鷺の停車場

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武田綾乃「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話」ほかを読む

先日、アニメ映画「リズと青い鳥」の特別上映会があると知り、どうしても再び一度スクリーンで観たくなって、それに続いて行われる「響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」の特別上映会も一緒に、チケットを予約しました(ほぼ衝動買い・・・)。

原作を読んでみると映画の見え方がまた変わるかな、と思って、両作品の原作である、武田綾乃さんの小説「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章」前編・後編と、そのスピンオフ的な短編集「響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のホントの話」を読みました。

「波乱の第二楽章」の方は、本シリーズの主人公、ユーフォニアム黄前久美子が2年生のときの北宇治高校吹奏楽部を描いたもの。以前に一度ざっと読んでいて、今回は再読になります。

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以前読んだときは「誓いのフィナーレ」の上映前で、今思えば「リズと青い鳥」で描かれている後編に意識が向いて、前編はあまりしっかり読んでなかった気がします。

改めて読むと、それぞれの映画との対応や時系列などの関係が分かってきます。

小説に出てくる順番に、記憶の範囲で、映画でも描かれたシーンをあらすじがあまり分からない程度に挙げてみます。

まずは前編。

プロローグ

「リズ」の冒頭の音楽室でのフルート3年傘木希美とオーボエ3年鎧塚みぞれの場面。小説には、ピッチちょい微妙、などのやりとりはありません。

1.不穏なダ・カーポ

新2・3年生のミーティング(誓い)。

久美子がいる楽器室に新1年生がやってくる(誓い)。小説はトランペットの小日向夢ですが、映画ではユーフォの久石奏になっています。後編で描かれる夢のエピソードは映画ではカットされているので、それに伴う変更でしょう。

橋の上で久美子とその恋人のトロンボーン2年塚本秀一が話す(誓い)。

新1年生の楽器振り分け→今年の目標決め(誓い)。

久美子たちが低音パート1年生に練習時間などを説明(誓い)。

2.孤独にマルカート

久美子が同じく1年生指導係になったトランペット3年加部友恵の呼び方を「加部ちゃん先輩」にさせられる(誓い)。

1年生指導係の2人が1年生たちに説明(誓い)。

吹奏楽部顧問で指揮の滝先生が全員合奏で基礎練習(誓い)。小説では1年生の1人を名指しして質問する描写はありません。

手洗い場でマウスピースを洗いながら話す久美子と親友のトランペット2年高坂麗奈にチューバ1年鈴木美玲が話しかける(誓い)。

久美子が奏に美玲と友達になるよう頼む(誓い)。

オーボエ1年剣崎梨々花がみぞれとの関係について相談(リズ)。映画では下校時の廊下で希美に直接相談しますが、小説では奏の仲介でファミレスで久美子に相談します。味付いてて美味しいです、もありません。

グラウンドでサンフェスのマーチングの練習、奏が久美子に質問(誓い)。

耐えきれず逃げ出した美玲を久美子が説得(誓い)。映画ではサンフェス当日の本番前ですが、小説ではグラウンドでの練習中。久美子が行くのは映画では自発的ですが、小説ではユーフォ3年で副部長の夏紀の指示。

サンフェス本番(誓い)。

3.嘘つきアッチェレランド

滝先生が部員たちにコンクールの演奏曲を告げる(誓い)。映画での課題曲は2016年の実際の課題曲だったらしい「マーチ・スカイブルー・ドリーム」ですが、小説では架空の「ラリマー」です。

低音パート練習コントラバス2年緑輝が曲の説明(誓い)。

自由曲のもとになった物語「リズと青い鳥」のストーリー(リズ)。映画では現実のストーリーの途中に何回かに分かれて挿入されますが、小説では久美子が文庫本を読む形。

久美子が友恵を訪ねる(誓い)。

低音パート練習室でチューバ1年鈴木さつきが美玲に抱きつき、互いの好きなところを伝える(リズ)。映画では最初から「大好きのハグ」と表現されてましたが、小説では最初は「大好きだよゲーム」という名前で出てきます。希美とみぞれがそれを見かける描写はありません。

部長のトランペット3年吉川優子と副部長のユーフォ3年中川夏紀がスケジュールを相談している横で、希美がみぞれたちをあがた祭りに誘う(リズ)。

緑輝が吹奏楽におけるコントラバスの大事な役割をコントラバス1年月永求に語る(誓い)。映画では、もっと前、サンフェスの練習シーンより前に出てきたと思います。

久美子が秀一とあがた祭りに行った後に大吉山で麗奈と会い、麗奈は久美子のために「リズと青い鳥」のオーボエソロの一節を吹く(誓い)。映画で描かれた秀一と微妙な雰囲気になる描写は、小説では後編の別のシーンに出てきて、ここにはありません。

