鷺の停車場

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香月美夜「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~貴族院外伝 一年生」

香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の番外編「貴族院外伝 一年生」を読みました。

ローゼマインが貴族院に進んでからを描く第4部の番外編に当たる巻。

単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。

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春の卒業式を終え、貴族院の図書館は静けさを取り戻していた。司書を務める教師ソランジュはローゼマインが入学してからの、刺激に満ちた一年間を振り返る。
「今年の貴族院は特別な思い出がたくさんあります」
本編とは異なる視点で描かれる学園生活。ヴィルフリートやハンネローレ、オルトヴィーンといった一年生の領主候補生たちを中心に、ローゼマインの側近たちや、エーレンフェスト寮の学生、寮監なども登場。貴族院の知られざる毎日が今、鮮やかに蘇る!

本編の二年生を目前に控え、思い出噺に花が咲くビブリア・ファンタジー

大幅な加筆修正に加えて、書き下ろし短編×10編を含む合計18編を収録した、シリーズ初の番外編!椎名優描き下ろし「四コマ漫画」も収録!

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本巻は、プロローグも含め、それぞれの視点から描かれた・エピローグと見出しで区切られた18節からなり、紹介文にあるとおり、巻末にイラストを担当している椎名優による巻末おまけの四コマ漫画が収録されています。各節のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。

 

ソランジュ視点 プロローグ

学生たちが領地に戻り、各領地の寮が閉鎖されていく中、図書館の司書の中級貴族ソランジュは、各領地の寮監たちと話し、魔術具のシュバルツ、ヴァイスと今年の貴族院を振り返る。

コルネリウス視点 護衛騎士として、兄として

ローゼマインの兄で上級護衛騎士見習い5年生のコルネリウス貴族院でローゼマインが出過ぎたことをしないように実兄の立場で接しつつ、側近の護衛騎士としてローゼマインを守るべく気を配る。

ローデリヒ視点 貴族院のとある一日

中級文官見習い1年生のローデリヒは、下級文官見習い1年生のフィリーネと座学の講義を受ける。ローゼマインを慕うローデリヒだが、幽閉中のジルヴェスターの母・ヴェローニカに近い派閥の家のため側近になれず、下級貴族ながら側近となったフィリーネに複雑な思いを抱く。

ハンネローネ視点 独り言が起こしたディッター

ダンケルフェルガーの領主候補生の1年生のハンネローネは、シュミル好きの自分が図書館でシュミルの魔術具がソランジュのお手伝いをするのを見て発した、あのようなシュミルの主になってみたいものですね、との独り言がきっかけで、4年生の兄・レティスラウトがエーレンフェストに言いがかりをつけ、ディッターで勝負することになったことに心を痛め、ローゼマインに会ってお詫びをしたいと考える。

ルーフェン視点 素晴らしきディッター

エーレンフェストとの宝盗りディッターの後、ダンケルフェルガーの寮監ルーフェンは、その後見人であるフェルディナンドの作戦を思い出しながら、ローゼマインの奇策を褒める。上級文官見習い4年生のクラリッサも熱弁をふるうが、卑劣な手段だと納得できないレスティラウトは我慢できず、ルーフェンに切りかかるが、ルーフェンは敗北を受け止めるよう諭し、騎士の訓練の必要性を訴える。

ヴィルフリート視点 優雅でいられない貴族院生活

ローゼマインの義兄で同じく領主候補生の1年生のヴィルフリートは、図書館を餌にしたことで、1年生全員の合格を目指して暴走するローゼマインに振り回され、ローゼマインが何かしでかすたびに叔父で神官長のフェルディナンドに報告書を書く。ローゼマインにエーレンフェストへの帰還命令が出て、報告書を準備するための時間を趣味や社交に使い、優雅な貴族院生活が送れるようになるとぬか喜びする。

ハンネローネ視点 間が悪いのです

ハンネローネは、シュタープの使い方の講義で、ヴィルフリートにローゼマインの様子やお茶会に誘っても大丈夫かを尋ねる。毎日図書館で過ごしていると聞いて、図書館で面識を得ようと自由時間を見つけては図書館に向かうが、間が悪くローゼマインに会うことができず、領主候補生宛てにお茶会の招待状を出すが、ローゼマインがエーレンフェストに帰還したため、それはヴィルフリートに届いてしまう。

ヴィルフリート視点 女のお茶会

ハンネローネからの招待状を受け取ったヴィルフリートは、一度は断ろうと考えるが、断ることはできないと側近に説得され、ローゼマインの側近に準備を一任し、不本意ながらお茶会に出向く。ローゼマインが考案したお菓子カトルカールを出すが、よく知らないジークフリートは何とか会話を切り抜ける。その後も女性ばかりのお茶会に出なければならなくなり、男の社交をしたいと思う。

アンゲリカ視点 神殿の護衛騎士

ローゼマインの側近で、中級護衛騎士見習いとして貴族院を卒業し、正式に護衛騎士となったアンゲリカは、神殿にも護衛に付くことになる。ローゼマインの健康診断の間に一緒に訓練するエックハルトから、トラウゴットとの婚約解消についてどう考えているか尋ねられる。訓練を終えてローゼマインからお叱りを受けて落ち込むアンゲリカだったが、神殿の側仕えのギルや二コラと話すうちに、気持ちが軽くなる。

