鷺の停車場

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香月美夜「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部 女神の化身Ⅻ」

香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の第五部「女神の化身Ⅺ」を読みました。

ローゼマインの後見人だったフェルディナンドが結婚のためアーレンスバッハに旅立った後を描く第5部の最終巻で、2023年12月に刊行されています。第11巻に続いて読んでみました。

 

単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。

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古代の大規模魔術の成功と引き換えに、意識を失ったローゼマイン。
フェルディナンドと魔力を繋ぎ、女神に断たれた記憶の海を辿ってゆく。
領主の養女として旅立つ以前、兵士の娘だったあの頃。
大切に育ててくれた家族、愛してくれた彼ら―—。
下町の人々との思い出が蘇る。
「……みんな……大好き」
そして、始まる建領のための忙しい毎日。
ユルゲンシュミット発の未成年領主の就任によって、図書館都市アレキサンドリアの歴史が幕を開ける。
「皆様に祝福を!」

全てを夢物語では終わらせない ビブリア・ファンタジー完結!

大増書き下ろしに加えて、椎名優描き下ろし「四コマ」「アレキサンドリア~ある晴天のバルコニーにて~」を収録!

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本巻の本編は、プロローグ・エピローグと見出しで区切られた18節からなっています。各節のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。

プロローグ

フェルディナンド*1は、ローゼマイン*2の魔力を枯渇させ、自らの魔力で染め直すため、アーレンスバッハ*3から名を改めたアレキサンドリアの礎の間で、古代魔術を復元した大規模魔術を発動させる。

グルトリスハイト*4の継承式のとき、フェルディナンドは、ローゼマインに再び降臨したメスティオノーラ*5から、ローゼマインに苦痛を与えている神々の御力を消し人の魔力に戻すためには、枯渇直前まで魔力を減らして人の魔力で染めるのが早くて確実であること、断たれた記憶は、記憶を共有している者に魔力を流されながら何かきっかけを与えれば戻るかもしれないと聞いていた。しかし、ユルゲンシュミット*6の礎の魔術を見たし、領地内に魔力を撒いて枯れていた土地を癒しても、ローゼマインの魔力はさほど減らず、体力だけが減っていた。

大規模魔術の成功を確認するや否や、フェルディナントはローゼマインに同調薬を飲ませ、自分の魔力を流し込むが、ローゼマインは意識を覚まさない。フェルディナンドは記憶をつなげる魔術具を使い、ローゼマインと意識を同調させる。

記憶

ローゼマインが気が付くと、フェルディナンドと意識がつながっていた。フェルディナンドは、自分が覚えているローゼマインにとって大事な人たちの記憶を見せる。マイン*7がギュンター*8とエーファ*9を痛めつけようとする前神殿長を魔力で威圧する光景、ルッツ*10と家族をフェルディナンドが和解させる光景、転生前の本須麗乃時代の光景、トゥーリ*11が2年間の眠りから覚めたローゼマインに髪飾りを納めに来た光景・・・。それらを見るローゼマインは、大事な記憶がそこにあることは分かり、目に熱いものがこみ上げてくるが、家族を大事にしていた記憶は戻らない。フェルディナンドは、マインがジルヴェスター*12の養女・ローゼマインとなり、家族と別れを告げる光景を見せる。マインが家族のために祈り、祝福の光が降り注いだところで、ローゼマインの記憶はつながり、様々な記憶が次々とつながっていく。自分を呼ぶフェルディナンドの声が聞こえ、恐る恐る目を開けると、フェルディナンドの顔は安堵に緩み、よかった、と抱きしめられる。

選んだ未来

一気につながった記憶のせいで頭が混乱するローゼマインは、フェルディナンドから数日間魔力枯渇で生死の境に向かっていたことを聞かされる。フェルディナンドは、魔力枯渇で死んだように見せかけて平民に戻すこともできるかもしれないと言い出し、ローゼマインは家族のもとに戻りたい自分と貴族として生きてきた自分が心の中でぶつかり合うが、アウブ*13としての責任をフェルディナンドに押し付けることはできないと、それを断る。フェルディナンドは、マインの家族のようなつながりを渇望し、ローゼマインとのつながりを失わないために、王命の婚約を利用してローゼマインの婚約者となったことを明かす。恋愛感情は理解できないがフェルディナンドと離れることは許容できないと思うローゼマインは、フェルディナンドと結婚することを選ぶ。

