鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

映画「違国日記」

休日の朝、TOHOシネマズ流山おおたかの森に行きました。


世間的には平日の9時前の時間帯、ロビーのお客さんは少なめでした。


この日の上映スケジュールの一部。この日は合計28作品・31種類の上映が行われていました。

観るのは、「違国日記」(6月7日(金)公開)。全国293館と大規模な公開です。


上映は、125+2席のスクリーン8。お客さんは10人ちょっとでした。この週で上映終了になっていましたが、この入りなら仕方ないかもしれません。


(チラシの表裏)


(公開日の発表前に配布されていた別バージョンのチラシ)

祥伝社FEEL YOUNG」の2017年7月号から2023年7月号まで連載されたヤマシタトモコの同名マンガを原作に実写映画化した作品で、監督・脚本・編集は瀬田なつき

主な登場人物・キャストは、次のとおりです。

  • 高代 槙生(こうだい まきお)【新垣 結衣】:少女小説家。「こうだい槙生」の名前で、少女小説やエッセイなどを執筆している。人見知りで片付けが苦手。

  • 田汲 朝 (たくみ あさ)【早瀬 憩】:15歳の中学3年生。交通事故で両親を亡くし、叔母の槙生のところに身を寄せる。人懐っこく素直な性格。

  • 醍醐 奈々(だいご なな)夏帆】:槙生の学生時代からの友人。

  • 笠町 信吾(かさまち しんご)【瀬戸 康史】:槙生の友人で元彼。

  • 楢 えみり(なら えみり)【小宮山 莉渚】:小学校から一緒の朝の同級生で親友。

  • 高代 実里 (こうだい みのり)【中村 優子】:朝の母で槙生の姉。夫とともに交通事故で亡くなった。

  • 森本 千世(もりもと ちよ)【伊礼 姫奈】:成績優秀な朝の同級生。

  • 三森(みもり)【滝澤 エリカ】:朝と同じ軽音楽部の女子。

  • 塔野 和成(とうの かずなり)【染谷 将太】:朝の後見監督人の弁護士。

  • 高代 京子(こうだい きょうこ)銀粉蝶】:槙生と実里の母で朝の祖母。

 

公式サイトのストーリーによれば、

 

両親を交通事故で亡くした15歳の朝(早瀬憩)。葬式の席で、親戚たちの心ない言葉が朝を突き刺す。そんな時、槙生(新垣結衣)がまっすぐ言い放った。

「あなたを愛せるかどうかはわからない。でもわたしは決してあなたを踏みにじらない」

槙生は、誰も引き取ろうとしない朝を勢いで引き取ることに。こうしてほぼ初対面のふたりの、少しぎこちない同居生活がはじまった。人見知りで片付けが苦手な槙生の職業は少女小説家。人懐っこく素直な性格の朝にとって、槙生は間違いなく初めて見るタイプの大人だった。対照的なふたりの生活は、当然のことながら戸惑いの連続。それでも、少しずつ確かにふたりの距離は近付いていた。

だがある日、朝は槙生が隠しごとをしていることを知り、それまでの想いがあふれ出て衝突してしまう――。

 

・・・というあらすじ。

 

穏やかな空気感の中で、2人の関係が少しずつ変容していく様子が優しい目線で描かれていて、心にじんわりと沁みる、いい作品でした。140分というちょっと長めの上映時間なので、観る前は、途中で退屈になってしまうのではと心配していましたが、物語の流れが弛緩することはなく、途中で気持ちが途切れることなく観ることができました。物語に大きな起伏や劇的なクライマックスがあるわけでないのに、作品の世界に引き込んで離さないところは、脚本・編集も担当している瀬田なつき監督の力量、センスの良さを感じました。俳優陣では、主役の新垣結衣もさることながら、朝を演じた早瀬憩の新鮮さと透明感がとても印象的でした。

 

以下はネタバレになりますが、備忘を兼ねて、記憶の限りで、より詳しいあらすじを記してみます。(なお、細部のセリフやエピソードの登場順など、多少の記憶違いはあるだろうと思います。)

 

中学3年生の田汲朝は、ショッピングセンターでアイスクリームを買って駐車場で待つ両親のもとへ向かう。両親が車を出そうとしたその時、トラックが突っ込んできて衝突する。それを目の当たりにした朝の手から、アイスクリームが落ちる。

その頃、自宅でパソコンに向かい原稿を書いていた少女小説家の槇生に、母・京子から電話がかかってくる。槇生が警察署に駆けつけると、京子と朝が待っていた。朝の母親である姉・実里と折り合いが悪く久しく会っていなかった槇生だったが、槇生を見た朝は、槇生ちゃん、と口にし、朝の母親で槇生の姉である実里が、小説家の槇生ちゃん、と言っていた、と話す。槇生は朝に同伴して姉・実里の遺体を確認する。

