鷺の停車場

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香月美夜「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部 女神の化身Ⅸ」

香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の第五部「女神の化身Ⅸ」を読みました。

ローゼマインの後見人だったフェルディナンドが結婚のためアーレンスバッハに旅立った後を描く第5部の第9巻で、2022年9月に刊行されています。第8巻に続いて読んでみました。

 

単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。

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ついに火蓋を切られる「ゲルラッハの戦い」。
騎獣で駆けるローゼマインは護衛騎士に守られながら敵陣を突破!
決戦の舞台はマティアスと潜入するギーベの館へ―—冷酷なグラオザムとの宿命の対決の行方は?
終戦後、エーレンフェストに帰還したローゼマインは穏やかな時間を過ごす。
領地に残った者たちの武勇伝を聞いたり、神殿や下町の様子を確認したり、衣装の仮縫いをしたり。
だが、それも束の間、一連の首謀者たちの暗躍は終わっていなかった……。

ユルゲンシュミットを揺るがす戦火の全貌を目撃せよ!

前巻に続く書き下ろし100ページ超の閑話集「エーレンフェスト防衛戦(後半)」、椎名優描き下ろし「四コマ漫画」収録!

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本巻の本編は、プロローグ・エピローグと見出しで区切られた17節からなっています。各節のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。

プロローグ

グラオザム(ゲオルギーネに名を捧げた文官で、元ギーベ・ゲルラッハ)は、ゲオルギーネ(順位6位の大領地・アーレンスバッハの第一夫人でジルヴェスターの姉)が船でエーレンフェスト(主人公のローゼマインたちが暮らす順位8位の中領地に到着するころ、荷馬車でギーベ(地方の領主)・ゲルラッハ(アーレンスバッハに隣接するエーレンフェストの一地方)の夏の館に向かい、隠し通路から潜入して礎を自分の魔力に染めてギーベの座を奪う。自分の後任として任じられた元ギーベ・ゲルラッハを縛り付け、いよいよだと笑う。

ゲルラッハの主戦場

フェルディナンド(エーレンフェストの領主・ジルヴェスターの異母弟でエーレンフェストの元神官長。主人公・ローゼマインの後見人だったが、王命により、アーレンスバッハの領主候補生ディートリンデの婚約者となった)たちとゲルラッハの主戦場に向かったローゼマイン(主人公。順位8位の中領地・エーレンフェストの領主候補生4年生で神殿長。1年後に王族の養女となることが決まっている)は、ハンネローネ(ローゼマインの図書委員仲間で、ダンケルフェルガーの領主候補生4年生)やダンケルフェルガー(順位2位の大領地)の騎士達の協力も得て、アーレンスバッハや旧ベルケシュトック(政変で廃領地となりアーレンスバッハが管理する領地)の者達を倒すが、ギーベ・ゲルラッハの館から白い粉状の毒が投げ込まれる。ヴァッシェン(洗浄の魔術)を使って被害を免れるが、それはかつてローゼマインを襲撃したグラオザムの仕業だった。
グラオザムは、コルネリウス(貴族としてのローゼマインの兄で、側近の上級護衛騎士)、アンゲリカ(ローゼマインの側近の中級護衛騎士でリーゼレータの姉)たちの攻撃を魔力を吸収して防御し、その魔力を使って反撃する。ローゼマインは、フェルディナンドの指示で、マティアス(ローゼマインに名を捧げた側近の中級護衛騎士で、グラオザムの息子)とともに、グラオザムを倒すため、ギーベの館に侵入する。

グラオザムとの対峙

ローゼマインは、マティアスとともにレッサーバス(ローゼマインが使う乗り込み型の騎獣)に乗ってギーベの館の中を移動し、執務室に向かう。手段を選ばずに魔術具で攻撃するグラオザムに、マティアスは防戦一方となるが、ローゼマインが祝詞を唱えて祝福で神々の御加護を与えるとマティアスの戦闘力は回復し、次第に互角になってくる。
グラオザムはローゼマインを殺そうと騎獣を攻撃するが、ローゼマインは全力で騎獣を巨大化させて威嚇する。ローゼマインの強大な魔力で、魔力を奪っていたグラオザムの黒の義手は金粉化し、そこに突入してきたローゼマインの護衛騎士達の集中攻撃によって、グラオザムは砕けた魔石のように散る。

