香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の第五部「女神の化身Ⅱ」を読みました。
ローゼマインの後見人だったフェルディナンドが結婚のためアーレンスバッハに旅立った後を描く第5部の第2巻で、2020年7月に刊行されています。第1巻に続いて読んでみました。
単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。
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雪降るアーレンスバッハ城。その執務室で、次期領主の婚約者フェルディナンドはローゼマインの手紙に眉を寄せていた。彼女は王族に呼び出されたばかりか、貴族院の図書館に秘められた地下書庫に近付こうとしていたのだ。周囲を悩ます「頭の痛い報告書」の数々は貴族院三年生になっても変わらなかった!不思議な現象を起こした上に、学生達の共同研究に王を巻き込む始末。王の御前だろうと取り繕いゼロ、聖女と持ち上げられるお茶会にはイライラ。我が道を全力で突っ走るローゼマインにレスティラウトから驚愕の提案が!ライデンシャフトの槍を振りかざし、いざディッター勝負、再び開幕!(自身の将来を賭けた嫁取りディッター!?)
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本巻は、プロローグ・エピローグと見出しで区切られた13節からなり、巻末に番外編の書き下ろし短編が3編(帯の紹介では2本とありますが、実際は3本です)、著者によるあとがきの後にはイラストを担当している椎名優による巻末おまけの四コマ漫画が収録されています。各節のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。
プロローグ
フェルディナンド(ジルヴェスターの異母弟で元神官長。王命により、ディートリンデの婚約者となり、順位6位の大領地・アーレンスバッハに向かった)は、ライムント(アーレンスバッハの中級文官見習い4年生で、貴族院のエーレンフェストの寮監・ヒルシュールの弟子)から届けられたローゼマイン(主人公。順位8位の中領地・エーレンフェストの領主候補生3年生で神殿長)からの手紙を読んで頭を抱える。ローゼマインが貴族院の図書館の地下書庫の鍵の管理者となったことを知り、ローゼマインがグルトリスハイト(本来はツェント(ユルゲンシュミットの王)になるために必要とされる古の聖典)を得てしまうことを危惧し、王族がローゼマインを地下書庫から離すよう、地下書庫の情報をローゼマインに書き送る。
王族と図書館
王族から呼び出しを受けたローゼマインが部屋に向かうと、アナスタージウス(中央の第二王子)、ヒルデブラント(中央の第三王子)だけでなく、ジギスヴァルド王子(中央の第一王子)も来ていた。ローゼマインは、質問に答えて、三本の鍵が必要となる地下書庫に王族が読んでおくべき資料がある、とフェルディナンドが教えた情報を話す。ジギスヴァルドたちとともに図書館に行ったローゼマインは、同じく鍵の管理者となったハンネローネ(順位2位の大領地・ダンケルフェルガーの領主候補生3年生)、オルタンシア(クラッセンブルクから中央に移った上級貴族の図書館司書で、ラオブルートの第一夫人)とともに鍵で地下書庫を開け、昔の王の回顧録など、収められている資料を確認しながら、ジギスヴァルドとアナスタージウスに、神々への祈りによって加護を得、魔力の消費量が減ることを話す。ローゼマインは、書庫の資料をどんどん読みたいと願うが、王族から呼び出しがあるまで禁止すると却下される。
ダンケルフェルガーの儀式
