鷺の停車場

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香月美夜「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第三部 領主の養女Ⅲ」

香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の第三部「領主の養女Ⅲ」を読みました。

第3部の第3巻、前巻「領主の養女Ⅱ」に続いて読んでみました。

単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。

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冬の気配が近付く中、神殿長のローゼマインは城と神殿を行き来する、慌しい毎日を送っていた。社交界での交遊に、洗礼式や奉納式等への参加。識字率の向上を目指した、貴族院入学前の子供の指導、さらには成績不振な護衛騎士の教育まで、一年前とは比較にならないほど忙しい。貴族間でも神殿内でも影響力は高まっていく。一方で、グーテンベルクの職人と印刷機の改良に挑んだり、城で絵本を販売したり、本への愛情は強まるばかり。そんなローゼマインの内なる魔力もますます強力に!周囲の注目を集める中、騎士団と共に冬の主の討伐を行い、春の祈念式では新たな素材を採集するのだった。

戦いと幻想の冬を越えて、「エーレンフェストの聖女」が高く舞い上がるビブリア・ファンタジー激闘の章!

大増書き下ろし番外編2本+椎名優描き下ろし「四コマ漫画」収録!

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本巻は、プロローグ・エピローグと見出しで区切られた20節からなり、紹介文にあるとおり、巻末に番外編2編、イラストを担当している椎名優による巻末おまけの四コマ漫画が収録されています。各節のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。

 

プロローグ

ローゼマインはフランに側仕えを増やすことを相談し、ニコラを料理人見習いにし、工房の管理人としてフリッツを側仕えに召し上げることにする。フランがそれを報告すると、自分の側仕えを1人回すことを勧める。

インゴと印刷機の改良

ベンノから木工工房のインゴを孤児院長室の隠し部屋に連れてきたいと手紙が届く。事情をルッツに確認したローゼマインは、それを許し、インゴに印刷機の改善のアイデアを話す。

グーテンベルクの集い

インゴとの話し合いで印刷機の一部に金属の部品を使うことにしたローゼマインは、ヨハンとザックにも一緒に来てもらい、ザックの書いた設計図を買い取り、インゴとヨハンに作ってもらうことにする。ザックの設計図を基にさらに議論し、かなり先進的な設計図が完成する。

冬の社交界の始まり

フェルディナンドが回してくれたザームがローゼマインの側仕えとなる。冬が近づき、ルッツと簪を納めにやってきたエーファとトゥーリに、ローゼマインはカミルのおもちゃに鈴が付いた布のボールをお土産として渡す。冬の洗礼式でローゼマインはヴィルフリートたちとともにお披露目をすることになる。

洗礼式とお披露目

お披露目の日、4人の子供が洗礼式を終えた後、お披露目が始まり、身分の低い者から順番にフェシュピールを弾いていく。教育にかけられるお金の差で、身分が上がるほど演奏は上手になっていくが、ヴィルフリートも練習のかいあって無事に演奏を終える。最後に登場したローゼマインが心を込めて弾くと、魔力が魔術具の指輪に吸い取られ、祝福となって大広間に降り注ぎ、出席者はざわめく。

子供教室

ローゼマインは冬の間に開かれる子供教室に孤児院のカリキュラムを持ち込む。絵本を使うと、下級貴族のフィリーネが目を輝かせて私も絵本を作ってみたい、亡くなった母親が話してくれたことを絵本に残したいたいと話し、ローゼマインはフィリーネからその話を聞いて書き留める。

お茶会

大人たちが交友関係を広げる社交が始まる。リヒャルダが持ってくる面会依頼の手紙に目を通すローゼマインは、貴族としての母親であるエルヴィーラからのお茶会の誘いを受け、護衛騎士の親族、ダームエルの兄のヘンリック、ブリギッテの兄のイルクナー子爵、アンゲリカの両親と面会する。お茶会に出席したローゼマインはフェシュピール演奏会の会計報告を行う。フェルディナンドにイラストを売ることを禁止されたローゼマインだったが、会計報告の紙の裏にある仕掛けを施していた。

