鷺の停車場

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テレビアニメ「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。」

年末年始の休みの間、dアニメストアでテレビアニメ「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。」を一気見しました。

higehiro-anime.com

2017年3月から小説投稿サイト「カクヨム」に投稿され、2018年2月から角川スニーカー文庫から文庫本が刊行された、しめさばによる同名ライトノベルを原作にテレビアニメ化され、2021年4月から6月までの2021年春クールにTOKYO MXなどで放送された作品。主要スタッフは、監督:上北学、副監督:高橋雅之、シリーズ構成:赤尾でこ、キャラクターデザイン:野口孝行、アニメーション制作:project No.9など。

テレビアニメ放送時にも、ちょっと気になっていたのですが、タイトルに気後れして敬遠し、結局見ずじまいになっていた作品。

 

dアニメストアの紹介によれば、

『片思いした相手にバッサリ振られ、ヤケ酒をした帰り道、26歳のサラリーマン・吉田は路上に座り込む女子高生・沙優と出会った。べろべろに酔った吉田は、前後不覚のまま行き場のない沙優を一晩泊める。…翌朝、ふわりと美味しそうな香りに目覚めると、食卓には味噌汁が。「おはよう」「なんだお前!!なんでJKが俺ん家に!」「泊めてって言ったら泊めてくれたじゃん」「…味噌汁」「昨日“毎日味噌汁を作ってくれ~”って」「ハァ!?絶対言わねェ!!」家出をして行き場のない沙優を追い出すわけにもいかず、吉田は家事を条件に彼女の同居を認めることに…。こうして、家出女子高生とサラリーマンの微妙な距離がもどかしくもあたたかい、不思議な同居生活が始まった―。』

という物語。

 

主な登場人物は、

  • 吉田(よしだ)【興津 和幸】:26歳のIT企業に勤める入社5年のサラリーマン。都内のアパートで一人暮らしをしていたが、帰るあてのない沙優の同居を許し、一緒に暮らすようになる。

  • 荻原 沙優(おぎわら さゆ)市ノ瀬 加那】:北海道旭川市に住み、地元の高校に在籍している16歳の女子高生。家出して東京に出てきたが、お金が尽き、体を許して男の家に泊めてもらう状況に陥っていたところで吉田と出会う。

  • 後藤 愛依梨(ごとう あいり)【金元 寿子】:吉田の職場の2歳上の上司。吉田が入社以来好意を寄せている相手。

  • 三島 柚葉(みしま ゆずは)【石原 夏織】:吉田の職場で教育係として面倒を見ている後輩女性社員。吉田を慕っている。

  • 橋本(はしもと)【小林 裕介】:吉田の職場の同僚で相談相手となっている親友。

  • 結城 あさみ(ゆうき あさみ)【川井田 夏海】:沙優がバイト先のコンビニで知り合い友人となった同い年の女子高生。母は弁護士で父は政治家だが、小説家を夢見ている。沙優を「さゆちゃそ」と呼んでいる。

  • 矢口 恭弥(やぐち きょうや)【逢坂 良太】:沙優のバイト先のコンビニの同僚。泊まり先を求める沙優とセックスした過去がある。

  • 荻原 一颯(おぎわら いっさ)【鳥海 浩輔】:沙優の兄で、「おぎわらフーズ」代表取締役社長。妹思い。

  • 真坂 結子(まさか ゆうこ)【石見 舞菜香】:沙優の高校の友人だったが、いじめに遭い自殺し、沙優の家出の遠因となった。

  • 沙優の母【柚木 涼香】:沙優に冷たく高圧的に対応し、家出の原因を作った母親。

公式サイトで紹介されている以上のキャラクターのほか、各話に登場する名前が付いているキャラクターとしては、次の人がいます。

  • 遠藤(えんどう)【河西 健吾】(第3・10話):吉田の会社の同僚。沙優と同居するようになった吉田が出張を断ったことで、代わりに出張に行く破目になる。

 

dアニメストアで紹介されている各話のあらすじは、次のとおりです。

第1話 電柱の下の女子高生

IT企業に勤める26歳のサラリーマン・吉田。ある週末、彼は職場の先輩・後藤愛依梨へ告白するが見事玉砕。5年ごしの片想いを失恋で終えた。居酒屋でヤケ酒を呷り、同僚・橋本に愚痴をこぼす吉田。その帰り道で彼は、路上に座り込む女子高生・沙優と出会う。へべれけに酔った吉田は、家出少女の沙優を一晩泊めることにする。

第2話 携帯

行く宛のない沙優を追い出すわけにもいかず、住まいの家事を条件に、吉田は彼女の同居を認める。ぎこちなくもなぜか心落ち着く、穏やかな同居生活が続く。そして迎えた休日、買い物の途中で吉田は、沙優が携帯を持っていないことに気づく。その理由を尋ねると、沙優は遠慮がちにぎこちない笑顔を作ってはぐらかすのだった。

第3話 共同生活

吉田は自身の不利益を気にする様子もなく、沙優にも何ひとつ見返りを求めない。吉田の本心を理解できないまま、モヤモヤを募らせる沙優。吉田から帰宅が遅くなるとの連絡が届いたある晩、沙優は彼に恋人ができる可能性もあることに気づいてしまう。“居場所”を失うという想像に、沙優の心は不安で大きく揺さぶられていく。

第4話 バイト

お互いの胸の裡を明かし、心の距離を縮めた吉田と沙優。それから沙優は近所のコンビニでアルバイトを始めることになった。バイト先の先輩・同学年の結城あさみは面倒見がよく、瞬く内に沙優とうち解ける。終業後、沙優たちの同居生活について聞きだしたあさみは、吉田の人となりを確かめるため急遽彼の部屋を訪ねることに。

