鷺の停車場

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小竹正人「空に住む」

小竹正人さんの小説「空に住む」を読みました。

空に住む (講談社文庫)

空に住む (講談社文庫)

  • 作者:小竹 正人
  • 発売日: 2020/09/15
  • メディア: 文庫
 

本作は、三代目 J Soul Brothersの楽曲などに詞を提供している作詞家の小竹正人さんの初の小説で、2013年9月に単行本として刊行されています。その後、おそらく映画化に合わせて、2020年9月に文庫本化されています。昨年、映画を観ていたので、原作も読んでみようと思って、手にしてみました。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

 

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両親を亡くした直美は、渋谷のタワーマンションの高層階で猫のハナと暮らすことに。
そのエレベーター内で偶然出会ったのは人気俳優だった。
彼にオムライスを作ったのを機に、部屋を行き来する関係になる二人。
だが、最愛のハナに病魔が忍び寄っていた。
運命に翻弄される直美の喪失と再生の物語。

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作品は、数字で区切られた9章で構成されています。各章のおおまかなあらすじは次のとおりです。

急病で母を、交通事故で父を亡くした小早川直美は、幼い頃から慕っていた叔父・雅博の勧めで、新潟の実家など両親の遺産を整理し、叔父が45歳で結婚した妻の明日子と住む渋谷のタワーマンションで、愛猫のハナと一緒に暮らすことになる。

42階建てのタワーマンションの39階の1LDKに住むことになった直美。一生食べるのに困らないくらいの遺産を相続し、ハナの世話と料理が不得手な明日子に料理を教えるくらいの気楽な日々を過ごす直美は、41階で暮らす明日子と合鍵を交換する。

新しい部屋に慣れてきたころ、直美はエレベーターで偶然に人気俳優の時戸森則と出会う。再びエレベーターで時戸と出会い、頼まれるままにオムライスを作ることになったことをきっかけに、直美は時戸と関係を持ち、逢瀬を重ねる仲になる。そんな中、愛猫のハナが難病の悪性メラノーマであることが発覚し、動物病院に足を運ぶようになる。

ハナの症状は次第に悪化していく。直美は、時戸が他の女性とも関係を持っていることを知り、どうしようもない男だと思うようになっていくが、それでも時戸が好きな気持ちは変わらず、時戸と過ごす時間に刺激的で官能的な出来事を求めるようになっていたが、症状が進み醜くなったハナを嫌がる時戸の足は次第の遠のく。ハナの介護に疲れた直美は、親友の柏木美雨に、時戸との関係を打ち明ける。

年末、叔父夫妻は、ハナの介護に追われる直美を気遣って、恒例の海外旅行を取りやめようとするが、直美はそれを思いとどまらせる。クリスマスが迫ったある日、久しぶりに時戸から連絡が入り、シチューを食べにやってくるが、直美を抱くことなく時戸は出ていく。そして、12月31日の朝、ハナが眠るように息を引き取る。

ハナの死によってできた心の傷を無理やり塞いだ直美は、ネットでペット専門の葬儀会社を検索し、1月3日、思い出の場所である目黒川の川沿いで火葬する。生きがいを失った直美は、誰かにすがりつきたい思いで、初めて自分から時戸に電話をかけ、ワインを飲みにやってきた時戸を自分から誘うようにして抱かれる。虚無感から抜け出そうと気ままに買い物をしても気は晴れず、時戸との捨て鉢なセックスに依存するようになる。

引っ越して2回目の春を迎え、外出も買い物もしなくなり、マンガを読んで現実から逃避する生活を送る直美。久しぶりに時戸から電話がきて彼の部屋に行くと、1人の女性もそこにいた。一緒に飲むが、あることがきっかけでケンカ別れしてしまう。翌日やってきた明日子は、虚無的な生活を送る直美を厳しく諫め、一緒に泣く。直美は、少しずつ気持ちを切り替える努力をしようと思う。

直美は、自分のペースで生活改善に取り組み始める。そんな中、時戸が住んでいる42階で引っ越しがあると聞き、直美は時戸が引っ越すのだと直感する。4月半ば、やってきた美雨と一緒に目黒川沿いの桜並木に出かけた直美は、美雨が開いているレストランのバイトに誘われ、働くようになる。そんな中、ハナの闘病中に足繫く通った動物病院の先生に会った雅博の提案で、先生を招いてホームパーティを開く。

ホームパーティで先生の趣味である乗馬に一緒に行く約束をした直美は、2人の休みがようやく重なった6月中旬、山梨にある先生の知り合いの牧場に一緒に出かけ、馬に乗る。先生の手引きで長い距離を馬と走った直美は、そびえたつ富士山の姿に感動を覚え、勇気をもらったような気持ちになる。夏生まれの直美と美雨のために雅博が開いたパーティで、直美は新しい猫を飼うことを提案されるが、ハナとの思い出が整理されるまでは一緒に暮らさない方がいいと断る。

(ここまで)

 

基本的な設定、フワフワした浮遊感は昨年観た映画版と共通ですが、途中からの展開はけっこう違っていました。映画では、直美は出版社の仕事を辞めずに続けており、時戸との関係もケンカ別れではなく、時戸の素顔を引き出した本を作るべく、マンションの部屋で時戸にインタビューするところで終わっていたと記憶していますが、本作では、時戸との関係は完全に終わっており、直美は動物病院の先生とさらに親密になっていくのだろうと思わせる終わり方になっています。

私自身は、愛猫を失った喪失感がうまく想像できないこともあって、虚無的な生活を送り、時戸とのセックスに依存していく直美の心情は、あまり共感はできなかったのですが、独特の浮遊感、喪失からの再生というストーリー展開は悪くないと思いました。