ローゼマインが礎の間を出ると、ユストクス*14やグレーティア*15たちが駆け付け、アンゲリカ*16に抱き上げられ、寝台に運ばれ、グレーティアやリーゼレータ*17の言葉で、神々の御力が消えたことを実感する。

忙しい日々

翌日、気分爽快に目覚めたローゼマインだったが、クラリッサ*18から、エントヴィッケルン*19を早急に行って新しい城や町を作り、新たなツェント*20を迎えて婚約式を終えなければならないと知らされる。フェルディナンドは、健康診断をした後、ローゼマインを領主執務室に連れていき、ジルヴェスター*21と連絡を取った後、婚約式が終わったら引っ越し作業のためにエーレンフェスト*22に戻り、アレキサンドリアの紋章とマントの染料を作るよう話す。

転移陣の間に行って貴族院*23の寮を開いたローゼマインは、ユーディット*24が持ってきたエントヴィッケルンの設計図を確認する。

城に戻ったローゼマインは、領主執務室の奥のアウブ専用の調合室で婚約式で交換する魔石の調合を行い、貴方のマントに刺繍をさせてください、と魔石に言葉を刻む。

エントヴィッケルン

エグランティー*25からエントヴィッケルンの2日後に訪問する知らせが届く。ローデリヒ*26に婚約式の招待状の作成を任せ、リーゼレータたちに相談し、婚約式では王族との話合いで着たエーレンフェストの染め布にアーレンスバッハの布を重ねた衣装を着ることを決め、フェルディナンドの衣装を合わせてもらうためユストクスに連絡する。

そして、エントヴィッケルンを行う日、ローゼマインは緊張しながら礎の間に入り、魔法陣を描いて魔力を注いで城、貴族街、神殿と下町の一部を作り替え、礎の間に至るための仕掛けを設定する。礎の間を出て、窓から新しい白い街並みを見るローゼマインは、これがわたしの図書館都市、と嬉しさで胸がいっぱいになる。

エグランティーヌの訪れ

図書館に行く余裕もなく、ツェントの来訪の準備を進めたローゼマイン。当日、国境門でエグランティーヌを出迎え、転移陣で城に移動する。昼食の後、領主執務室に移動し、エグランティーヌ、アナスタージウス*27、フェルディナンドと盗聴防止の魔術具を作動させて話をする。エグランティーヌは、フェルディナンドの求めで婚約と領主会議へのフェルディナンドの同行を承認するサインをし、レティーツィア*28を次期アウブ・アーレンスバッハにするというもう1つの王命はどうするのか尋ねる。フェルディナンドは、ローゼマインのアウブ就任後もレティーツィアを領主候補生として次期アウブに相応しい教育を受けさせる、別な領地をアーレンスバッハと名付けてレティーツィアをアウブにするなど王命を実行する方法はいくつかある、と答える。そして、ローゼマインは、エグランティーヌから罪人となったアーレンスバッハの貴族のメダルを破棄し、フェルディナンドは、アーレンスバッハにあったランツェナーヴェ*29の館がなくなったことを説明し、エグランティーヌたちは騎獣に乗り込んで上空からそれを確認する。

婚約式

婚約式の日、エーレンフェストからジルヴェスター、フロレンツィア*30、カルステッド*31、エルヴィーラ*32、ボニファティウス*33たちが到着し、婚約のお祝いを受けるローゼマインは、ボニファティウスの護衛として来たダームエル*34と話し、フィリーネ*35との関係に進展があったのだろうかと思う。

