鷺の停車場

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映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」

映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」(7月14日(金)公開)を観に行きました。

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行ったのはアップリンク渋谷。上映館は首都圏ではもはやここだけです。

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渋谷駅で降りるのはかなり久しぶりな気がします。渋谷駅前のスクランブル交差点の混雑ぶりはやはり凄い。

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Bunkamuraの脇を通って10分ほど歩いたでしょうか、何とか迷わず到着できました。
予約していたチケットを1階で発券し、2階のスクリーン2に上がります。 

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全体で45席の小さなスクリーン。シートはゆったりしていて快適です。この日は、上映後にトークショーが行われることもあり、満席でした。

押見修造さんの人気マンガ「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の映画化だそうですが、未読の状態で観賞。

以下、多少ネタバレですが、大まかなあらすじ。

高校に入学した志乃(南沙良)は、吃音に苦しんでおり、初の自己紹介でもどもって自分の名前が言うことができず、クラスに溶け込むことができない。ちょっとしたきっかけで音楽好きだが音痴の加代(蒔田彩珠)と親しくなり、志乃が歌は上手に歌えることを知った加代は志乃をバンドに誘う。2人は文化祭に出ようと打ち込むが、かつて志乃をからかった菊地(萩原利久)が半ば強引に加わったことで、精神的に辛くなった志乃はバンド活動から逃げ出す。

迎えた文化祭の日、加代は音痴を覚悟の上で1人でバンドコンテスト会場の体育館のステージに上がり、ギターを弾いて自作の歌を歌う。その歌声を体育館裏手で耳にした志乃は、会場に駆け込み、涙ながらに自分の心の底の思いを叫ぶ。(その後のエンディングは書かないでおきます)

心に刺さる映画でした。

しゃべれない女子高生が主人公で、歌をきっかけに自分の殻を少しずつ打ち破っていくというのは、アニメ映画「心が叫びたがってるんだ。」とも共通します。ただ、同作では、主人公の順は、最後にはステージに上がってミュージカルの主役を(途中からですが)歌いきり、大団円で終わるわけですが、本作では、その後に希望を持たせる終わり方ですが、単純なハッピーエンドではありません。

最初の自己紹介のシーン、極度の緊張から激しくどもり、どうしても自分の名前が言えない志乃は痛々しい。加代も、ミュージシャンを夢見ながら、激しい音痴であることに強いコンプレックスを抱いています。その2人が、バンドを組んで練習していく中で、少しずつ変わっていく。しかし菊池の乱入で、2人の関係に影が差し、その関係が変化していきます。

志乃は、おそらくそれまでの辛い経験から、しゃべらず存在感を消していれば、辛い思いをしないで済む、という逃げの姿勢を(本人の意識ではたぶん否応なしに)とっていて、そうした自分を変えること(で辛い思いをすること)を極度に恐れています。加代の登場で少し変化が見えてくるのですが、菊池の登場で再び自分の殻に閉じこもってしまいます。3歩進んで2歩下がるという感じで。
しかし、典型的なKYという設定の菊池も、おちゃらけキャラは周囲に溶け込みたいがための仮面で、場の空気を読めず逆にスベってしまうため友達ができず、実は孤独感に苛まれています。タイプは違えど、生きにくさを感じているという点で、菊池と2人は共通します。彼がバンドに強引に参加しようとしたのも、2人の熱心な姿に打たれ、自分を変えようとする彼なりの行動だったのでしょう。だからこそ、バンドから逃げ出し自分の殻にこもってうじうじしている志乃に対して、怒りをぶつけることになるわけで、それが、最後の志乃の叫びのシーンの伏線にもなっています。

辛いシーンもありますが、海や空などの美しい風景、組んで歌う時の2人のいきいきとした表情など、光をうまく使った映像がとても素晴らしくて、不器用で切なく残酷でもあるけど、繊細で鮮やかで輝かしい、高校生の青春のきらめきが印象に残る映画でした。

演技も、南沙良のなりふりかまわず全てをぶつけるかのような演技は、迫るものがありました。特に、鼻水が垂れるのを構わず大泣きするシーンはすごかった。

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上映後、本作の田坂公章プロデューサーのMCで、湯浅弘章監督、脚本の足立紳さんのお二人によるトークショー。原作から膨らませた菊地のエピソードなど原作のマンガから変えた部分の意図、映画の初期プロット→初稿→最終稿でどう変わったのかなど、興味深いお話を聞くことができました。

トークショー終了後、お二人のサイン会も開かれました。オフィシャルブックか原作コミックを購入(持参)すればサインいただけるとのこと。映画を観る前は、サイン会には参加せず帰るつもりだったのですが、トークショーをお聞きして、原作との違いを確認したい気持ちが強くなって、原作コミックを購入し、サインをいただきました。

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志乃ちゃんは自分の名前が言えない

志乃ちゃんは自分の名前が言えない

 

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列の前で先にサインいただいているお客さんと監督との会話をお聞きしていると、2回、3回と何度も観ていて、熱い思いをお伝えする方が多くおられます。

今回が初鑑賞の身で、何をお話ししようかちょっと迷った末、映像が美しかったことをお伝えして、ロケ地のことをお聞きしました。下田で撮った海岸のシーンを除いて、沼津で撮影されたそうで、舞台の高校も沼津ですが、廃校となった学校を使っていて、近々解体されるしまうようだ、とのことでした。親切にお話いただき、ありがとうございました。

帰りの電車の中で、早速マンガを駆け足で読みました。基本的には原作に忠実ですが、トークショーでお話があった部分のほかにも、志乃の通学が自転車じゃなくて徒歩だったとか、加代が志乃をバンドに誘うきっかけなど、細部は違うところがあって、興味深かったです。
映画の最後の方の文化祭で志乃が叫ぶシーン、迫るものを感じる一方で、現実には、バンドコンテストの最中に、あんなに長い時間、誰も止めに入らないなんてことはないだろうとちょっと引っかかっていて、原作でどうなのかとても気になったのですが、ほぼ同じでした。ただ、マンガでは特に違和感なく読めて、映画とマンガではやはり違いがあるのだなあと実感しました。

アップリンク渋谷での上映は、当初はこの日までの2週間の予定だったようですが、9/28(金)まで1週間延長されています。トークショーでは、まだオープンにできないが、他にも上映の話があることを匂わせるような発言もあったので、もう少し行きやすい映画館でも上映されるのを期待しています。