鷺の停車場

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香月美夜「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~短編集1」

香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の番外編「短編集1」を読みました。

ローゼマインが貴族院に進んでからを描く第4部の番外編に当たる巻。

単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。

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マインとしての生活が始まり約6年。
その間にわたしは兵士の娘マインから領主の養女ローゼマインになった。
「でも、わたしだけじゃなくて、周囲の皆も色々あったんだよね。……大体わたしのせいで」
ファン待望! WEB掲載の閑話やSS、「第一部 兵士の娘」から「第四部 貴族院の自称図書委員Ⅳ」までの特典SSなど、今まで単行本に未収録の短編計21編を一冊に!

下町の面々や、孤児院、神殿、貴族院の人々のそれぞれの視点で描かれる物語。
あの頃、彼らはマイン(ローゼマイン)の知らないところで、何を考え、どう動いていたのか?

各短編に香月美夜の解説入り!
椎名優描き下ろし「四コマ漫画」も収録!

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本巻は、それぞれの視点から描かれた21編からなります。紹介文にあるとおり、各編の表紙裏には著者のひとこと解説が、巻末にはイラストを担当している椎名優による巻末おまけの四コマ漫画が収録されています。各編のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。

 

トゥーリ視点 変になった妹

最初期の第一部Ⅰの頃の話。高熱で死にそうになったマインが目覚めると、突然きれい好きになり、毎日体を拭いたり、簪やシャンプーを作り始める姿を、姉のトゥーリの視点で描いたエピソード。

ルッツ視点 オレの救世主

第一部Ⅰの頃の話。マインの幼なじみであるルッツが3人の兄と協力して森で採った冬の貴重な甘味のパルゥ。鶏の餌にしかならないその搾りかすを使ってマインがケーキを作り、兄弟たちの空腹を癒すエピソード。

ギュンター視点 娘は犯罪者予備軍⁉

第一部Ⅰの頃の話。少しずつ体力をつけたマインが初めて森に行った日、約束を破ったことを理由に森に行くことを禁止しようとする父のギュンターが、粘土板を作ることに執着するマインの怒りの目に驚くエピソード。

ヴィルマ視点 前の主と今の主

第二部Ⅰの頃の話。青色巫女見習いとなったマインの側仕えとなった孤児院担当のヴィルマが、音楽だけでなく実務を手伝うように言われた側仕えのロジーナから相談を受け、アドバイスするエピソード。

ギュンター視点 娘はやらんぞ

第二部Ⅰの頃の話。門で書類仕事の手伝いをしていたマインが神殿の巫女見習いとなって来られなくなって困った門番のレクルが、マインの父で班長のギュンターに相談するエピソード。

トゥーリ視点 絵本と文字の練習

第二部Ⅱの頃の話。孤児院で作った聖典絵本を持ち帰ってきたマインに字の書き方を教えてもらう姉・トゥーリが、絵本の値段を聞いて、マインの金銭感覚に驚くエピソード。

リヒャルダ視点 新しい姫様

第二部Ⅳと第三部Ⅰの間の頃の話。ジルヴェスター(マインが暮らすエーレンフェストの領主)は、実母ヴェローニカを捕らえた後、マインをカルステッド(エーレンフェストの騎士団長)の子・ローゼマインとした上で、自分の養女にする。ジルヴェスターの頼みで、ローゼマインの筆頭側仕えとなったリヒャルダの視点から、その様子を描いたエピソード。

ハルトムート視点 運命の洗礼式

第三部Ⅰの初めの頃の話。母親のオティーリエがローゼマインの側仕えとなることが決まり、不満を抱きながらローゼマインの洗礼式に親族として参列したハルトムートが、洗礼式でのローゼマインの姿に魅了されるエピソード。

クリステル視点 お姫様とのお茶会

第三部Ⅰの頃の話。中級貴族クリステルの視点から、ヴェローニカの幽閉、ローゼマインのジルヴェスターとの養子縁組などでエーレンフェストがどう変化したかを描いたエピソード。

ランプレヒト視点 私の進む先

第三部Ⅲの頃の話。ジルヴェスターの実子でローゼマインの兄のヴィルフリートが廃嫡の危機に瀕し、その側近を辞めてもいいと言われて悩むランプレヒト(カルステッドの次男)が、実兄のエックハルトに今後の身の振り方を相談するエピソード。

