鷺の停車場

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香月美夜「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第五部 女神の化身Ⅷ」

香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の第五部「女神の化身Ⅷ」を読みました。

ローゼマインの後見人だったフェルディナンドが結婚のためアーレンスバッハに旅立った後を描く第5部の第8巻で、2022年4月に刊行されています。第7巻に続いて読んでみました。

 

単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。

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「絶対に助けます。手段なんて選びません」
ローゼマインは戦準備に突き進んでいた。
大領地、中央、王族、神々……何を敵に回しても、危機に瀕したフェルディナンドを必ず救う。
メスティオノーラの書を有効活用し、国境門を使って時間短縮。
ダンケルフェルガーの騎士達をも味方につけて―—
シュタイフェリーゼより速く!
いざ出陣!

ランツェナーヴェとの戦いが始まる一方、ゲオルギーネ達が侵攻を開始する。
神殿や下町の民は心を一つに「エーレンフェスト防衛戦」へ挑むのだった。
本物のディッターの勝利をつかめ!

圧巻の書き下ろし閑話集ほか100ページ超!
椎名優描き下ろし「四コマ漫画」収録!

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本巻の本編は、プロローグ・エピローグと見出しで区切られた18節からなっています。各節のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。

プロローグ

フェルディナンド(エーレンフェストの領主・ジルヴェスターの異母弟でエーレンフェストの元神官長。主人公・ローゼマインの後見人だったが、王命により、アーレンスバッハの領主候補生ディートリンデの婚約者となった)、の側近としてアーレンスバッハ(順位6位の大領地)に同行していたユストクス(フェルディナンドの側仕え兼文官)エックハルト(フェルディナンドの上級護衛騎士で、コルネリウスの兄)。魔力供給のためにフェルディナンドとともに領主執務室に入っていたティーツィア(順位3位の大領地・ドレヴァンヒェルから養子に入ったアーレンスバッハの領主候補生)が出てきて、ユストクスに騎獣用の魔石と3つの名捧げ石が入った籠を差し出し、行け、とのフェルディナンドの伝言を伝える。フェルディナンドの命の危険を感じての行動だと悟り、エックハルトは怒りに震えレティーツィアを締め上げようとするが、エックハルトはフェルディナンドの命令が最優先だと制し、転移陣の間から貴族院(貴族達が大人になる前に通う学校にあるエーレンフェスト(主人公・ローゼマインが暮らす順位8位の中領地)のお茶会室に向かう。
やってきたアウブ(各領の領主)のジルヴェスター(エーレンフェストの領主で、ローゼマインの養父)は、ゲオルギーネ(アーレンスバッハの第一夫人でジルヴェスターの姉)の企みでフェルディナンドが毒に倒れたとのローゼマイン(主人公。順位8位の中領地・エーレンフェストの領主候補生4年生で神殿長。1年後に王族の養女となることが決まっている)からの情報を伝え、夜にフェルディナンドの救出に向かうローゼマインに合流するよう2人に求める。

合流

ローゼマインは、ダンケルフェルガー(順位2位の大領地)との話し合いなどを終えた後、コルネリウス(貴族としてのローゼマインの兄で、側近の上級護衛騎士)、ハルトムート(ローゼマインに名を捧げた側近の上級文官で神官長)、リーゼレータ(ローゼマインの側近の中級側仕え)と合流し、側近たちに、ゲオルギーネによるエーレンフェスト侵攻の可能性が高いこと、ダンケルフェルガーの協力を取り付け、夜にフェルディナンドの救出に向かうことなどを説明し、側近たちの役割分担を決める。エーレンフェストに残すダームエル(ローゼマインの側近の下級護衛騎士)には、下町の自分の家族を守るよう頼む。
図書館(エーレンフェストにフェルディナンが残した館)に向かったローゼマインは、ラザファム(フェルディナンドに名を捧げた下級側仕えで、アーレンスバッハへ持っていけない館や私物の管理を任された)に準備作業の進捗を確認し、ブリギッテ(かつてローゼマインの護衛騎士だったギーベ(地方の領主)・イルクナーの妹)に状況を知らせるオルドナンツ(通信用の魔術具)を送る。そして、ユストクスとエックハルトが合流する。