神々への祈りによる加護についてのダンケルフェルガーとの共同研究で、ダンケルフェルガーがディッター(騎士が騎獣に乗って戦う競技)の前に行う儀式を見るため、ローゼマインたちは騎士棟に向かい、騎士見習いたちにアンケートを取り、ディッターで戦うエーレンフェストの騎士見習いたちを応援する。終了後にハンネローネが行う儀式を見るローゼマインは、側近のマティアス(ローゼマインに名を捧げた中級騎士見習い5年生)とレオノーレ(上級護衛騎士見習い6年生)から、祝福を返す儀式だと指摘される。
集計中のお喋り
翌日、ローゼマインは、エーレンフェストとダンケルフェルガーの文官見習いたちを集めて、アンケートの集計を行う。集計中、ローゼマインはハンネローネに、前日に行った儀式について尋ね、祈りの言葉を教えてもらう。集計が終わり、御加護を得た騎士見習いは圧倒的にダンケルフェルガーが多いことがわかる。
イライラのお茶会
貴族院の社交シーズンが始まり、お茶会の誘いが入ってくるようになる。ローゼマインはシャルロッテ(ジルヴェスターの娘の領主候補生2年生。ローゼマインの義妹)とは別に下位領地とのお茶会に参加するが、何度もジルヴェスター(エーレンフェストの領主でローゼマインの養父)の悪口を聞かされて慈悲深い聖女と持ち上げられ、いくら否定しても聞き入れてくれない状態にイライラが募る。そんな中、ヴィルフリート(ジルヴェスターの息子・ローゼマインの義兄のエーレンフェストの領主候補生3年生でローゼマインの婚約者)、シャルロッテとともにディートリンデ(順位6位の大領地・アーレンスバッハの領主候補生6年生で、ヴィルフリートの従姉)主催の従姉弟会に参加したローゼマインは、アーレンスバッハの情報を得ようと探りを入れるが、ディートリンデは情報を制限されているらしく、自慢話を延々と聞かされただけで、碌な収穫がないまま終わる。その後の下位領地とのお茶会では、インメルディンク(順位11位の中領地)の領主候補生やヨースブレンナー(順位10位の中領地)の上級貴族に、ダンケルフェルガーとの共同研究の一環でエーレンフェストの神事を行うことを話し、神事への参加を誘う。
ちょっとした企み
寮に戻ってリヒャルダ(ローゼマインの筆頭側仕えの上級貴族)に神事に誘ったことを問い詰められたローゼマインは、奉納式を行うこと、自分一人の魔力で聖杯を満たすのは難しいが、たくさんの協力者がいれば簡単に聖杯を満たすことができる、とその企みを明かしす。貴族院の祭壇を使用させてもらうために、ヒルデブラントに手紙を書くと、アナスタージウスから呼び出しを受ける。アナスタージウスの離宮に向かったローゼマインは、共同研究のあらましとエーレンフェストの儀式について話し、王族にも奉納式に参加してほしいと要望する。寮に戻ったローゼマインは、エーレンフェストに奉納式を行うことになった成り行きを報告し、奉納式に必要な物を送ってほしいと連絡する。
儀式の準備
レスティラウト(ダンケルフェルガーの領主候補生6年生でハンネローネの兄)の講義が終わったとの報告がクラリッサ(ダンケルフェルガーの上級文官見習い6年生でハルトムートの婚約者)から入り、ローゼマインは奉納式の準備を進める。エーレンフェストからは、ハルトムート(ローゼマインの側近の上級文官でエーレンフェストの神官長)を儀式に参加させる許可を取るようにとの連絡が入る。許可を求める手紙をエグランティーヌ(アナスタージウスの第一夫人で貴族院の教師。順位1位の大領地・クラッセンブルクの元領主一族)に届けると、アナスタージウスから許可の返事と、王も参加することなどの連絡が入る。儀式当日の朝、ハルトムートも到着し、儀式を行う最奥の間で準備を整える。
貴族院の奉納式