勝利と帰還

やってきて説明を求めるフェルディナンドに、巨大化した騎獣でギーベの館を壊してしまったことに動揺するローゼマイン。そこに、アウブ(各領の領主)・エーレンフェストからゲオルギーネとの決着が着いたことを知らせるオルドナンツ(通信用の魔術具)が届く。
下町や神殿の被害が気になるローゼマインだったが、フェルディナンドからその前にディッター(騎士が騎獣に乗って行う戦い。通常は競技として行う模擬戦)の勝利宣言を出し、ダンケルフェルガーの者達を早く返さなければならないと注意され、旧ベルケシュトックの騎士達を捕らえてビンデバルト(ゲルラッハに隣接するアーレンスバッハの一地方)へ送っていたシュトラール(元アーレンスバッハの騎士団長で、フェルディナンドの上級護衛騎士)の提案で、旧ベルケシュトックの者達を受け入れるため宴の準備がされていたビンデバルトの夏の館でダンケルフェルガーの騎士達を労い、ハンネローネたち代表者だけをエーレンフェストに招くことにし、ローゼマインはディッターの勝利を宣言する。

それぞれの武勇伝

ローゼマインたちは転移陣でエーレンフェストに戻り、ジルヴェスター(エーレンフェストの領主で、ローゼマインの養父)、フロレンツィア(ジルヴェスターの第一夫人で、貴族としてのローゼマインの養母)シャルロッテ(ジルヴェスターの娘の領主候補生3年生で、ローゼマインの義妹)、はハンネローネに協力の礼を述べる。ローゼマインは、宴までの間、グレーティア(ローゼマインに名を捧げた側近の中級側仕え見習い5年生)、リーゼレータ(ローゼマインの側近の中級側仕え)、フィリーネ(ローゼマインの側近の下級文官見習い4年生)、ユーディット(ローゼマインの側近の中級護衛騎士見習い5年生)、ダームエル(ローゼマインの側近の下級護衛騎士)、ローデリヒ(ローゼマインに名を捧げた中級文官見習い4年生)たちからそれぞれの武勇伝を聞く。
グラオザムに影武者がいたことに心配になったローゼマインは、ジルヴェスターにゲオルギーネを倒したのは本当だったのかオルドナンツを飛ばすが、間違いないと返事が返ってくる。オルドナンツが黄色の魔石に戻ったのを見たローゼマインは、手が震えて魔石を取り損なう。

祝勝の宴

祝勝の宴が始まると、ヴィルフリート(ジルヴェスターの長男のエーレンフェストの領主候補生4年生で、ローゼマインの義兄。ローゼマインの婚約者だったが、ローゼマインの中央行きにより婚約解消が決まっている)たちは自らの武勇伝を語り、ハルトムート(ローゼマインに名を捧げた側近の上級文官で神官長)とクラリッサ(ダンケルフェルガー出身の上級文官でハルトムートの婚約者)は、ローゼマインの活躍を大げさに語る。
エルヴィーラ(エーレンフェストの騎士団長・カルステッドの第一夫人で、コルネリウスの母。貴族としてのローゼマインの母で、印刷関係事業を文官として取り仕切っている)はハンネローネと恋物語の話に花を咲かせ、メルヒオール(ジルヴェスターの次男で、ローゼマインの義弟。ローゼマインの成人後は神殿長職を引き継ぐことになっている)は偽ゲオルギーネが神殿の罠にかかったこと、本物のゲオルギーネが神殿から侵入し、ジルヴェスターによって倒されたことなどをローゼマインに話す。
そうした中、毒によって魔石になった騎士達がいた話を聞いたローゼマインは、全身に鳥肌が立って吐きそうになるのを必死でこらえ、イルクナー(いずれもアーレンスバッハに隣接するエーレンフェストの一地方)から戻ってきたボニファティウス(ジルヴェスターの伯父・カルステッドの父で、貴族としてのローゼマインの祖父)イルクナーでの戦いの様子を聞く。
ジルヴェスターはボニファティウスの求めでゲオルギーネとの戦いの経過を話す。礎の間を守っていたジルヴェスターは、フロレンツィアからゲオルギーネを捕らえたとの知らせを聞いていったんは礎の間を出たが、フロレンツィアの忠告で礎の間に戻ったところ、ヴァッシェンによる大量の水に襲われたが、それはゲオルギーネが即死の毒を礎の間に放った後に自分が入れるよう洗浄したもので、礎の間を出ていなければ自分は死んでいたこと、ゲオルギーネが、止めを刺される直前に、まだ残っている名捧げをした貴族や従属契約をした者が自分の望みを継いでエーレンフェストを滅ぼすと言ったことなどを話す。ジルヴェスターが取り出した魔石が誰のものか理解した瞬間、ローゼマインは体が震えて息苦しくなり、離席する理由を取り繕って退席しようとする。
そこにフェルディナンドが話があるとローゼマインを呼ぶが、レオノーレ(ローゼマインの側近の上級護衛騎士。コルネリウスの婚約者)とリーゼレータは、貴族達からは、アウブの手を経て王族の魔術具がローゼマインに渡されたことで、ローゼマインとヴィルフリートの婚約解消が確定したと受け取られたこと、ローゼマインは非公式ながら王族の婚約者で、正式発表までのわずかな間、フェルディナンドへの恋に翻弄されて悩む乙女という立場になっていることなど、複雑な状況であると話し、フェルディナンド側から関わらないよう暗に告げる。

