香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の第五部「女神の化身Ⅺ」を読みました。
ローゼマインの後見人だったフェルディナンドが結婚のためアーレンスバッハに旅立った後を描く第5部の第11巻で、2023年5月に刊行されています。第10巻に続いて読んでみました。
単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。
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中央の戦いを終えると、フェルディナンドは次代のユルゲンシュミットへ改革を始める。
歪んだ王族の世襲を廃し、新しいツェントの選出と決定を急ぐこと。
その就任式、グリトリスハイトの継承の儀式の準備が進む一方、女神によって断たれたローゼマインの記憶が戻らない。
けれど、周囲の不安をよそに、彼女の頭の中は「図書館都市計画」で楽しくなってきて……。
第五部完結目前! 新時代への助走――自らが選択した未来へ突き進め!
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本巻の本編は、プロローグ・エピローグと見出しで区切られた14節からなっています。各節のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。
プロローグ
ローゼマイン*1たちとともに貴族院*2のエーレンフェスト*3。の寮にやってきたフェルディナンド*4は、ラザファム*5が支度した自分の部屋でハルトムート*6からローゼマインの側仕えのアーレンスバッハ*7への移動について相談され、グルトリスハイト*8の授与の儀式の詳細について尋ねられる。フェルディナンドは、今回の儀式の目的は正当なツェント*9を見出す儀式を蘇らせること、選別の魔法陣を完全に作動させてわずかに光らせた程度のディートリンデ*10では全く能力不足だったことを周知することだと語る。そして、ハルトムートはローゼマインに女神が降臨した影響について情報を求める。フェルディナンドは、メスティオノーラ*11がローゼマインに降臨した際に、読書よりもローゼマインの心の内に深く入り込んでいる記憶への繋がりを断ったと言っていたことを思い出し、側近以外への口外を禁じた上で、下町の平民や神殿の工房関係者の記憶が断たれた可能性を示唆する。ハルトムートからローゼマインに名捧げをした側近は女神の御力が暴走してもローゼマインに触れることができると聞いたフェルディナンドは、いざという時にローゼマインに触れることができるようにするため、ローゼマインの名捧げすることをユストクス*12、エックハルト*13、ラザファムに告げる。
顔色の悪い王族
レオノーレ*14からアダルジーザの離宮*15に到着したとオルドナンツ*16で知らせが入り、ローゼマインは女神の御力を隠すため銀色の布*17に包まれ、アンゲリカ*18に抱えられて玄関に向かい、アーレンスバッハから戻ってきたグレーティア*19、リーゼレータ*20たちを出迎える。
ローゼマインは自室で儀式で行うことになる奉納舞の練習に励み、王族との昼食会を兼ねた話し合いの日を向かる。当日の午前中にギルベルタ商会*21から新しい衣装が届くが、髪飾りを作ったトゥーリ*22についての名前を聞いても全く誰か思い浮かばす、記憶が欠けていることに気づいてローゼマインは混乱する。そのことをフェルディナンドに話すと、フェルディナンドは、メスティオノーラが干渉したのは読書への執着より深く心の内に入り込んでいる記憶で、消したわけではなく繋がりが切れている状態だと聞いていると教え、後で協力するからもう少し待っていなさいと話す。
