鷺の停車場

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いぬじゅん「いつか、眠りにつく日2」

いぬじゅんさんの「いつか、眠りにつく日2」を読みました。

以前に読んだ「いつか、眠りにつく日」の続編で、2019年6月に文庫本として刊行された作品。前巻に続けて読んでみました。

 

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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心震わす驚きと感動、再び―—。時を越えた想いが紡ぐ、涙の第2弾!

「命が終わるその時、もし”きみ”に会えたなら」。高2の光莉は同級生・来斗への想いを残したまま命を落とし、地縛霊になりかけていた。記憶を失い魂となって彷徨う中、霊感の強い輪や案内人クロの助けもあり、光莉は自分の未練に向き合い始める。成仏までの期限は7日。そして夢にまで見た来斗との再会の日、避けられない運命が目の前に迫っていて―—。誰もが予想外のラストは、いぬじゅん作品史上最高に切ない涙が待っている!!

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主な登場人物は、次のとおりです。

  • 池田 光莉:主人公。高校2年生で死んで、地縛霊になりかけている。

  • 瀬川 輪:光莉が通っていた高校に転入してきた1年生。霊感が強く、光莉のことが見える。

  • クロ:死後の案内人で黒ずくめの恰好をしている。「クロ」とは、かつて案内人として担当した蛍が勝手に付けた呼び名。

  • 友沢 佳蓮:光莉の中学2年生からの親友。

  • 冬馬:光莉と佳蓮が高校に入って仲良くなった男子。

  • 木野 来斗:光莉と佳蓮が高校に入って仲良くなった男子。

  • リカ:町はずれの公園で出会った中学1年生の霊。

  • マサ:町はずれの公園で出会った35歳の男性の霊。

という感じ。

以下は、多少ネタバレになりますが、簡単なあらすじ、各話の概略を紹介します。

なお、目次の前に1ページ、地縛霊になりかけている主人公の独白が挿入されています。

第一章 色を失くした世界で、ひとり

高台にある開発予定地の山奥で地縛霊となるのを待つような状態だった光莉は、突然、ある男子に話しかけられる。瀬川輪と名乗ったその男の子は、高校1年生で最近引っ越してきて光莉がいた高校に転入してきたこと、霊感が強いせいで気味悪がられて、ひとり暮らしをすることになったことを話す。光莉は、詳しくは思い出せないが、事故で死んだこと、人間を憎む感情を抱くようになり、誰にも会わない場所で消えたいと思ってこの場所に逃げてきたこと、案内人から未練を解消すればあの世に行けると言われたが、できなかったことなどを話す。輪と話しているうちに、いつまでも友達でいようね、と女性の声が聞こえる。
そこに全身黒ずくめの案内人が姿を現す。案内人も見える輪は、光莉は何も悪くないと案内人に話し、名前を名乗るが、案内人は名前はないと言う。昔「クロ」と勝手に呼んでいた人間がいたと聞き、輪はクロさんと呼び始め、未練の解消について説明してもらう。輪は、光莉を助けたい、一緒に見つけようと提案する。光莉は、未練解消なんてできない、もう放っておいて、と言うが、輪は諦めない。クロは、光莉は10月5日に死んで、もう9カ月が過ぎている、未練解消の期限は過ぎているが、光莉が本当に望むならば力を貸そうと話し、抵抗をやめた光莉を縛っていた黒い糸を切って、9日の猶予を与える。光莉が目を開けると、色を失くした世界が、色を塗り替えたように変わっていた。

第二章 私は、泣かない

輪とクロと山を下りる光莉に、トーマとなにかあったの?と再び女の子の声が聞こえ、光莉は考えてみるが、思い出せない。
光莉が気がつくと、ベッドに寝ていた。大通りに出たとたん、恐怖で意識を失い、クロにつぶれたコンビニエンスストアの仮眠室のような場所に運ばれたのだった。クロは明日から俺の仕事を手伝え、と光莉に命じるが、そこに、どうせトーマが余計なことを言ったんだよ、と声が聞こえる。
2日かかって、ようやく体力を回復した光莉。会いにやってきた輪は、断片的な記憶しか蘇らないのは、たぶん光莉が無意識にストップをかけているからで、それを解放してあげよう、と話し、光莉は輪が勧めるままに目を閉じて眠りに身を任せる。
夢の中で、光莉は再現された記憶を再体験する。佳蓮の名前を思い出したとたん、光莉に記憶が流れ込んでくる。佳蓮に嘘をついて何かをしようとしていたことを思い出して、罪悪感にさいなまれる。
翌日、クロに起こされた光莉は、やってきた輪に夢で見た記憶を話す。クロに連れられて駅裏にある市立図書館にやってきた光莉は、クロの指示で地縛霊を消す手伝いをする。地縛霊がいる場所に向かうと、輪が地縛霊の気に反応して金色に光る。光莉は地縛霊に話しかけるが、地縛霊は怒りで光莉を階段の踊り場の壁にたたきつける。クロが成仏させようとしたところに、佳蓮が通りかかり、光莉は佳蓮を守ろうと、あわてて佳蓮に飛びつくと、その手はすり抜けることなく佳蓮を抱きしめ、「光莉、生きてたの?」と佳蓮が尋ねる声を聞くが、地縛霊を退治する際の突風の激しい痛みで意識が遠のく。
輪が佳蓮が襲われないように霊力をとっさに分けたことで、一時的に光莉の姿が見えるようになった佳蓮と会い、2人は強く抱きしめ合う。そして、夢で見た記憶を佳蓮に話し、佳蓮に嘘をついたことを打ち明ける。佳蓮は、トーマのことを好きだったのは光莉じゃなく自分で、光莉はそれに巻きこまれただけだと話す。霊力がなくなって光莉が見えなくなっていく佳蓮を抱きしめた光莉は、別れた後、声を押し殺して泣く。