友恵が部員たちにマネージャー転向を報告する(誓い)。

久美子が友恵にマネージャー転向の理由を聞く(誓い)。

久美子が奏に誘われファミレスに行く(誓い)。

オーディション当日、手を抜く奏の演奏に夏紀が止めに入り、やり直しを求める(誓い)。雨の中奏や久美子が駆け出す描写はありません。

オーディションの結果発表(誓い)。

エピローグ

臨時コーチの新山先生がみぞれに音大受験を勧める。希美がみぞれが持っている音大のパンフに気付き、音大を受けると言うと、みぞれは私も、と言う(リズ)。

 

次に後編。

プロローグ

前編のプロローグと同じく、朝の音楽室での希美とみぞれ(リズ)。映画では前編と後編のプロローグを統合・アレンジした感じになっています。

1.憧憬にアウフタクト

京都府吹奏楽コンクールを迎えた北宇治高校吹奏楽部が描かれますが、本章に映画で直接使われたシーンはないようです。

2.独白とタチェット

合奏でトロンボーンなどが注意される(誓い)。

合奏でオーボエソロが注意される(リズ)。

希美がみぞれをプールに誘う(リズ)。映画で出てきた「ハッピーアイスクリーム!」は出てきません。

久美子や麗奈も一緒にプールに行く(誓い)。映画での会話の中身はアレンジされているようです。

3.彼女のソノリテ

合宿に入り臨時コーチの橋本真博と新山聡美が指導に加わり挨拶(誓い/リズ)。リズでは合宿所ではなく学校の音楽室になっています。

麗奈がみぞれに本気の音が聞きたいと言う(リズ)。映画では学校のパート練習の部屋ですが、小説では合宿中の描写で、優子ではなく久美子が一緒です。

橋本先生が「リズと青い鳥」3楽章のソロについて苦言(リズ)。映画では学校の音楽室ですが、小説では合宿所です。

新山先生がみぞれと「リズと青い鳥」のソロについて話す(リズ)。映画では生物室で2人きりで話しますが、小説では合宿での休憩中で、久美子が脇でそれを聞いています。

みぞれの要望を滝先生が受け入れ「リズと青い鳥」のソロの部分を合奏、みぞれが覚醒(リズ)。

合奏後、希美がみぞれへの本心を明かす(リズ)。映画では、合奏前に優子や夏紀と話す部分、合奏後は生物室に追いかけてきたみぞれに直接話す部分に分かれていますが、小説では夏紀に頼まれて追いかけてきた久美子に話しています。

みぞれが希美に大好きのハグ(リズ)。映画では上のシーンと統合されていますが、小説では関西大会の2日前。

関西大会当日の本番前、卒業生の元副部長でユーフォ田中あすかとトランペット中世古香織が声をかける(誓い)。映画ではサックスで元部長の小笠原晴香もいますが、小説では晴香は京都府大会の方に来ることになっています。

本番直前のリハーサル室で優子が夏紀への感謝を口にする(誓い)。

コンクール本番の「リズと青い鳥」の演奏(誓い)。

コンクールの結果発表(誓い)。

帰りのバスに乗る集合場所で優子は部員たちにはっぱを掛け奮い立たせる(誓い)。映画ではバスに乗った奏が言う「悔しくって死にそう」は、小説では麗奈のセリフです。

結果発表の後、優子は泣き崩れていた(誓い)。映画では結果発表シーンの後に画像のみのワンカットが挿入されているだけですが、小説では秀一が目撃したと久美子に話します。

4.未来へフェルマータ

本章に映画で直接使われたシーンはないようです。コンクール後の夢のエピソードが中心。なお、「誓いのフィナーレ」で合宿の夜に描かれた、久美子が秀一に恋人関係をやめて距離を置くと告げるシーンは、本章の最後に出てきます。

エピローグ 

部長に指名された久美子が挨拶(誓い)。映画ではミーティングでの挨拶ではなく、奏の呼び掛けに答える形になっていました。

 

一方の「ホントの話」。

主人公の久美子が2年生時の北宇治高校吹奏楽部を描いた「波乱の第二楽章」の前後の時期のエピソードを中心とした短編集。

1.飛び立つ君の背を見上げる(Fine)

久美子の1学年上の、フルートの傘木希美の視点から、彼女、ユーフォニアムで副部長だった中川夏紀、トランペットで部長だった吉川優子、オーボエの鎧塚みぞれ、の南中出身4人の卒業式の朝を描いた話。希美が夏紀と話しながら学校に向かうと、みぞれと泣いている優子を見つける。2人のところに走り寄ると、夏紀と優子はいつものように仲良く喧嘩を始める。みぞれと歩き出した希美は、過去への後ろめたさも感じて、一緒に写真を撮ろうとみぞれを誘う。"Fine"は英語のファインではなく、曲の終わりを意味する音楽用語のフィーネ(イタリア語)。

2.勉学は学生の義務ですから

2年生時の府吹奏楽コンクールが終わって関西大会の前、久美子とその同学年の友人、トランペットの高坂麗奈コントラバス川島緑輝、チューバの加藤葉月が緑輝の家に集まって夏休みの宿題に取り組む話。卒業後の進路を決めている麗奈や緑輝に羨ましさを感じる葉月の思いがにじみ出た掌編。

