鷺の停車場

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河野裕「いなくなれ、群青」

河野裕さんの小説「いなくなれ、群青」を読みました。 

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

  • 作者:河野 裕
  • 発売日: 2014/08/28
  • メディア: 文庫
 

1年ちょっと前に実写映画化された映画をスクリーンで観て、いずれ原作も読んでみようと思っていました。著者の河野裕さんは、「サクラダリセット」シリーズなどを代表作とする作家さんだそうですが、私は初めてです。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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11月19日午前6時42分、僕は彼女に再会した。誰よりも真っ直ぐで、正しく、凜々しい少女、真辺由宇。あるはずのない出会いは、安定していた僕の高校生活を一変させる。奇妙な島。連続落書き事件。そこに秘められた謎……。僕はどうして、ここにいるのか。彼女はなぜ、ここに来たのか。やがて明かされる真相は、僕らの青春に残酷な現実を突きつける。「階段島」シリーズ、開幕。

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作品は、3章とプロローグ・エピローグから構成されています。各章のおおまかなあらすじを紹介します。

プロローグ

放課後、高校の屋上で「100万回生きた猫」と名乗る男子高生と話す「僕」。そこは、「階段島」と呼ばれる、捨てられた人々の島で、8月25日にやって来た「僕」は、4日ぶんの記憶がなく、意識が戻ると階段島にいた。それから3か月、平穏に暮らしてきた「僕」だったが、その奇妙だが安定した日常は、11月19日の朝、真辺由宇に出会ったことで崩れはじめる。

一話、ひとつだけ許せないこと

  1. その日の朝、「僕」こと七草は、海壁の上に立つ真辺に出会う。真辺はまっすぐで理想主義的な女の子で、中学2年の夏に彼女の引越しで別れてから約2年ぶりの再会だったが、この島にいるなんてあり得ないし、あってはならないと、不快な感情を感じる七草。3か月近くの記憶がない真辺に、七草はこの島のルールを説明する。

  2. 七草は真辺を学校に連れていき、担任のトクメ先生に会わせる。島に来たことに納得できない真辺に先生は、この島は魔女に管理されている、時間をかけて納得を見つけるしかないと話す。学校に通いながら島を出る方法を探せばいいと宥める七草は、一緒に島を出ると約束させられる。

  3. ホームルームの自己紹介で、これから島を出る方法を探すと真辺が話すと、クラスメートは当惑する。昼休み、食堂で真辺と食べる七草のところに、クラスの女子の委員長と堀、男子の佐々岡がやってくる。島での生活を強いられることが許せない真辺に、委員長たちは、船は来るが人は乗れないこと、ネットは見られるが情報を受け取るだけでメールなどは発信できないことなどを話す。

  4. 放課後、七草は島に3台しかない自動車の1台であるタクシーを拾い、遺失物係に向かう。タクシーを魔女から貰ったという運転手は、島を出るには、真辺が失くしたものをみつけることだ、他に方法はないと語る。

  5. 灯台にある遺失物係の鍵はかかっていて入れない。隣の郵便局から顔を出した郵便局員の女性・時任に誘われた2人は、郵便局で魔女や遺失物係について話を聞く。

  6. 郵便局を出た帰り道、2人は島にやってきた幼い少年を見つける。小学2年生の相原大地と名乗るその少年を、七草は自分が暮らす寮に連れて帰る。幼い子どもが捨てられたことが許せない真辺は、魔女を倒し、島を出てその子を家に送ると息巻く。七草が寮に帰るといつもは週末に長い手紙をくれる堀から手紙が届いていた。そこには「真辺さんは危険」とだけ書かれていた。

二話、ピストル星

  1. 翌日、街から学校に続く階段で、星と拳銃を重ね合わせた落書きが発見される。その日、寮の管理人に誘われて一緒に大地とトランプをして2時間以上学校に遅刻した七草は、放課後に職員室に呼び出される。

  2. 七草は職員室でトクメ先生の事情聴取を受ける。遅刻した事情を話して犯行を否認し、教室に戻ると、真辺と委員長、佐々岡、堀が残っていた。5人は、大地と落書きの問題を解決する方法について相談し、真辺と委員長、佐々岡が落書き犯探しを、七草と堀が魔女について聞き込みをすることになる。

  3. 堀と2人になった七草は、前日に届いた手紙、そして真辺について話しながら電気関係の施設を探して電線をたどって歩くと、電圧を変える配電塔を見つける。七草は、そこで働く中田さんから、魔女から届いた手紙でこの仕事を始め、給料はきちんと振り込まれていること、7~8年前にいたがいつの間にかいなくなった7つか8つの小さな子どもから星とピストルの絵が描かれた手紙をもらったことを聞き出す。

  4. 寮に戻って夕食後、真辺から七草に電話がかかってきて、2人はその日の結果を報告し合う。

  5. 翌朝、真辺たちと待ち合わせて到着する予定の定期船を見に港に行った七草は、委員長から、再び落書きが見つかったこと、先生は現場近くにいた「100万回生きた猫」ことナドさんを疑っていると知らされ、真辺たちと別れてひとり学校に向かう。100万回生きた猫と会った七草は、星と拳銃の組み合わせで思い浮かぶのはピストルスターだという彼の話に、僕の好きな星だと話す。七草は子どもの頃、ピストルスターに心奪われたことがあったのだ。