二人の情報と名捧げ石

ローゼマインはユストクスとエックハルトに、ゲオルギーネが計画し、ディートリンデ(アーレンスバッハの領主一族で、ヴィルフリートの従姉)がレティーツィアを動かして実行したこと、その後にやってきたディートリンデがフェルディナンドを動けないようにして供給の魔法陣を起動したため、一番危険なのは魔力枯渇だと話す。
ユストクスから、ディートリンデがランツェナーヴェ(エーレンフェストが属するユルゲンシュミットの隣国)の船を入れるために境界門を開けたままになっていると聞いたローゼマインは、時間が短縮できると考える。
ユストクスは、エーレンフェストでおとなしく待っていれば自分の死とともに全て君のものになる、とフェルディナンドからの伝言を伝えるが、ローゼマインは断固として拒否し、迫るユストクスに折れてフェルディナンドの名捧げ石に魔力を注いでその名を奪う。

転移陣

仮眠をとったローゼマインたちは、城の訓練場に設置された巨大な転移陣を使い、国境門のあるキルンベルガ(エーレンフェストの東端にある一地方)に移動し、国境門に魔力を注いで開ける。出発しようとするローゼマインにジルヴェスターは、ユストクスたちに会った後に面会したジギスヴァルト(中央の第一王子)から預かった王族の許しを得た証となる魔術具のネックレスを渡す。それを首につけたローゼマインは、国境門にある転移陣からダンケルフェルガーに向かう。

出陣

ダンケルフェルガーの国境門に着いたローゼマインたちは、アウブ・ダンケルフェルガーやハンネローネ(ローゼマインの図書委員仲間で、ダンケルフェルガーの領主候補生4年生)たちと合流し、ディッター(騎士が騎獣に乗って戦う競技。通常は模擬戦)の前に行う儀式で志気を高め、国境門からアーレンスバッハの国境門に出陣する。

アーレンスバッハの神殿

城の周辺で攪乱を担当するハンネローネやダンケルフェルガーの騎士たちと別れ、ローゼマインたちはレッサーバス(ローゼマインが使う乗り込み型の騎獣)に乗って貴族街の真ん中にあるアーレンスバッハの神殿に向かう。神殿に到着すると、銀の衣(ランツェナーヴェで作られている魔力を通さない布で作られた衣)をまとった男たちが襲撃してくるが、アンゲリカ(ローゼマインの側近の中級護衛騎士でリーゼレータの姉)エックハルトたちが鎮圧する。先に神殿に入ったハルトムートとユストクスが神殿長の身柄を確保した後、ローゼマインは神殿の図書室の本棚にある鍵穴に聖典の鍵を差し込むと、本棚が動いて空間が現れる。

アーレンスバッハの礎と供給の間

現れた空間を罠として仕掛けられていた魔法陣を避けて進んだローゼマインは、領地の礎の前にやってくる。礎を染めやすくするために、魔石で中の魔力を吸い取って減らした後、ローゼマインは、回復薬を飲みながら大量の魔力を注ぎ込み、礎を染め終える。
外に出たローゼマインは、情報収集をしていたユストクスからダンケルフェルガー側の状況を聞いた後、城に向かい、ヴァッシェン(洗浄の魔術)で毒を洗浄してから供給の間に入ると、倒れているフェルディナンドが目に入る。

フェルディナンドの救出

ローゼマインは供給の魔法陣からフェルディナンドを離してから、薬を飲ませる。意識が戻ったフェルディナンドに、ローゼマインの目から涙が落ちる。フェルディナンドから、エアヴェルミーン(命の神と土の女神をくっつけた元命の眷属神)から自分を消すよう命じられたはずだと問われたローゼマインは、エアヴェルミーン本人に断固として拒否したと言い、2人とも無事に済む方法でメスティオノーラ(英知の女神)の書を完成させられないか考えようと話す。

わたしのグドゥルリーヒ

ローゼマインは、フェルディナンドの手枷を外して、エーレンフェストの方の状況を説明する。フェルディナンドは、王族から求愛されてそれを受け入れているローゼマインのゲドゥルリーヒは何か教えるよう問い詰める。ローゼマインは、下町の家族やグーテンベルク(印刷業に関わるローゼマインの専属の職人たち)、神殿の側仕えたち、フェルディナンドなど自分のゲドゥルリーヒを全力で守る、フェルディナンドがエーレンフェストに戻れるようあらゆる手段を使うと話すが、ローゼマインの何気ない一言で、フェルディナンドは怒りで拳を震わせる。

