鷺の停車場

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夏川草介「神様のカルテ3」

夏川草介さんの小説「神様のカルテ3」を読みました。

2012年8月に単行本として刊行された作品、2014年2月に加筆改稿して文庫本化されています。 前巻の「神様のカルテ2」に続いて読んでみました。

主人公である内科医が、不眠不休の病院で診療に追われる中、患者と向き合っていく物語。

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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「私、栗原君には失望したのよ。ちょっとフットワークが軽くて、ちょっと内視鏡がうまいだけの、どこにでもいる偽善者タイプの医者じゃない」
 内科医・栗坂一止が三十歳になったところで、信州松本平にある「二十四時間、三百六十五日対応」の本庄病院が、患者であふれかえっている現実に変わりはない。夏、新任でやってきた小幡先生は経験も腕も確かで研究熱心、かつ医療への覚悟が違う。懸命でありさえすれば万事うまくいくのだと思い込んでいた一止の胸に、小幡先生の言葉の刃が突き刺さる。映画もメガヒットの大ベストセラー、第一部完結編。解説は姜尚中さん。

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主な登場人物は、

  • 栗原一止:信濃大学医学部を卒業し、松本にある本庄病院の消化器内科に勤務する5年目の内科医。夏目漱石を敬愛し、その影響から古風な話し方をする少し変わった人間。

  • 栗原榛名:一止の妻。世界を飛び回る山岳写真家。一止とは3年前に知り合い、1年前に結婚。「ハル」、「イチさん」と呼び合う。

  • 大狸先生:本庄病院の消化器内科の部長。本名は板垣。
  • 進藤辰也:一止の大学の同期の血液内科医。松本城近くの老舗そば屋「蕎麦屋しんどう」の一人息子。医学部卒業後、東京の有名病院で研修医をしていたが、4月から本庄病院に赴任。

  • 進藤千夏:辰也の妻で帝都病院で働く小児科医。旧姓は如月。大学時代、一止、辰也とともに将棋部に入っていた。

  • 進藤夏菜:3歳の辰也と千夏の一人娘。
  • 砂山次郎:大学病院の医局から本庄病院に派遣されている巨漢の外科医。一止とは医学部時代からの知り合い。

  • 小幡奈美:研修医のときの指導医が大狸先生だった縁で、新たに本庄病院に赴任してきた消化器内科医。超音波内視鏡のプロ。

  • 東西直美:28歳で病棟の主任看護師になった優秀な看護師。

  • 水瀬陽子:病棟で働く2年目の看護師。砂山とは前年末から交際を始めたカップル。

  • 御影深雪:4月に本庄病院に入った新人看護師。
  • 外村さん:救急部の看護師長。おそらく40歳くらいで独身、有能で美人の看護婦。

  • 横田さん:アルコール性肝硬変のテキ屋の男性。
  • 開田ツネ:肺炎で入院している92歳のおばあさん。

  • 節子:ツネさんの妹。88歳。

  • 榊原信一:喘息発作で入院してきた36歳の男性。東西が高校3年生のときの担任だった元音楽教師。

  • 島内耕三:高度の肝機能障害で入院してきた82歳の男性。
  • 島内賢二:耕三の孫。

  • 男爵:下宿「御嶽荘」で一止たちが住む「桜の間」の真下、1階奥の「桔梗の間」の住人で、40歳前後と思われる正体不明の絵描き。

  • 屋久杉君:4月に二浪で信濃大学農学部に入学し、「御嶽荘」の住人となった学生。本名は鈴掛亮太。

  • 学士殿:かつて「桔梗の間」の向かい側の「野菊の間」の住人だった男性。信濃大学文学部の博士課程に身を置いていると自称していたが、実際には大学にも行っておらず、姉に連れられ出雲の実家に帰っていった。本名は橘仙介。

  • 乾先生:かつて本庄病院で外科部長や副院長を務め、今は郊外で「乾診療所」を営む外科医。

  • 古狐先生:本庄病院の消化器内科の副部長を務めていたが、本巻で描かれる直前の初夏、悪性リンパ腫で亡くなった。本名は内藤鴨一。

というあたり。

本編はプロローグ・エピローグと5章から構成されています。各章の概要・主なあらすじは次のようなもの。

 

プロローグ

土曜日の午後、拡大内視鏡の研究会に出て「御嶽荘」に帰宅した一止は、榛名、男爵とコーヒーを楽しむが、病院から呼び出しが入る。

第一話 夏祭り

7月の金曜日の夜、救急当直に入った一止は、次々と搬送される救急患者の治療に追われる。翌日の夕刻に病院を出た一止は、天神祭りが開かれている深志神社の金魚掬いの出店で、前日に怪我で救急で運び込まれた横田さんと会うが、突然横田さんが倒れて、再び病院に向かうことになる。日が変わるころに帰宅した一止は、榛名に30歳の誕生日を祝福される。翌日、緊急入院していた横田さんが失踪し、病院内を探すが見つからない。一止は担当看護師の水無を連れて深志神社の金魚掬いの出店に向かい、横田さんを発見し、連れ帰る。そこに、ツネさんの孫がやってくる。節子さんに説得されて、自宅に引き取りに来たのだった。