眠れない夜

何とか宴を切り抜けたローゼマインだったが、ゲルラッハの戦いの夢を見て、うなされて起きる。フェルディナンドに相談しようとオルドナンツを飛ばそうとするが、その魔石が目に入った瞬間に、全身が震えて息が苦しくなり、魔石をオルドナンツに姿を変えることもできなくなる。そこにやってきたユーディットの勘違いの入った気配りに甘え、温室でお茶を飲むことにし、同じくよく眠れないハンネローネも誘うことにする。

深夜のお茶会

護衛に就くユーディットとダームエルに、戦いの様子や目の前で死んでいった者が思い浮かぶので魔石が怖いと打ち明けると、ダームエルは、そのような状況になっていることは側仕えには知らせてほしいと言い、祝勝の宴でのローゼマインの行動で側仕えが多変だったことを話す。
温室に着き、やってきたハンネローネと歩きながら話すローゼマインは、予定よりも多くダンケルフェルガーの騎士達の協力を得ることになったことを謝るが、ハンネローネはそれはダンケルフェルガーが選択した結果でローゼマインが後悔する必要はないと話し、自分たちの攻撃でグラオザムを強化してしまい、エーレンフェストの騎士を亡くす結果となったことを謝る。
ローゼマインは自分を責めないよう話し、一緒に死者を悼もうと声を掛け、ともに祈りを捧げると、ローゼマインたちのシュタープ(自分の魔力を効率よく使うための道具)から祝福の光が空に飛んでいく。

仮縫い

ハンネローネと別れて自室に戻ろうとしたローゼマインのところにフェルディナンドが急いで駆けつけてくる。空に放たれた大量の魔力を襲撃かもしれないと飛び出してきたフェルディナンドにローゼマインは謝るが、フェルディナンドは気にせず、眠れる薬を渡す。
それを飲んで少しだけ夢を見ずに眠ったローゼマインは、翌朝、オティーリエ(ローゼマインの筆頭側仕えでハルトムートの母)から今の側近達の動きについて報告を受け、衣装の仮縫いのためギルベルタ商会(服飾品を扱う商会)の針子達が待つ図書館(エーレンフェストにフェルディナンが残した館)に向かう。ローゼマインは、トゥーリ(マイン(ローゼマインが貴族になる前の本来の名前)の姉で、ギルベルタ商会の見習い。ローゼマインの専属の髪飾り職人)、にハンネローネの髪飾りを作ってもらうようお願いし、針子達と仮縫いを行う。
ハンネローネはローゼマインに、エーレンフェストの領主候補生、アウブ・アーレンスバッハ、次期ツェント(中央の王)候補のどの立場を選ぶのかと尋ね、ローゼマインが憧れだったと話し出す。トゥーリたちの反応が気になるローゼマインだったが、ハンネローネは話を続け、アウブかツェントを目指しましょう、全力で協力する、そうすればフェルディナンドとの恋が成就できると迫り、熱弁を振るう。

わたしの望み

フェルディナンドへの思いは恋情ではないと思うローゼマインは、ハンネローネの言葉に改めてフェルディナンドを改めて結婚相手として考えてみると、政略結婚としては一番理想的な相手かもしれないと思うが、フェルディナンドに恋愛感情は抱いていない、私の理想とは違うと説明し、ハンネローネの誤解を解く。レオノーレやリーゼレータも、ローゼマインはどのような将来を望んでいるのか尋ねる。
ローゼマインは司書になって図書館に住みたい、アウブでもツェントでもどちらでも良いと答え、周りは信じられない顔になるが、ハンネローネは、ローゼマインはフェルディナンドと結婚するのが一番良いと確信を持った、どうすれば政略結婚してくれるのか一緒に考えようと真剣な目で話す。

