鷺の停車場

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再び「リズと青い鳥」を観る@TOHOシネマズ上野

リズと青い鳥」をまた観たくなって、仕事帰りにTOHOシネマズ上野に行ってきました。

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昨年11月にオープンした複合商業施設「上野フロンティアタワー」。メインのテナントは「PARCO_ya」(パルコヤ)ですが、その7・8階にTOHOシネマズが入っています。

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エレベーターでロビーの7階に上がると、22時少し前という遅い時間帯にもかかわらず、かなりの混雑。1本1,100円で観れるサービスデーとはいえ、都心の映画館はこんなに混むんですね。

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この映画館では一番小さいスクリーン1。入場口を入ってすぐのところにあります。なお、スクリーン1~3がロビーと同じ7階、スクリーン4~8が1フロア上がった8階にあります。

映画館に着いて事前に予約していたチケットを発券した時点で、既にチケットは完売していた感じでした。ただ、予告編の間に席に向かうと、仕事などで急遽来ることができなかった人もいるのか、実際にはほんのちょっとだけ空席がありました。

前回MOVIX亀有で観たときは、ほとんど時間を置かず、引き続いて「恋は雨上がりのように」を観たので、観終わったときの全体の印象は強く残ったものの、細部の記憶はあいまいになってしまったところもあったので、改めて観ることができて良かったです。

以下、多少のネタバレもあると思います。

映画は、鎧塚みぞれと傘木希美が中心ですが、そのほかの登場人物も、童話の世界のリズと女の子(青い鳥)を除けば、同じ3年生の部長の吉川優子と副部長の中川夏紀、木管パートの指導に訪れる新山先生、みぞれのオーボエパートの後輩である1年生の剣崎梨々花と、先輩の本気の音が聴きたいとみぞれに迫るトランペットの2年生の高坂麗奈というあたり。もとの「響け!ユーフォニアム」シリーズの主要人物を含めほかの部員も出てはくるものの、単なる群衆というと極端ですが、ストーリーの展開にはほとんど影響しません。

冒頭、童話「リズと青い鳥」でのリズと青い鳥との出会いが描かれた後、希美とみぞれが校門から練習場まで歩いていく情景に移り、2人が練習場に入ったところで、手書きの「disjoint」という字幕のワンカットが挿入されます。「dispoint」とは、数学における「互いに素」(2つの整数について、正の整数の公約数が1しかないこと)を意味する言葉。今回観て、途中の授業中のシーンで数学の先生が「互いに素」の説明をしているのに気付きました。伏線張ってます。ちなみに、一般的な動詞としては、関節などの接合部を外す/外れる、バラバラにする/なる、といった意味も持っています。

練習場に入った2人の会話は、表面上は破綻なく流れますが、みぞれが違和感を感じながら希美に話を合わせている様子が描かれ、掛け合いのソロを練習する2人の微妙なピッチ(音程)のズレが、2人が「disjoint」であることを表します。なお、実際にこの場面で流れる音楽では、わざとフルートのピッチを微妙に低くして演奏されているのですが、フルートのピッチを高めにしてズラした方がより合っていたような気もします。

みぞれ、希美とも、お互いを友達と思っているけれど、その思いはそれぞれ違っていて、十分に理解し合っているという関係にはなっていない。みぞれは、内向的で思いをはっきり伝えることができないタイプで、おそらく恋愛に近い感情を希美に抱いている(冒頭の練習室のシーンでもそれを暗示するようなしぐさがありました)。一方の希美は、自由奔放で周りをグイグイ引っ張っていくようなタイプで、フルートパートのリーダー的存在。コンクールの本番で掛け合いのソロを吹くのが楽しみ、という希美に対し、希美との別れを恐れるみぞれは、1人になった後、本番なんて一生来なくていい、とつぶやく。

お互い、最初は、リズがみぞれで、女の子として現れる青い鳥が希美だと思っていたけれど、みぞれは、新山先生の言葉で、青い鳥の立場になって思いを馳せて、初めて、その気持ちに強く共感することになる。その後の合奏シーン、みぞれのオーボエはそれまでの楽譜の表面をなぞっていた淡泊な演奏とは全く違う、気持ちの入った歌を奏で、それを聴いた希美は、みぞれが自分に合わせることでその才能を閉じ込めていたと悟り、涙をこぼし、演奏が続けられなくなる。この場面は、この映画の大きな転換点であることは間違いないでしょう。

練習後、周りの部員からソロの素晴らしさを称賛されるみぞれは、希美が練習室からいなくなっているのに気付き、探しに行く。希美を見付けたみぞれは、自分はみぞれのような才能がないと語る希美に、初めて希美に対する思いを伝え、「大好きのハグ」(これも伏線が張ってあったもので、とっぴな行動ではありません)をする。お互いの気持ちを初めてはっきり伝えた2人、それまでのズレた思いが、重なった瞬間。

そして、それまでずっと学校の中だけを描いていたスクリーンが、初めて学校から外に出て、帰り道を歩く2人を映し出す。それまで笑うことがなかったみぞれも、会話の中で笑顔を見せるようになる。これは、閉じ込められていたみぞれの気持ちが解き放たれ、そして、2人の関係が変わってきたことの表れなのでしょう、最後には、冒頭に出てきた手書き「disjoint」の「dis」の部分がペンで塗りつぶすように消され、「joint」(つなぐ/つながる)になるカットで終わります。

2人の立ち振る舞いを、評価を加えず、静かに見つめるような(山田尚子監督のインタビューでは、身をひそめてのぞき見るような感覚、と表現されています)映像は、全然世界は違いますが、昔の小津安二郎作品のような静謐さを感じます。