鷺の停車場

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三上延「ビブリア古書堂の事件手帖5〜栞子さんと繋がりの時〜」を読む

三上延さんの小説「ビブリア古書堂の事件手帳」シリーズ、第5巻の「ビブリア古書堂の事件手帖5〜栞子さんと繋がりの時〜」に進みました。

本巻は、 再び第3巻までのような一話完結の謎解きのスタイルになっていますが、これまでとちょっと違って、各話の後に、断章と題した後日談のような掌編が加えられています。

シリーズとしての大きな物語もだんだんと山場が近づいてきた感じがして、すぐに続きが読みたくなりました。

 

 

以下は、ネタバレになりますが、ごく簡単なあらすじ、各話の概略を紹介します。

プロローグ リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』(新潮文庫

5月31日、五浦大輔は勤め先のビブリア古書堂の店主の篠川栞子に、2ヶ月近く前、先月にした告白の返事を促す。栞子は、好きと言われた時、嬉しかったが、どう返事をすればいいか分からなかった、でも、あなたにはわたしのことをきちんと知ってほしい、と語る。その答えは・・・

第一話 『彷書月刊』(弘隆社・彷徨舎)

4月の終わり、大輔は、妹が栞子の親友である滝野ブックスの滝野蓮杖から、栞子との関係について問い詰められる。大輔は、栞子から、まだ済ませていないことがある、告白の返事は5月の終わりまでには必ず答えると伝えられていた。滝野は、最近、このあたりの古書店に『彷書月刊』のバックナンバーをまとめて売りに来て、少し経つと買い戻しに来る女性がいると語る。
告白して以来、栞子とは気まずい雰囲気になっていた。そこに、本についての雑誌である『彷書月刊』のバックナンバーを売りに来た宮内多実子という中年女性がやって来る。主人が大事にしていたものだという。栞子は、その中にある特徴的な書き込みに気付く。値付けをして店頭に並べると、常連の志田が年配の男性を連れてやって来る。その男性は、『彷書月刊』に目を留めて志田と何か言葉を交わす。2人が店を出て行った後、栞子は志田が男性について具体的に話すのに名前だけは明らかにしなかったことを不審に思う。
仕事から帰って栞子の妹の文香に会った大輔は、栞子が自分を石段から突き落とした田中の裁判を傍聴に行っていることを聞かされる。
翌日、店に古書を売りに来た志田が現れる。栞子たちは、その本に『彷書月刊』と同じ印が付いていることに気付く。志田は古書を売った金で、『彷書月刊』のバックナンバーを買って帰っていく。
翌日、宮内多実子が『彷書月刊』を買い戻したいとやって来る。売れたことを伝えると、誰が買ったか問い詰める。栞子は、お客のプライバシーにも関わるので詳しくは言えないが、事情を話してもらえればその人が宮内の夫か自分が確かめると話す。そして、宮内がどうして『彷書月刊』を売っては買い戻すことを繰り返しているかの推理を話す。その推理は全て当たっていた。宮内は2人に夫との関係を話し、夫と分かったら、よかったら電話してと伝えてほしいと話す。
その日のうちに、栞子は出掛けていった。志田たちに会って、問題は解決したようだった。

断章Ⅰ 小山清『落穂拾い・聖アンデルセン』(新潮文庫

ホームレスの志田が橋の近くの川原で本を読んでいると、栞子がやって来る。栞子は宮内の伝言を志田に伝え、志田が宮内の夫であるという推理を話す。その推理は正しかった。栞子は母に自分が会いたがっていると伝えてほしいと頼むが、志田は、大輔にバレてから、もう連絡はやめさせてもらうと伝えて以降、連絡が取れなくなっていると語る。

第二話 手塚治虫ブラック・ジャック』(秋田書店

ゴールデンウィークの最終日、店に栞子の親友の滝野リュウが現われる。大学の部活の後輩が相談したいことがあるという。
3日後、滝野ブックスの上の階にあるリュウの部屋で栞子と大輔は依頼人の大学生・真壁菜名子に会う。父が大事にしている『ブラック・ジャック』の単行本が何冊かなくなったので見つけてほしいという。蔵書の内容を聞いた栞子は、なくなったのは『ブラック・ジャック』の4巻だと言い当てる。菜名子はたぶん弟が持ち出して隠し持っていると思うが、出張から父が帰って来る前に元通りにしたいと語る。栞子は、手塚治虫は自作に手を入れ続ける作家で、『ブラック・ジャック』の内容は発行時期により微妙に違っている、4巻に収載されたある話は、発行の数年後に批判があって別の話に差し替えられたと説明すると、菜名子は、4巻は5冊あって、そのうち3冊がなくなっていると語る。
菜名子の家で蔵書を確認する栞子は、最後の25巻だけが1冊しかないことに気付く。菜名子は父と母は文通で親しくなった、母方の祖父は結婚に反対していたが、自分が生まれる頃には和解して仲良くなったと語る。
栞子は弟の慎也と会い、どうして『ブラック・ジャック』の単行本が何冊もあるのか、そして25巻だけがなぜ1冊しかないのか、その訳を説明する。慎也は母の容態が急変した日、父が古本屋に立ち寄って『ブラック・ジャック』の4巻を買ったために病院に駆け付けるのが遅れたことを恨みに思っており、持ち出した3冊は滝野ブックスに売ったという。
滝野ブックスに戻った栞子たちは売り場に出される前の4巻を2冊回収するが、残りの1冊が見つからない。栞子たちが古本を売る際に保護者の承諾書を書いた慎也の祖母の家に向かうと、その本があった。慎也がゴミ箱に捨てたものを祖母が拾い上げたのだという。
菜名子の家に戻った栞子は、慎也に父が母の容態が急変した時になぜ古本屋で4巻を買ったかを話す。それは母を思っての行動だった。