昼食会は、ジルヴェスター*23とフロレンツィア*24のエーレンフェストの領主夫妻の主催で、招待客としてやってきたダンケルフェルガー*25の領主夫妻は、女神の御力を得たローゼマインに跪き、次いで、トラオクヴァール*26とラルフリーダ*27、ジギスヴァルド*28とアドルフィーネ*29、アナスタージウス*30とエグランティーヌ*31、ヒルデブラント*32とマグダレーナ*33の王族たちが、顔色の悪い状態で入ってくる。昼食会が始まり、ランツェナーヴェ*34掃討戦、貴族院の戦い、ラオブルート*35に扇動された中央騎士団の取り調べ、そして、国境門が光ったことで、各領のアウブ*36が情報を集めようと貴族院に集まっていると話題になる。
新ツェントの条件
食事が終わると、側近たちは外させて、新しいツェントの選出についてローゼマインは話し始め、神々はユルゲンシュミット*37の礎を染められる者をツェントに望んでいること、新しいツェントには、一刻も早く礎を満たすこと、魔力のあるランツェナーヴェの者をユルゲンシュミットの者として受け入れること、今回の騒動に関して命を奪う処罰は許されないこと、次代のツェントは自力でメスティオノーラより英知を受けた者にすること、という神々の要求を受け入れなければならないこと、中央神殿を古の聖地である貴族院に移しツェントを神殿長とすること、それに伴い中央の王宮や離宮を閉鎖しツェントの一族は貴族院に住居を移すことを話した上で、王族の中に立候補者がいないか尋ねる。しかし、誰も引き受けようとする者は出てこず、そのふがいなさにフェルディナンドが王族を無能扱いする挑発的な発言をする。フェルディナンドやローゼマインの話を聞いて、ジギスヴァルドは、自分が新たなツェントとなり昔のやり方を取り入れていくが、今回の外観誘致の罪はアーレンスバッハにあり、王族が全ての罪を背負うことは納得できない、と暗にフェルディナンドをやり玉に挙げる。それを聞いてカチンときたローゼマインは無意識のうちに目の色が変わり、戦いの間に王族は何をしていたのかと糾弾するが、フェルディナンドがそれを抑える。
女神の御力と名捧げ
ローゼマインの目の色は元に戻るが、感情的に反応したことで女神の御力が膨れ上がり、その威圧を受けて周囲の者が苦しみ始める。ローゼマインはその場を逃げ出し、知らせを受けてローゼマインに名を捧げた側近、ハルトムート、クラリッサ*38、マティアス*39、ラウレンツ*40、グレーティア、ローデリヒ*41が入ってきてローゼマインを囲み、フード付きマントに仕立てた銀色の布を被せる。ホッとしたローゼマインは、フリュートレーネの杖を出して部屋中に癒しの祝福を与える。
話し合いが再開されるが、ジギスヴァルドは女神の御力の影響を防ぐためにローゼマインに名捧げをすることに難色を示し、トラオクヴァールによって光の帯で縛り上げられてしまう。
新しいツェントの決定
トラオクヴァールはフェルディナンドがグリトリスハイトを得ているのではないかと考え、ツェントにさせたがる思いをにじませるが、自分に都合の悪いことは忘れるトラオクヴァールの言動に、これ以上フェルディナンドを都合良く使わせる気のないジルヴェスターとにらみ合いになるが、そこに、エグランティーヌが口を開き、自分よりふさわしい者がツェントを望まないのであれば、自分がなると名乗りを上げる。ヒルデブラントは自分が次代のツェントを目指すことを考えるが、全属性となる前にシュタープ*42を得てしまったためおそらく不可能だと聞かされ、絶望感に満ちた顔で項垂れる。
罪人の扱いと褒賞
ヒルデブラントが外に連れ出された後、エグランティーヌの名捧げの石ができ次第グリトリスハイトの継承の儀式とアウブたちからの承認の儀式を行うこと、現在の中央神殿は解体しその機能は貴族院内に移すこと、エグランティーヌはグリトリスハイトの継承後は早急に礎を染める必要があること、多くの貴族を納得させるためにギレッセンマイアー*43の国境門に閉じ込められている今回の騒動の首謀者であるジェルヴァージオ*44を捕らえること、ジェルヴァージオ以外の罪人については貴族としての資格を剥奪すること、ユルゲンシュミット内の境界線を引き直し、アーレンスバッハが管理していた旧ベルケシュトックと旧シャルファー領などはトラオクヴァールが、旧トロストヴェークなどはジギスヴァルドが、それぞれアウブとなって治めること、ダンケルフェルガーにクラッセンブルク以上の発言力を与えること、アーレンスバッハを改名し領地の色を新しくすることなどが話し合われる。