昼食会

昼食のために城に向かうローゼマインは、領主夫妻が同席する昼食会でハンネローネんが何か言い出す前に対策を練らなければと考え、フェルディナンドに連絡して昼食前に話をする。事情を聞いたフェルディナンドは、それはローゼマインの提案が危険だから制御できる者が必要だと認識されただけのことだとつれない反応をする。
昼食会は和やかに進むが、中央の方がどうなっているのか話題になり、フェルディナンドは、グルトリスハイト(本来はツェントになるために必要とされる古の聖典を狙っているのであれば、ディートリンデ(アーレンスバッハの領主一族で、ヴィルフリートの従姉)たちが向かったのは貴族院(貴族達が大人になる前に通う学校だろうと話す。
ジルヴェスターはヒルシュール貴族院の教師でエーレンフェストの寮監)とダンケルフェルガーに連絡を入れて貴族院の様子を探ってもらうことにし、ローゼマインはソランジュ貴族院の図書館の司書の中級貴族)の無事を確認してもらうようお願いする。

神殿とメルヒオールの報告

フェルディナンドと神殿に向かったローゼマインは、フラン(神殿でのローゼマインの筆頭側仕え)たちに出迎えられ、メルヒオールから神殿の襲撃の様子についての報告を聞く。ゲオルギーネは水路を使って下町や神殿に侵入し、灰色巫女から服を奪って、神殿の図書室から転移陣を使って礎の間に向かったのだった。ローゼマインがメルヒオールたちとともに弔いの祈りを捧げると、神殿内に祝福の光が飛び交ったことに驚いたアンゲリカやラウレンツ(ローゼマインに名を捧げた側近の中級騎士見習い5年生)が飛び込んでくる。
ローゼマインたちは孤児院に移動し、ヴィルマ(神殿での孤児院担当の側仕えで、絵師としてもローゼマインを支えている)からの話を聞き、下町に向かう。

西門の兵士と根回し

ローゼマインたちは兵士に褒賞を与えるために西門に向かい、兵士たちの怪我を治すため祝福で癒しを与えた後、神殿長となるメルヒオールを紹介し、ジルヴェスターから預かった褒賞を配る。
フェルディナンドは、ローゼマインがアウブ・アーレンスバッハとなったためアーレンスバッハに向かわなければならないことを突然に告げ、ギュンター(マインの父で、西門の兵長たち兵士をこの街の平穏を守ってほしいと鼓舞する。突然の発言の意図を図りかねるローゼマインにフェルディナンドは、グリトリスハイトを得たツェントを立てるためにローゼマインが王族と婚姻する必要はない、必要な素材を用意してアーレンスバッハで作製すればいいと語る。ハルトムートたちの手際の良い根回しに、ローゼマインはフェルディナンドたちが本気であることを感じる。

アーレンスバッハへ

城に帰り着いたローゼマインは、ジルヴェスターにアウブ・アーレンスバッハになると決意を述べるが、ジルヴェスターは既に知っていた。ハンネローネたちの顔つきを見て、ローゼマインは、ジルヴェスターがダンケルフェルガーの説得に勝てなかったのだろうと直感する。フェルディナンドはエーレンフェストに研究所を欲しがっていたはずだと思うローゼマインだったが、フェルディナンドは自分の選択の結果だと言い、ローゼマインはフェルディナンドを幸せにすると決意表明する。
ローゼマインたちは転移陣でビンデバルトに移動し、ダンケルフェルガーの騎士達をダンケルフェルガーの境界門に転移させた後、アーレンスバッハの城に戻る。
出迎えたレティーツィア(順位3位の大領地・ドレヴァンヒェルから養子に入ったアーレンスバッハの領主候補生)が差し出したディートリンデからの手紙に、レオンツィオ(ランツェナーヴェの使者で、キアッフレード王の孫)のほかに記されているジェルヴァージオが誰か尋ねると、フェルディナンドは、ランツェナーヴェ(エーレンフェストが属するユルゲンシュミットの隣国)の王として育てられた男のはずだと答える。