  6. 七草が港に戻ると、真辺はやはり問題を起こしていた。密航しようとして見つかったのだ。七草は危険なことは避けてもっと計画を練るよう真辺に諭し、食堂で遅い昼食を食べる。

  7. 翌日の日曜日、七草が寮で堀から届いた長い手紙を読んでいると、真辺から電話がかかってきて、堀から今日会いたいと手紙が届いたという。堀と会うことを優先するよう真辺に頼んだ七草は、手紙を一通書いて出しに行き、再び寮で過ごしていると、夕方、真辺が大地と2人で話がしたいと寮を訪ねてくる。30分ほど話した後、真辺が出てくると、大地は泣き出していた。七草は真辺から堀や大地と話した内容を聞く。真辺は、大地は自分が母親を嫌うことを怖がっていた、魔女のところに行かなければと語る。

  8. 七草が寮に戻って夕食の後しばらく眠り、午前3時ごろに寮を出ると、大地が付いてきていた。七草は、海沿いの海壁に、星と拳銃のイラストを書きながら、大地に、すごい星だ、とピストルスターの話をする。そして、朝になったら寮の管理人に落書きするのを見たと話すよう伝える。

三話、手を振る姿はみられたくない

  1. 翌日の月曜日、学校に行くと、堀が教室におらず、魔女に会って島を出たことを期待していた真辺は教室にいた。昼休み、屋上で100万回生きた猫と話す七草は、落書きをした動機を聞かれ、ピストルスターを護りたかったんだ、と話し、騒動で迷惑をかけたことを謝る。放課後、七草は教えてほしいことがあると真辺に呼び止められるが、堀の見舞いに行くとそれを断り、速足で向かう。堀は七草が島に来て最初に会った人間で、話すのが苦手な女の子だった。

  2. 七草は図書室で堀に手紙を書き、本屋で文庫本を1冊買ってから、堀の暮らす寮に向かう。管理人に見舞いに来たと伝えると、男子は立ち入り禁止のはずだが、快く入れてくれる。堀に何で学校を休んだのかを聞くと、真辺に七草の感情を勝手に想像して話したから、七草に会いたくなかった、と言う。七草は、自分が勝手に真辺と一緒にいる、隣にいたいわけじゃなく、理想を追い続ける彼女がそのままでいてくれればいい、と語る。寮を出た七草は、通りかかったタクシーを呼び止め、遺失物係に向かう。

  3. 灯台の前で下りると、郵便局員の時任がいた。七草は、魔女に手紙を出したと話す。時任と別れると、真辺が走ってやってくる。真辺は自分はずっと七草に護られていたんだ、と涙を流して話す。七草は、真辺と再会してから、彼女がこの島にいることが許せず、落書きを書いて、魔女と交渉しようとしていた。

  4. 灯台の中に入ると、中にあった古めかしい電話機が鳴る。受話器を取ると、年齢の分からない女性の声だった。七草と話をするのは初めてではないと言う魔女に、七草は、自分が自身によって捨てられた人格なのだと話し、真辺を島から返す交渉をしようとするが、魔女はそれには取り合わず、階段をのぼりなさい、すべては階段でみつかる、と言って電話を切る。

  5. 2人は山頂に魔女がいると言われている階段を一緒にのぼり始める。七草は、自分が悲観主義的な自分を捨て、真辺が理想主義的な彼女を捨てたのは、およそ3か月前に自分と真辺が再会して、再び一緒にいたいと願ったからではないかと思い至る。

  6. 2人はこっそりとこれまでの思い出を語り合いながら階段をのぼる。そして真辺は、私たちは必ずまた出会うと約束しようと言う。七草は、僕たちはいつまでも僕たちのままでいよう、と返す。彼女の返事はなく、その姿は消えていく。大きく息を吸って、再び階段を上り続けると、そこにはもう1人の自分が立っていた。七草は大地と真辺のことを託して、背を向ける。

エピローグ

七草が気が付くと、階段のふもとの学校の校舎裏にいた。真辺は島を出たと思っていた七草だったが、歩き出そうとすると、真辺が声をかける。真辺は、私たちがそのままでは上手くやっていけないなんて信じられない、現実の私たちが間違っていることを証明すると語る。そして、か細く、震えた声で、だから、迷惑じゃなければ手伝ってください、と手を差し出し、七草はその手をつかむ。

 

(ここまで)

悲観主義的な自分、理想主義的な自分、話すのが苦手な自分、母親が嫌いな自分・・・。階段島に暮らす人々は、いずれも、自分自身によって切り捨てられた自分の人格の一面であるという設定は、作品全体に陰のある空気を漂わせていますが、この空気感は個人的には嫌いではありません。まっすぐで理想主義的な真辺が捨てられたことが許せず、苛立ちに似た感情を抱きながらも、真辺に関わらずにはいられない七草。普通とは少し異なりますが、純粋な恋愛物語に写りました。

背表紙の紹介文に、「階段島」シリーズ、開幕、とありますが、調べてみると、本作を最初に、計6作が刊行されているそうです。少しずつでも、続きも読んでみたいと思います。