第5話 現実

深夜、帰宅途中の吉田から沙優に宛てて届いた急なメッセージ。そこには後藤がなぜか沙優に会いたがっているので一緒に戻る旨が綴られていた。吉田の想い人であるはずの後藤を前に困惑する沙優。後藤はというと、吉田が沙優と暮らすことになった経緯に半ば呆れつつも特に咎めることもなく、終始和やかに会話を楽しんでいた。

第6話 星空

吉田との同居を続けて少しづつ前向きになり、実家へ帰る決意を固めつつある沙優。そんな彼女をもうひとつの過去が苛もうとしていた。以前、宿の世話になり関係を持った行きずりの男・矢口恭弥。沙優は、その矢口とバイト先で再会してしまった。沙優の素性に気づいた矢口は、かつての関係の口止めを条件に強引な復縁を迫る。

第7話 恋慕

あさみの学校が夏休みを迎え、沙優は彼女と一緒に過ごす時間が増えた。小説家という夢の実現に向けて、受験勉強に勤しむあさみ。沙優もまた、未だ明確に答えの出せない自分の未来について考え続ける。その翌日、沙優は掃除の最中に吉田の私物が詰まった段ボール箱を見つける。中には彼の高校の卒業アルバムが収まっていた。

第8話 夏祭り

高級車に乗っていた人物は、沙優の兄・荻原一颯だった。兄が仕事の多忙を押して沙優の消息を捜していたことは明白だった。沙優にとっては事態急変だが、実家へ戻るまでの猶予はもうほとんど残っていない。“今しかできない、本当にしたいこと”を自問自答する沙優。その時ふと目に入ったのは、夏祭りの告知ポスターだった。

第9話 過去

「沙優を引き取りに来ました」――早朝、沙優の兄・一颯が吉田の部屋を訪ね、二人の同居生活は終わりを迎えた。一週間後、沙優は北海道の実家へ帰ることになる。そのタイムリミットを前に自分自身と向き合うため…家族や学校、友だちのこと。そして家出にいたった日…。沙優は、吉田とあさみへ今までの経緯を語りはじめる。

第10話 証明

沙優が近日中に北海道へ戻ることは、彼女を知る吉田の同僚たちにも告げられた。沙優の兄である一颯は、吉田が沙優を庇護し、最後の救いになってくれたと改めて感謝を伝える。残りわずかな日々だが、吉田と沙優は、今までどおりの“何気ない日常”を惜しむように過ごす。ある夜、沙優は吉田とともに、丘のある公園へと赴く。

第11話 覚悟

血の繋がりはないが“赤の他人”でもない――助けを求める沙優を放りだす方が無責任とばかりに吉田は彼女の帰省に同行する。家出の旅に決着をつける沙優を支えて、最後まで見届けることにしたのだ。旭川の自宅を目指す帰路、沙優は兄の一颯に立ち寄りたい場所を告げる。それは半年ほど前まで、彼女が通っていた高校だった。

第12話 母親

あまりにも沙優に不憫な展開を迎えた時は、“部外者”の大人として彼女を守る。そう決意して吉田は、母娘の対面に立ち会う。半年以上を経て、実家に戻った沙優を出迎えたのは、激昂する実母の平手打ちだった…。体面と自己保身だけを押しだして、娘の言葉を封じ込める沙優の母。その振るまいは沙優の心を容易く踏みにじる。

第13話 未来

沙優を支えてほしいと、母親へ土下座を続ける吉田と兄・一颯。相次ぐ二人の懇願に、沙優の母は発作的にヒステリーを起こし…数刻を経て落ち着きを取り戻した。改めて沙優の母へ感情のまま言葉を重ねた非礼を詫びる吉田。彼女もまた、沙優の今後は互いに話し合うと約束する。沙優は、本当の意味で家出を終えることができた。

(ここまで)

 

以上のような各話のあらすじの紹介では、物語の核心部分には触れられていませんが、当初タイトルから想像していたのとはかなり違ったシリアスな物語で、心に響きました。

沙優の側から見れば、偶然の出会いから同居させてくれることになった吉田との生活を通じて、自分のせいで友人が自殺してしまったという罪悪感と、愛情のない高圧的な母親から目を逸らし、逃げていた自分を見つめ直し、現実と向き合っていく、再生の物語と言えるでしょう。

一方、沙優の言動に、その価値観を狂わせた大人たちに憤りを感じ、保護者のような眼で沙優に接し始めた吉田でしたが、気付かぬうちに、自分にとってもかけがえのない存在となっていきます。
最終話、沙優の兄の一颯から、本当は沙優に惚れてるでしょう?と核心を突かれ、自分は年上のお姉さんが好みだと否定しますが、自宅に帰り着いたとき、失ったものの大きさを実感して、大丈夫じゃないのは俺の方だ、とつぶやきます。ネタバレになりますが、2年後、おそらく高校を卒業して上京した沙優と、かつて初めて出会った路上で再会したとき、吉田の目に涙が浮かんだのも、2年が経過してもなお、吉田の中で沙優が大事な存在であり続けていた証でしょう。
その2年間、吉田に恋心を抱いている後藤や三島と仕事をし続けていながら、いずれとの関係も進展しなかったのは、一義的には、沙優との再会というエンディングに着地するための設定だろうと思いますが、あえてその理由を考えてみると、かつて、その時が来たら自分から告白すると言った後藤も、吉田の中に沙優の存在が消えずに残っていることを感じ取っていたということなのでしょう。