ツェントとグルトリスハイト

アーレンスバッハを滅ぼすと言い出したフェルディナンドに、ローゼマインは自分が礎を染めて奪ったことを打ち明ける。ローゼマインは、フェルディナンドの求めで、ツェント(中央の王)候補とメスティオノーラの書に関する歴史を話し、自分が魔術具のグルトリスハイト(本来はツェントになるために必要とされる古の聖典を手に入れて王族と夫婦になって王族を次期ツェント候補にするつもりであることを話す。フェルディナンドは王の養女にならずに済む方法を模索してエーレンフェストに戻る方法を考えるべきだと話すが、ローゼマインは、ヴィルフリート(ジルヴェスターの長男のエーレンフェストの領主候補生4年生で、ローゼマインの義兄。ローゼマインの婚約者だったが、ローゼマインの中央行きにより婚約解消が決まっている)との婚約を解消し、自分がいなくなることを前提に引き継ぎや準備をしてきており、もうエーレンフェストにずっといることは難しいと打ち明ける。

新しいアウブ

供給の間から出たフェルディナンドは、境界門を閉めて、ランツェナーヴェを掃討するのが優先、これは礎の魔術を奪ったローゼマインしかできないアウブの仕事だ、とローゼマインに言い、その準備を始める。ローゼマインは、ハンネローネから、ジギスヴァルドから贈られたネックレスが求愛の魔術具だと聞かされる。全身鎧に着替えたフェルディナンドは、合流したダンケルフェルガーの騎士達を従えてランツェナーヴェの船を掃討するため出陣する。

アウブの守護

フェルディナンドはローゼマインを自分の騎獣に乗せ、班分けをした騎士達に指示を出していく。ローゼマインは、フェルディナンドの指示で港の一帯にアウブの守護(自領民を守る魔術)をかける。フェルディナンドの指示による攻撃で、ランツェナーヴェの兵士たちは海に放り出されていく。

ランツェナーヴェの船

まず、海上で立ち往生していた船が制圧される。そうした中で、ローゼマインは、回復し切っておらず視力が十分でないフェルディナンドが状況を報告させるために自分を同乗させたのだと悟る。魔力を通さない銀色の船を掃討するため、フェルディナンドは、冬を呼ぶ魔法陣を使ってこの場を冬に変え、船を凍らせることにする。

冬を呼ぶ魔法陣

フェルディナンドはローゼマインの背中で魔紙に冬を呼ぶ魔法陣を描いて発動させる。そこに、コルネリウス、マティアス(ローゼマインに名を捧げた側近の中級騎士見習い6年生)、ラウレンツ(ローゼマインに名を捧げた側近の中級騎士見習い5年生)、ハルトムートがエーヴィリーベの剣を船に向かって振るうと、船全体が雪と氷に包まれる。そこに、ダンケルフェルガーの騎士達がライデンシャフトの槍を投げ、船の表面を覆っていた銀のタイルの一部を剥がす。それを足掛かりに、船に攻め入った騎士達によって、船は制圧され、ランツェナーヴェに連れ去られようとしていたレティーツィアは救出される。

選択肢

ティーツィアは、フェルディナンドが無事なのを見て、安堵して体から緊張が抜けていく。フェルディナンドは、礎を奪ってアウブ・アーレンスバッハとなったローゼマインが全てを知った上でレティーツィアを救うことにしたことを告げて事情を説明し、城に戻ってダンケルフェルガーの騎士達が休息する場所を整えるよう指示する。レティーツィアたちを見送った後、銀の衣や魔石などを回収し、フェルディナンドの指示でローゼマインは国境門を閉めに向かう。国境門の屋根を閉じで2人きりになったところで、フェルディナンドはローゼマインにこの後どうしたいか問い、アーレンスバッハの礎を他の者に譲り予定通り王族に嫁いで不愉快を呑み込んで生きる、アーレンスバッハの礎を譲って王族の養女になった後に自分がツェントとしてユルゲンシュミットに君臨する、王族に魔術具のグリトリスハイトを渡しアウブ・アーレンスバッハとして過ごす、王族に魔術具のグリトリスハイトを渡しアーレンスバッハの礎を譲ってエーレンフェストに戻る、と4つの選択肢を示す。フェルディナンドと話すローゼマインから1つ目、2つ目の選択肢は消え、エーレンフェストには戻れないローゼマインにはアウブ・アーレンスバッハになる選択肢だけが残るが、アーレンスバッハに良い感情を持っていないローゼマインはあまり気が進まない。