アドルフィーネの相談
境界線の引き直しと褒賞の話が一段落したところで、アドルフィーネが発言を求める。アドルフィーネは、ジギスヴァルドが王族からアウブとなることで、ドレヴァンヒェル*45の利が消え、婚約時の契約に反することになると言い、ドレヴァンヒェルが得るはずだった利益を保証するか、ジギスヴァルドとの離婚を認めてほしいと言い、エグランティーヌやトラオクヴァールにドレヴァンヒェルとの話し合いの場を設ける約束を取り付ける。そしてグリトリスハイトの継承の儀式は4日後に行われることになる。そして、トラオクヴァールの提案で、継承の儀式に貴族院に在学している各地の領主候補生を儀式に招くことにする。
エグランティーヌの名捧げ
王族との話し合いを終えたローゼマインは、ハルトムートに継承式の準備などを進めるよう指示し、ハルトムートはコルネリウス*46、レオノーレ、アンゲリカ、ダームエル*47、とエーレンフェストに帰っていく。残ったグレーティア、リーゼレータ、フィリーネ*48たちにも指示を出した後、やってきたフェルディナンドに、レティーツィア*49の扱いは任せること、騒動で加害者・被害者問わず親を失った子どもたちは神殿の孤児院で育てることを話す。魔力が溜まりすぎだと考えたフェルディナンドは、ローゼマインを貴族院の図書館に連れていき、ソランジュ*50に人払いさせて、国の礎に魔力を流し込ませる。
継承式の当日、アンゲリカに抱えられて会場となる講堂近くの控え室に入ったローゼマインは、奥の部屋に移動し、エグランティーヌの名捧げを受ける。
神々の祝福
エスコートをするフェルディナンドが出席者の入場を終わったことを知らせ、エグランティーヌとアナスタージウスが入場した後、ローゼマインは卒業式を再現して2人に祝福を与えると、女神の御力が増えてしまい、想定外の事態にフェルディナンドは当惑する。フェルディナンドにエスコートされて奉納舞の舞台に上がっただけで、漏れ出る女神の御力で魔法陣が浮かびがる。フェルディナンドが出席者に説明した後、ローゼマインが奉納舞を始めると、光の柱が高く伸び、祭壇の神像が動き、舞台から溢れ出た魔力が光の波となって祭壇を上がっていき、奉納舞を終えたローゼマインは眩しい光に包まれ、気が付くと始まりの庭でエアヴァルミーン*51と向き合っていた。エアヴァルミーンは、ツェント争いはフェルディナンドが1位となり、ローゼマインは2位だったと言うが、先に礎を染めたローゼマインを新たなツェントにすると告げ、礎を染め終わるまで体を借りると言ってメスティオノーラを降臨させようとするが、フェルディナンドが作ったお守りがそれを防ぎ、記憶を失いたくないとローゼマインは拒否する。すると、エアヴァルミーンは他の神々にも協力してもらうと言い、全く違う属性の御力がローゼマインに次々と入ってくる。複数の神々の互いに反発する御力のせいで苦痛に呻くローゼマインに、そこにやってきたフェルディナンドは、エアヴァルミーンに即死毒を放って動けないようにして、続いてやってきたエグランティーヌとローゼマインのお守りの一部を外し、メスティオノーラを降臨させる。メスティオノーラはもうエアヴァルミーンには近付かないこと、ユルゲンシュミットの礎を染めることをローゼマインに求める。
祝福の影響
意識が戻ったローゼマインに、フェルディナンドは時間が経つと神々の御力が増えるのでなるべくそれを使わなければならない、枯渇直前まで魔力を使った直後であれば人の魔力で神々の御力を打ち消すことが可能だ、とメスティオノーラから言われたことを伝える。始まりの庭を出て祭壇を下りたローゼマインは、エグランティーヌにグリトリスハイトを授与する儀式を行い、祝福を与えるが、神々の御力がそれに反応して膨れ上がってしまう。フェルディナンドはハルトムートたちが時間稼ぎをする隙にローゼマインを退場させて、エグランティーヌも連れて図書館に向かい、ローゼマインはユルゲンシュミットの礎に魔力を流し込む。その間に、フェルディナンドはエグランティーヌに領主会議までに境界線の引き直しと新領地の造成を行う必要があると説明する。エグランティーヌは、ジギスヴァルドとアドルフィーネの離婚に伴い、境界線の引き直しに訂正が入ったことを話し、礎を魔力で満たしたローゼマインは境界線の引き直しを行う。
