鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

映画「朝が来る」

仕事帰りに、TOHOシネマズ日比谷に映画を観に行きました。

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TOHOシネマズ日比谷は、東京メトロ日比谷駅に直結している東京ミッドタウン日比谷の4階に入っています(ただし、スクリーン12・13は、隣接する東京宝塚ビルの地下1階にあります)。

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この日の上映スケジュール。

この映画館に来るのは、確か一昨年の暮れに「ボヘミアン・ラプソディ」を観に来て以来だと思います。

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広々したロビーは、TOHOシネマズの旗艦館というべき雰囲気です。

観に来たのは、「朝が来る」(10月23日(金)公開)。公開前から気になっていたのですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で公開延期となった作品が続々と公開されてきているのか、気になる作品が他にもいくつかあって、上映時間が長めで、内容的にも重そうな本作は、結果的に後回しになっていました。この日は、夜早めの上映時間に間に合うくらいに仕事を切り上げることができたので、映画館に向かう途中でチケットを予約してきました。

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上映は120+2席のスクリーン8。入った時は20人くらいでしたが、予告編の間にも続々とお客さんが入ってきていたので、おそらく40人程度入ったのではないかと思います。

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(1枚もののチラシ)

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(見開き版のチラシ)

直木賞本屋大賞も受賞している辻村深月の同名小説を、河瀨直美監督が自らの脚本で映画化した作品。河瀨監督は「萌の朱雀」でカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞された頃から名前は知っていましたが、実際に作品を観るのは初めて。

 

公式サイトのストーリーによれば、

 

一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」という制度を知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。当時14歳だったひかりとは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか──?

 

という作品。

 

主要キャストは、

特別養子縁組で男児を受け入れ育てる夫婦の栗原佐都子・清和:永作博美井浦新

幼稚園児に成長した男児・朝斗:佐藤令旺

朝斗の産みの親の少女・片倉ひかり:蒔田彩珠

特別養子縁組を斡旋する団体・ベビーバトンの代表・浅見静恵:浅田美代子

ひかりを妊娠させてしまう同級生の麻生巧:田中偉登

ひかりの両親:中島ひろ子・平原テツ

ひかりの姉の美咲:駒井蓮

ひかりが上京して勤める新聞配達店の店長:利重剛

など。

 

いろいろと考えさせられ、深く余韻が残る作品でした。

 

朝斗が通う幼稚園での子ども同士のトラブルに悩まされる栗原佐都子が、そのトラブルも解決して、仲直りに動物園に行くことになった矢先に、朝斗の産みの親だという少女が子どもを返してほしいと訪問してくる。出生時に会った母親・片倉ひかりとは大きく異なるその姿に本人ではないと疑う佐都子・清和夫婦は、一度は彼女にお引き取り願うが、行方がわからないと聞き込みに来た警察官が口にした名前から、本人だと知って探しに出た佐都子は、翌朝、彼女を見つけ、ひかりと朝斗が再会する・・・

というのがあらすじの本筋。そこに

①清和・佐都子夫婦が、特別養子縁組で朝斗を受け入れるまでの歩み

②ひかりが、自ら産んだ子を特別養子縁組に出すまでの道のり

③出産を終えた自宅に戻ったひかりが、夫婦を訪問するまでの道のり

の3つの回想シーンが挿入され、3つ目の回想シーンの最後で本筋と合流して、エンディングを迎えます。

子を望むが、不妊治療を受けても成功せず、その苦しみから不妊治療を諦め、偶然に知った特別養子縁組を選ぶ夫婦の思い。大好きな彼氏と無警戒にセックスをしてしまい、中絶が可能な時期を過ぎてから妊娠が判明し、産むしかなかった中学3年生のひかりの苦しみ。この2つの部分はどちらも心に刺さって、目が潤むシーンもありました。そして、2つの物語が交錯した後、エンドロールの最後に声だけ流れる朝斗の一言は、それらが優しく融け合うような感覚になりました。後になって思い返しても目が潤む映画は久しぶりでした。

回想シーンでのベビーバトンの部分でのドキュメンタリー風に撮影した映像、要所要所に挿入される自然の鮮やかな光景の映像も効果的だったと思います。139分と長めの上映時間なので、冗長に感じる人もいるのかもしれませんが、私自身は、その長さをさほど感じることはありませんでした。

作品で特に重要な役割を果たす佐都子役の永作博美、ひかり役の蒔田彩珠、浅見役の浅田美代子の演技もそれぞれ良かったと思います。蒔田彩珠は、一昨年に観た「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」で準主役でしたが、本作ではかなり違った印象でした。

 

ところで、どうして私がこんな目に、と我が身の不幸を嘆くひかりに、ある男(詳述は控えます)が「バカだからだよ!」と言い放つシーンがありましたが、冷ややかに見れば、性について知識が足りなかったために道を踏み外していく少女の話、客観的にはそのとおりとも言えます。しかし、自業自得という印象よりも、こんなことにならないように知識を持てるようにならないのだろうか、という思いを持ちました。

観終わってから、改めて振り返ってみてふと頭に浮かんだ疑問は、朝斗の血縁上の父親である麻生巧は子に対してどういう思いを抱いて生きている/いくのか、また、朝斗はまだ見ぬ血縁上の父親に対してどのような思いを抱いている/いくのか、ということ。本編中の母親のセリフが真実であれば、巧も産まれる子を特別養子縁組に出すことに同意しているので、この世のどこかに血のつながった子が生きていることを知っているはずですし、朝斗は自分が夫婦の実の子でないことを聞かされているので、幼稚園児の現在は頭にないとしても、いずれは、血縁上の父が誰か考えることになるはずです。父親の方は見たこともない子のことなど忘却の彼方になってしまうのかもしれませんが・・・