大広間に移動すると、たくさんのアレキサンドリアの貴族たちが集まっていた。ハルトムート*36の進行で婚約式が執り行われ、ローゼマインは暗記したローデリヒが作った求婚の言葉を述べ、フェルディナンドに魔石を差し出すと、フェルディナンドは一瞬幸せを嚙みしめるような素の笑顔を見せる。求婚の言葉を述べてフェルディナンドが差し出した魔石には、アレキサンドリアの領地ごときみを守る、と刻まれていた。それを見たローゼマインは、胸が高鳴り、顔が紅潮して目が潤むが、その反応を見たフェルディナンドは、失敗したな、と苦い顔をする。

アウブの宣言

婚約式が終了した後、ローゼマインは貴族院に向かう者に認証のブローチを渡していく。その間に、ハルトムートから、ランツェナーヴェの騒動で親を失った孤児は、アウブが後見人となり、洗礼後の子は青色神官・巫女の見習いとして、洗礼前の子は神殿の孤児院で過ごし、やる気と能力によっては貴族になれること、レティーツィアもローゼマインとフェルディナンドの星結び*37までは他の孤児と同じく過ごすことなどが一同に説明される。貴族たちは動揺するが、ローゼマインは、領地の現状を話し、新しい産業、そして平民への教育の必要性、神殿の重要性を説き、アレキサンドリアを素晴らしい図書館都市に育てていくと宣言する。

研究所と図書館

控え室に入ったローゼマインは、フェルディナンドからやりすぎだと小言を言われるが、ローゼマインは聞き入れない。ジルヴェスターたちエーレンフェストからの来客を転移陣で境界門に転移させ、帰っていくのを見送るローゼマインは、ダームエルに自分の予定をオティーリエ*38たちに伝えるよう頼み、将来的にフィリーネと一緒にアレキサンドリアに移るか尋ねると、ダームエルはフィリーネの成人を待って共にアレキサンドリアに移籍すると答える。

ジルヴェスターたちを見送った後、ローゼマインはフェルディナンドの研究所を見て回る。ローゼマインとフェルディナンドの婚約により、一度は婚約を解消したエックハルト*39とアンゲリカの婚約話が再浮上していたが、2人ともちょうど良いと言ってあっという間に婚約が決まる。

研究所を出て図書館に入ったローゼマインは、手本にした大英博物館閲覧室のような図書館が目の前にあることに感動し、祝福が飛び出す。用意されていたローゼマインの部屋に入ると、フェルディナンドはローゼマインに隠し部屋を作らせ、その中に、平民の街に用意したマインの家族の家につながる転移陣を設置する。ローゼマインはフェルディナンドの思いやりに胸の奥が熱くなり、家族に会いに行く時はフェルディナンドも一緒、ちゃんと家族に紹介したいと迫り、フェルディナンドはしばらくの逡巡の後、それを受け入れる。

エーレンフェストへ

領主居住区域にある自室に戻ったローゼマインは、フェルディナンドからエーレンフェストでやることリストを渡され、ネックレスに加工してもらうため婚約式で渡された魔石を差し出す。

翌日の出発の日、フェルディナンドは魔石恐怖症が治らないローゼマインに配慮して加工したネックレスを渡し、領主会議までにアーレンスバッハの悪習を破壊するため、ローゼマインは領主会議まで戻ってこないよう告げる。リーゼレータ、コルネリウス*40とともに転移陣で貴族院アレキサンドリアの寮に向かうと、ダームエル、フィリーネ、オティーリエ、ベルティルデ*41、ユーディットが迎えにやってくる。ユーディットは、親の反対で皆と一緒にアレキサンドリアに行けないことを残念がる。

エーレンフェスト寮の転移陣でエーレンフェストに着いたローゼマインを、ヴィルフリート*42シャルロッテ*43、メルヒオール*44が出迎える。シャルロッテからグーテンベルク*45へ中央からアレキサンドリアの行先変更を話すよう勧められたローゼマインは、メルヒオールにグーテンベルクたちを神殿に集めてもらうようお願いする。