ユーディット視点 置いてきぼりの護衛騎士

ローゼマインの側近で中級護衛騎士見習い2年生のユーディット。少しでも早く講義を終えて護衛騎士たちの訓練に参加したいと考えるユーディットは、寮で同室のフィリーネと話し、それぞれ目標を立てて頑張ることを決める。

ハルトムート視点 ダンケルフェルガーの女

ローゼマインの側近で上級文官見習い5年生のハルトムート。上級領地の文官が集まる場に招かれたハルトムートは、他領の文官見習いにローゼマインの素晴らしさを熱く語る。ダンケルフェルガーのクラリッサがローゼマインの側近の情報を集めていると知ったハルトムートは、クラリッサと接触しようと考えていたところに、クラリッサから呼び出され、結婚を迫られる。ローゼマインを称賛するクラリッサに、ハルトムートは求婚の課題を出す。

ヴィルフリート視点 男の社交

ドレヴァンヒェルの領主候補生の1年生のオルトヴィーンから盤上の遊戯ゲヴィンネンの招待を受け、初めての男の社交に歓喜するヴィルフリートは、側近たちを相手にゲヴィンネンの練習を重ね、お茶会に参加する。リンデンタールのダーヴィッド、ガウスビュッテルのコンラーディンと1年生の男子領主候補生4人とのお茶会で、お茶を飲みながら情報交換した後、ゲヴィンネンをする。ローゼマインに振り回されるジークフリートと、5年生の姉・アドルフィーネに振り回されるオルトヴィーンは意気投合する。

トラウゴット視点 予想以上にひどい罰

ローゼマインの側近を辞任した上級護衛騎士見習い3年生のトラウゴット。辞任して自由になったと満足していたが、叔父のユストクスを側仕えに付けられて貴族院に戻って、ローゼマインの側近が中心に寮内を回していることに気付き、自分から主流を離れたことを後悔する。ユストクスに護衛騎士に戻ると告げると、投げ飛ばされて押さえ込まれ、厳しい現実を突きつけられる。

ヴィルフリート視点 叔父上の側近

トラウゴットの新しい側仕えにフェルディナンドの文官のユストクスがやってきて、ヴィルフリートは領地対抗戦の準備ができるようになる。ユストクスは、領地対抗戦では側仕え見習いが一番大変になる、フェルディナンドが入学したときは来客数が激増し捌けなくなった、今の想定の3倍はお茶とお菓子を準備する必要があると進言する。ユストクスの有能ぶりに、フェルディナンドは有能な変わり者を周囲に置くのが好きなのだと思う。

ハンネローネ視点 エーレンフェストのお茶会

エーレンフェストが開いた全ての領地を招待する大規模なお茶会に参加したハンネローネ。ローゼマインと話をしたいと思うが、間が悪く機会をつかめない。リンシャンの話題が終わった後、ようやく話す機会を得るが、図書館に通っていたために本好きと思われてしまい、興奮したローゼマインは意識を失ってしまう。ジークフリートは慰めながらハンネローネを寮に送るが、真実はお構いなしに聖女を倒したと喜ぶ兄レスティラウトに、ヴィルフリートと交換してほしいと心の中で思う。

オルトヴィーン視点 ドレヴァンヒェルの姉弟

オルトヴィーンは姉アドルフィーネに呼び出されて会議室に出向く。エーレンフェストの髪の艶と髪飾りに興味津々なアドルフィーネは、ハンネローネに成績で負けては恰好が悪い、ハンネローネと結婚できれば次期アウブになれる、自分はクラッセンブルクの領主候補生のエグランティーヌが選ばなかった王子に嫁ぐことが決まっていると語る。領地対抗戦が近付いたころ、再び姉に呼び出されたオルトヴィーンは、エグランティーヌの相手がアナスタージウスに決まったが、次期王はジギスヴァルトになったと話す。次期王の第一夫人になることになったアドルフィーネは複雑な表情を見せる。

ハンネローネ視点 エーレンフェストの本

ハンネローネのもとに、領主対抗戦や卒業式を欠席したローゼマインから、お見舞いのお礼状とともに、エーレンフェストの本が届く。白くて薄い紙、読みやすい言葉、心ときめく内容に、他の本も読んでみたいと思い、感想を手紙に書く。ローゼマインに貸す本をどうするか考えるハンネローネが家族に話すと、騎士物語を書いた古くて大きな本が父親から送られてくる。間が悪く、既に寮が閉まってしまい、ローゼマインに直接渡すことができなかったハンネローネは、その本を木箱にしまう。

ソランジュ視点 閉架図書と古い日誌

卒業式が終わって数日後、ソランジュは閲覧室の整理をしていた。そこにアーレンスバッハの寮監フラウレルムが前任者の講義内容を確認するため閉架書庫に案内してほしいとやってきて、ソランジュはシュバルツとヴァイスを連れて資料が保管されている第三閉架書庫に向かう。そこは政治的な罪で処刑された者が遺した研究成果などが収められた書庫で、ソランジュはそこで昔の司書の日誌を見つける。

 

さらに、著者によるあとがきの後に、「毎度おなじみ 巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常貴族院」と題して、「光り輝いてます」「餌付け」「ローゼマイン信仰」の3本の四コマ漫画が収録されています。

 

ローゼマインが貴族院1年生となった年の貴族院の日々を側近や他領の領主候補生などの視点で描いた短編集。本編の第4部の第3巻「貴族院の自称図書委員Ⅲ」までを読んでいれば、十分に話についていくことができると思います。今回、本巻読んだことで、本編のこれ以降の展開もより奥行きをもって読めるのではないかという気がします。