鷺の停車場

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村山早紀「花咲家の休日」

村山早紀さんの小説「花咲家の休日」を読みました。

花咲家の休日 (徳間文庫)

花咲家の休日 (徳間文庫)

  • 作者:村山 早紀
  • 発売日: 2014/09/05
  • メディア: 文庫
 

「花咲家の人々」に続くシリーズ第2巻、前巻に続いて読んでみました。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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 勤め先の植物園がお休みの朝、花咲家のお父さん草太郎は少年時代を思い起こしていた。自分には植物の声が聞こえる。その「秘密」を抱え「普通」の友人たちとは距離をおいてきた日々。なのにその不思議な転校生には心を開いた……。月夜に少女の姿の死神を見た次女のりら子、日本狼を探そうとする末っ子の桂、見事な琉球朝顔を咲かせる家を訪う祖父木太郎。家族それぞれの休日が永遠に心に芽吹く。

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上の紹介文にあるとおり、植物と友達で会話ができる特殊能力を持つ花咲家が舞台になっています。

作品は、プロローグ、エピローグと5章で構成されています。各章のおおまかなあらすじは次のとおりです。

プロローグ

舞台となる古くからの花屋である千草苑と、その洋館で暮らす花咲家の人々の紹介。その紹介を要約すると、次のようなもの。

  • 木太郎:千草苑の主で庭師、樹医。若き日にはプランツハンターとして世界中を旅したかっこいいおじいさん。
  • 草太郎:木太郎の息子で、学者・風早植物園の広報部長。長身でハンサムな50代で街の人気者。10数年前に妻・優音(ゆの)に先立たれ、男手ひとつで3人の子を育ててきた。
  • 茉莉亜:草太郎の長女で街で評判の美人。花屋併設のカフェ千草を営む。花屋の中に設けられた地元FM局のサテライトスタジオで週2回夕方のパーソナリティとして出演している。
  • りら子:草太郎の次女で理系の高校生。いつも強気だけど実は傷つきやすく優しい少女。植物の力を使って秘かに人助けをするのが趣味。
  • 桂:草太郎の末っ子の小学生の男の子。本と猫が大好きで、少し泣き虫で繊細だが、心優しく芯の強い少年。

魔法のコイン

草太郎は、植物園の休園日、机の引き出しからかつてもらった異国のコインを見つけ、小学6年生の時に転校してきて友人になった星野聖也のことを思い出す。植物の声が聞こえる草太郎と仲良くなった聖也だったが、ある日、自分は魔法の国の王子で、兄が死んで故郷の国から迎えが来たから帰らなければいけないと話し、助けを求めるときはこれに願ってほしいとコインを草太郎に渡し、姿を消したのだった。草太郎がもう一度会ってみたいと思ったとき、大きくなった聖也が一瞬だけ姿を見せ、去っていく。

時の草原

小学6年生の夏休み、桂はクラスメートの翼、秋生、リリカと日本狼が出るという半月山に小旅行に行くことになる。途中、4人はちょっと変わった雰囲気の背が高くほっそりしたお兄さんを見かける。お兄さんとは山頂に向かうロープウェイで一緒になった4人が、子狼を見かけた山頂の神社の裏手にある滝に走ると、お兄さんが網で子狼を捕まえていた。お兄さんは未来から絶滅してしまう狼を助けて連れていくために来たと話す。

死神少女

夏休みの塾の帰りの雨降りの夜、りら子は屋根の上に巨大な鎌を持った死神のような少女を見つけ、懐かしい気持ちになる。家に帰ると、木太郎は変な夏風邪が流行っているのは枯れた神木が切り倒され、しめ縄とともに焼かれてしまったためじゃなければいいが、と話す。翌日、りら子は熱を出して寝込んでしまうが、目覚めると、その枕元に、前日に見た死神のような少女がいた。彼女は、りら子が母親を亡くして寂しがっているときに遊びに来てくれた死神の「しーさん」だった。しーさんは、流行病は悪い魔物が好き勝手暴れているせい、私が戦うと話す。

金の瞳と王子様

1歳になった子猫の小雪は、自分を助けてくれた桂を「王子様」だと思い、王子様を守ると心に誓う。半月山から帰ってきてから桂は熱を出してしまうが、部屋に変な臭いがするのを感じた小雪は、桂が持っていったリュックから陶器の小さな金髪の女の子の人形とドールハウスを見つける。それは桂が半月山で拾ってきたものだったが、夜、その人形が歌いながらスキップすると、桂は喉をかきむしるのを見た小雪は、翌朝、その人形を咥えて、庭石にそれを落として壊す。

朝顔屋敷

木太郎は、毎年、お盆の8月13日、オーシャンブルー琉球朝顔が咲き誇る内藤さんの家のそばを通ると、内藤さんに優しく呼び止められ、甘く冷たいお菓子をご馳走になり、やがて帰ってくる孫娘をともに迎えることを繰り返していた。内藤さんは、スキューバダイビングで世界の海に出かける孫娘を8年前に亡くし、その帰還を待ち続けながらその3年後に亡くなっていた。木太郎は、この先も、この家が残り、8月13日が巡ってくる限り、祖母と孫が年に一度の再会を繰り返し続けるのかもしれないと思う。

エピローグ ~薔薇に朝露の光ありて

ハロウィン直前の10月30日、茉莉亜は、カフェで、お店によく来る黒い服の柔らかな年かさの男性と、明日FMでハロウィンスペシャルの特番で怖い話の特集をするが、台風が近づいているので、直撃でもしたら中止だと話す。明日が誕生日だと話す男性に、赤い薔薇のイングリット・バーグマンを贈り、男性は帰っていく。その男性は、かつては世界中をさすらった老いた学者で、遠い街で出会ったガーゴイルを長年旅の道連れとし、茉莉亜が幼い頃に亡くした自分の娘と同じ名前だったことから、旅をやめてこの街に腰を落ちつけ、街の人々をひそかに見守ってきたのだった。学者は逝ってしまうが、長年仕えてきたガーゴイルは、街の人々を守るため行動を起こす。

(ここまで)


前巻の「花咲家の人々」は、花咲家の人々に植物と会話できる特殊な能力があること、花たちの祈りで亡くなった母親の優音が姿を現すという部分のほかは、普段の日常を描いていましたが、本作では、それぞれの短編でキーとなる登場人物は、いずれも現実にはない設定が入ってきていて、前巻よりもファンタジー的な要素が強くなっている印象です。

シリーズはさらに続いているようですが、個人的には、前巻で描かれた、りら子や桂の成長、茉莉亜を思う有城の恋の行方といった部分をもっと読んでみたい気がします。