魔力枯渇計画
礎を魔力で染めても、まだ4分の1くらい神々の御力が残っている異常事態に、ローゼマインは、貴族院のアーレンスバッハの採集場所を魔力で満たし、貴族たちに素材を採集させる。エーレンフェストの寮に戻ったローゼマインとフェルディナンドは、ジルヴェスターとフロレンツィアに事情を説明する。ジルヴェスターは冬の到来を早めるのかと口を挟むが、その意味が分からないローゼマインの質問に、フロレンツィアはその意味するところを説明し、閨事だと気づいたローゼマインは羞恥に襲われる。フェルディナンドは冬の到来を早める必要はないこと、ローゼマインの魔力を使って金粉を作らせるが、それでも枯渇しない場合にはアーレンスバッハに戻ることなどを説明する。
金粉作りと帰還
魔力も回復してしまうため体力を回復させる回復薬が使えないローゼマインをフェルディナンドは抱えて部屋を出て、待っていた側近たちに翌日にアーレンスバッハを魔力で満たす旅に出発できるよう準備することなどを指示する。ローゼマインはフェルディナンドの指示に従い、魔力を消費するため、騎獣の魔石作りをした後、採集した素材を金粉にすることになる。エーレンフェストの採集場所で集めた素材を運んできたシャルロッテ*52は、ユルゲンシュミットで神々に近い場所である貴族院は、神々の影響が大きい可能性が高いので、できるだけ早く貴族院を離れた方が良いと進言する。
次の日、一晩寝たローゼマインは、金粉作製に使ったくらいの魔力は回復してしまっていた。フェルディナンドはローゼマインを連れてアダルジーザの離宮にある転移陣を使ってアーレンスバッハに移動する。フェルディナンドは離宮を閉鎖するために戻り、ローゼマインは前日に作った魔石で騎獣を出し、アーレンスバッハの城に移動する。ローゼマインはアーレンスバッハの神殿から持ってきた神具に魔力を満たすが、期待していたほどには減らずにがっかりする。
新しいツェントから領主会議の場で発表するために新たな領地の名前や色、紋章に希望があれば伝えてほしいとの文書が届いていることを聞かされたローゼマインは、図書館都市に相応しい名前をわくわくして考え、アレキサンドリアとベネツィアが頭に浮かぶ、戻ってきたフェルディナンドにどちらの名前が相応しいか尋ねるが、この緊急時に、と相手にしない。
魔力散布祈念式
ローゼマインが出した転移陣でビンデバルト((エーレンフェストに隣接するアーレンスバッハの一地方))に移動したローゼマインは、聖杯に溜まった魔力を土地に降り注いでいくが、聖杯の重さに体力を消耗してしまう。夜になり、楽しみにしていた図書館都市の計画についての話をフェルディナンドとするローゼマインは、新たな領地の名前をアレキサンドリアに決めるが、転生前の世界への執着が色濃く思えるとのフェルディナンドの指摘に、マインだった平民時代の記憶が繋がっていないせいではないかと話す。そして、フェルディナンドや側近たちの間で、紋章はシュバルツとヴァイス*53から取ってシュミル*54を使ったデザインが決められていく。
減らない魔力
ローゼマインが寝て起きると、だるさで体は重く、魔力が回復していることに絶望的な気分になる。体を動かさずに魔力を消費する方法を考え、神具を使ってもらって魔力を空にし、それにローゼマインが再び魔力を注ぐことにする。午後からは魔力に誘われて襲ってくる魔獣を神具を使って狩りながら移動するが、ローゼマインの体調は優れず、フェルディナンドに体調回復のために睡眠をとるよう指示される。
大規模魔術
夜中、悪い夢で目が覚めたローゼマインは、レオノーレが持ってきてくれた神具に魔力を流し込み、アンゲリカに抱き上げられてフェルディナンドがいる居間に連れていかれる。フェルディナンドは、国境門に閉じ込められていたジェルヴァージオがエグランティーヌたちによって捕らえられたことを話し、アレキサンドリアの設計図をローゼマインに見せて内容を説明し、街づくりの進め方について話をした後、ローゼマインが感じている空腹感は魔力の枯渇に近づいているためだ、一気に枯渇状態に持っていきたいと言い、古代の大規模魔術を行うことを提案する。話し合った結果、礎に起点を置き、全ての境界門を終点として魔法陣を設置してアレキサンドリア全体を覆って魔術を発動させることにする。
