鷺の停車場

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香月美夜「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部 貴族院の自称図書委員Ⅸ」

香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の第四部「貴族院の自称図書委員Ⅸ」を読みました。

ローゼマインが貴族院に進んでからを描く第4部の第9巻。第8巻に続いて読んでみました。

 

単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。

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神殿に入ってからずっと見てきた背中―—引き継ぎ業務と貴族院の予習に追われるローゼマインの心は落ち着かない。王命を受けたフェルディナンドの旅立ちが近づいていた。側近達も交えた餞別の食事会は楽しく、図らずも二人は贈り物を交換し合う。だが、喜びも束の間、謎の侵入者が神殿を襲撃する。さらわれた灰色神官達、盗まれた聖典の行方は?急転する事態に早まる「別離」。涙を堪えてローゼマインは祈りを捧げる。「フェルディナンド様に祝福を」。

大幅加筆、大増量でお届けするビブリア・ファンタジー第四部採集刊!

第五部へ繋がる短編集「別離から始まる冬の生活」に、書下ろし短編×3本、椎名優描き下ろし「四コマ漫画」収録!

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本巻は、プロローグ・エピローグと見出しで区切られた14節からなり、巻末に「別離から始まる冬の生活」と題した6つの短編と、さらに番外編が2編、著者によるあとがきの後にはイラストを担当している椎名優による巻末おまけの四コマ漫画が収録されています。各節のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。

プロローグ

火急の知らせを受けてアーレンスバッハ(順位6位の大領地)に向けゲオルギーネ(アーレンスバッハ領主の第一夫人でジルヴェスターの姉)たちが出発した後、フロレンツィア(ジルヴェスターの第一夫人)はジルヴェスター(エーレンフェストの領主でローゼマインの養父)たちエーレンフェスト(主人公たちが暮らす順位8位に上がった中領地)の首脳陣が収集したゲオルギーネたちの情報を共有するための会議に参加する。会議の後、フロレンツィアはシャルロッテ貴族院2年生になるジルヴェスター・フロレンツィアの娘)を呼び出し、ヴィルフリート貴族院3年生になるジルヴェスター・フロレンツィアの息子で次期領主候補)やローゼマイン貴族院3年生になる主人公で、ジルヴェスター・フロレンツィアの養子)について話を聞く。シャルロッテは、ローゼマインの第一夫人としての教育よりヴィルフリートの教育を優先してほしいと話し、増長するヴィルフリートの側近の見直しを要望する。話を聞いたフロレンツィアは、問題は山積みだと息を吐く。

ハルトムートの努力とご褒美

ゲオルギーネたちが帰った後、ローゼマインはフェルディナンド(ジルヴェスターの異母弟でローゼマインの後見人。前神官長)に領主候補生の予習を詰め込まれる日を送る。秋の洗礼式、収穫祭に向けて打ち合わせをするローゼマインは、神官長への就任に向けて努力するハルトムート(ローゼマインの側近の上級文官。新神官長)にご褒美をと考え、神具の作り方を教え、魔法陣について仕事を頼む。

収穫祭と報告会

秋の収穫祭、ローゼマインは直轄地を回って、グーテンベルク(印刷業に関わるローゼマインの専属職人)を回収するためライゼガングに向かう。ギーベ(地方の領主)・ライゼガングは、先代ギーベ(貴族としてのローゼマインの曾祖父)がゲオルギーネがアーレンスバッハに戻る途中でゲルラッハに立ち寄り、怪しい集まりがあったと言っていると話す。収穫祭を終えエーレンフェストに戻ったローゼマインは、それをジルヴェスターとフェルディナンドに報告し、ギルベルタ商会(服飾品を扱う商会)、プランタン商会(印刷関係を扱う商会)、オトマール商会(商業ギルド長が営む商会)を呼んで、商人たちの状況の報告を聞き、注文していたフェルディナンドがディートリンデ(ゲオルギーネの娘でアーレンスバッハの領主候補生6年生。フェルディナンドの婚約者)に贈る髪飾りを受け取る。

餞別の食事会

フェルディナンドの餞別にオトマール商会が営むイタリアンレストランで食事会を行うことにしたローゼマインは、レストランに行きたがる側近たちを見て、側近全員を連れていく。フェルディナンドや側近たちは、イルゼ(オトマール商会の専属料理人)が作った料理を満喫する。

餞別の贈り物

食事を終えたローゼマインは、フェルディナンドに虹色魔石に魔法陣を組み込んだお守りを餞別に贈る。フェルディナンドもローゼマインに虹色魔石を使ったお守りの簪を贈り、今年は貴族院に行ったローゼマインは奉納式で呼び戻さない予定になっている、貴族院に行っている間に旧ヴェローニカ(ジルヴェスターの母で現在は幽閉中)派の排除が行われるため、連座に問われることになる旧ヴェローニカ派の子どもを取り込むため領主一族に名捧げをするか決断させるよう話す。

