鷺の停車場

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三上延「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ〜扉子と空白の時〜」

三上延さんの小説「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ〜扉子と空白の時〜」を読みました。

本編シリーズの完結後に刊行された、結婚した篠川栞子と大輔の娘・扉子が登場する番外編シリーズの第2作。前作は、謎解きメインというより、古書をめぐる栞子たちの周囲の人物の人間模様がより前面に出ている感じでしたが、本作は、栞子や大輔がかつて遭遇した謎解きの足跡を、高校生に成長した扉子が辿る形になっています。

 

文庫本の背表紙には次のような紹介文が掲載されています。

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ビブリア古書堂に舞い込んだ新たな相談事。それは、この世に存在していないはずの本――横溝正史の幻の作品が何者かに盗まれたという奇妙なものだった。

どこか様子がおかしい女店主と訪れたのは、元華族に連なる旧家の邸宅。老いた女主の死をきっかけに忽然と消えた古書。その謎に迫るうち、半世紀以上絡み合う一家の因縁が浮かび上がる。

深まる疑念と迷宮入りする事件。ほどけなかった糸は、長い時を超え、やがて事の真相を紡ぎ始める――。

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以下は、多少ネタバレになりますが、簡単なあらすじ、各話の概略を紹介します。

プロローグ

由比ヶ浜通り沿いのブックカフェに来た高校生の篠川扉子。そのブックカフェは同じ高校に通う友達の戸山圭の親がオーナーで、店の手伝いに入っていた圭は、扉子が2012年と2021年の新潮文庫『マイブック』を持っているのが気になる。それは、父の大輔が書いた日記のようなもので、扉子を呼び出した祖母の篠川智恵子に『雪割草』事件のことを確認したいと言われて持ってきたものだった。智恵子を待つ扉子は、2012年の『マイブック』を開く。

第一話 横溝正史『雪割草』Ⅰ

2012年4月、大輔が結婚して半年になる篠川栞子と営む「ビブリア古書堂」に50歳前後らしき井浦清美が依頼にやってくる。2月に92歳で亡くなった血縁上の伯母・上島秋世が長年持っていた横溝正史の『雪割草』を清美の母・井浦初子が葬儀のどさくさに紛れて盗んだと初子の双子の妹・上島春子が主張している、真相を明らかにしてほしいというもので、『雪割草』とは、刊行されていない幻の本だった。

次の定休日に上島家に向かった2人は、秋世の邸宅に行き、家政婦の小柳の案内で本が保管されていた物置を見せてもらう。物置の鍵は、春子とその息子の乙彦、秋世から引き継いだ小柳の3人しか持っていないが、秋世の告別式の後火葬場に親族が出掛けている間、片付けのために鍵は1時間ほど開けていて、その間に初子らしき女性がやってきたこと、『雪割草』は秋世が戦死した夫から贈られた自装本で、他の人には触れされないようキャビネットにしまっていたことなどを聞く。そこにやってきた初子は、自分にはアリバイがある、春子が自分になりすましてやったと反論するが、姿を現した春子と口論になる。

上島家を出た2人は、隣に住み、横溝正史の大ファンである春子の息子・乙彦の話を聞く。『雪割草』だけは、秋世から自分に贈与されたので春子は相続できないと語る乙彦。話を聞いた栞子は、なぜ持ち出されたか分かったと言い、それを取り戻すことに成功する。

その真相を聞いてみな和解すると思われた瞬間、そこに挟まっていたはずの1枚の直筆原稿がないことが分かり、再び対立してしまう。栞子はすべての謎を解くことはできなかったのだ。

第二話 横溝正史『獄門島

2021年の10月、大輔は小学3年生になった娘・扉子と由比ヶ浜通り沿いのブックカフェに来ていた。扉子が読書感想文のテーマにしようと1階の古書店・もぐら堂に取り置きしてもらった横溝正史『獄門島』を買いに来たのだが、事情が分かる店長が外出から戻るまで2階のブックカフェで待っていたのだ。

しかし、取り置きしてもらったはずの本が見当たらない。大輔と扉子は、店員の証言などから、本の行方を突き止めるが、そこにはこの本をめぐるある事情が関係していた。

扉子が買った『獄門島』は、児童向けにリライトされた朝日ソノラマシリーズのもので、この事件をきっかけに、扉子は同い年の店長の娘でやはり本好きの戸山圭と友達になる。

第三話 横溝正史『雪割草』Ⅱ

2021年の11月、井浦清美から、9月に亡くなった初子の蔵書を買い取ってほしいと連絡が入る。初子が遺言で指定したという。『雪割草』は、研究者によって1940年代に連載されていた地方紙が突き止められ、数年前に単行本が刊行されていた。

2人は、初子の書斎で『雪割草』の直筆原稿を手書きで模写した原稿用紙を見つける。2人が偽原稿を見てもらうため上島乙彦を訪ねると、同じく横溝正史ファンの清美の20代後半の息子・井浦創太もいた。戦時中に書かれた家庭小説である『雪割草』を全否定する創太。乙彦は、原稿が横溝真筆のものか分からない、出てこなくてもいいと思っていると語る。

乙彦の家を出た2人は、清美が乙彦の家を男に見張らせているのに気付く。栞子は清美に自分の推理を話す。犯人の見当を付けた清美は原稿を取り戻そうとしていた。栞子は清美の協力を得て、原稿の在処を突き止める。

エピローグ

2冊の『マイブック』を読み終えた扉子。そこに祖母・智恵子がやってくる。智恵子は扉子に読ませて試すために、その2冊を持ってこさせたのだ。扉子は、直筆原稿を秋世に売ったのが智恵子で、それは当時は幻の本だった『雪割草』を読ませてもらうためだったことを言い当てる。原稿が本物なのか扉子が疑問を投げかけると、智恵子はそれには答えず去っていく。

(ここまで)

 

本編シリーズと同様、一般の人にはほとんど知られていないような古書をテーマに、その本にふさわしい謎解きが描かれる展開は魅力的で、一気に読んでしまいました。これまでに刊行された『獄門島』の様々な版のくだりなど、事実考証もなかなか大変なのだろうと推察します。

2021年秋が舞台になっている第二話と第三話では扉子はまだ小学3年生ですが、プロローグとエピローグで描かれている扉子は、学年は不明ながら高校生になっているので、少なくとも7年以上先の未来が舞台になっていることになります。

著者による「あとがき」には、今後も、前日譚や、扉子が活躍する話を書いていくつもりであることが記されています。そんなにすぐではないのだろうと思いますが、続巻を期待したいと思います。