自室に入ったローゼマインをリヒャルダ*46が出迎える。

基本色の調合

ローゼマインが側仕えたちと今後の予定について話し合っていると、アレキサンドリアでの顔合わせと打ち合わせを終えた側近たちが戻ってくるが、ハルトムート、コルネリウス、ローデリヒは残ったとレオノーレ*47から聞かされる。ハルトムートはローゼマインの筆頭文官として領地についての基礎知識を得るため、コルネリウスはシュトラール*48がフェルディナンドの側近を抜けて騎士団長となることを受けその連絡役として残ったのだ。

朝食後、図書館に向かったローゼマインは、ラザファム*49の案内で調合室に行き、クラリッサ、フィリーネ、ダームエル、ユーディットに補助してもらい、基本色の調合を行う。染料の試作品をアレキサンドリアに送ると、フェルディナンドとハルトムートから合格が出て、フェルディナンドの指示に従って、紺色に染めたマントと領地の紋章をツェントに提出する。

アウレーリアの立場

ツェントへの提出を終えたご褒美として、ローゼマインに教科書が解禁され、かつてレティーツィアが使っていた教材を読んで地図や産業など領地の基礎知識を学ぶ。ダームエルと一緒に勉強すると話すフィリーネに結婚を決めた経緯を尋ねるが、フィリーネは顔を真っ赤にして首を横に振る。

引越しの準備を終えたマティアス*50とラウレンツ*51アレキサンドリアに出発し、交代でコルネリウスと戻ってきたローデリヒは、フェルディナンドが不正の証拠固めのために文官が必要だとフィリーネとダームエルを呼んでいると伝え、2人もアレキサンドリアに向かう。

コルネリウス、レオノーレとともに実家に帰ったローゼマインは、エルヴィーラがコルネリウス、レオノーレと引っ越しや星結びの段取りについて話す間、ミュリエラ*52と話す。

話を終えたエルヴィーラは、アウレーリア*53を呼び、ローゼマインは、アウレーリアの実家が重い処分を受けることになり、特に、ディートリンデ*54の側仕え見習いだったマルティナ*55はメダルを破棄されてシュタープ*56を失い平民の身分に落とされたこと、ゲオルギーネ*57と親しかったアウレーリアの父親は乱闘に巻き込まれて既に亡くなっており、第一夫人とその子は捕らえられており、第二夫人は錯乱状態であることを話す。

エルヴィーラの求めでアウレーリアがヴェールを外すと、レオノーレが、ガブリエーレ様、と呟く。ガブリエーレはヴェローニカ*58の母親で、ヴェローニカ派と対立していたライゼガング系貴族*59の不幸の元凶となった人物で、アウレーリアは顔が似ているためにヴェールを外せないでいたのだった。アウレーリアは、国を揺るがす者たちに加担した父や妹が重罰を受けるのは当然だと感情を抑えながら話し、自分の処遇がどうなるか尋ねるが、ローゼマインは、以前の政変のような連座での処罰はしないと話す。

母の激励

エルヴィーラの勧めで、ローゼマインは、ランプレヒト*60とアウレーリアの息子のジークレヒトと初めて会う。エルヴィーラと自分の部屋に行ったローゼマインは、コルネリウスとレオノーレ、ハルトムートとクラリッサが夏に星結びの儀式を行うことを教えられ、エックハルトとアンゲリカの結婚が決まった経緯をエルヴィーラに話すが、情緒のなさに恋物語好きなエルヴィーラは残念がる。隠し部屋に入ると、エルヴィーラは全ての貴族女性を自分で掌握すること、フェルディナンドの情報だけに頼らないこと、と貴族女性としての立ち回り方について注意し、貴族女性の結婚は基本的に政略結婚、無理に恋愛感情を抱かなくてもいいと言葉をかけ、自分が書く物語を越えるくらいに幸せになりなさい、と激励する。

神殿の側仕え達

翌日、届いた新しい衣装を確認し、隠し部屋を閉ざして、神殿に向かうローゼマインは、マインからローゼマインになって初めて来たときから世話をしてくれた側仕えたちに感謝の言葉を伝え、プランタン商会*61との顔つなぎのためミュリエラを連れ、迎えにきたアンゲリカとユーディットとともに神殿に移動する。