健康診断と聖典作り

ディートリンデの周囲にランツェナーヴェの王族がいることを知って聖典作りを急ぐフェルディナンドは、ローゼマインを自分の工房に連れて行き、隠し部屋でローゼマインの健康状態をチェックし、魔力が不安定だと指摘する。フェルディナンドは、アーレンスバッハにあるランツェナーヴェの館に戻ることができないディートリンデたちは貴族院にあるアダルジーザの離宮(ランツェナーヴェからユルゲンシュミットのツェントに献上された最初の姫・アダルジーザが賜った離宮で、貴族院にある。ランツェナーヴェから献上される姫達はこの離宮に入っていた。)に滞在しているのだろうと話す。
健康診断を終えると、フェルディナンドは自分のメスティオノーラ(英知の女神)の書を出し、穴あきの部分にローゼマインのメスティオノーラの書にある記述を書き写していくが、ローゼマインが自分の書から書き写すことは、今は絶対に駄目だ、せめて成人後にしろ、と許さない。焦りを見せるフェルディナンドにローゼマインがジェルヴァージオはフェルディナンドの兄なのかと尋ねると、フェルディナンドはそれを否定するが、アダルジーザの女たちから生まれた息子たち3人の中で、全属性で最も魔力が高く王として選ばれたこと、自分はジェルヴァージオが王として送り出された後に、最初から魔石にするために生まれ、アダルジーザの実の中では最も魔力が低いが、属性値が平均した全属性で最も魔石に適した子供だったことを話す。
先に隠し部屋を出されたローゼマインに、コルネリウスは夫婦でもないのに2人だけで隠し部屋に入るのは絶対駄目だと説明する。

ダンケルフェルガーからの要請

エーレンフェストから緊急の知らせが入ったとの連絡に、領主執務室に向かったローゼマインは、ジルヴェスターから、貴族院ヒルシュールからの情報を知らされる。貴族院に見慣れない者がうろついていること、王族などに連絡して中央騎士団が派遣されたが、ソランジュからの返事がないこと、ルーフェン貴族院の教師で、ダンケルフェルガーの寮監)から出歩くなと警告があったことなど。
そこにアウブ・ダンケルフェルガーからの連絡が入り、貴族院にやってきた中央騎士団は見知らぬ者達に従っているように見えることなどを伝え、ローゼマインに次期ツェントとして貴族院を守ってほしいと要請する。ローゼマインは心が動くが、フェルディナンドはそれを制止し、全ての責任をローゼマインに被せることが可能な状況は看過できない、要請は全ての責任をダンケルフェルガーで背負う覚悟をした上でお願いしたい、と決断を迫る。
夕食時には、レティーツィアからディートリンデの手紙が来るまでの様子やそれに対する対応などについての報告を聞き、フェルディナンドの祝福で眠らされる。

ダンケルフェルガーの決断

翌日、約束の時間にダンケルフェルガーからの連絡が入る。ローゼマインは、どのような状況になってもユルゲンシュミットを守るとの明確な姿勢をに感嘆の念を覚え、ダンケルフェルガーの要請を受け入れる。同席していたジークリンデ(アウブ・ダンケルフェルガーの第一夫人)とフェルディナンドは互いの情報のすり合わせを行う。貴族院の中央棟の最も奥にアダルジーザの離宮につながる扉があり、離宮自体はフェアベルッケン(闇の眷属で、隠蔽の神)の祠の近くにあるが、離宮に入るには離宮を管理をしていた傍系王族の許可が必要なはずだとフェルディナンドは話す。ローゼマインはラオブルート(中央騎士団の騎士団長)が怪しいとにらみ、アウブ・ダンケルフェルガーは深夜に離宮に奇襲をかけると宣言する。フェルディナンドは、ランツェナーヴェの王となるために育てられた者がいる、場合によっては彼がいつグリトリスハイトを手に入れてもおかしくないと話し、それを受け入れる。

祝福と出発

夜の出発に向け、フェルディナンドは側近達に指示を出す。ローゼマインには留守番を命ずるが、ローゼマインは、アウブとして行かなければならないのであれば行くとそれを断り、休息が必要なフェルディナンドを祝福で強引に眠らせる。出発までの間、ローゼマインは効率よく離宮を見つけるために準備を進める。フェルディナンドが起きた後、レティーツィアはランツェナーヴェの者は自分たちに毒が効かないようにするための薬を持っていると2人に伝える。仮眠をとったローゼマインは、一緒に貴族院に赴く騎士達に祝福を与えて出発し、国境門から転移陣で貴族院に向かう。