3.だけど、あのとき

久美子の2学年上のトランペットの中世古香織が卒業を迎えて、ユーフォニアムで副部長だった友人の田中あすかに宛てた手紙で、あすかへの自分の思いを綴り、卒業後はルームシェアで一緒に住もうと誘う。手紙の前半・後半の間に、1年生の時、香織があすかに告白したシーンの回想が挿入されます。「波乱の第二楽章」、「誓いのフィナーレ」で関西大会に駆け付けた2人がペアリングをしていたのは、こんな背景があったからなんですね。

4.そして、そのとき

久美子の2学年上のいとこで受験勉強を理由に退部したテナーサックスの斉藤葵が、大学に入って、同学年で部長だったバリトンサックスの小笠原晴香たちと再会し、吹奏楽に戻る話。

5.上質な休日の過ごし方

久美子の1学年下の新1年生、ユーフォニアムの久石奏とオーボエの剣崎梨々花が、休日に梨々花の家でお菓子作りをする話。映画「リズと青い鳥」ではズン、ズンと懐に入っていく素直で真っ直ぐな印象ですが、「波乱の第二楽章」や本編では、無邪気に見えるのも計算ずくな小利口な女の子で、みぞれと打ち解けたい気持ちは共通していますが、印象がちょっと異なります。本文6ページと、この短編集でも一番短い掌編。

6.友達の友達は他人

久美子の中学時代の友人で立華学園に進んだトロンボーンの佐々木梓の友達の柊木芹菜が、梓が芹菜の手帳にマーチングコンテストの日を書き込んでいたことがきっかけで、クラスメイトの緑輝に話しかけられ、コンテストを見に行くよう勧められる話。

7.未来を見つめて

部長だった小笠原晴香の視点から、旧3年生が卒業旅行で行った温泉付きスキー合宿を描いた話。いろいろあった部活を部長として支えた晴香の思いがいじらしい短編。温泉での会話で、あすかたちがなぜ優子と夏紀を部長・副部長にしたのかが明かされます。「誓いのフィナーレ」で、関西大会の本番前にあすかが久美子に渡す魔法のチケット(絵葉書)は、ここでお土産に買ったものだったのですね。

8.郷愁の夢

滝先生が音大生だった時の、滝の恋人で後に結婚することになる千尋と、当時は後輩の新山聡美の話。千尋を想う新山と滝を想う千尋千尋のその後を考えると儚い印象を受けます。

9.ツインテール推進計画

チューバの新1年生の鈴木さつきの提案で、低音パートで突然に始まった「全員ツインテール推進計画」に巻き込まれる部員たちのお話。

10.真昼のイルミネーション

クリスマスイヴの日、希美がたまたま出会った夏紀と喫茶店で談笑する話。光ってなくてもいいと気付ける人間はすごい、優子はそういうの得意、とか、好きなバンドが売れるようになって、自分の大事なものが、価値の分からない誰かに壊されるんじゃないかと心配、でももっと不安なのは、自分がそういう大人になってしまう可能性なのかも、といった夏紀の言葉が印象に残ります。

11.木綿のハンカチ

ともに久美子の1学年上でカップルのチューバの後藤卓也と長瀬梨子の話。卒業後卓也が東京の専門学校に進み引っ越していく一時の別れを描いた話。梨子と卓也の互いを思う温かい関係がにじみ出て、甘酸っぱく、ほっこりとする短編。

12.アンサンブルコンテスト

久美子が部長になった新体制の下で、1、2年生部員がアンサンブル・コンテストに向けた部内選考会に臨むお話。全体で280ページちょっとのこの短編集の中で、約120ページある一番長い物語。これは久美子の3年生時代を描く「決意の最終楽章」の序章になると思われる部分ですので、内容は書かないでおきます。

13.飛び立つ君の背を見上げる(D.C.

卒業を前に、優子が、副部長として自分を支えてくれた夏紀に宛てた手紙に、照れながら感謝の気持ちを綴る。「3」の「だけど、あのとき」であすかに手紙を書いた香織の勧めで書いた手紙なのに、香織の手紙と全く文体が違うところが、それぞれのキャラクターや相手との関係の違いを表していて面白い。「3」と同様に、手紙の前半・後半の間に、エピソードが挿入され、「1」と同じ卒業式の朝、登校する優子に駆け寄ったみぞれから感謝の気持ちを伝えられて、予期せぬ感謝の言葉に涙ぐむ優子。そこに夏紀と希美がやってくる・・・。"D.C."は、曲の始めに戻る、を意味する音楽用語のダ・カーポ。本編を読んでタイトルの指示どおり「1」に戻ると、優子の涙の理由などが見えてきて、また読み方が違ってきます。

 

シリーズ本体は、主人公の久美子の視点から描かれ、久美子が直接見聞きしたことが綴られているので、この短編集にあるような、久美子が知らないところで起きている話は出てきません。(もっとも、一番長い12「アンサンブルコンテスト」は、シリーズ本体と同じ久美子視点で描かれています。)そういう意味で、このように違う視点から描かれたエピソードを読むと、シリーズ本体を読んだときの立体感が増してくるように思います。