週末の夕方、MOVIX柏の葉に行きました。
17時半ごろの時間帯ですが、ロビーのお客さんはわずかでした。
この日の残りの上映スケジュールの一部。この時間には既に上映が終了していたものも含めて、計27作品・29種類の上映が行われていました。
観るのは「風の奏の君へ」(6月7日(金)公開)。全国69館とやや小規模での公開です。
上映は103+2席のシアター6。前回来たときには故障していたディスプレイは直っていました。中に入ると、お客さんは10人弱。公開2週目でさっそく1日1回の上映となっていたので、お客さんの入りは少ないのだろうと思っていましたが、予想どおりでした。
(チラシの表裏)
(公開日の発表前に配布されていた別バージョンのチラシ)
あさのあつこの小説「透き通った風が吹いて」を原案に、岡山県美作地域を舞台に実写映画化した作品で、監督・脚本は大谷健太郎。
主な登場人物・キャストは、次のとおりです。
-
青江 里香【松下 奈緒】:ピアニストの女性。淳也の元恋人。
-
真中 渓哉【杉野 遥亮】:浪人生。里香に惹かれていく。
-
真中 淳也【山村 隆太】:渓哉の兄。東京から実家に戻り、茶葉店を継いでいる。
-
実紀【西山 潤】:渓哉の高校の同級生。今は市役所の観光課で働いている。
-
栄美【泉川 実穂】:渓哉の高校の同級生。今は家が営む温泉宿「にしき園」の若女将。
-
藤井【たける】:渓哉の高校の同級生。
-
初枝【池上 季実子】:渓哉の祖母。
公式サイトのストーリーによれば、
岡山県・美作の緑豊かな山々のふもと。古き良き趣を残す町並みに温泉を携え、お茶処でもあるこの地で、浪人の渓哉(杉野遥亮)は無気力な日々を過ごしていた。一方、家業の茶葉屋「まなか屋」を継いだ兄の淳也は、日本茶の魅力で町を盛り上げようと尽力していた。
かつて野球に捧げた情熱は燃え尽き、勉強にも身が入らずにいたある日、ピアニストの里香(松下奈緒)がコンサートツアーでやって来ることを知った渓哉。里香はかつて兄の淳也(山村隆太)が東京での大学時代に交際していた元恋人だった。コンサート会場の客席で渓哉が見守る中、舞台上で倒れてしまった里香。療養を兼ねてしばらく美作に滞在することになった里香を、渓哉は自宅の空き部屋に招待する。突然現れた昔の恋人を冷たく突き放す淳也に、「あなたには迷惑はかけない」と告げる里香。こうして少し風変わりな共同生活が始まった。
清らかに流れる川を吹き抜ける風、燃えるような緑の美しい茶畑。自然の優しさに囲まれて曲作りに励む里香に、ほのかな恋心を募らせる渓哉。しかし里香にはどうしてもこの場所に来なければならない理由があった……。
・・・というあらすじ。
まずまずの作品、といったところ。物語の骨格は良かったと思うのですが、元恋人の弟に勧められて、元恋人も暮らすその家にやってきて、弟と楽しそうに過ごす女性の心境は、私にはすっと腑に落ちないところがありました。治療が難しいガンで、死期が近いことを知っていたという要素はあるにしても、一度別れを告げられても諦められない元恋人の家に住み込む女性の心の内はどういうものだったのか、私には想像が及びませんでした。
主人公の里香を演じた松下奈緒は、ピアニストで、劇中に流れる曲も自ら作曲しているとあって、ピアノを弾くシーンも全く危なげなく、自然に観ることができました。あえていえば、クライマックスの学校の体育館でのリサイタルのシーン、流れる音楽がスタジオで別録りした演奏だったのは、演奏自体はより充実した音ではあるものの、体育館で演奏する松下奈緒の映像を音楽に合わせようとしたけど合ってないと見受けられる部分も多く、音としては貧相でも、実際の体育館での演奏を流した方が、リアリティも感じられて良かったのではないかという気がしました。
以下はネタバレになりますが、備忘も兼ねて、より詳しめにあらすじを記してみます。(本編中で描かれた順番を含め、多少の記憶違いはあるだろうと思います。)
真中渓哉は、高校生だった2年前、通っていた県立大立野高校から親友の実紀と一緒に帰る途中、泰平橋の上で景色を眺めていた若い女性・青江里香と初めて出会う。