儀式のため神殿長の服に着替えたローゼマインは、ヒルデブラントからの呼び出しで、ツェント(中央の王)・トラオクヴァールに詳細を説明するが、顔色の悪さと回復薬の匂いから、王族が魔力不足で非常に苦労していることを実感する。ラオブルート(中央の騎士団長)から儀式に護衛騎士を入れない理由を問われたローゼマインは、最奥の間に入れるのは儀式の参加者だけで、シュツェーリアの盾で敵意のある者を選別すると説明し、中央騎士団の騎士たちの攻撃にも耐えられることを示す。入場が始まると、アーレンスバッハや政変の負け組の領地の学生たちが盾に弾かれる。ローゼマインはシュタープ(自分の魔力を効率よく使うための道具)で聖杯を作り、祝詞を唱えると、赤い光の柱が空に伸びていく。儀式を終えると、魔力を奪われた中小領地の貴族たちが大勢を崩して倒れ始める。予想外に魔力を使わず、魔力が溢れそうになったローゼマインは、シャルロッテの提案で、もう1つシュタープを出してフリュートレーネの杖に変化させ、参加者全員に癒しを与える祝福を行って事なきを得る。
残った魔力の使い道
聖杯に王族が持ち込んだ空の魔石を入れて魔力を満たしたが、魔石が足りず、聖杯に魔力が余ってしまう。ローゼマインは、それを図書館のために使うことを要望する。王はそれを認めて一足先に帰っていく。ローゼマインは、ヴィルフリートたちに後を任せてハンネローネたちと図書館に向かう。出迎えたオルタンシアとソランジュ(中級貴族の図書館司書)は、上級司書がいなくなって放置されていた魔術具が図書館の運営に最も大事であることを突き止めたと話し、勧めに従い、その魔術具に魔力を注ぎ、シュバルツとヴァイス(図書館の管理を手伝う魔術具)は「じじさま、おおよろこび」と喜ぶ。「じじさま」が何かは誰もわからないが、図書館の礎ともいえるその魔術具が「じじさま」なのだろうと考える。
お茶会と交渉
寮に戻ったローゼマインは、ヴィルフリートとシャルロッテから、ダンケルフェルガーからお茶会の要請があること、お茶会でレスティラウトが描いたディッターの絵を持ってくることなどを話す。ローゼマインはエーレンフェストに報告書を送った後、疲れで熱を出して寝込んでしまうが、その間にもお茶会の予定が着々と決まっていく。お茶会の当日、レスティラウトは素晴らしい絵を持ってくるが、ガリ版印刷の技術流出を防ぎたいローゼマインは、印刷する過程で他者の手が入ることをレスティラウトに話し、考えた上で返事をもらうことになる。お茶会の話題は共同研究などに移っていくが、レスティラウトとゲヴィンネン(騎獣に乗った騎士に見立てた駒を魔力で動かすボードゲーム)をしていたヴィルフリートが突然立ち上がり、エーレンフェストの次期アウブ(各領地の領主)は自分で、ローゼマインではない、と声を荒げる。
対立
ヴィルフリートが、アウブは健康に不安のあるローゼマインをアウブにすることを考えていないと話すと、レスティラウトはローゼマインに、其方は何を望むと問い、領主の第一夫人となって図書館の司書になる、との答えに、突然、私の第一夫人になれ、と言い出し、自分の価値を見せつけたローゼマインは政変後に中位に浮上してきたエーレンフェストに分不相応だと話す。ローゼマインは明確に断るが、諦めないレスティラウトはディッター勝負を申し込む。ローゼマインは、思いとどまらせるために、エーレンフェストが勝利したらハンネローネをヴィルフリートの第二夫人にいただく、と言い返し、ハンネローネも再考を促すが、レスティラウトは聞き入れず、ヴィルフリートは受けて立つことになる。
ディッター準備
お茶会を終えて寮に戻ったローゼマインたちは、レオノーレやマティアスたちを中心にディッターへの準備を進めて、ローゼマインは、儀式と神具について調べるため、王族の許可を得て図書館に足を運び、エーレンフェストから神具であるエーヴィリーベの剣を取り寄せる。剣を持ってきたハルトムートを中心に、文官見習いたちは戦いのための魔術具を用意していく。
嫁取りディッター