第二話 秋時雨

9月、一止は、小幡先生と辰也の歓迎会として温泉街の旅館で開かれた本庄病院の宴会に出席し、小幡先生と話す。北海道の最先端の病院を経験してきた小幡先生は、内視鏡の技術だけでなく、当直、外来など全てに隙のない医師だった。そのころ、救急で運び込まれた榊原を見た東西は驚く。榊原の肝機能障害は数日たっても改善傾向がみられないが、小幡先生はしばらく様子見でいいと話す。一止は、榊原を二人部屋から個室に移すと、ベッドの下からウイスキーのボトルが見つかる。東西は、治す気がないなら出て行ってください、と、点滴チューブを引き抜いて病室を出て行く。その夜、帰宅する一止が深志神社を訪れると、泣きはらした東西がいた。一止は東西に誘われ居酒屋に行き、その話を聞く。そして、榊原は転院していくが、東西は休みをとってそれを見送る。

第三話 冬銀河

12月初旬、次郎は医局人事で12月いっぱいで本庄病院を去ることが決まり、辰也の提案で、一止を加え3人で浅間温泉で風呂に入り、一緒に酒を飲む。吐き気で病院にやってきた島内耕三のCTスキャンで膵癌が疑われる。それは3日前に救急外来で小幡先生が診て緊急胃腸炎と診断して帰した患者だった。一止は、小幡先生がアルコール関連の患者の治療を意図的に避けていると考えるようになる。そんな中、横田さんが吐血して救急搬送されるが、内視鏡当番の小幡先生が朝まで輸血で様子を見ればいいと診断し、呼び出された一止が代わりに内視鏡をする事態となって、小幡先生は自分の真意を一止に話す。栗原君には失望した、医者は常に最新、最高の医療を提供する義務がある、無知であることは悪、との苛烈な言葉に、一止は衝撃を受ける。

第四話 大晦日

12月末、小幡先生が深夜の3時にやってきた患者を診察もせずに追い返したことで、小幡先生と救急部の外山師長が正面衝突し、その直後から外山師長がインフルエンザで不在となって、救急部は荒れていた。小幡先生に島内耕三の診断について相談に行った一止は、小幡先生から意見を求められ、診察をせずに帰したことに意見すると、小幡先生も素直に聞き入れる。一止は、島内と話し合って手術を行うことを決め、その手術の執刀は病院を離れる次郎に任される。クリスマスイブ、乾診療所に行って本庄病院に戻ってきた一止は、次郎の手術が気になって待つ間、大狸先生から小幡先生についての話を聞く。大晦日、上田の病院での日直を終えて本庄病院の当直に入った一止は、小幡先生から研修医時代の話、そして3年で医局を辞めて札幌の病院に移った理由を話す。

第五話 宴

1月3日、本庄病院を辞めたばかりの次郎から電話が入り、島内が癌ではなかったと聞かされる。自己免疫性膵炎(AIP)という薬で治る病気で、孫の賢二が誤診で手術したのかとクレームを付け、病院長や事務長、外科部長、大狸先生などとともに一止も集められて会議が開かれる。手術が正しかったのか問う病院長に、小幡先生が手術の是非は疑う余地がない、と一止を擁護して、その場は収まるが、一止は、AIPの可能性を考慮していた小幡先生と、考慮せずに手術を判断した自分との違いにショックを受ける。賢二に説明に出向いた一止は、手術の妥当性を説明する。賢二は納得しないが、一止に感謝する耕三は、賢二を一喝する。一止は4月から大学病院に行きたいと大狸先生に伝え、大狸先生は表面上は快く送り出す。内科看護師たちが開いてくれた送別会で、当直のため欠席の東西からのプレゼントを渡される。それは新刊の「草枕」だった。宴たけなわの最中、大狸先生は一止をもう一杯飲もうと誘う。行った店の座敷には3人分の支度がされていた。杯を重ねるうちに、もう1席が亡くなった古狐先生の席であることに気づき、熱い思いがこみ上げ、頭を下げる。

エピローグ

3月末、本庄病院に退職届を出し、5日間の休みをとる一止。屋久杉君は農学部がある伊那に引っ越していき、大学の新しい学生が入居してくる。その学生とは、1年ぶりに戻ってきた学士殿だった。

 

(ここまで)

 

小幡先生の哲学に触れて自らの道を考える一止が、大学病院へ移ることを決意し、本庄病院を辞めるところまでが描かれています。背表紙の紹介文にあるとおり、第一部はこれで完結となります。大学病院に移ってからの物語も読んでみたいと思います。