エックハルト視点 ユクトクスへの土産話

第三部Ⅲの最後の頃の話。神殿長のローゼマインと神官長のフェルディナンド(ジルヴェスターの異母弟でローゼマインの後見人)が向かう祈念式に同行したエックハルト(フェルディナンドの護衛騎士)が、ユストクス(フェルディナンドの側仕え兼文官)からねだられて、祈念式で見聞きした驚愕の事柄を話すエピソード。

ヴィルフリート視点 弟妹との時間

第三部Ⅳの頃の話。領主会議でジルヴェスター夫妻が不在の間、ヴィルフリートが洗礼式前の実妹シャルロッテ実弟メルヒオールのところに遊びに行くエピソード。

コルネリウス視点 後悔まみれの陰鬱な朝

第三部Ⅴの終わり頃の話。突然の襲撃の際、ローゼマインの望みに従ってシャルロッテを救出に向かったためにローゼマインを守れず後悔するコルネリウス(カルステッドの三男・ローゼマインの兄で、ローゼマインの側近の上級護衛騎士見習い)が、翌朝、母親のエルヴィーラ(カルステッドの第一夫人)と話すエピソード

コルネリウス視点 妹を守るために

第三部Ⅴの頃の話。ローゼマインが襲撃を受けた翌日、コルネリウスが同じくローゼマインの護衛騎士であるダームエル(下級護衛騎士)、ブリギッテ(中級護衛騎士)、アンゲリカ(中級護衛騎士見習い)たちと話すエピソード。

ヒルシュール視点 特別措置の申請

第三部Ⅴから第四部Ⅰにかけての頃の話。エーレンフェストからローゼマインへの特別措置の申請が貴族院に届く。ヒルシュール貴族院の教師でエーレンフェストの寮監。フェルディナンドの貴族院時代の師匠)の視点から、領地外でローゼマインがどう見られているか、フェルディナンドの変化などを描いたエピソード。

ローデリヒ視点 私の心を救うもの

第四部Ⅱの頃の話。後にローゼマインの側近となるローデリヒの視点から、冷遇される旧ヴェローニカ派の貴族たちの現状を描いたエピソード。

フィリーネ視点 貴族院からの帰宅

第四部Ⅲの後半の頃の話。一年生の課程を終えて貴族院から城に戻ったフィリーネ(ローゼマインの側近の下級文官見習い)の視点で、自宅に帰る側近たちや自宅での弟コンラートの様子などを描いたエピソード。

フィリーネ視点 わたくしの騎士様

第四部Ⅲの終わりごろの話。ローゼマインが領主一族の側近たちに魔力圧縮を教える日に休んだフィリーネが、心配するローゼマインがフィリーネの家を訪ねて助け出されるまでの間に何があったのかを、フィリーネの視点で描いたエピソード。

シャルロッテ視点 新しい一歩

第四部Ⅳの初めの頃の話。兄ヴィルフリートに勝って次期領主になるようにと育てられてきたのに、ヴィルフリートとローゼマインの婚約でその道が断たれたシャルロッテが、母・エルヴィーラとのお茶会で、新しい一歩を踏み出すことを決意するエピソード。

シャルロッテ視点 わたくしの課題

第四部Ⅳの後半の頃の話。神殿にいるローゼマインからエントヴィッケルン(街を改造する魔術)について調べることを依頼されたシャルロッテが、ヴィルフリートの振舞いを見て、将来への不安と歯痒さとともに、自分の今後の課題を実感するエピソード。

フィリーネ視点 わたくしの主はローゼマイン様です

第四部Ⅳの半ば頃の話。ローゼマインの側近として神殿で文官仕事を手伝うようになったフィリーネが、ローゼマインとの出会い、ローゼマインに仕えることを心に決めたときのことなどを回想するエピソード。

 

さらに、著者によるあとがきの後に、「毎度おなじみ 巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常貴族院」と題して、「邪」「お兄様、努力が足りません!」「危険信号」の3本の四コマ漫画が収録されています。

 

時期的には、第4部の第8巻「貴族院の自称図書委員Ⅷ」の後に発行された単行本ですが、紹介文にあるとおり、第4部の第4巻「貴族院の自称図書委員Ⅳ」までで描かれた時期を舞台にした短編が収められているので、「貴族院の自称図書委員Ⅳ」までを読んでいれば、どの短編も問題なく読むことができます。本編での描写と重なる短編もありますが、全く本編では触れられていない部分もあり、読むことで、物語の奥行きが少し広がって感じられるのではないかと思います。