偶然、風が吹いて里香の帽子が飛ばされてしまい、渓哉はそれを取りに川に下りようとするが、里香はそれを止め、この近くで泊まりたいと宿の紹介をお願いする。渓哉は里香を同級生の栄美の家が営む温泉宿「にしき園」に連れていく。渓哉と実紀は宿でタダ風呂に入るが、女湯から聞こえてくる里香の鼻唄に耳を澄ます。
風呂を出た渓哉は、風呂上りの里香が宿のロビーに置かれたグランドピアノに興味を持ち、蓋を開けて音を出すのを遠目に眺める。渓哉に気づいた里香は、お礼を言って名を名乗るが、渓哉の苗字を聞くと顔色が変わり、渓哉の家で兄の淳也が後を継いだ茶葉店「まなか屋」に連れていってほしいとお願いする。
渓哉が里香を「まなか屋」に連れていくと、店にいた淳也は顔色を変え、店番を渓哉に任せ、ごめんなさい、来ちゃった、と言う里香と2人で外に出て行く。しばらくすると、淳也が1人で戻ってきて、里香は帰ったと話し、それを聞いた渓哉は外に飛び出す。最寄り駅の智頭急行の大原駅に駆けつけると、ちょうどやってきた列車に里香が乗るところだった。渓哉が見送る中、虚ろな目をした里香を乗せて、列車は出発していく。
そして2年後、渓哉は2浪中の浪人生となっていた。勉強に身が入らない渓哉は、市役所の観光課に勤める実紀を誘ってキャッチボールをするが、かつて野球に情熱を捧げた面影はもうない。そこに、「にしき園」の若女将として働く栄美が心配してやってくる。
渓哉は、6月5日の日曜日に津山文化センターで青江里香のコンサートツアーが行われると知り、淳也にもそのチラシを見せるが、淳也は関心を示そうともしない。渓哉は、実紀、栄美とともにそのコンサートを聞きに行き、演奏する里香に見とれるが、里香は演奏後に突然倒れ、病院に運ばれてしまう。
渓哉たちは里香が運ばれた病院に見舞いに行くと、里香はちょっと目がくらんだだけだと話す。栄美が、療養のためにまた自分の家の宿に泊まりに来ては、と誘うが、里香は渓哉、に元気になったら頼みたいことがある、お茶畑に連れていってほしいと言う。
渓哉は回復した里香をバイクの後ろに乗せて、自分の家の茶畑に案内する。その美しい眺めに見とれる里香は、芸大時代に知り合った淳也が、自分の家の茶畑は燃えるように美しいと言っていて、一度見たかったのだと話す。渓哉は里香を茶工場に案内し、お茶を淹れる。今までこんなに美味しいお茶を飲んだことがないとその美味しさに驚く里香は、渓哉にやりたいことがないのかを尋ねると、渓哉は、特にないが兄貴に大学は出ておけと言われていると話す。それを聞いた里香は、人生には立ち止まったり振り返ったりする時間も必要、そのうちやりたいことが見つかる、とアドバイスする。
再び一面に広がる茶畑を見て、この景色を一生忘れないと言い、ここにもうしばらくいたい、いい音楽が作れそうな気がする、どこかいいところはないかと話す里香を、渓哉は自宅に連れていく。
使っていない母屋を使ってもらおうとする渓哉に、そこに帰ってきた淳也は気色ばむが、同居する祖母の初枝が温かく迎え入れたことで、淳也は押し切られ、ちょっと不思議な同居生活が始まる。
部屋を整え、作曲をするための机を買いに行こうとする里香に、淳也は、何のつもりだ、と警戒心を募らせるが、里香は、長居はしない、あなたに迷惑はかけない、と告げる。淳也は里香と一緒に食卓を囲むことを嫌がるが、初枝は、一緒に食事を食べながら、淳也と渓哉の母親は小さい頃に亡くなり、父親も3年前に亡くなったが、淳也が戻ってきて跡を継いでくれたことを里香に話す。
里香との同居生活の中で、渓哉は、兄の元恋人と知りながら、里香への恋心が次第に膨らんでいく。一方、里香は浮かんだ曲を五線譜に書きとめ、作曲をしていくが、突然出血して、血が五線紙にしたたり落ちる。
そのころ、淳也は、市の青年会議所で、お茶の産地である町のPRイベントとして、古くから行われている利き茶のゲーム「茶香服」(ちゃかぶき)を行うことを提案し、採用される。淳也は渓哉に、イベント実施で忙しい自分の代わりに茶香服に出てほしいと頼むが、渓哉は兄の代わりに出場することを拒む。しかし、里香も渓哉に出場を勧め、優勝したら何でも願い事を聞いてあげる、と言われた渓哉は、茶香服に出場することにする。渓哉は里香のサポートも得て、茶工場でそれに向けた特訓をする。その楽しそうな様子を、淳也は黙って見るのだった。