神殿では、フィリーネと神殿の側仕え全員が出迎える。隠し部屋を閉じた後、ローゼマインは新領地の神殿の改革のためにフラン*62とザーム*63は自分の成人を待たずに来てほしい、モニカ*64とニコラ*65はフィリーネの成人まで残ってもらう、ヴィルマ*66とギル*67にもプランタン商会と一緒に移動して神殿で生活し、神殿の改革を手伝ってほしい、自分が成人したらギルは買い取って神殿から解放すると約束すると話す。

ローゼマインは、孤児院に向かいデリア*68と会う。ディルク*69と離れて元気のないデリアに、孤児院のお姉さんになって孤児たちを守ってほしい、と役目を与え、デリアも元気を出す。

商人達との話し合い

孤児院の後、メルヒオールの部屋に移動したローゼマインは、メルヒオールとカジミアール*70に自分の神殿の側仕えたちの動向を伝えてその穴埋めをどうするか相談し、孤児院の工房の収入を搾取しないよう釘を差す。

プランタン商会とグーテンベルクたちが到着し、ローゼマインは、ベンノ*71たちに移動先が中央から旧アーレンスバッハになったこと、アレキサンドリアでのグーテンベルクたちの新しい住まいや店の場所などを説明し、神殿から移動する者も一緒に連れて行ってほしいとお願いする。最初は難色を示されるが、転移陣などを使ってグーテンベルクたちの荷物を移動させることで馬車の負担を減らすことを提案し、シャルロッテの配慮でユーディットとダームエルが護衛につくことなどで話がまとまる。

就任式の衣装と図書館の閉鎖

ローゼマインは、届いた衣装の中から領主会議で着る衣装を確認する。フロレンツィアと一緒にやってきたシャルロッテグーテンベルクたちの護衛の件のお礼を言うと、シャルロッテは境界門まで護衛した後、ユーディットとダームエルに戦場となったゲルラッハ*72への今後の支援を考えるために戦いの影響を確認してきてほしいと頼み、ローゼマインはそこまで考えられるシャルロッテに感心する。

領主会議で着る衣装を決めたローゼマインは、フェルディナンドに衣装の詳細を知らせ合わせてくれるよう手紙を書く。このような機会はもうないから、と盗聴防止の魔術を出したフロレンツィアは、これまでのローゼマインとの関係を振り返り、体調には気を付けるようにと言葉を掛ける。

そして、ローゼマインは図書館の閉鎖に向かう。隠し部屋を片付けて空っぽにしたローゼマインに、フェルディナンドから譲られたこの館を管理してきたラザファムは思い出話を語る。

そして荷物を運び終え、ローゼマインは図書館の鍵を閉め、その鍵をジルヴェスターに返却するため、馬車に乗り込む。

エーレンフェストとの別れ

アレキサンドリアに移動する側近たちが全員引っ越しを終えた後、ローゼマインはトラブル回避のために就任式までの2日ほどの間、貴族院の寮で過ごすことになる。城の部屋の荷物を片付け、隠し部屋を閉じた後、ローゼマインは一時的に側仕えとして付いてくれたリヒャルダに感謝を伝え、リヒャルダは旅立ちを祝福する祈りを捧げ、側仕えのオティーリエとベルティルデ、護衛騎士のアンゲリカとユーディとを伴って部屋を出るローゼマインを見送る。

ローゼマインは、見送りに来たヴィルフリート、シャルロッテ、メルヒオールとその側近たちとともに転移陣の間に向かい、待ちきれないボニファティウスも駆けつける。ロゼマインは領主一族を前に、エーレンフェストの領主一族として過ごせて本当に良かった、と感謝の言葉を述べて別れを告げ、転移陣で寮へ転移する。

就任式の朝

貴族院の寮に着いたローゼマインは、まず、既に寮に移動しているエーレンフェストの貴族たちに、新領地の側近たちが出入りして不快感を与えたことを詫び、新しい側近たちはエーレンフェストに加勢していくれた者であることなどを説明する。

