鷺の停車場

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原田マハ「一分間だけ」

原田マハさんの小説「一分間だけ」を読みました。

2005年に「カフーを待ちわびて」で第1回日本ラブストーリー大賞を受賞した小説家・原田マハの比較的初期の作品で、2007年4月に単行本が刊行、2009年6月に改訂を加えて文庫本化されています。2014年には、台湾で映画化されているようです。

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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ファッション雑誌編集者の藍は、ある日ゴールデンレトリーバーのリラを飼うことになった。恋人の浩介と一緒に育て始めたものの、仕事が生きがいの藍は、日々の忙しさに翻弄され、何を愛し何に愛されているかを見失っていく……。浩介が去り、残されたリラとの生活に苦痛を感じ始めた頃、リラが癌に侵されてしまう。愛犬との闘病生活のなかで、藍は「本当に大切なもの」に気づきはじめる。

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主な登場人物は、

  • 神谷藍:主人公。渋谷区にある中堅出版社・たから出版のモード誌『JoJo』編集部に勤続10年・31歳のエディター。ゴールデンレトリーバーのリラの飼い主。

  • 津村浩介:藍と同居する2歳下の恋人。大物コピーライターの岩倉誠のアドバイスフリーランスのコピーライターとなり、在宅で仕事している。

  • 西野友里:2人と親しいドッグラン仲間でミニチュアダックスのショコラの飼い主。5年前に結婚した27歳の専業主婦で、プロ級に料理がうまい。

  • 北條恵子:『JoJo』の編集長。5年前に着任して雑誌を大胆にリニューアルし、販売部数を劇的に伸ばしたやり手編集長。

  • 多川奈津美:入社2年目の編集部の同僚で藍のアシスタント。藍のピンチにはリラのお世話なども買って出てくれる。

  • 大田麻衣子:編集部の同僚で藍の同期。

  • 岡部翔:『JoJo』に連載を持つフリーランスのライター。年上女性編集者キラーでモード誌にひっぱりだこ。
  • 宮崎先生:リラの主治医となる獣医。

  • 斎藤さん:藍に親身に接するリラの通院時のタクシーの運転手。

など。

 

本編は、導入部と数字で区切られた15節で構成されています。それぞれの節の概要・あらすじを大まかに紹介すると、次のような感じです。

 

リラが待つ家に帰るために家路を急ぐ藍は、あと1時間だけ時間をくださいと神様に願う。

1
東京の西の住宅地に住み、80分かけて通勤する藍は、休日の朝、ゴールデンレトリーバーのリラを連れて散歩した後、朝食を持って、恋人の浩介とドッグランに出かけ、ドッグラン仲間の友里と話す。
2

ウィークデイ、タクシーで帰れる距離ではなく、最終電車で帰るため、早朝出勤する藍。編集部に一番乗りし、仕事をこなしていく。北條から来日するマドンナのインタビューの担当を持ちかけられるが、弱気な一言を漏らしたことで、担当を麻衣子に取られてしまう。何とか最終電車に乗って帰宅した藍は、浩介が作ったカレー鍋を食べ、ベッドのもう寝ている浩介の隣に潜りこむ。

3

恵比寿のワンルームマンションに住んでいた7年前、モード誌の編集部のエディターとなって4年目の26歳の藍は、仕事も恋も生活も順調だった。編集者になって3年目に、仕事で浩介と初めて会い、互いに惹かれる。

4

一緒に暮らすようになってちょうど1年が経った2月、雑誌の売上げが落ち込む中、当時の編集長・久米はペットの特集を企画し、藍は取材に初めてペットショップを訪れる。そこで売れ残っていた大きいゴールデンレトリーバーが間もなく殺処分されると聞いた藍は、浩介に話し、ペット禁止のワンルームマンションを出てその犬を飼うことにし、リラと名付ける。

5

2月の初め、編集企画会議のためにいつもより30分早く出勤する藍。会議で、藍が提案した企画は北條に認められる。雑誌に連載を持つ翔に誘われビストロに行った藍は、海外に行く特集もやりたいと聞かされる。

6

3月中旬、浩介が岩倉誠事務所に誘われて3泊4日の社員旅行に行くことになり、藍がひとりでリラの世話をすることになる。何とか仕事を早く切り上げて帰宅し、11時過ぎに家のドアを開けると、家では排泄しないリラが飛び出してきて、玄関前でしゃがみこみ、おしっことうんこをする。翌日、深夜1時を過ぎて帰宅すると、キッチンにおしっこやうんこをまき散らしていて、思わず藍は激高してリラを怒り散らしてしまうが、リラが限界まで待っていたことに気付き、リラを抱きしめる。

7

浩介が帰ってきて、ドッグランに行った藍。浩介と友里が楽しげに話すのを後に出勤し、校了に間に合わせる。海外モノの企画を立て始める藍に、翔からお昼の誘いのメールが入り、海外モノの取材に連れていってほしいと懇願される。偶然その店に入ってきた友里と2人になると、友里は離婚してもうすぐこの近くに引っ越すと告白する。編集企画会議で藍は海外モノの企画を提案するが、北條に厳しく却下され、落ち込んで帰宅する。リラを疎ましく感じる藍は、リラに八つ当たりし、浩介に別れようと切り出すが、翌日、他のひとに恋しているのは僕のほうだ、と浩介のメッセージを見る。