第三章 ただいま

翌日、やってきたクロは、未練解消のためにはその内容を思い出さないといけない、佳蓮のことはそのきっかけに過ぎず、その先にある本当の未練を思い出さないといけないと話す。目を閉じて心を落ち着かせた光莉に、自宅で笑っている両親の姿が見える。
クロ、輪と自分の家に向かった光莉。輪は兄が光莉と同じクラスだったと装って、家に入れてもらい両親と話をするが、光莉がどうして亡くなったのか聞くと、両親は、どんなに過去を思い出しても光莉がこの世にいないのは変わらない、もう終わったことよりも輝かしい未来に向かいなさい、と話すことをやめる。自分のことを忘れようとしている両親を見ていられなくなった光莉は、自分の部屋に入り、ベッドに横になる。夢で記憶の再現を再体験した光莉が目を覚ますと、輪が霊力を両親に分けたから会いに行くよう話す。輪に対して頑張って明るく振る舞ったことを互いにいたわり、涙を流す両親に、光莉は自分の思いを両親に伝える。母親から来人の名前を聞いて、押し込んだ記憶の奥底にいるのが来斗であることを思い出す。そこに生まれた感情は、恐怖だった。

第四章 自分の嘘に自分で傷つく

来斗の名前を聞いたとき、すべての点がつながり、なぜ自分が死んだのかも思い出し、未練解消を諦めた理由も分かった光莉は、あきらめの感情が支配し、クロや輪から見つからないよう町はずれの公園の草むらに身を隠していた。ひとりで朽ち果てたいと思う光莉に、突然、ついてこないで、と女性の声が聞こえ、女子中学生と中年男性がもめているのが見える。助けないと、と光莉が身体を動かすと、2人とも人間ではなく霊だった。
女子中学生・リカに未練の内容を聞かれた光莉は、その内容を話し始める。高校の特進クラスに入った光莉は、冬馬、来斗と仲良くなり、佳蓮を含めた4人でいつも一緒に過ごしていたが、2年になって、佳蓮が冬馬に恋していることを知って、関係に変化が起きた。光莉は佳蓮の目線からそれを確信したが、それを尋ねる前に、自分が冬馬から告白された。光莉はこれまでどおり4人で楽しく過ごすことを選ぶが、2人の気持ちを知ってから少しずつ関係が変わってきた・・・。
その先の話を急かすリカに、怒りの感情が湧いた光莉は、その感情を爆発させる。すると、リカが大粒の涙をボロボロとこぼしていた。信じられない思いでリカを見ながら、光莉の意識は遠のく。
夢の中で、4人で最後に行った夏祭りの記憶を再体験する光莉。
目が覚めると、リカは今日は私につき合って、と歩き出す。輪と再会するが、光莉は今日は戻れないと謝り、輪と別れてマサが待つバス停に向かう。

第五章 雨に溶け、空に消える

リカ、マサと乗ったバスは山のほうに進んでいき、まばらな民家があるだけの山道を進むが、リカは自分の未練は簡単なことだったのに、いざとなるとできなかったと顔を歪ませ、泣き出す。リカが泣き止むのを待つ間、光莉はマサに未練の内容を聞く。舞台俳優を目指して東京に出てきたが、バイトざんまいの毎日で、心臓発作で死んで、スターになりたかったと願って死んだから、未練の解消は不可能だと話す。しかし、その間に、リカは地縛霊になりかけて、その場所に縛り付ける黒い糸が巻き付き始めていた。それを取ろうと手を伸ばすが、リカの体をすり抜けてしまう。光莉はクロに助けを求め、クロはその黒い糸を切る。
元気を取り戻したリカは、おばあちゃんの家に向かい、向き合って話をして、未練を解消する。そして、リカとマサはクロに連れられてあの世へ行く。勇気をもらった光莉は、ひとりで来斗の元に向かう。

