鷺の停車場

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山本文緖「みんないってしまう」

山本文緖さんの小説「みんないってしまう」を読みました。 

みんないってしまう (角川文庫)

みんないってしまう (角川文庫)

 

1997年1月に単行本で出版された作品で、1999年6月に文庫本化されています。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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大人になるにつれ、時間はだんだん早くなる。物事は思った以上に早いスピードで流され、手のうちからこぼれおちていく。そんな時、大切な何かをひとつずつ失ってはいないだろうか?例えばそれは恋、信頼、友情だったり……。
そうして残されるのは自分だけ。喪失を越え、人はたったひとりの本当の自分に出会う。
希代のストーリーテラーが贈るかなしくも、いとおしい自分探しの物語。

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作品は、12編の掌編で構成されています。

 

各編を簡単に紹介すると、次のとおりです。

 

裸にネルのシャツ

イラストレーターとして働く女性に、かつて3年間同棲し、5年前に出て行った元彼から食事に誘う電話がかかってくる。止める友人の忠告を振り切って、彼女は彼との食事に向かう。

表面張力

公団住宅で夫と幼い息子と3人で暮らす主婦。団地の建て替えの噂が出回る中、突然兄が姿を見せる。彼女は2人目の子を身ごもっていたが、夫に今の収入では無理と言われ、堕胎手術を受けることになる。

いつも心に裁ちバサミ

信販会社で会報を作る部署で同い年だが先輩の女性社員・柚木と会報の企画編集をする小柴。会報のプレゼントに用意したチケットがなくなっていることが判明する。

完全自殺マニュアル

大学の応用科学部の研究室で助手をしている桃井。大学を辞めて実家に戻ることを決めて大学に向かうと、気になっている学生・星野君と出会う。

愛はお財布の中

恋人と暮らす引越先の契約のため不動産屋にタクシーで向かう女性。財布を忘れたのに気づき、困った彼女は、前の彼氏の武史に連絡をとる。

ドーナッツ・リング

妻と息子と娘、4人家族で暮らす男性が、休日に過ごす喫茶店のアルバイトの女の子とあるきっかけでデートに出かけることになる。

ハムスター

ハハと妹で高校生のミキ、乳児のスウちゃんと暮らす少女。ミキが家を出ていってしまい、ある日ミキが通う高校から呼び出しの電話がかかってくる。

みんないってしまう

還暦間近の女性が、偶然に幼なじみのかつての友人と再会する。話をする中で、昔の意外な事実が判明する。

イバラ咲くおしゃれ道

大学に進学して上京した安奈は、いとこの25歳の女性・鶴ちゃんと一緒に暮らすことになる。おしゃれ好きでいつも服に頭を悩ませる鶴ちゃんだが、出席する結婚パーティの服選びで、ある事件が起こる。

まくらともだち

年上の夫と暮らす29歳の女性。年上の夫との生活は円満だったが、夫とのセックスに嫌悪感を抱く彼女は、セックスフレンドとの時間を過ごすようになっていた。

片恋症候群

同じ会社の男性・水越に片思いする女性・鹿島は、片思いが高じて、彼が出したゴミ袋を盗むまでになっていた。そのゴミの中から、鹿島はあるものを見つける。

泣かずに眠れ

事務職として勤める会社から1か月間の自宅待機を命じられた朋美。雑誌で見かけた友達募集のコーナーで見つけた女性に電話をした朋美は、彼女に会うことになる。

(ここまで)

 

どの短編も、上に書いたような表面的な出来事は、物語の背景にすぎず、そうした日々を過ごす中で、主人公(多くは女性)に去来する過去の思い出、心情の揺れ動きといったものが物語の中心となっています。主人公は、共感できる人、できない人それぞれありましたが、ほとんどの短編は、結末を読者の想像に委ねるような形で終わっていて、読後に余韻が残る作品でした。