鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

劇場アニメ「アリスとテレスのまぼろし工場」を再び観る

週末の午前、MOVIX柏の葉に行きました。


朝9時半ちょっと前の時間帯、ロビーにはけっこうお客さんがいました。


この日の上映スケジュールの一部。この日は29作品・31種類の上映が行われていました。

この日観るのは、「アリスとテレスのまぼろし工場」(9月15日(金)公開)。この数日前にMOVIX亀有で観ましたが、再び観に行ってみました。


上映は103+2席のシアター6。お客さんは10~15人ほどでした。


(しばらく前に配布されていた別バージョンのチラシ)

 

数日前に最初に観た時よりも、登場人物の心の動きなどに理解、共感できる部分が多くあり、より心に刺さりました。前回はなかったのですが、涙腺が緩むシーンもいくつかありましたし、エンドロールに流れる中島みゆきの「心音」も、歌詞に注意を向けながら聴くと、この作品の内容によく寄り添っていて、改めて涙がこぼれました。前作の「さよならの朝に約束の花をかざろう」の方がいい作品という印象は、今回観ても変わりませんでしたが、もう一度くらい観てもいいかな、という気がしました。

 

ここから先は、思い切りネタバレになりますが、自分の備忘を兼ねて、より詳しいあらすじを記してみます。

 

フクロウ時計の目玉が左右に動いて時を刻んでいる菊入正宗の部屋。正宗と笹倉大輔、新田篤史、仙波康成の4人は、試験勉強のために正宗の部屋に集まっていた。ハッピーターンを食べた大輔がおならをしたため、換気のために窓を開けた正宗に、物凄い音が聞こえ、部屋の電気が消える。製鉄所の方に目を向けると、製鉄所が突然爆発火災を起こす。家を飛び出した4人は、空にひび割れができたのを見るが、製鉄所から出た煙がひび割れをふさいでいき、しばらくすると何事もなかったかのように元に戻る。

その後、中学校に通う正宗たちは、首を絞める失神ゲームや高所からの飛び降りなど、痛い/苦しい遊びをわざわざ選ぶようになっていた。

正宗たちは今の自分を忘れないように「自己確認票」を定期的に提出させられていた。それは、住所、氏名、年齢だけでなく、髪型、趣味、好きな人、嫌いな人まで記入するものだった。夜、自分の部屋で「自己確認票」を書く正宗。絵を描くのが好きな正宗がスケッチブックに絵を描いていると、叔父の時宗が入ってきて窓際でタバコを吸う。すると、製鉄所からサイレンが響き、時宗は今日2回目、最近多い、とつぶやく。

ある日、クラスメイトの園部裕子の上履きが誰かに隠され、佐上睦実たち友人は園部をなぐさめる。正宗が教室を移動するために校内を歩いていると、校舎の屋上にいる睦実の姿の影が目に入る。正宗が屋上を見上げると、正宗を見下ろしていた睦実は、自分のスカートをたくし上げてパンツを見せて挑発する。自分確認票の「嫌いな人」の欄に佐上睦実と書き込んでいた正宗は、それにカチンと来て屋上に駆け上がる。正宗は隙間に隠されていた上履きを見つけるが、それは睦実のものだった。睦実は、園部が自分の上履きを隠したから代わりに園部の上履きを履いた、退屈の仕業だと話し、「退屈、根こそぎ吹っ飛んでっちゃうようなの、見せてあげようか?」と誘う。

製鉄所の事故の後、見伏の街から外に出る道は塞がれ、海流により海からも出られなくなっただけでなく、時の流れも止まって、見伏の街の人々はずっと続く冬の日の中で暮らすようになっており、神様によって閉じ込められた、何も変えなければ元に戻れると演説した見伏神社の社家である睦実の父・佐上が影響力を持つようになっていた。

睦実は正宗を製鉄所の内部に連れていく。正宗が立入禁止の第五高炉に入ると、言葉も話せず、感情剥き出しの野生の狼のような謎の少女がいた。少女は正宗に飛びついて臭いを嗅ぎ、笑顔を見せる。トイレ掃除を手伝う正宗に睦実は、少女は外に出しちゃいけないから、自分が世話させられていると話し、世話は大変で男子の手が必要、月水金でお願い、と正宗に言い、正宗は定期的に第五高炉に行き、少女の面倒を見ることになる。