翌日、魔法陣や魔石の準備を進めたフェルディナンドとローゼマインは、夕食後、アレキサンドリアの礎の間に入り、ローゼマインが魔石に魔力を注いでいくと、夜空に魔法陣が描かれていく。魔力が枯渇してきたローゼマインは体が冷たくなって寒さを感じ、目がかすんでくるが、魔法陣は完成し、フェルディナンドが祝詞を唱えるのを聞きながら、魔力が枯渇し安心感が広がったローゼマインの意識は遠のく。
エピローグ
大規模魔術を始める直前、リーゼレータと一緒にユストクスの指導を受けながらローゼマインの食事の毒見を行い、主のところに食事を運んだグレーティア。夕食後、大規模魔術を行うためにフェルディナンドと礎の間に入っていくローゼマインを、神々の理不尽への怒りの気持ちを押し殺して微笑んで見送った後、人生を救ってくれたローゼマインへ恩返しができない自分の無力さが不満だとユストクスに明かす。
グレーティアは中級貴族出身の青色巫女と青色神官の間に生まれたが、魔力が多く、政略結婚に使うために母の兄とその第一夫人の子とする貴族になったが、普通の貴族の娘として結婚する希望は叶わず、愛妾としてギーベ*55・ヴィクトルに売り飛ばされ、旧ヴェローニカ*56派の粛清によってギーベ・ヴィクトルとその長男が処刑され、ローゼマインに名を捧げて庇護を求めたのだった。
ユストクスは、人生を救ったのは自分自身、自分の選択と実行力を誇っていい、私も名を捧げてフェルディナンドに仕えているが、主を救うことに関してはローゼマインに負けっぱなしで少々悔しい、と励ましの言葉をかける。
そして、大規模魔術が始まる。ユストクスは少しでもその様子を見ようと窓にべったりと貼りつくが、グレーティアは礎の間にいる主・ローゼマインの方が気にかかる。そこに、大規模魔術を確認するためにそれぞれの国境門に行った側近たちから報告のオルドナンツが次々と入ってくる。最後にクラリッサから大規模魔術の成功を伝えるオルドナンツが入るが、礎の間からローゼマインが戻ってこないことに不安になったグレーティアは、ローゼマインが無事に戻るようと、初めて他人のために神に祈る。
ここまでが本編。その後に次の3つの短編が収載されています。
閑話 継承の儀式
ハンネローネ*57の視点から、グリトリスハイトの継承式の様子を描いた短編。
ダンケルフェルガーの領主一族と継承式に参加するハンネローネ。フェルディナンドへ下された王命は、執務経験のない次期アウブ・アーレンスバッハに婿入りして執務を全面的に補佐すること、星結び*58と同時にレティーツィアを養女として次期アウブとするため教育すること、というものだったが、次期アウブとされていたディートリンデは自分で礎を染めず、代わりに礎を染めた既婚のアルステーデ*59が正式にアウブとなる前にローゼマインが礎を染めたため、未婚のローゼマインが正式にアウブになると、再び王命が効力を発揮してフェルディナンドが婚約者になると両親に聞かされ、ハンネローネは安堵していた。
レスティラウト*60は不安な事柄を挙げるが、ハンネローネたちはフェルディナンドならその程度のことは考えていると否定する。
継承式が始まると、ローゼマインは奉納舞が終わると姿を消してしまい、その後に奉納舞を行ったエグランティーヌは舞を終えて祭壇を上がっていくが、エスコートしようとしたアナスタージウスは途中で透明の壁に阻まれてしまう。フェルディナンドもいなくなっており、ハンネローネは不安な気持ちになるが、そこにエグランティーヌとローゼマインが祭壇の最上部の出入口から姿を現して下りてくる。絵が得意なレスティラウトは儀式の様子を描き残したい衝動に駆られるが、周囲に咎められる。
ローゼマインはエグランティーヌに光の女神の神具である冠を被せ、エグランティーヌは神々に誓いの言葉を述べるとその冠は眩しく輝き、神々との契約が成立したことが一目でわかる。そして、ローゼマインは全属性の祝福をエグランティーヌに与え、グリトリスハイトを授与する。