就任式が行われる領主会議当日の朝、普段より早い時間に起こされたローゼマインは、オティーリエとベルティルデに身なりを整えられ、お茶会室に向かう。

ジルヴェスター、フロレンツィア、ブリュンヒルデ*73も到着し、フェルディナンドもアレキサンドリア寮からやってくる。ローゼマインは、一緒にアレキサンドリアに移動するラザファム、マティアス、リーゼレータ、アンゲリカ、ハルトムート、レオノーレ、コルネリウスとともに、エーレンフェストの認証のメダルを返却し、これでエーレンフェスト寮に入れなくなることに、エーレンフェストでやるべきことが終わってしまったと感じる。自分とジルヴェスターが代表する形で再会を望む挨拶を交わした後、ローゼマインは、オティーリエ、ベルティルデ、フィリーネ、ユーディット、ダームエルのエーレンフェストに残る側近たちに見送られ、フェルディナンドとともに足を踏み出す。

就任式

案内係の中央の文官に声を掛けられ、ローゼマインはフェルディナンドにエスコートされて進むと、トラオクヴァール*74がかつてアーレンスバッハ管理の旧ベルケシュトックと中央管理だった旧シャルファーなどから成る新領地ブルーメフェルトのアウブとして紹介され、マグダレーナ*75とともに講堂に入っていく。ラルフリーダ*76はどうしたのか話していると、遅れてやってきたジギスヴァルド*77も中央管理だった旧トロストヴェークなどから成る新領地コリンツダウムのアウブとして紹介され、ナーエラッヒェ*78とともに講堂に入っていく。

その後、アレキサンドリアの名が呼ばれ、ローゼマインはフェルディナンドのエスコートで講堂に入っていく。領主就任を歓迎しない空気を感じて少し怖気づくローゼマインだが、フェルディナンドの言葉で気を取り直して、図書館に思いをはせ、これまでの歩みを心の中で振り返える。壇上に上がり、エグランティーヌが新領地のマントを渡し、新領主とし承認する。未成年がアウブとなることに不満の声があがるが、ローゼマインは動じず、エグランティーヌはマントを渡し、紋章がお披露目される。騒いでいるのが中位から下位領地の貴族ばかりであることに、不満を持つ領地を炙り出すフェルディナンドの企みを察したローゼマインは、自身で礎の魔術を奪ったこと、グリトリスハイトを持っていることを明かして会場を黙らせる。エグランティーヌの言葉で貴族たちはローゼマインを祝福し、解放感と喜びがあふれるローゼマインは講堂中に祝福の光を放つ。

エピローグ

平民の成人式が行われる夏の終わり、グーテンベルクたちとともにアレキサンドリアに移っていたルッツは、勤め先のプランタン商会の店主ベンノや婚約者のトゥーリたちに送り出され、成人式に出る。アレキサンドリアではランツェナーヴェとの国境門が閉じられ、古くからの商人たちもローゼマインが始める産業に乗っかろうと必死で、グーテンベルクたちは予想していたほどの摩擦もなく迎い入れられていた。

プランタン商会とともにアレキサンドリアに出店したギルベルタ商会*79の3階に住んでいるギュンターの家で、ルッツの成人式のお祝いが開かれる。その最中、突然マインがフェルディナンドを連れて姿を現す。契約魔術で家族として関わることを禁止されていたギュンターたちは驚くが、マインは契約魔術はエーレンフェスト限定だからアレキサンドリアでは大丈夫と話し、一同は衝撃を受ける。マインはフェルディナンドとの婚約を明かすが、家族たちにからかわれて照れ隠しに1人わけが分からないカミル*80に抱きつく。

ルッツとトゥーリが結婚すると聞いたマインは思わず祝福しようとするが、フェルディナンドたちに止められ、ルッツは結婚式の日はとんでもない量の祝福を浴びそうだと気が遠くなる。トゥーリの提案でマインの成人祝いもすることになって、酒や酒の肴も準備され、フェルディナンドは、ギュンターとエーファに、自分は家族の深い愛情を受けて育ったマインに救われた、自分もマインを守る、私がマインの家族となることを認めてほしい、と語り、ギュンターと酒を酌み交わす。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、別れの時間になる。トゥーリは次に来るときのために平民の服をマインに渡し、マインは笑顔で大きく手を振り、フェルディナンドと転移陣で帰っていく。