遊び場

しかし、フェルディナンドは、アーレンスバッハはローゼマインが好きに遊んで構わない遊び場にはちょうと良いと話し出し、図書館都市の建設もできると甘い言葉を続ける。ローゼマインは、フェルディナンドが自分に有利なことを次々と提案するのには狙いがあると考えて問い質すと、フェルディナンドは図書館の隣に研究所がほしいと話す。アウブ・アーレンスバッハになることで話がまとまった後、魔法陣を完成させ、国境門と境界門を閉じる。
アーレンスバッハの城に向かうローゼマインに、同行するレオノーレ(側近の上級護衛騎士。コルネリウスの婚約者)は、フェルディナンドがローゼマインを自分の騎獣に乗せたことなどに憤慨するが、フェルディナンドの意図を理解したローゼマインは聞き流す。
アーレンスバッハの城に入ったローゼマインをクラリッサ(ダンケルフェルガー出身の上級文官でハルトムートの婚約者)が出迎え、ローゼマインはハルトムートが持ってきた回復薬を飲んで、フェルディナンドに言われた通りに騎獣の中で休む。

噂と出発

ローゼマインが目覚めると、丸2日が経っていて、フェルディナンドはアーレンスバッハとダンケルフェルガーの騎士団の一部を率いてエーレンフェストに出発していた。ローゼマインはフェアレーゼ(レティーツィアの上級側仕え見習いで、アーレンスバッハの元騎士団長でフェルディナンドの上級護衛騎士であるシュトラールの娘)に身支度を調えてもらい、フェルディナンドにオルドナンツで連絡を取る。コルネリウスはこのままアウブ・アーレンスバッハになるという噂が流れていると話し、ローゼマインは、できればそうして図書館都市を造りたいが、夢のまた夢の話だと答える。
ティーツィアとハンネローネたちと食事をとった後、ローゼマインは、転移するための魔法陣を描き、自分の側近やハンネローネの部隊たちと、ビンデバルト(エーレンフェストのゲルラッハに隣接するアーレンスバッハの一地方)に出発する。 

ビンデバルト

ビンデバルト伯爵の夏の館に到着すると、フラウレルム(エーレンフェストを敵視していたアーレンスバッハの寮監だった元貴族院教師)たちがいた。フラウレルムは教師らしからぬ振る舞いが目に余り、貴族院を辞めされられていた。ハンネローネによって縛り上げられたフラウレルムたちは悪態をつくが、相手にされない。そこに合流したフェルディナンドは、旧ベルケシュトック(政変で廃領地となりアーレンスバッハが管理する領地)の貴族たちが黒の武器を使ってエーレンフェストの土地の魔力を奪っていること、南西にあるグリーベルイルクナー(いずれもアーレンスバッハに隣接するエーレンフェストの一地方)が先に攻められ、そちらに戦力を割いた結果、南東にあるゲルラッハ(アーレンスバッハに隣接するエーレンフェストの一地方)は現在苦戦を強いられていることなどを話す。
ローゼマインは、犯罪者たちを転移陣でアーレンスバッハの城に送った後、騎獣でゲルラッハに移動する。

黒の武器と小聖杯

ゲルラッハに入ったフェルディナンドやローゼマインたちは、黒の武器を使って土地の魔力を奪う旧ベルケシュトックのギーベたちを見つける。マティアス(ローゼマインに名を捧げた中級護衛騎士)は、ゲオルギーネに扇動された旧ベルケシュトックのギーベたちが土地の魔力を奪っていると話し、グラオザム(マティアスの父で、ゲオルギーネに名を捧げた文官。元ギーベ・ゲルラッハ)の捜索に森に向かう。フェルディナンドたちは、旧ベルケシュトックのギーベたちを討伐し、奪った魔力を溜めていた小聖杯を奪う。そこに、マティアスからグラオザムがこの土地にいることは間違いないと連絡が入る。フェルディナンドたちは、主戦場に合流するため、ギーベ・ゲルラッハの館に向かう。