奉納式

聖杯に魔力を奉納する奉納式のため、ローゼマインは城から神殿に戻り、フェルディナンドとその側仕えのカンフェル、フリタークとともに奉納式を行う。順調に奉納式は進むが、城にいる間に溜まっていた手紙や書類に目を通していると、その中に前神殿長宛ての秘密の恋文があった。前神殿長は亡くなったと返事を書くと、その手紙は魔術具で、鳥のような姿に変わり、飛び出していく。

冬の素材採集

奉納式が3日で終わると、フェルディナンドは礼拝堂に戻すはずの神具の槍に魔力を込めるようローゼマインに命ずる。魔力を込め終え、孤児院の様子を確認したところで、冬の主・シュネティルムが出現したとの報せが入り、騎士団総出、ざっと250人くらいはいる騎士たちと向かう。強い魔力の源に近づいたローゼマインは、フェルディナンドに待機するよう指示される。

シュネティルムとの戦い

騎士団とシュネティルムとの戦いが始まる。かなりの長期戦になるが、フェルディナンドやカルステッドの攻撃で勢いがやや弱まったところで、フェルディナンドの誘導でローゼマインは神具の槍を投げ、シュネティルムを仕留める。冬の素材を集めることに成功したローゼマインだったが、熱を出して寝込むことになる。

冬の終わりへ

冬の主を討伐して冬は終わりに向かう頃、貴族院から大きい子供たちが戻ってくるが、教材で力を付けた小さい子どもたちにカルタで勝つことができない。ローゼマインは教材を子供教室で販売する許可を得るためジルヴェスターに面会すると、ハッセへの罰をどうするのか質され、町長派を処分し、税率を10年間上げることで理解を得る。

教材販売

許しを得て準備を進め、教材販売を行うローゼマイン。教材は順調に売れるが、お金がなくなかなか買うことができないフィリーネなど下級貴族には、知らない話と引き換えに、教材を貸し出すことにする。

春の訪れとアンゲリカ

春が訪れる頃、突然アンゲリカの両親が面会にやってくる。アンゲリカが貴族院の座学を合格できず、春から補講を受けるため護衛任務に就くことができなくなるため、護衛騎士から外してほしいとの申し出だった。ローゼマインは、他の護衛騎士と「アンゲリカの成績上げ隊」を結成し、ダームエルには報酬の上乗せ、コルネリウスにはレシピ、ブリギッテにはそれに見合う見返りを約束して協力してもらう。合格すれば魔剣にローゼマインの魔力を込めてもらえることになったアンゲリカは俄然やる気になる。

祈念式に向かって

勉強会で猛特訓したアンゲリカは春の補講に貴族院に戻っていく。神殿に戻り、冬の成人式と春の洗礼式を行ったローゼマインは、フェルディナンドと祈念式に向けて話し合い、護衛騎士としてエックハルト、文官としてユクトクスを同行させることにする。ベンノにトゥーリ、コリンナを連れてきてもらったローゼマインは、背が高く、流行の服が似合わないブリギッテのために考えたデザインを見せ、コリンナたちに採寸してもらう。

ハッセへの罰

神官やトールたち孤児がハッセに向かった2日後、ローゼマインやフェルディナントたちはハッセに出発する。ハッセに着いたローゼマインは、レッサーバスで広場に降り立ち、ハッセの民衆に処罰の内容を告げる。

選別の扉

連れてこられた町長は知らなかったと言い訳を並べるが、フェルディナントはそれを咎め、リヒトは反省していると懇願すると、フェルディナントはそれを証明してもらう、とシュタープを動かして選別の扉を出す。町長は通り抜けられず弾き飛ばされ、町の人々もその扉を通り、6人の反逆者が捕らえられる。

処分

フェルディナンドはユクトクスにハッセの民の登録証であるメダルから反逆者のものを取り出させ、シュタープで描いた魔法陣に投げ込むと、反逆者たちは石に変わっていき、灰のように崩れて風に飛び散ってしまう。ローゼマインは気分が悪くなったのを堪えて残った民衆に励ましの言葉をかけ、大歓声が起こる中、小神殿に向かう。護衛に当たっていたギュンターは顔色の悪いローゼマインに自分のマントを差し出し、ローゼマインはそれにくるまって眠る。