ディッターの当日、エーレンフェストはローゼマイン、ダンケルフェルガーはハンネローネを守る嫁取りディッターが開始される。地力に勝るダンケルフェルガーに準備した戦術や魔術具を使って立ち向かうエーレンフェストだが、予想以上の強さに苦戦する。シュツェーリアの盾で身を守るローゼマインだったが、魔力で作った壁を抜けられる黒い盾を持ったレスティラウトが侵入してくる。ローゼマインは、魔力を回復させる回復薬を飲み、ヴィルフリートにはハンネローネを奪うことを託して送り出し、神具のライデンシャフトの槍で対抗すると、槍に当たった黒い盾は、槍の魔力を吸い込んで金粉となって散り始め、レスティラウトは盾の外に弾き出される。
乱入者
レスティラウトを弾き出し、エーレンフェストの負けはなくなったと思ったその時、いくつもの領地の騎士見習いたちが、ローゼマインをダンケルフェルガーに渡すまいと競技場に乱入してくる。ローゼマインはシュツェーリアの盾でエーレンフェストの学生たちで守るが、そこに、ハンネローネを連れたヴィルフリートが戻ってくる。ダンケルフェルガーの騎士見習いやルーフェン(貴族院の教師でダンケルフェルガーの寮監)が対抗する中で、中央騎士団の騎士たちが主導したことが判明する。ルーフェンからの連絡でアナスタージウスが駆け付け、中央騎士団の騎士たちを束縛し、事情聴取を始めるが、回復薬の飲み過ぎで体調を崩したローゼマインは、アナスタージウスの許しを得て、リヒャルダに抱きかかえられて競技場を退出する。
エピローグ
ローゼマインが退出するのとほぼ同時に、観客席にいた学生たちも退出していき、領主候補生とその側近、寮監だけが残る。レスティラウトの指示で整列するハンネローネは、力づけようとするヴィルフリートの言葉に、曖昧な笑みを浮かべる。ダンケルフェルガーの陣でひとり残っていた自分の身の安全を案じ、危険から守ろうと手を差し伸べたヴィルフリートの真っ直ぐな瞳を見たハンネローネは、その手を取り、自らの意思で陣を出たのだった。アナスタージウスが説明を求めると、レスティラウトは、問題を起こした中央騎士団の管理不十分に対する謝罪と乱入者への厳罰を要求するが、ディッターの結果には異を唱えない。寮に戻ると、ハンネローネはレスティラウトたちに取り囲まれるが、ハンネローネはエーレンフェストに行っても良いと思ったからだと話す。
さらに、番外編の書き下ろしが3編収められています。
聖女の儀式
ミュリエラ(ローゼマインに名を捧げた側近の中級文官見習い5年生)と親しくなったリュールラディ(ヨースブレンナーの上級文官見習い)の視点から、ローゼマインが行ったエーレンフェストの奉納式を描いたエピソード。
注意すべき存在
ジギスヴァルドが、貴族院図書館の地下書庫、ローゼマインやその後ろにいるであろうフェルディナンド、グルトリスハイトについてアナスタージウスと意見を交わすエピソード。
頭の痛い報告書(三年)
ジルヴェスターの視点から、貴族院から届く報告書を読んで、想定外の事態を引き起こすローゼマインに頭を抱えるエピソード。
さらに、著者によるあとがきの後に、「毎度おなじみ 巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常家族」と題して、「ダンケルフェルガー語尾」「乙女心(誤)」「恋人たち」の3本の四コマ漫画が収録されています。
ローゼマインの魔力や流行発信力に目を付け、中央の王族に取られる前にダンケルフェルガーに引き込もうとするレスティラウトは、嫁取りディッターという強引な手に出ますが、ヴィルフリートに惹かれた妹のハンネローレが自らの意思でエーレンフェストに行くことを選び、敗れてしまいます。さらに注目度が高まったローゼマインには、次巻以降さらなる騒動に巻き込まれていくのでしょう。続きも楽しみです。