ローゼマインとエグランティーヌが退場した後、トラオクヴァールがランツェナーヴェの反乱についての公式見解を述べた後、反乱に加担した貴族たちの処分、領地の境界線の引き直しが新たなツェントにより行われ、各領地の順位に変動があること、トラオクヴァールとジギスヴァルドがアウブになることなどを告げる。
式が終わると、絵に描き残したいレスティラウトは早足で講堂を出て行き、寮の自室に籠ってしまう。
寮に戻って話をしていると、トラオクヴァールが時間稼ぎをしたのには何かあったのかと話す両親の会話が耳に入る。
始まりの庭と誓い
エグランティーヌの視点から、継承式の様子を描いた短編。昼食会を終えて離宮に戻ってきたエグランティーヌは、ツェントになるなど本当にいいのか、と問うアナスタージウスに対し、今まではツェントに関わらない方が争いを回避できた、今は自分がツェントになることが最も穏便に事態を収めることができると判断したと話し、不幸になる争いをできるだけ防げるツェントになろうと思う、と決意を語る。アナスタージウスも、夫であり続けるためにいかなる努力も犠牲も厭わないと誓う。
そう決意して臨んだ継承式。奉納舞を終えると同時にローゼマインが姿を消し、始まりの庭にたどり着くと、苦痛に呻くローゼマインをフェルディナンドが押さえ込んでいる想定外の事態に、エグランティーヌは当惑するが、ローゼマインの装飾品を外すと、女神が降臨する。フェルディナンドはメスティオノーラに神の御力の影響を消すための方法を教えるよう追及し、メスティオノーラは魔力を枯渇させて人の魔力で染めなければならないことなどを話す。フェルディナンドは、次代からはメスティオノーラの書を自力で得るツェントが誕生する、エグランティーヌは必要な中継ぎとしてグリトリスハイトの魔術具を使って収めていただく、と説明し、エグランティーヌも、フェルディナンドはできるだけ少ない犠牲で平穏をもたらす方を選ぶが、ローゼマインは他の多くが犠牲になっても自分にとって大事なものを守る方を選ぶ、と言ってフェルディナンドの判断を支持し、真のツェントになるための努力を惜しまないと誓う。
新しいアウブのすげぇ魔術
アーレンスバッハの漁師ジフィ。新しいアウブは魚が好きらしいという情報を得て、その日の午前中に獲れた一番良い魚を献上するようになっていた。前代アウブの頃は、外国から変な船が来るようになってから海が濁って魚が減り、漁師たちにとっては死活問題になっていたが、新しいアウブが外国の船を攻撃し、平民にも癒しを与えていた。そこに、魔力を注いで海が一気に澄んだのを目撃した漁師・フルトがやってきて興奮気味にそれを話す。そこに、今夜、新しいアウブが領地全体を魔力で満たすための大規模な魔術を行うと知らせる兵士がやってくる。
その夜、ジフィたち漁師はローゼマインが行う大規模魔術を見るために港に集まってくる。すると、城から緑色の光が空に伸び始め、複雑な模様を描いていく。そこに、見知らぬ道具から、ローゼマインと一緒に祈るよう強要する側近の声が流れ、街全体が震えるほどの祈りの声が響いた時、夜空全体を覆う魔法陣が完成し、緑色の光の粒が領地全体に降ってくる。
翌朝、興奮しすぎて眠れなかったジフィが家を出て港に向かうと、初めて見るような明るい青い緑の海に、感動に打ち震える。漁師たちは、自分の魚をローゼマインに献上しようと我先に舟を漕ぎ出すのだった。
さらに、著者によるあとがきの後に、「毎度おなじみ 巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常家族」と題して、「触らぬ神に祟りなし」「粉砕器」「複写機」の3本の四コマ漫画が収録されています。
フェルディナンドの思惑どおりに事が進み、エグランティーヌを中継ぎのツェントとして時間を稼ぎ、自力でメスティオノーラの書を得ることができた者をツェントとする本来のあり方に戻ることになります。ローゼマインも図書館都市の実現にわくわくしますが、一方で、メスティオノーラの降臨で繋がりが欠けてしまった大事な下町の家族たちの記憶は戻りません。