エピローグ

ビンデバルトのギーベの館でディートリンデから計画が成功したとの知らせを受けたゲオルギーネは、グラオザムとボニファティウス(ジルヴェスターの伯父・カルステッドの父で、貴族としてのローゼマインの祖父)イルクナーにおびき出してからゲルラッハで騒動を起こす作戦を立て、銀の衣をまとって馬車に乗ってゲルラッハに入り、さらにライゼガングから商人用の船に乗ってエーレンフェストの街に向かう。船に揺られながら、自分が生きていると感じられるのはエーレンフェストの領主を目指している時だけだと感じるゲオルギーネは、次期領主として育てられながらジルヴェスターの誕生で大きく変わってしまった過去を回想する。到着したゲオルギーネは、警戒が厳しい西門に近づくのは止めた方が良いと判断し、門を通ることなく下町や神殿に潜入できる水路を使うことにする。エーレンフェストの礎を奪い、エーレンフェストを手にする時が来たと、ゲオルギーネの気分は高揚する。

 

さらに、「エーレンフェスト防衛戦(前半)」と題して、次の5編の閑話が収められています。

ギーベ・キルンベルガ 動いた国境門

ギーベ・キルンベルガのもとに、フロレンツィア(ジルヴェスターの第一夫人で、貴族としてのローゼマインの養母)から、ゲオルギーネがエーレンフェストの礎を狙って侵攻している可能性が高いと知らせが入った後、ジルヴェスターから今夜境界門を開けるためにキルンベルガのギーベの館にある転移陣に転移すると知らせが入る。ギーベ・キルンベルガは慌てて転移陣のある場所を探して綺麗にし、体裁を整える。夜になり、ジルヴェスターやローゼマインが転移陣でやってくる。ジルヴェスターたちを境界門に案内したギーベ・キルンベルガは、ローゼマインによって国境門が開けられる光景に目が釘付けになる。ローゼマインがフェルディナンドを救出するために転移していき、皆が歓喜に沸く中で、ギーベ・キルンベルガは、エーレンフェストやヴィルフリートの側近となっている息子・アレクシスの将来に不安を覚え、苦い思いを噛み締める。

ブリギッテ イルクナーの戦い

兄であるギーベ・イルクナーから呼び出されたブリギッテは、フロレンツィアからの手紙を見せられる。見回りを強化するよう騎士達に命令しようとしたところに、ローゼマインからのオルドナンツでより詳しい情報が伝えられる。ブリギッテは兄の勧めでその情報を周辺のギーベ達にも伝え、兄たちと対策を相談する。翌日、黒の武器で土地の魔力を奪う旧ベルケシュトックのギーベたちを発見し、ボニファティウスが騎士団を率いて援軍に来ることになり、ジルヴェスターがローゼマインに古い文献で存在を発見した転移陣を使ってボニファティウスたちを転移させる。ブリギッテはローゼマインに感謝する。一度は敵を捕らえて小聖杯を奪うが、敵は断続的にやってくる。そこに、2日前にライゼガングでエーレンフェスト行きの船に乗ろうとする貴族らしき人たちを見かけたと報告が入り、ブリギッテはそれをローゼマインにオルドナンツで伝えようとするが届かない。動揺するブリギッテはダームエルにオルドナンツを送り、その情報を伝えると、ダームエルはローゼマイン達がアーレンスバッハにいるために届かないことを伝える。ブリギッテは、ローゼマインの武運を祈り、イルクナーを守ることに全力を尽くすと意を強くする。

フィリーネ 避難訓練通りに

ローゼマインがアーレンスバッハに向かった後、フィリーネ(ローゼマインの側近の下級文官見習い4年生)、グレーティア(ローゼマインに名を捧げた側近の中級側仕え見習い5年生)、オティーリエ(ローゼマインの筆頭側仕え)、ベルティルデ(上級側仕え見習い1年生で、かつてローゼマインの側近だったブリュンヒルデの妹)たちエーレンフェストに残る側近は、側近部屋で報告会を行い、情報を共有する。フィリーネは、事が起こったら中央に移動する予定のグーテンベルク(印刷業に関わるローゼマインの専属の職人たち)だけでなく作りかけのローゼマインの衣装と、それを仕立てているギルベルタ商会(服飾品を扱う商会)の針子も避難させたいとのプランタン商会(印刷関係を扱う商会)からの要望を伝え、その受け入れ準備を進めることになる。そこに、ダームエルから、お昼頃に不審な貴族が乗っているらしい商船が到着するのでそれまでに避難するようにと知らせが入る。フィリーネは、フラン(神殿でのローゼマインの筆頭側仕え)たちと連絡をとり、ローデリヒ(ローゼマインに名を捧げた中級文官見習い4年生)と協力して孤児院の避難を無事完了する。そこに、ダームエルから西門に船が着いて銀の布をまとった者がいると連絡が入る。とうとう始まると顔が強張るフィリーネたちは祈りを捧げる。