 

以上の本編、著者によるあとがきの後に、「毎度おなじみ 巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常家族」と題して、「セルフサービス」「同類」「ZEROストッパー」の3本の四コマ漫画が収録され、さらに、本巻イラストを担当している椎名優の「アレキサンドリア~ある晴天のバルコニーにて~」と題した、フェルディナンドのマントに刺繍するローゼマインを描いた5ページの短編漫画が収録されています。

 

本編だけで、第1部「兵士の娘」が3巻、第2部「神殿の巫女見習い」が4巻、第3部「領主の養女」が5巻、第4部「貴族院の自称図書委員」が9巻、この第5部「女神の化身」が12巻の合計33巻と、全体としてはかなりの長編になりましたが、期待したとおりの大団円に終わりました。

本編としてはこれで終結ですが、巻末の宣伝ページを見ると、本年夏には、ハンネローネ*81を主人公にした「本好きの下剋上 外伝 ハンネローネの貴族院五年生Ⅰ」が発売予定だそうですし、第2部までに相当する部分で終わっていたテレビアニメ版も、続く第3部を描く続編の制作が決まっているようです。引き続き楽しみにしたいと思います。

*1:ジルヴェスターの異母弟でエーレンフェストの元神官長。王命の継続により、ローゼマインの婚約者になる予定

*2:主人公。エーレンフェストの領主候補生4年生で、王族の養女となることが決まっていたが、アーレンスバッハの礎を魔力で奪ったことで、アウブ・アレキサンドリアになる予定