両親の葬儀の日、親戚たちが集まる食事の席で、親戚たちは、涙も出さない強い子だ、可哀想に、これからどうするんだろう、親戚中をたらい回しになるのでは、などと無神経に言葉を発し、それが耳に入り、どうしようもない孤独感に襲われた朝は、「たらい」ってどう書くんだろう、と無意識のうちに口にしてしまう。

そのとき、向かいの席に座っていた槇生が、姉が大嫌いだから、あなたを愛せるかどうかはわからない、でも私は決してあなたを踏みにじらない、あなたをたらい回しにしない、と宣言し、勢いで朝を引き取ることになる。

朝を散らかっている自宅に連れて帰った槇生は、朝が寝るスペースを何とか用意すると、朝はたまっていた疲れが出たのか、ぐっすりと眠ってしまう。槇生は親友の醍醐奈々に電話をかけて事情を話し、朝を引き取るための手続をどうしたらいいか相談する。奈々は槇生の元彼の笠町に相談することを勧め、その場で笠町へのメールを打つ。

翌朝、槇生が目覚めると、制服姿の朝が立っていた。今日は卒業式だと言う朝に、槇生は一緒に行かなくていいかと聞くが、朝は一人で家を出て行く。いつもどおりの笑顔で学校に行った朝だったが、校舎に入ったところで、親友の楢えみりに声を掛けられ、朝の両親が交通事故で亡くなったことを先生に伝えたことを謝る。さらに、先生からも声を掛けられ、生徒たちにいつもどおりに接するように話したことを伝えられる。何も言わずに知らないままの方がいつもどおりだったのに、と思いカっとなった朝は、そのまま学校を飛び出してしまう。無意識のうちに両親と住んでいた自宅に戻ってしまったり、街をさまよう朝。えみりからは卒業式も出ずに飛び出した朝を心配し、謝罪するメッセージが次々に届くが、朝は開くことができない。

朝がようやく槇生の家に戻ってくると、玄関前の路上で槇生が待っていた。朝は卒業式に出なかったことを明かす。家に入ってえみりからのメッセージを見る朝に、槇生は独特な表現でさりげなくアドバイスを与え、返事だけはするよう促す。その後押しで朝はえみりに電話を掛け、2人は仲直りする。

槇生は、喫茶店で待ち合わせて笠町と会い、朝を引き取って一緒に暮らすために必要な手続について相談する。柔らかな年頃、きっと私の迂闊な一言で人生が変わってしまう、と心配する槇生を笠町は励ます。

ある日、槇生と朝は、両親の遺品を整理するために朝が両親と住んでいた自宅へ行き、遺品の整理を行う。休憩時、自分の母親のことを好きになってほしいと朝は槇生に話すが、槇生は、姉への気持ちは、死んでも決して変わらない、私の姉への怒りや息苦しさをあなたは決して理解できない、あなたの感情も私の感情も自分だけのもので分かち合うことはできない、とそれを拒み、言い争いになってしまう。

そして、朝は高校に入学する。入学式に行く朝を槇生は見送る。学校に着くと、同じ高校に入学したえみりの母親が声を掛け、今からでも電話をして槇生に来てもらった方がいいと話すが、朝は一人で大丈夫と相手にしない。

ある日、散らかっていた槇生の家を朝が掃除してくれ、槙生の書きかけのノートがたくさん出てくる。槇生はその中の1冊を手に取り、書きかけの1枚を破り取って、朝に手渡す。そして、自分の気持ちを日記のように書いてみたら、今の気持ちを書けばよい、それが嘘でもいい、書きたくなければ書かなくてもいいと話し、朝はそのノートに自分の思いを綴り始めるようになる。

そんなある日、奈々が槙生の家に遊びにやってくる。明るく気さくな奈々に、朝もすぐ打ち解け、3人で餃子を手作りして、パーティーをする。朝は奈々と槇生のやりとりで、槇生の意外な一面を見る。

高校に入って部活動をするか悩む朝。楽そうだからと誘われて手芸部に入ったえみりは、朝も一緒に入ろうと誘うが、音楽がしたい朝は、軽音楽部に入り、ベースを弾くことになる。

後見監督人となった弁護士の塔野が槇生の家を訪れる。朝の銀行通帳を確認すると、30万円が下ろされていた。槇生が使い込んだのではと疑って問い詰める塔野に、朝が、自分がマックプロを買った、それを買えば1人で音楽ができると聞いたから、と自分が使ったことを打ち明け、母親が生きていたら軽音楽部に入ったことにいい顔をしなかったと話す。槇生は、使い込んだことを咎めることなく、朝の人生は朝のもの、好きにしたらいい、と話す。

塔野と入れ替わりに、2人の様子を見に槙生の母・京子が訪ねてきて、ファミレスで3人一緒に食事をする。大丈夫?と心配する京子に、槇生と朝は、大丈夫だと思うと言い、それを聞いて京子は安心する。先に帰る京子を見送りに槇生が外に出ると、京子は、手元に届いた遺品の中にあった日記を、朝ちゃんに渡そうかと思ったけど、あんたに渡すと、槇生に渡す。