母親の美里に頼まれて、正宗は車を運転して祖父を市民会館で開かれる自主防災会に連れて行く。防災大会では、世界が元に戻ったときに変なことにならないように、自分が変わっていないかチェックするよう指導していた。同じく市民会館に来ていた仙波は、ラジオを聴いて、DJになってみたいと思うようになったことを正宗に打ち明ける。

正宗は、父親の昭宗ことを思い出す。事故の後、正宗の部屋で、もう無理、この先はもう逃げられない、と語った父親は、夜勤に行ったまま帰ってこなかった。

第五高炉に行った正宗は、少女が第五高炉にいて、睦実に似ていることから、「五実」(いつみ)と名付ける。五実は喜び、外に駆け出していく。そこには古びた貨車と機関車が放置されていた。正宗はスケッチブックを取り出し、五実をスケッチし始めるが、そこに佐上と時宗がやってきて、正宗は機関車の車輪の影に隠れる。佐上は、五実が成長してきたことに、神の女となるべき少女、神機に許される時が来るかもしれないと喜ぶ。

ある日、佐上は学校を休み、プリントを園部が届けることになる。放課後、車で第五高炉に行った正宗は、五実のために絵本を持って行く。五実は、睦実からの手編みの上着を大切そうに抱える。その帰り、車を走らせる正宗は、道沿いに園部を見かけ、車を停める。そこは睦実の家の前で、園部は留守だったと話す。見伏神社で佐上と一緒に住んでいると思っていた正宗に、園部は、睦実が事故の少し前に亡くなった母親の連れ子で、今はひとり暮らしだと話す。そこに睦実が帰ってくる。名前を呼び捨て呼び合う正宗と睦実に、園部は2人が恋仲ではないかと疑う。睦実は、佐上は跡継ぎがほしかったが女性に興味がなく、コブ付きの母親が選ばれたが、この世界ではいらなくなって放り出されたと話す。睦実は墓参りの帰りだった。睦実に言われて、正宗は園部を車で家まで送っていく。園部は、睦実は嫌いじゃないが、一緒にいると心が急かされるような感じがすると話す。

大輔は、土砂崩れで途中で行き止まりになっている街の外とつながる鉄道のトンネルで肝試しをしようと安見たちを誘う。園部と睦実が賛成して、新田、仙波、原陽菜、安見玲奈と8人で肝試しをすることになる。夜、見伏駅のホームから線路に下りてトンネルに向かうと、大輔は正宗と園部を最初のコンビに指名し、2人はトンネルに入っていく。先まで進んだところで、園部はトンネルの壁にスプレー缶で相合傘に正宗と自分の名前を書き、正宗が好きだと告白する。睦実に対する思いから、答えに逡巡する正宗。そこに、隠れて付いてきた他のメンバーが姿を現すと、恥ずかしさで居たたまれなくなった園部はトンネルの外に駆け出す。正宗たちはその後を追うと、トンネルを出たところで立ちつくす園部は、恥ずかしくて恥ずかしくて逃げたいよ、好きな気持ち、見せ物になった、と言うと、狼のような頭に見える竜の形のような煙が、ひび割れのような光を発する園部を襲い、園部は姿を消してしまう。

園部が姿を消したことで、市民会館で集会が開かれる。住民たちは大騒ぎとなるが、佐上は、それは神機狼(しんきろう)だと語り、生き永らえたければ心を動かさないこと、この世界から逃れようとゆめゆめ考えてはならない、と自らの説を改めて説いてそれを抑える。その頃、正宗は街の商店街の一角でうずくまっていた。バイクで迎えに来た時宗に、正宗は五実を閉じ込めていることを責めると、時宗は、あの子はこの世界にいちゃいけない存在だと話す。帰宅後、自室で「自己確認票」に向かう正宗は、園部がいなくなったのは自分が睦実を好きになったせいだと自分を責める。

第五高炉にやってきた正宗は、五実のそばにいると臭いが、何か落ち着くと感じ、自らの悩みを話し、涙を流す。それを見た五実は、正宗に体を寄せ、正宗の目から流れる涙を舌で舐めてぬぐう。温かく懐かしい気持ちになる正宗。そこにやってきた睦実は、怒りに声を荒げるが、正宗はその手を掴んでそれを制止し、睦実は涙する。そこに、佐上と時宗が姿を現す。正宗は、五実と睦実を連れて外に逃げる。外が見たいとクレーン車によじ登る五実が手を伸ばすと、空が割れ、真夏である現実の世界が顔をのぞかせる。