盗られた聖典

神殿に戻ったローゼマインは、不在の間に誰かが部屋に入った気配を感じる。さらに、門番をしていた灰色神官たちが姿を消したことが分かる。さらにローゼマインたちが調べると、聖典とその鍵がすり替えられていることが判明する。

平民の証言

代わりに置かれていた聖典は、毒が仕込まれており、中身は聖典ではなかった。自分の聖典が盗まれたことに、ローゼマインは怒りで魔力が暴走しそうになるが、フェルディナンドの忠告で何とか押さえ込む。コンラート(孤児院に預けられたローゼマインの側近のフィリーネの弟)の様子がおかしいと知らせが入り、ローゼマインたちは孤児院に向かって話を聞くと、馬車でやってきた女性が門番の灰色神官を縛って馬車で連れ去ったという。その話などから、犯人はシキコーザ(青色巫女時代のマインを侮辱して罪を受けた騎士)の母親のダールドルフ子爵夫人ではないかと推測する。

救出

下町からも情報収集をしたローゼマインは、フェルディナンドや護衛騎士たちとともに連れ去られた灰色神官の救出に向かい、無事に救出する。

証拠品

神殿に戻ったローゼマインは、フェルディナンドたちとともに、青色神官から事情聴取を始める。青色巫女時代のマインを見下して図書室を荒らした前科があるエグモントを尋ねると、その指にはそれまでしていなかった魔石の指輪があった。フェルディナンドはローゼマインの視界を遮ってその指を切り落とす。その間にも、下町からは続々と情報が入ってくる。ローゼマインは、フェルディナンドの求めでエグモントの側仕えたちをレッサーバス(ローゼマインが使う乗り込み型の騎獣)で城に運ぶ。

それぞれが見たもの

神殿に戻り、青色神官の事情聴取を終えたローゼマインは、救出した灰色神官から話を聞き、エグモントの手引きでダールドルフ子爵夫人が神殿に入ったことが判明する。城から戻ってきたフェルディナンドは、証拠となるエグモントの記憶を得たと事件の顛末を説明する。ローゼマインは、聖典を取り戻すため、ダールドルフ子爵の館に向かうことにする。

ダールドルフ子爵の館

ローゼマインはフェルディナンドやハルトムート、護衛騎士たちとダールドルフ子爵の冬の館に突撃する。夫人の部屋に踏み込むと、夫人は、ローゼマインたちへの恨みを記した手紙を残して、聖典入れ替えに関与した者を巻き添えに自殺していた。ローゼマインとフェルディナンドは、ジルヴェスターとカルステッド(エーレンフェストの騎士団長で、貴族としてのローゼマインの父)と合流し、ダールドルフ子爵のもとに向かう。

聖典の行方

緊急の呼び出しを受けて貴族街に戻ったダールドルフ子爵とその息子のイェレミアスは、領主がいることに驚く。ジルヴェスターは、連座を避けるためには、聖典を取り戻した上で敵意や悪意がないことを確認し、領主に名捧げをしなければならないと告げるが、イェレミアスはヴェローニカに名捧げをしたため、領主に名捧げができないと明かす。連座は一度棚上げにして聖典の捜索が開始すると、筆頭側仕えが、ギルベルタ商会から買った布を側仕えが持ち出したことがわかり、結婚でアーレンスバッハに向かうことになるフェルディナンドの結婚祝いにその布を贈り、布を入れた木箱に聖典を忍ばせたと推測する。フェルディナンドの執務室に戻って贈り物を確認すると、聖典が見つかり、本物であることが確認される。

予定変更

聖典を取り戻し、秋の成人式を終えたローゼマインは、冬の粛清について話し合う領主一族の会議に出席し、粛清される貴族の洗礼式前の子どもは、魔力を確保するため孤児院で引き取ることにする。そこにアーレンスバッハから、アウブ(領主)・アーレンスバッハがいよいよ危険なため、フェルディナンドに早急に来てほしいとの手紙が届き、フェルディナンドはアーレンスバッハに向かうことを決める。

出発準備

フェルディナンドの出発準備が慌しく始まる。食事やお菓子などを準備しつつフェルディナンドを手伝うローゼマインは、アーレンスバッハに着いたらフェシュピール(楽器)を弾いて女性貴族を味方に付けることを提案する。