*3:順位6位の大領地

*4:本来はツェントになるために必要とされる古の聖典

*5:英知の女神

*6:エーレンフェスト、アーレンスバッハ、ダンケルフェルガーなどが属する国

*7:ローゼマインが貴族になる前の本来の名前

*8:マインの父親

*9:マインの母親で、今はローゼマインの専属の染色職人

*10:マインの幼なじみで、今はプランタン商会で働く

*11:マインの姉で、今はローゼマインの専属の髪飾り職

*12:エーレンフェストの領主

*13:各領の領主

*14:フェルディナンドに名を捧げた側仕え兼文官

*15:ローゼマインに名を捧げた側近の中級側仕え見習い5年生

*16:ローゼマインの側近の中級護衛騎士

*17:ローゼマインの側近の中級側仕え

*18:ローゼマインに心酔し名を捧げたするダンケルフェルガー出身の上級文官

*19:町全体を造り替える大規模魔術

*20:中央の王

*21:エーレンフェストの領主で、ローゼマインの養父

*22:ローゼマインたちが暮らしていた順位8位の中領地

*23:貴族達が大人になる前に通う学校だが、ユルゲンシュミットの聖地でもある

*24:ローゼマインの側近の中級護衛騎士見習い5年生

*25:順位1位の大領地・クラッセンブルクの元領主一族で、アナスタージウスの第一夫人だったが、新たにツェントとなった

*26:ローゼマインに名を捧げた中級文官見習い4年生

*27:エグランティーヌの夫。かつては中央の第二王子だった

*28:順位3位の大領地・ドレヴァンヒェルから養子に入ったアーレンスバッハの領主候補生

*29:ユルゲンシュミットの隣国

*30:ジルヴェスターの第一夫人で、貴族としてのローゼマインの養母

*31:エーレンフェストの騎士団長で、貴族としてのローゼマインの実父

*32:貴族としてのローゼマインの実母

*33:ジルヴェスターの伯父・カルステッドの父親

*34:ローゼマインの側近の下級護衛騎士

*35:ローゼマインの側近の下級文官見習い4年生。成人までの間エーレンフェストの神殿の孤児院長を務める

*36:ローゼマインに名を捧げた側近の上級文官で、エーレンフェストの神官長を務めていた。クラリッサと婚約している

*37:結婚を意味する言葉

*38:ローゼマインの筆頭側仕えで、ハルトムートの母親

*39:貴族としてのローゼマインの兄で、フェルディナンドに名を捧げた上級護衛騎士。先妻を亡くしている

*40:貴族としてのローゼマインの兄で、側近の上級護衛騎士

*41:ローゼマインの側近の上級側仕え見習い1年生

*42:ジルヴェスターの息子の領主候補生4年生で、ローゼマインの義兄

*43:ジルヴェスターの娘の領主候補生3年生で、ローゼマインの義妹

*44:ジルヴェスターの息子で、ローゼマインの義弟。ローゼマインの後のエーレンフェストの神殿長となった

*45:印刷業に関わるローゼマインの専属の職人たち

*46:ジルヴェスターの上級側仕えで、ローゼマインの元筆頭側仕え

*47:ローゼマインの側近の上級護衛騎士。コルネリウスの婚約者

*48:元アーレンスバッハの騎士団長で、フェルディナンドの上級護衛騎士

*49:フェルディナンドに名を捧げた下級側仕え

*50:ローゼマインに名を捧げた中級護衛騎士

*51:ローゼマインに名を捧げた中級騎士見習い5年生

*52:かつてローゼマインの側近だった中級文官見習い6年生。今はエルヴィーラに名を捧げている

*53:旧アーレンスバッハ出身のランプレヒトの妻

*54:アーレンスバッハの領主一族で、ローゼマインの義兄・ヴィルフリートの従姉。ローゼマインたちによって捕らえられた

*55:アウレーリアの妹

*56:自分の魔力を効率よく使うための道具

*57:元アーレンスバッハの第一夫人でジルヴェスターの姉。アーレンスバッハの騒動の張本人で、既に故人

*58:アーレンスバッハからエーレンフェストに嫁いできたジルヴェスターの母親。現在は幽閉中

*59:ローゼマインを支持し、エーレンフェストの次期アウブにしようとしていた貴族たち

*60:カルステッドとエルヴィーラの息子でコルネリウスの兄。ヴィルフリートの上級護衛騎士

*61:エーレンフェストの下町で印刷業に関わる商品を扱う商会

*62:神殿でのローゼマインの筆頭側仕え

*63:神殿長室担当の神殿でのローゼマインの側仕え

*64:神殿長室担当兼料理助手のローゼンマインの側仕え

*65:神殿での料理助手担当のローゼマインの側仕え

*66:神殿での孤児院担当の側仕えで、絵本の絵師も担当している

*67:神殿での工房担当のローゼマインの側仕え

*68:神殿でのマインの側仕えだったが、騒動を起こした前神殿長に協力したことで側仕えを解任され、処刑を免じられる代わりに孤児院から一生出られない罰を受ける

*69:デリアが弟のように溺愛している孤児だが、その魔力などにより貴族となることが認められ、孤児院を出た

*70:神官長となったメルヒオールの側近

*71:下町時代のマインの保護者的存在だったプランタン商会の旦那

*72:アーレンスバッハに隣接するエーレンフェストの一地方

*73:ローゼマインの元側近の上級側仕えで、ベルティルデの姉、ジルヴェスターの第二夫人として婚約している

*74:ツェントの座を降りた貴族

*75:トラオクヴァールの第三夫人で、アウブ・ダンケルフェルガーの妹

*76:トラオクヴァールの第一夫人

*77:中央の第一王子だったが、父トラオクヴァールの退位に伴い、アウブとなった。ラルフリーダの娘

*78:ジギスヴァルトの第二夫人だったが、第一夫人だったアドルフィーネの離縁により第一夫人となった

*79:エーレンフェストの下町で服飾品を扱う商会

*80:マインがローゼマインとして神殿に入ってから生まれた弟。今はプランタン商会の見習い

*81:貴族院でのローゼマインの図書委員仲間で、順位2位の大領地・ダンケルフェルガーの領主候補生4年生