ここが現実の世界でなく、まぼろしの世界に閉じ込められていることが明らかとなって、住民たちは大騒ぎとなる。佐上は心にヒビが入らなければ問題ない、この世界の永続のために五実を神機のもとに帰すと説得しようとするが、時宗はこの世界の終わりは遠くないと住民たちに告げ、佐上は住民たちの支持を失う。

バス停で話す原と安見。未来がないことを知って、安見は、告白しちゃえばいい、と原をけしかける。そこに五実が顔を出し、好きって痛い?と聞く。原が、スイートペイン、と答えると、安見は大笑いする。

学校では、それまで提出してきた「自己確認票」が生徒に返却される。正宗は学校には1枚も提出しないまま逃げ切っていた。

街では、心にヒビが入った人たちが神機狼によって、次々と消されていく。DJになるという自分の夢が叶えられないことを知った仙波も、体育の授業中に神機狼によって姿を消されてしまう。その頃、佐上は自主防災会で変わらず熱弁を振るうが、集まったのはシンパの5人だけになっていた。

五実と睦実は正宗の家に身を寄せることになる。夜、水を飲みに台所に行った正宗は、庭の方に目を向けると、その風景がひび割れ、その先に大人になって結婚している自分と睦実が見伏の盆祭りも今年で最後、と話す姿を見る。驚く正宗は思わずそのひび割れの先に足を向けるが、そこにやってきた睦実がそれを止める。睦実は、五実が最初に来たとき、リュックに「きくいり さき」と名札が付いていた、現実に戻る方法なんてありはしないのにと話す。

そして、原は思い切って好きだった新田に告白し、新田も付き合ってもいい、と返事する。それを校舎から見ていた大輔たちは冷やかし、2人は照れて真っ赤になる。その頃、五実は正宗の家で一人うたたねしていたが、窓の外に雪が降るのを見て外に出る。

学校帰り、雪に降られて「オートスナックミフセ」に駆け込んだ正宗と睦実。正宗は、お前が好きだ、と睦実に告白するが、睦実は、正宗は卑怯、結婚した現実の世界とは違う、自分は好きじゃない、と言って外に出ていく。それを追って外に出た正宗は、睦実をつかまえる。睦実は、幻だから、生きていないから臭くないと言うが、正宗は、五実といてモヤモヤしたことの答えをもらった、その先はお前が教えてくれた、お前といると強く思える、と自分の思いを伝え、キスをする。睦実もそれに応えるが、それを五実が目撃したことで、空が再びひび割れて、真夏の現実が姿を現し、雪は雨に変わる。なおもキスを続ける2人。五実は、痛い!と苦しみの声を上げる。空のひび割れは広がり、製鉄所の煙も止まる。立ち上がった正宗たちは五実の姿を見つけ声を掛けるが、五実は「仲間外れ」と言って悲しむ。

ひび割れの広がりに、住民たちは避難の準備を始める。避難の準備をする正宗に、母親は父親が書いていたノートを手渡す。そこには、製鉄所の爆発事故の後、列車に乗って現実の世界から少女(五実)が迷い込んできたこと、彼女が自分の孫である「菊入 沙希」であったこと、少女の心が動くと世界が動くと気づいた昭宗に佐上が賛同し、彼女の存在がこのまぼろしの世界に悪影響を与えないよう第五高炉に閉じ込めることになったことなどが記され、正宗は次第に絵がうまくなっていった、この世界でも人は変わることができるが、自分は少女が変わっていく可能性を奪ってしまった、自分も正宗のように変わりたいが、自分には無理だ、と書かれていた。それを涙しながら読んだ正宗は、昭宗が自らの心の迷いによって神機狼に消されてしまったのだと直感する。そして、五実を現実の世界に戻したいと決意する。

正宗が避難所の中学校に向かった後、時宗は美里に言っておきたいことがある、と切り出すが、美里は、聞かない、もうすぐ世界が終わるのなら、いい母ちゃんで終わるよ、とそれを拒む。

避難所の見伏中学校で、時宗は住民たちに、このまぼろしの世界を一日でも長く存続させるため製鉄所を再稼働させることを説明し、実里には、いい母ちゃんで終わらせるつもりはない、と言って製鉄所に向かう。一方、正宗は、列車に乗せて五実を現実の世界に戻す計画を大輔たちに説明するが、五実は「行かない!」と抵抗する。睦実は、ひび割れが広がったのは自分たちのキスを五実に見られたため、他の男を好きになっちゃいけないからと話す。そして、この世界にとどまりたい五実は佐上によって連れ去られてしまう。