エーファ 強固な守りと繋がり

エーファ(マインの母で、ローゼマインの専属の染色職人)は、カミル(エーファの息子で、マインの弟)から避難を急ぐよう連絡を受け、集合場所のギルベルタ商会に急ぎ、トゥーリ(マイン(ローゼマインが貴族になる前の本来の名前)の姉で、ローゼマインの専属の髪飾り職人)、ルッツ(マインの幼なじみで、トゥーリの婚約者)たちとともに、馬車に乗って貴族街に入り、ローゼマインの図書館に避難する。同行したダームエルがこれから敵が到着する西門に向かうと聞いたエーファたちは、マインから贈られたお守りを西門を守るギュンター(マインの父で、門の兵長に渡してほしいとダームエルに託す。

ギュンター 誓いを果たす日

西門の兵長を務めるギュンター。西門では、貴族の魔力の攻撃が効かない銀色の布を使う者への対策の1つとして、汚物を溜めこんでいた。汚物を運び終えたギュンターたちに、やってきた騎士はライゼガングから到着する船に乗っている客には今まで以上に注意するよう指示する。さらに、昼頃に到着する船に敵が乗っているらしいと情報が入り、平民たちを避難させるよう命令が下る。住民たちの避難が落ち着いた頃、ダームエルがやってきて、エーファたちから預かったマインのお守りをギュンターに渡す。兵士は、この日のために準備した汚物を引っ張り出して所定の位置につく。ギュンターは、俺の家族はこの街ごと俺が守る、と心に誓う。

 

その後に、次の短編が収められています。

望みのままに

フェルディナンドの視点から、ディートリンデによって瀕死の状態に陥ってから、ローゼマインによって救出されるまでの心の動きを描いたエピソード。
ディートリンデの思うままに操られてしまったレティーツィアに失望し、側近のユストクスやエックハルト行く先を心配するフェルディナンドは、自分が死ねば、エアヴァルミーンの言うとおり、ローゼマインが自分の持つ英知を手に入れてメスティオノーラの書を完成させることができると考える。しかし、ローゼマインが自分の名を奪い、生きてくださいと命じたことに、愚か者だと思う一方で、家族同然に思われていることに安堵する。
意識が薄れる中で、フェルディナンドの脳裏に過去の情景が浮かぶ。アダルジーザの離宮(ランツェナーヴェからユルゲンシュミットのツェントに献上された最初の姫・アダルジーザが賜った離宮で、貴族院にある。ランツェナーヴェから献上される姫達はこの離宮に入っていた。)にいた時、自分に名を与えた母親の女性は、貴方は望みのままに生きられるのですね、と言い、エーレンフェストに移動した後、父の異母妹で当時の保護者だったイルムヒルデは、今は自分の望みがわからなくてもわかる日が来る、いつかあの方と巡り合える日が訪れることを願っていると言っていた。

「あの方」と巡り合うことなく死ぬのだろうと思い、意識を失ったフェルディナンドが、次に意識が戻ると、成長したローゼマインがいた。ローゼマインの残念な行動は、貴族女性としての欠点だが、それほど不快には感じない。2人とも無事に済む方法でメスティオノーラの書を完成させられないか考えようと話すローゼマインを、自分の望みのままに生き過ぎではないかと半ば呆れるフェルディナンドだったが、望みのままに生きるのも悪くないと思い始めるのだった。

 

さらに、著者によるあとがきの後に、「毎度おなじみ 巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常家族」と題して、「結局フェルディナンド中心」「疑惑」「確信」の3本の四コマ漫画が収録されています。

 

前の第7巻とは違って、かなり急激な展開。

ディッター好きのダンケルフェルガーを味方に付けてフェルディナンドを救出に向かったローゼマインは、アーレンスバッハの礎を奪ってアウブ・アーレンスバッハとなってフェルディナンドを救出し、ゲオルギーネが礎を奪いに来襲するであろうエーレンフェストの防衛に向かいます。この1巻の間で、わずか4日ほどしか進んでいません。いよいよ天王山という感じでしょうか。

途中はいろいろあれど、結果的にはうまく行く展開が続いていますので、最後は大団円を迎えるのだろうと思いますが、この先も様々な出来事が起こりそうです。次巻も楽しみです。