渓哉と再び茶畑を眺める里香は、ここに来てよかった、渓哉に会ってなかったら、この風景をこんな気持ちで眺めることはできなかった、ありがとう、と渓哉に感謝の思いを伝える。
やってきた茶香服のイベントの日、気合を入れて着物を着て里香と会場に着いた渓哉が受付を終えると、出場者の中に何と淳也もいた。渓哉は出場を勧めた里香とのやり取りを聞いて邪魔するために出場したのではないかと疑う。そして茶香服が始まる。
12人の出場者は、順番に出される5種類のお茶を、香りや味で判定していく。1回戦の結果、淳也と渓哉を含む6人が準決勝に進み、準決勝の結果、決勝は、淳也と渓哉の2人で競われることになる。決勝で出された5種類のお茶の中には、似ていて判定が難しい宇治茶と奈良の大和茶も含まれていた。順番に判定していった渓哉だったが、時間終了間際になって、そのうち2つの答えを入れ替える。そして、結果が発表され、淳也の優勝に終わる。
里香は渓哉に、あと一歩だったけど、すごかったと労いの言葉を掛けるが、決勝の間、里香の視線がずっと淳也に向けられ、自分を見ていなかったことに気づいていた渓哉は、そのことを里香に告げ、ひとり立ち去っていく。
家に帰って自室に籠る渓哉に、淳也が声をかけ、部屋に入ってくる。わざと負けたのか、と問い、渓哉はお茶については人にないものを持っている、自分の好きなように生きろ、と言う淳也に渓哉は、わざと負けた、兄貴に勝っても意味がない、じゃあ里香を取ってもいいのか、と迫るが、淳也は何も言わずに部屋を出ていく。
その夜、渓哉が里香の部屋をのぞくと、里香はおらず、机の上には「風の奏」とタイトルが付けられた手書きの五線譜が置かれていた。渓哉がその楽譜を見ると、余白には、好きな人に笑ってサヨナラ、と書かれていた。それを見て、里香が今なお淳也が好きなことを理解した渓哉は、里香を探して外に出る。里香は、川の音が聞こえる道端で、光る蛍の群れを眺めていた。渓哉が楽譜を見て里香の淳也への想いを知ったことを話すと、里香は、もう東京に帰ると言い、自分が治療の難しいガンであることを明かす。笑ってサヨナラするため、淳也には秘密にしてほしいと頼む里香に、渓哉は、自分は里香が好きだから、手伝わせてほしいと願い出る。
渓哉は、実紀と栄美にも協力を頼み、学校の体育館を使わせてもらい、里香の無料リサイタルを開ことにし、チラシを作って街角で配る。そして、淳也にも、これで最後だから聞きに来てほしいと頼み、お得意さんへの納品があると断る淳也に更に迫り、行けるようだったら行くと言質を取り付ける。
そして、リサイタルの日、体育館の中央にピアノを置き、その周囲にパイプ椅子を並べてセッティングした会場に、真っ赤なドレスを着た里香が姿を現すが、淳也の姿はない。何かを察した渓哉は、一緒に来ていた実紀たちに一言断って、バイクで茶工場に向かうと、その一角で淳也が寝そべっていた。聞きに来ようとしない淳也の態度に怒り心頭に発した渓哉は、その頬を殴り、里香を幸せにできるのは兄貴だけだ、と怒りをぶつけると、淳也は、自分は東京と里香から逃げてきた、逃げ回ってばかりだ、今さらどう里香と向き合えというのか、と初めて本心を吐露し、今でも里香が好きだと言って、声を上げて泣く。
そのころ、体育館での里香のリサイタルはクライマックスを迎えていた。渓哉に連れられて駆けつけた淳也はその演奏を聴いて涙が止まらず、演奏が終わった後は体育館の床に座り込み、頭を垂れて泣き続ける。その様子を見た里香も心が熱くなる。
そして時が経ち、淳也と渓哉の家には、茶畑で撮った里香の写真が飾られていた。大原駅から列車に乗る渓哉は、空を見上げて、何かを強く心に誓ったように列車に乗り込み、列車は駅を出発し走り出すのだった。
(ここまで)
なお、入場者プレゼントをいただきました。
QRコードを読み込むと全5種のデジタルコレクションカードの中からランダムで1枚を獲得できるハガキでした(QRコードはマスキングしました)。