第六章 いつも笑っていたから

バスで駅に戻ると夜になっていた。来斗の家に向かうと、輪が待っていた。輪は光莉を励まして別れる。しかし、来斗の家の前まで来ると、そこには以前はあった表札がなく、売家と紙が貼られていた。そこに、冬馬が姿を現す。輪が霊力を冬馬にわけてくれたと気づいた光莉。冬馬は、野球部をやめてIT系の会社に就職しようと勉強していること、来斗は家族の都合で引っ越したが転校していないことなどを話し、来斗に会わせて、という光莉に、来斗に伝えておくから翌日の昼休みに学校の屋上に来るよう話す。
その夜、光莉は、自分が生きていた最後の日の記憶の再現を夢で見る。来斗に告白された光莉は、来斗が好きなことを伝えるのが怖くなってその場から走り出して道に飛び出し、車にはねられて川に落ちて溺れたのだった。人生の終わりを再体験した光莉は、ベッドからガバッと体を起こす。
クロは光莉を連れて学校に向かう。クロは屋上に連れていこうとするが、光莉はクロが止めるのを聞かず、1年生の教室に忍びこむが、輪はどこにもいない。さらに、クラスメイトの顔を見ようと3年生の教室に忍びこむと、見覚えのない顔ばかりで、先生の体形も記憶とはだいぶ変わっていた。あるクラスで輪がいるのを見つけるが、輪は光莉には全く気付かない。動揺する光莉に、クロはこれが現実世界だと言い、輪にはもともと霊感はなく、霊感があったのは来斗だと話す。
昼休みになり、光莉が屋上に向かうと、その扉の前で、いつもどおりの輪が待っていた。輪は、瀬川輪はこの世に存在しない、いるのは高校3年生の木野輪で、自分が輪の体を借りて光莉に近づいたことを明かし、さあ未練の解消を始めようと言うと、光莉の体は光り出し、輪はうずくまるように座り込んでしまう。クロに急かされて扉をすり抜けると、来斗がいた。光莉はその胸に飛び込み、来斗は光莉を抱きしめる。うれしさに涙があふれる光莉。光莉は自分の思いを来斗に話し、幸せになって、と伝える。思い残すことは何もなかった。

第七章 私たちの未練は

振り返ると、困っている表情のクロは、未練はまだ解消されていないと言い、来斗は、あの事故からもう4年9カ月が過ぎていると話す。光莉は信じられないが、来斗は、輪は5歳下の弟で、来斗のお願いでクロが記憶を操作したこと、霊感が強い来斗には光莉があの世に行けていないことは感覚でわかっていて探していたこと、冬馬や佳蓮、光莉の両親に光莉を見つけると約束したが、見つける前に自分が病気になって死んでしまったこと、死ぬ前に自分を含めた大切な人がもう一度光莉に会ってお別れをしてほしいと願い、それが自分の未練になったこと、光莉は、光莉自身の未練解消ではなく、自分の未練解消をしていたこと、佳蓮や冬馬たちには9カ月後の世界を演じてもらっていたことなどを話す。クロの案内であの世に向かう2人は、最初で最後のキスをする。

エピローグ

私は、親友の花恋から恋の相手である斗真のことで相談を受け、グチを聞いてあげて元気づける。歩き出した私は、校門に見慣れない制服を着た男子が立っているのを見つける。近づいた私に、転入する1年生だと話す彼に、私はずっと昔から知っていて、やっと再会したような気分になり、きっと彼のことが好きになると思う。木野来人と名乗った彼に、私は、池田日花里、と名前を言って挨拶する。

 

(ここまで)

前巻に続いて、死んだ主人公が、あの世に行くために未練を解消しようとする心温まる物語。悪い言い方をすれば、輪の体を乗っ取った来斗とクロが共謀して、来斗の未練を解消するために、光莉をそそのかしたともいえるわけですが、それによって、光莉も、大切な人たちの本心を知り、きちんと別れることができることになります。

前巻の「いつか、眠りにつく日」では、主人公が、あの世に行くためには3つの未練を解消しなければならないとクロに言われて未練を解消していくが、それは自分の未練解消のためではなく、同時期にともに主人公との間に未練を残して亡くなった3人の未練解消のためにクロが嘘を付いていた、という設定でした。クロの策略によって、主人公が他人の未練解消のために動かされるという設定は、本巻でも共通しています。これは、読者が予想できないような結末に導くための仕掛けだろうと思いますが、都合が良すぎる印象を受けて、大切な人たちと心を通い合わせるいい物語がやや興ざめになったところもありました。切なくも心温まる作品ではあったのですが。