断章Ⅱ 小沼丹『黒いハンカチ』(創元推理文庫

リュウを誘って飲みに行った栞子は、リュウが栞子たちの母・智恵子と連絡を取っていたのではないかと指摘する。リュウは智恵子に栞子たちの様子を見に行ってほしいと頼まれたが、智恵子が栞子に謎を解かせたがっていると気付き、連絡を止めたと明かす。栞子は、会いたがっている、どんな問題でも解くと母に連絡を取ってほしいと頼み、大輔に返事する前に母に会って知りたいことがあると語る。

第三話 寺山修司『われに五月を』(作品社)

大輔にリュウから電話があり、栞子が母に会いたがっており、智恵子は問題を解かせて栞子を試そうとしていると伝えられる。
数日後の閉店後、篠川家に門野澄夫という男性がやって来る。澄夫は智恵子の幼なじみで、2か月前に亡くなった上の兄には金銭面などいろいろ迷惑をかけていたが、その兄が亡くなる1週間ほど前に、寺山修司『われに五月を』の初版本を譲りたいと電話がかかってきたという。澄夫は、栞子が店を継いで、仕入れがなくなり困っていたとき、いろいろ本を持ってきてくれたが、その中には盗品も多く警察沙汰になって、出入り禁止にした過去があった。澄夫は誰も言うことを信じてくれないので何とかしてほしいと栞子に頼む。
栞子と大輔は、休日の午後、澄夫の下の兄の幸作、上の兄・勝己の妻の久枝に会って事情を聞く。勝己の書庫には、寺山修司の著書がほとんど揃っていた。『われに五月を』の初版本には寺山修司の署名もあった。その中から、幼い頃、画用紙を何枚もつなげて大きな船の絵を描く澄夫の写真と、寺山の直筆の文字が消されてその絵の続きが描かれた紙が出てくる。
澄夫が貴重な草稿を消して絵を描いたと思われたが、不自然な点に気付いた栞子は、次の日、再び久枝のもとを訪れ、勝己が、かつて澄夫が寺山の直筆の文字を消したと思って怒ったのは誤解だったと気付いて、その本を澄夫に譲ることにしたのだろうと説明する。久枝は隠してきた過去を打ち明けて澄夫に謝るが、澄夫は優しく慰め、『われに五月を』の初版本を持って出ていく。
栞子と大輔が門野家を出てモノレールの駅に着くと、そこに智恵子が待っていた。栞子は、母に会ってきます、必ず帰りますと言って、智恵子と一緒に大輔とは逆方向のモノレールに乗っていく。その帰り、大輔は、澄夫が手に入れた『われに五月を』初版本を寺山の大ファンで大学院の修士論文のテーマも寺山だという女性にたった1,000円で売るところに鉢合わせる。その女性は澄夫がかつて憧れていた智恵子にどこか似ていた。

断章Ⅲ 木津豊太郎『詩集 普通の鶏』(書肆季節社)

智恵子とモノレールに乗った栞子は、父のことを知りたい、どうして結婚したのか、本当はどういう関係だったのか、と智恵子に尋ねる。智恵子は、父と結婚した経緯を話し、わたしは失敗した、栞子にはその轍を踏まないでほしいと語る。栞子は、自分もいつか智恵子のように大切な人を傷つけてしまうかもしれない、しかし、その前に何かを変えられるよう努力する人間でありたい、と語る。智恵子は、ここに残るのなら、気を付けなさい、と言い残す。

エピローグ リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』(新潮文庫

その日の夕方、店に帰ってきた栞子は、私と付き合ってください、と大輔に告白の返事をする。ずっと、いつか母親のように大輔を置いていってしまうのではないかと怖かったと語る栞子に大輔は、俺も一緒に行けばいいじゃないですか、と栞子にとっては予想外の言葉をかける。そのとき、店のガラス戸に小石がぶつけられる。あわてて外に出ると、かつて栞子に大けがを負わせた田中敏雄からの手紙が置いてあった。

 

手塚治虫の『ブラック・ジャック』は文庫版の単行本でほぼ全て読んだことがありますが、こんな事情があるなんて初めて知りました。

続きはまた改めて。