8

それを見た瞬間に、浩介が恋しているのが友里だと直感した藍は、虚脱感に襲われる。友里に対する憎悪が膨らむが、考え直して仕事に向かい、帰宅する。その日は藍の誕生日で浩介は起きて帰りを待っていた。自分の気持ちを打ち明ける浩介が、友里に告白したが、藍のことを差し置いて応えられるはずがないとフラれたと語るのを聞いて、藍は友里も浩介を愛しているのだと感じる。翌週、友里を誘って恵比寿でお昼を食べた藍は、もう二度と会わない、自分のことは気にしないでほしいと告げ、席を立つ。

9

何もしないで待つことに耐えられない藍は、浩介に別れを告げ、浩介がリラを連れて引っ越すことになる。レンタカーの軽トラックにリラを乗せて浩介は出発し、藍は心にぽかんと穴が開いて涙がこみ上げるが、リラが走って戻ってくる。運転できないくらい暴れ出して、外に出したらこうなったと話す浩介に、藍は自分が飼うことを決める。

10

浩介が出て行って、藍は10時までに帰宅できるよう起床時間をさらに早め、ペットホテルも使ったりしてリラとの暮らしを送る、1ヶ月はなんとか乗り切ったが、北條の指示で接待ディナーなど代理で夜に出かけることが増え、遅く帰宅してリラが粗相していることが増える。北條に評価されていることを感じる藍は、リラの死を一瞬願うようになる。

11

リラの左前足の付け根が腫れていることに気付いた藍は、リラを動物病院に連れていく。最初に行った病院ではばい菌が入って化膿していると言われるが、ドッグラン仲間にそこはヤブ医者だと言われ、紹介された医療機器の揃った病院に電話すると、医師の宮崎からすぐに来るよう言われる。診てもらうと、脾臓の癌が見つかる。手術してください、と言う藍は、宮崎にあなたは自分が楽になりたいだけだと指摘され、自分が現実から逃げようとしていたことに戦慄し、リラと一緒に生きていこうと決意する。

12

翌日、出勤した藍は、北條にお願いがあると会議室に呼び出し、家族が病気で深刻な状態なので、担当の仕事のメインを奈津美に変えてほしいと直訴する。奈津美にも事情を話し、重圧に気後れする奈津美をチャンスだと励ます。次の日、リラを病院に連れていって11時に出社した藍を翔が待っていた。犬のために自分の担当を降りたことに文句を言う翔に、あなたは犬以下、と決別する。少しずつリラの調子が持ち直してくる中、北條から食事に誘う電話が入る。北條は、飼っていたチワワが3ヶ月前に癌だと宣告され、結局ひとりで逝かせてしまったと告白し、文句を言ってきた翔の連載は打ち切ったと伝える。

13

9月中旬、リラは散歩に出かけられるくらいに回復してきたが、もっとも危険な時期を乗りきった安心感からか、藍は高熱を出してしまう。リラの下腹部がぱんぱんに腫れているのに気づき、動物病院に電話するが安静にするように言われた藍は、浩介に電話をかけ、事情を話してリラを病院に連れていってもらう。翌日、浩介の付き添いで病院に行った藍は、もう手の施しようがない、いつ逝ってもおかしくないと言われたと聞かされ、ほっとけないからしばらく家にいさせてほしいと頼まれる。

14

3日休んで久しぶりに出社した藍は、北條に呼び出される。マドンナのインタビューを取ってみないかとの提案に、最初は断るが、麻衣子が自分には責任が重すぎると辞退したのだと聞き、受けることにする。帰宅し、浩介とテーブルを囲んでいろんな話をする時間を過ごし、どうして別れてしまったのだろうと思う藍。浩介は、友里と結婚しようと思うと告白するが、君はずっと大人になった気がする、いい女になった、今ごろ気付くなんておれも馬鹿だな、と語る。10月1日、編集企画会議を前に奈津美と打ち合わせる藍は、リラと出会った頃にボツになったペットの企画を見つけた奈津美の提案で、セレブとペット問題を結び付けた企画を急ぎ作ることにする。会議でプレゼンしている最中に、浩介からリラが危ないと電話を受けた藍は、家路を急ぐ。

15

リラは藍が家に着く10分前に息を引き取ってた。藍は、宮崎先生や奈津美、友里たちに連絡する。動物霊園に火葬に出したリラの骨が帰ってくる日、藍と浩介は、家中を掃除して空気を入れ替える。藍が昼近くに出社すると、北條は中断した藍のプレゼンの続きを始める。企画は通り、2月後の第一特集に決まる。浩介は、藍を見ていて、自分も挑戦してみようと思った、小説を書いてみると明かす。骨が帰ってきて、浩介とリラとの散歩道を歩く藍は、1時間だけリラが生き返ってもう一度一緒に歩けたらと思う。浩介は、1分間だけ、あればいいと言い、藍を抱きしめる。「さよなら」と言わないかわりに抱きしめてくれたことがわかった藍は、腕の中で甘える。

(ここまで)

 

別れの物語なのですが、最後はほんのり心が温かくなる作品でした。犬種は違いますが、同じく家で犬を飼っていることもあって、主人公の心情が身に迫るように感じられるところもありました。

ただ、犬が頑固という設定ではあるものの、トイレトレーニングができていれば、主人公も犬も、もう少しストレスを感じずに生きられたはずで、飼い始めた時期にそれが徹底できてなかったことが、後になってリラを苦しめ、自分の首を締める結果になってしまったのだろうと思わずにはいられませんでした。