春の素材と祈念式のお話し合い

翌日、ベンノたちやギュンターたち護衛の兵士がエーレンフェストに戻るのを見送った後、ローゼマインはフェルディナンドたちと春の素材について話し合う。春の女神の水浴場ともいわれる魔力の満ちる泉に向かい、フリュートレーネの夜にライレーネの蜜を採集するという。その後、フェルディナンドにハッセで学んだことを質され、それから祈念式に向かった町や村では、同じことが起きないようハッセで起きたことを町長や村長に話すことになる。

女神の水浴場

祈念式で町や村を回るローゼマインたちは、女神の水浴場から最も近い村に到着し、祈念式の後に村の有力者に招かれた夕食で、女神の水浴場についての話を聞く。泉のタルクロッシュに注意するようアドバイスを受け、フェルディナンドは、森の中でキャンプし、タルクロッシュとともに森の害獣を退治することにする。泉の場所を確認しに出たフェルディナンドたちを森の入口で待つ間に放置された汚れた女神の像を見つけたローゼマインたちは、それを綺麗に掃除して、村人のアドバイスどおり、甘いものをお供えし、祈りを捧げる。戻ってきたフェルディナンドたちと一緒に森の中を進んだローゼマインたちは、泉の場所を見つける。

リュートレーネの夜

泉に近づくと、カエルのようなタルクロッシュが現れる。数の多さに護衛騎士たちも苦労するが、討伐に成功する。野営地に戻ったローゼマインは食事を取り、フェルディナンドから蜜の採り方を教えてもらい、採集する翌朝に備えて早く寝る。その夜、ローゼマインはレッサーバスが揺れるような感覚で目を覚ますと、野営地にいたはずのレッサーバスは泉の側に移動していた。音を立てて光が飛び出す幻想的な光景に、ロジーナはフェシュピールを取り出して奏で始める。ローゼマインが歌い始めると、水の中からライレーネの花の蕾が伸びてきて、花を開かせる。歌い終わったローゼマインは葉に乗って蜜を採る。朝日が差し込み、採り終えたところで葉は小さくなり茎が折れてしまう。

祈念式終了

空中に飛び出したローゼマインを駆け付けたフェルディナンドが助ける。ローゼマインが採集した蜜は、花自体がローゼマインの魔力に染まっていた。次の日の朝食後、フェルディナンドは、木々が意思を持っているかのようにローゼマインの騎獣であるレッサーバスを女神の水浴場まで運んだこと、フェルディナンドたちが向かおうとしても魔力の壁に阻まれて入れなかったことなどを話す。残りの祈念式を終えて神殿に戻ったローゼマインは、フェルディナンドに領地の魔力に余裕が出たらいろんな魔木を育ててみないかと提案され、代わりに図書館をくださいと返すと、フェルディナンドはその眉間に皺を刻むのだった。

エピローグ

フェルディナンドの館でローゼマインの専属料理人が作ったクッキーを食べるエックハルトは簡単に信用を勝ち得たローゼマインが少し妬ましく思う。到着したカルステッドに、フェルディナンドはフリュートレーネの夜の出来事を語る。夏の採集の話になり、フェルディナンドはローエングラム山の白い大きな鳥型の魔物リーズファルケの卵を採集すると語る。

 

最後に番外編が2編。

冬のお披露目と子供部屋

ヴィルフリートの護衛騎士のランプレヒトが、ヴィルフリートをローゼマインに負けずに次の領主に盛り立てていくため、子供部屋の子供たちから側近として取り込むことを考えるエピソード。

神殿長の専属

木工工房のインゴが、神殿長ローゼマインの専属として認めてもらおうとハッセの小神殿での仕事や印刷機の改良に取り組むエピソード。

 

さらに、著者によるあとがきの後に、「巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常家族」と題して、「冬はこたつ」「ウィンタースポーツ」「こたつにみかん」の3本の四コマ漫画が収録されています。

前巻では秋の素材の採集に失敗したローゼマインでしたが、冬と春の素材の採集には成功し、フェルディナンドに教材として課されたハッセへの対応も、ベンノたちの協力もあり、無事に収束させることができます。印刷機の改良を進めるかたわら、本の需要を高め印刷業の発展につなげようと、貴族の子供たちの識字率の向上にも取り組む八面六臂の活躍ぶり。とても順調な進み方ですが、いずれ転機が訪れるのでしょう。先も読みたくなりました。