この第五部、そして全体の本編も、今年の冬に刊行予定の次巻「女神の化身Ⅻ」で完結するようなので、最後は大団円を迎えるのだろうと思いますが、どのように着地するのか、楽しみに待ちたいと思います。
*1:主人公。エーレンフェストの領主候補生4年生で神殿長。1年後に王族の養女となることが決まっていたが、フェルディナンド救出の際にアーレンスバッハの礎を魔力で奪ったため、アウブ・アーレンスバッハの地位にある。
*2:貴族達が大人になる前に通う学校だが、ユルゲンシュミットの聖地でもある
*3:主人公のローゼマインたちが暮らす順位8位の中領地
*4:エーレンフェストの領主・ジルヴェスターの異母弟でエーレンフェストの元神官長。主人公・ローゼマインの後見人だったが、王命により、アーレンスバッハの領主候補生ディートリンデの婚約者となった
*5:フェルディナンドに名を捧げた下級側仕え
*6:ローゼマインに名を捧げた側近の上級文官でエーレンフェストの神官長
*7:順位6位の大領地
*9:中央の王
*10:アーレンスバッハの領主一族で、ローゼマインの義兄・ヴィルフリートの従姉。ローゼマインたちによって捕らえられた
*11:英知の女神
*12:フェルディナンドに名を捧げた側仕え兼文官
*13:貴族としてのローゼマインの兄で、フェルディナンドに名を捧げた上級護衛騎士
*14:ローゼマインの側近の上級護衛騎士。コルネリウスの婚約者
*15:ランツェナーヴェからユルゲンシュミットのツェントに献上された最初の姫・アダルジーザが賜った離宮で、貴族院にある。ランツェナーヴェから献上される姫達はこの離宮に入っていた。
*16:通信用の魔術具
*17:ランツェナーヴェで使われる魔力を通さない布
*18:ローゼマインの側近の中級護衛騎士
*19:ローゼマインに名を捧げた側近の中級側仕え見習い5年生
*20:ローゼマインの側近の中級側仕え
*21:エーレンフェストの下町で服飾品を扱う商会
*22:マイン(ローゼマインが貴族になる前の本来の名前)の姉で、ギルベルタ商会の見習い。ローゼマインの専属の髪飾り職人
*23:エーレンフェストの領主で、ローゼマインの養父
*24:ジルヴェスターの第一夫人で、貴族としてのローゼマインの養母
*25:順位2位の大領地
*26:現在のツェント
*27:トラオクヴァールの第一夫人
*28:中央の第一王子で、次期王
*29:ジギスヴァルドの第一夫人。順位3位の大領地・ドレヴェンヒェルの元領主一族
*30:中央の第二王子
*31:アナスタージウスの第一夫人。順位1位の大領地・クラッセンブルクの元領主一族
*32:中央の第三王子
*33:トラオクヴァールの第三夫人で、ヒルデブラントの母。アウブ・ダンケルフェルガーの妹
*34:ユルゲンシュミットの隣国
*35:中央騎士団の騎士団長
*36:各領の領主
*37:エーレンフェスト、アーレンスバッハ、ダンケルフェルガーなどが属する国
*38:ローゼマインに心酔するダンケルフェルガー出身の上級文官で、ハルトムートの婚約者
*39:中級護衛騎士
*40:中級騎士見習い5年生
*41:中級文官見習い4年生
*42:自分の魔力を効率よく使うための道具
*43:順位4位の中領地
*44:ランツェナーヴェの王
*45:順位3位の大領地
*46:貴族としてのローゼマインの兄で、側近の上級護衛騎士
*47:側近の下級護衛騎士
*48:側近の下級文官見習い4年生
*49:順位3位の大領地・ドレヴァンヒェルから養子に入ったアーレンスバッハの領主候補生
*51:始まりの庭の白い木で、元神様
*52:ジルヴェスターの娘の領主候補生3年生で、ローゼマインの義妹
*53:いずれも貴族院図書館の魔術具で、魔力を供給したローゼマインが主になっている
*54:貴族に人気の可愛らしい魔獣
*55:各領地内の地方の領主
*56:ジルヴェスターの母親で、現在は幽閉中
*57:ローゼマインの図書委員仲間で、ダンケルフェルガーの領主候補生4年生
*58:結婚を意味する言葉
*59:ゲオルギーネの娘で、ディートリンデの姉の上級貴族
*60:ダンケルフェルガーの次期領主で、ハンネローネの兄