エピローグ

ジェルヴァージオは、最後の石板を手に入れ、貴族院での祠巡りを終える。一緒にいたディートリンデ、ラオブルートたちのもとに、ヒルシュールから余所者が貴族院に入り込んでいるようだとオルドナンツが届く。ラオブルートは寮監たちに寮で待機するよう指示するオルドナンツを送り、亡くなったオルタンシア(ラオブルートの第一夫人で、図書館の司書を務めていた上級文官)の荷物を引き取るという名目で、ディートリンデを残してジェルヴァージオとともに図書館に向かう。
ラオブルートは、かつて、ジェルヴァージオの同母妹バラマリーヌの洗礼式に合わせてアダルジーザの離宮に新人護衛騎士として配属され、ジェルヴァージオにも護衛騎士としてお供をした仲で、ジェルヴァージオがツェントになってほしいと心から願っていた。
図書館に着いた2人は、ソランジュを捕縛して地下書庫の鍵を出させ、地下書庫に向かう。これを調べたフェルディナンドはジェルヴァージオの実姉セラディーナの子で、何らかの理由で魔石になる運命から逃れ、その代わりにセラディーナが魔石となり、ラオブルートが相当努力して婚約にこぎつけたヴェラマリーヌが残るため婚約を解消させられた過去があった。
地下書庫の鍵を開けて奥に進み、王族でなければ行けない書庫に向かうが、ジェルヴァージオは登録がなく入れないと魔法陣に弾かれる。ローゼマインの行動から何か手がかりがないか探すジェルヴァージオは、2階の閲覧室にあるメスティオノーラの神像の魔石に魔力を注ぎ「グリトリスハイト」と唱えると、その姿が忽然と消える。

 

さらに、「エーレンフェスト防衛戦(後半)」と題して、次の5編の閑話が収められています。

シャルロッテ 後方を担う者

城で後方支援を担うシャルロッテの視点から、戦地への料理や回復薬などの輸送を担当するブリュンヒルデ(ローゼマインの側近だった上級側仕えでジルヴェスターの第二夫人として婚約した)の奮闘、自分の護衛にカルステッド(エーレンフェストの騎士団長で貴族としてのローゼマインの父)が付いたことで、自分が次期領主と見られることになったことによる周囲の反応、ゲオルギーネの来襲が近づき、ジルヴェスターが礎の間に向かった後、次期領主として対応していく姿などを描いたエピソード。

レクル 西門の戦い

西門の兵士の1人であるレクルの視点から、ゲオルギーネたちが来襲した西門での、班長ギュンターたち兵士やダームエルたちの奮闘を描いたエピソード。

ユーディット 残された者

未成年のため出撃に父親の許しが得られず、エーレンフェストに残って神殿の護衛を担当することになり、残されて役目がないと寂しく感じるユーディットが、自分の役割を見い出して活躍する姿を描いたエピソード。

フロレンツィア 白の塔で

フロレンツィアの視点から、旧ヴェローニカ(ジルヴェスターの母親で、現在は幽閉中)派のために隔離されたバルトルト(ヴィルフリートに名を捧げた中級文官)、ミュリエラ(ローゼマインに名を捧げた側近の中級文官見習い6年生)カサンドラシャルロッテに名を捧げた中級文官見習い)の様子や、隠し通路での偽ゲオルギーネの確保までの経過、白の塔(領主一族しか立ち入ることができない重い罪を犯した者を幽閉する塔)でヴェローニカとのやりとりなどを描いたエピソード。

ジルヴェスター 礎を巡る戦い

礎の間を守るジルヴェスターの視点から、偽ゲオルギーネの確保で一度は礎の間を出た者の、偽物がいるとのフロレンツィアからの連絡で礎の間に戻り、一度出たことが幸いして、ゲオルギーネが放った即死毒を免れ、礎の間に侵入しようとしたゲオルギーネを倒すまでを描いたエピソード。

 

さらに、著者によるあとがきの後に、「毎度おなじみ 巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常家族」と題して、「猛獣使い」「聖女伝説拡大中」「思っていたのと違う」の3本の四コマ漫画が収録されています。

 

前の第8巻に続いて、急激な展開です。グラオザムとの戦いやエーレンフェスト防衛戦は、プロローグと最初の2節で終わって、かえって呆気ないくらいでしたが、その後の展開も早く、一読しただけでは展開がすぐに飲み込めませんでしたが、改めて読み直して、ストーリー展開についていくことができました。

エピローグでは、これまではあまり出てこなかったジェルヴァージオが、忠誠心を捧げるラオブルートの協力を得て、グリトリスハイトを得ようと迫ってきましたが、ダンケルフェルガーの要請と協力を得たローゼマインたちの奇襲も迫っています。次巻では、ここについても、何らかの決着が着けられるのだろうと思います。