河岸近くでカヌーに乗ると、舞奈は久美にボランティア講習会に誘われる。
翌日、舞奈は久美、海美、顧問の檜原先生とカヌーのボランティア講習会に参加する。午前中の講義を終えた舞奈は、以前の合同練習で知り合った蛇崩学園の1年生・奥山華恵とその先輩・戸崎真琴に出会い、大森姉妹や神田・堀ペアの話になる。
翌日の練習、農園部との掛け持ちで遅れてやってきた千帆は、舞奈に自身が抱いている複雑な思いの一端を話す。

第四章 過去と現在と、私と君と

関東大会に向け芦田が作った体力づくり中心のメニューをこなす希衣は、恵梨香と才能についての話になる。
休日練習の後、喫茶「せせらぎ」で千帆たち農園部が収穫したトウモロコシを食べる希衣たち。千帆ちゃんはすごい、と言うが海美に、千帆は諭すように言葉をかける。
その帰り、みんなと別れ1人になった希衣は、千帆の言葉に思いを馳せ、小学校3年生のときに千帆と一緒にカヌークラブに入ってからのことを振り返る。そこに恵梨香から電話がかかってくる。

第五章 変わらないあの子とあの子

関東大会を翌日に控えたながとろ高校カヌー部は、会場の精進湖カヌー競技場にやってくる。出場する3人が練習に出て、1人で荷物番をする舞奈に、越井戸高校の宍戸亜美が話しかけてくる。
練習後、宿の洗濯ルームに洗濯に来た舞奈は、同じ宿に泊まる富士曙高校の神田・堀ペアに出会い、洗濯が終わるまでの間、話をすることになる。
夕食では、舞奈が出会った3人の話になり、小見山高校の大森姉妹にも話が及ぶ。
その後、部屋で希衣と恵梨香がストレッチを初めると、千帆は舞奈を誘って部屋を出て、カヌーを始めた海美への複雑な気持ち、そして自嘲に近い自己嫌悪の思いを明かす。そこに落としたコンタクトレンズを探す神田・堀ペアがやってくる。騒々しい2人が去った後、千帆は舞奈に、関東大会が終わったらペアを組んで新人大会に出ようと誘う。

第六章 負けず嫌いは背中を知らない

迎えた関東大会の1日目、ながとろ高校の3人はともにシングルの準決勝に進出する。その後、希衣が声をかけてきた神田と話をしていると、困惑した恵梨香が出ていくのを目にする。渡辺秋穂が中学校の同級生の寄せ書きを持って応援に来たことに動揺したのだ。
恵梨香を探しに行く希衣は電話をかける。自分を知らない人間に勝手に期待されるのは怖い、と話す恵梨香。そこに恵梨香を見かけた利根蘭子がやってきて、カヌー選手になるなら他人の応援は不可欠と言い、自分のこれまで努力してきた過程を話す。それを聞いた恵梨香は立ち直り、希衣は蘭子が急に強くなった理由を悟る。
1日目が終わり、ペアは予選2位で、シングルはタイム2位の恵梨香と6位の千帆が翌日の決勝に進出する。
2日目、シングルの決勝、利根蘭子と恵梨香は他の選手を大きく引き離すが、恵梨香は経験の差から蘭子に敗れ、初めて負ける悔しさを実感する。
ペアの決勝、大森姉妹、神田・堀ペアと競う恵梨香・希衣ペア、恵梨香は勝利への強いこだわりを見せ、終盤のデッドヒートを制して勝利する。

エピローグ

レースを終えた利根蘭子は、他の学校の選手と一緒に出場できる文部科学大臣杯に、恵梨香とペアを組むことを監督にお願いする。才能ある子が好きな蘭子は、恵梨香が好きだった。

 

前作「君と漕ぐ」と同じく、ながとろ高校カヌー部の4人の部員、舞奈、恵梨香、希衣、千帆を中心に描いた青春小説ですが、主観的な視点から心の襞が描かれるのは、主に希衣、千帆の2人。舞奈の視点からの物語がメインになっているように見えますが、彼女自身の心の内が描かれることは少なく、彼女の目から見た恵梨香、千帆などの心の揺れ動きがむしろ中心になっています。個人的には、千帆がどのように自分の中でカヌーに対する思いに整理をつけていくのか、気になるところです。

yomyomでは、2020年2月号(Vol.60)から続編となる「君と漕ぐ3」の連載が開始され、6月号(Vol.62)で完結、文庫本も近く発売されるようです。こちらも、機会あれば読んでみたいと思います。