その頃、時宗たちは、10年ぶりに製鉄所を稼働させ、その煙で世界のひび割れを埋めてくれる神機狼を生み出そうと製鉄所の職員たちを指揮して動き出す。

五実を現実の世界に戻そうとする正宗と睦実は、第五高炉で五実を神の子にしようと祈祷を捧げる佐上のもとから、ここにいる、と抵抗する五実を連れて、祖父が運転する列車に乗るが、列車は脱線してしまう。車に乗った大輔たちが加勢するが、まぼろしの世界が終わってしまうことで新田との恋人関係を終わらせたくない原が別の車で先に正宗たちに追いつき、五実は奪われてしまう。原と大輔でカーチェイスとなるが、大輔の車が壊れ同乗する新田を気遣う隙に新田が原を捕まえ、正宗と睦実は五実が乗る原が運転していた車を走らせる。走る車からは、ひび割れの先に見伏の盆祭りの様子が見える。正宗は、ちょっと目を離した隙に5歳の沙希を見失ってしまった現実の自分たちの姿を見る。

正宗が運転する車は、佐上のシンパが運転する車の妨害を逃れ、ひび割れを越えて線路を走り、列車とぶつかって列車はいったん止まる。睦実は、五実と最初に出会ったとき、近づきすぎちゃダメ、近づいたら好きになってしまうと感じたことを回想し、乗るのを嫌がる五実に、一緒に行こうと手を伸ばす。五実と睦実が列車に乗り、正宗もその後を追おうとするが、睦実は手すりを掴む正宗の指をほどいて乗らせず、列車は再び走り出す。列車に乗れなった正宗は、お前と会えて凄く楽しかった、と思う。

列車に乗った睦実は、五実に語りかける。トンネルの先にはいろんなことが待っている、どれも私には手に入らないものだ、未来はあなたのもの、でも、正宗の心は私がもらう、私のもの、五実を思っている人たちがこの先に待っている、と。睦実の思いを感じとった五実は、睦実を抱きしめて涙しながら、大嫌い、大嫌いだから一緒に行かない、と言い、睦実は列車から飛び降りる。

飛び降りてまぼろしの世界の側の線路脇の土手に落ちてきた睦実を、正宗は受け止める。飛び降りた際に額に血が出た睦実は、ちゃんと痛い、私は今生きてる、と喜び、正宗は睦実と生きると心に決める。製鉄所の再稼働で生み出された神機狼がトンネルに向かっていくが、間一髪間に合い、列車はトンネルを抜けて現実の世界に帰っていく。列車に残った五実は号泣する。

そして月日が経ち、ローカル線で見伏駅にやってきた沙希(五実)。ママによろしく、と(おそらく父親に)着いたことを携帯電話で報告した後、タクシーで製鉄所跡に向かう。閉鎖後、廃墟好きの人たちがやってきたが、今はほとんどの建物が取り壊され、訪れる人はほとんどいなくなっていた。更地が広がる中に残る製鉄所の建物に向かった沙希は、かつて自分が幽閉されていた第五高炉の跡に足を踏み入れる。そこには、正宗が睦実と五実を描いたスケッチも残っていた。沙希は、この場所で生まれた、私の最初の失恋、と心の中で思うのだった。

(ここまで)

 

ちなみに、タイトルの「アリスとテレスのまぼろし工場」については、「まぼろし工場」が正宗たちがいるまぼろしの世界の製鉄所を指すことは明らかですが、「アリスとテレスの」が何を意味するのかは、劇中では明らかにされません。物語の後半、正宗が読む父・昭宗が記したノートの中に、ある哲学者の言葉として、希望とは目覚めている者が見る夢だ、という古代ギリシャの哲学者・アリストテレスの言葉が出てきて、そのほかに関連をうかがわせるものはなさそうなので、おそらくこれに由来するものだろうと思いますが、その言葉と、本作の内容がどのようにリンクしているのか、私自身はまだ理解できていません。さらに繰り返して観れば、もう少し理解が及ぶようになるのかもしれませんが。


なお、公開2週目の入場者特典「恋する狼少女「睦実」ビジュアルカード」をいただきました。3週目から5週目までは、各週分3枚を集めると1枚の絵が完成する、キャラクターデザインの石井百合子美術監督東地和生による描き下ろし仕掛けビジュアルカードが週替わりで配布されるそうです。