別離

フェルディナンドの出発の日、フェルディナンドは自分の館の鍵をローゼマインに渡し、エーレンフェストを守ってほしいと言い残す。ローゼマインは、溢れ出す魔力を抑えずに空中に全属性の魔法陣を描き、フェルディナンドに虹色の祝福を与える。

エピローグ

フェルディナンドがアーレンスバッハとの境界に着くと、アーレンスバッハの代表として出迎えに来たのはレティーツィア(順位3位の大領地・ドレヴァンヒェルから養子に入ったアーレンスバッハの領主候補生)だった。ジルヴェスターはアーレンスバッハにおける自分の幸せを最優先にするよう話す。数日経って、アーレンスバッハの貴族街に着いたフェルディナンドは、城で出迎えたディートリンデと会う。フェルディナンドの脳裏に、エーレンフェストとジルヴェスターを頼む、との父親の最期の言葉が去来する。

 

本編はここまで。その後に「別離から始まる冬の生活」と題して、次の6編が収められています。

埋まらない穴

フェルディナンドが行ってから仕事が増えたジルヴェスターは、フェルディナンドと始めて会ってからのことを回想し、埋まらない穴を実感する。

アーレンスバッハ生活の始まり

フェルディナンドに名を捧げ、ともにアーレンスバッハに向かったユストクス(フェルディナンドの側仕え兼文官)。到着して、アウブ・アーレンスバッハが亡くなっていたことを知り、ゲオルギーネやアーレンスバッハの情報集めに奔走し、エーレンフェストがあまり良く思われいないこと、ゲオルギーネは第二夫人系、旧ベルケシュトック(政変で廃領地となりアーレンスバッハが管理する領地)系の支持を受けていることなどが分かる。

忙しい冬の始まり

コルネリウス(カルステッドの息子の護衛騎士で、ローゼマインの貴族としての兄であり側近)は、成人して初めての冬の社交界を迎え、洗礼式とお披露目を終えた後は、子供部屋に通う忙しい日々を送る。異母弟のニコラウスを見て警戒心を抱く。貴族院に向かうローゼマインを見送り、ハルトムートたち側近と、冬の過密な予定について打ち合わせる。

選択の時

貴族院に着いたマティアス(旧ヴェローニカ派のギーベ・ゲルラッハの息子で中級騎士見習い5年生)は、ゲオルギーネをエーレンフェストの領主の迎えようと何やら企てる父親に、自分の選択をどうするかラウレンツ(旧ヴェローニカ派の中級騎士見習い4年生)と話す。ヴィルフリートやローゼマインが到着すると、側近たちの警戒心に、何かが起こったことを感じる。ローゼマインの言葉を聞いて、マティアスはローゼマインに名捧げすることを決意し、自分が見聞きしたことを話し始める。

新しい子供達

ヴィルマ(ローゼマインの孤児院担当の側仕え)は、ハルトムートから子どもが増えると知らされ、粛清によって親を失った貴族たちの子どもを受け入れる。貴族社会に戻るために良い子で過ごそうと努力を始めたりする子どもたちを見て、ヴィルマは新しい子どもたちが神殿の生活に馴染めるように努力しなければと思う。

ある冬の日の決意

冬の森で孤児院の子どもたちとも接したりする日を送るカミル(マイン(=貴族になる前のローゼマイン)の実の弟)。洗礼式後の進路を考えるカミルは、ルッツ(マインの幼なじみで、プランタン商会の見習い)たちの話を聞いて、本や玩具を扱うプランタン商会に勉強に行くことを決意し、親のギュンターとエーファ(マインの実の両親)にそれを切り出す。

 

さらに、番外編の書き下ろしが2編(紹介文では3本とありますが)収められています。

息子の出立準備

リヒャルダ(ローゼマインの筆頭側仕えの上級貴族)の視点から、フェルディナンドの側仕えとして一緒にアーレンスバッハに向かうことになった息子・ユストクスの出立準備の様子を描いたエピソード。

思い出と別れ

フラン(かつてフェルディナンドに仕えていた神殿でのローゼマインの筆頭側仕え)の視点から、フェルディナンドに仕えた灰色神官たちがフェルディナンドとの思い出などを回想する姿を描いたエピソード。

 

さらに、著者によるあとがきの後に、「毎度おなじみ 巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常家族」と題して、「学ぶべき言い回し」「頭脳担当にまかせます」「犬じゃないです」の3本の四コマ漫画が収録されています。

 

フェルディナンドが結婚のためエーレンフェストを離れ、アーレンスバッハに行ったところで、この第四部は完結です。

第五部では、フェルディナンドがいなくなった後のエーレンフェスト、そしてローゼマインが描かれることになるはずで、どのような展開になっていくのか楽しみです。続きも読んでみたいと思います。