帰宅後、槇生はその日記を開くが、姉が大嫌いな気持ちから、読み進めることができない。

そんな折、槇生のトークショー&サイン会が書店で開かれ、興味を抱いた朝はその様子を見に書店に足を運ぶ。サイン会には長い行列ができ、朝も槇生が書いた本を1冊手に取って行列に並ぶ。行列の先頭では、笠町が槇生にサインをしてもらいながら、この後時間が取れないか、と槇生を誘い、槇生はサインの下に「OK」と書いて返事する。その様子を目撃した朝は、行列に並ぶのをやめてフラっと書店を出て、街をさまよう。たまたま喫茶店の前を通りかかると、えみりが同年代の女の子と仲良さそうに話しているのが目に入る。

一方、サイン会が終わった後に笠町と会う槇生は、母から託された実里の日記をいつ朝に渡したらいいか相談し、笠町は、まず日記があることを朝に話すことを勧める。槇生は自分を卑下するが、笠町は槇生の助けになりたいと話す。

軽音楽部では部員がそれぞれ詞を作ることになり、朝は自分が作った詞を槇生に見てもらってアドバイスを求める。槇生は、言葉を選びながら、伝えたいことを書けばいいと話す槇生に、そういうものがないという朝に、作った歌詞の中にある「エコー」はいい、そこから膨らませていけばいい、あと、死ぬ気、殺す気で書くことだ、とアドバイスする。

ある日、えみりが朝を体育館に呼び出す。えみりは、自分が女の子と交際していることを打ち明ける。どう反応していいか戸惑う朝にえみりは、朝の前ではいつもどおりの自分でいたかった、と話す。

思うように原稿が書けず、休稿が続く槇生が奈々と外を歩いていると、下校してくる朝を見かけ、奈々が声を掛ける。朝は、軽音楽部のミニライブで1年生のボーカルの募集があり、本当は歌いたかったのに、手を上げることができなかったと2人に話す。槇生は、自分がやりたいと本当に思うなら、誰かに何と言われてもやるべし、とアドバイスし、歩きながら「探しものは何ですか?」と井上陽水「夢の中へ」の一節を歌い始め、朝と奈々もそれに合わせて一緒に歌う。

そんなある日、笠町が槇生に家を訪れ、2人でワインを飲む。2人の関係に興味津々の朝は2人の関係について遠慮なく質問をぶつけるが、笠町のふとした言葉から、槇生が渡せずにいた実里の日記の存在を朝に知られてしまう。笠町が帰った後、槇生は、隠すつもりはなかった、高校を卒業したら渡すつもりと書かれていたので、と弁解して日記を朝に渡すが、ショックを受けた朝は、学校で行われる成績を決める試験を2日連続で無断で休んでしまう。

保護者の槇生は学校に呼び出されて注意されるが、槇生は、私は本人の選択を尊重したいと思います、と話す。

槇生は、久々に海沿いの街にある実家を訪れる。朝が実里と槇生の話を聞くために訪れていたからだった。愛犬を抱っこしながら出迎えた京子は、実里は槇生が小さいころに入院していて他の人ができることができなかったことなどを話し、自分はちゃんと子育てできたのかしら、と言う。

海辺に出て海を眺める槇生。その姿を遠目に見た朝は、その姿が一瞬母親に見えて、お母さん!と行って駆け寄ってくるが、それは槇生だった。

槇生は、休んだこと自体は咎めず、無断はダメだと注意する。そして、理解はできないだろうが聞きたくなったと言って、朝にとって実里がどんな母親だったのかを尋ねる。きれい好きで料理も上手と母親のことを話した朝は、槇生に実里がどんな姉だったのかを尋ねる。こんな当たり前のこともできないの、妄想にふけってないで現実を見ろ、とよく言われた、自分が書いた戯曲を捨てられたこともある、死ぬ気で、殺す気で書き続けた、姉は他からどう見えるかだけを考えていて自分がなかった、と話す。並んで座った2人、押し殺してきた感情があふれ出して泣き続ける朝の肩を、槙生は黙って抱き寄せるのだった。

家に帰ってきた朝は、母親の日記を開く。そこには、高校を卒業したら渡そうと思う、朝という名前は、必ず来る、新しくて美しいもの、という願いを込めて付けたと書かれていたが、その書き出しの後は白紙で、まだ書かれていなかった。

そして、軽音楽部のミニライブの日、出かけていく朝を槇生はいつものように見送る。「高代」だった家の表札も、いつの間にか「高代/田汲」に変わっていた。昼休み、朝がボーカルを務めるミニライブが始まる、えみりがその様子をスマホで撮影し、以前に朝がえみりを家に連れてきたのをきっかけにえみりと連絡先を交換していた槇生も、えみりのスマホから送信される朝が歌う動画を自分のスマホで見るのだった。

(ここまで)

 

先にも書きましたが、じんわり心に沁みる作品で、個人的にはとても良かったので、公開3週で上映が終わってしまうのは、かなり残念です。140分というけっこう長めの上映時間のせいで、敬遠する人も少なくないのかもしれませんが、もったいない気がします。