鷺の停車場

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石塚真一「BLUE GIANT」第8巻~第10巻

劇場版アニメ「BLUE GIANT」を観て読み始めた、石塚真一さんの原作マンガ、最後まで読みました。単行本の第7巻までについては既に書いたので、第8巻~第10巻について書きたいと思います。

これらの巻に出てくる主な登場人物を紹介すると、

  • 宮本 大:主人公。仙台出身。高校に入ってからジャズに魅せられ独学でテナーサックスの練習に打ち込み、卒業後、ジャズプレーヤーを目指して上京し、雪祈、玉田とジャズトリオ「JASS」を組み、活動を始める。

  • 沢辺 雪祈:大が出会った同じ18歳のピアニスト。青丘学院大学1年生。

  • 玉田 俊二:上京した大が転がりこんだ東京の大学に進んだ大の高校時代の友人。大学のサッカーサークルを辞めてドラムを始めた。

  • アキコ:ジャズバー「TAKE TWO」のママ。雪祈たちにお店を練習場所として提供する。

  • 平:日本で最高峰のジャズクラブ「So Blue」事業部。

  • 五十貝:CDの制作やデジタル配信を行う21ミュージックのジャズ担当。JASSに目を付けて声をかけ、CDを売り出そうと動き出す。

  • 天沼 幸星:結成8年目の4人組モード系ジャズグループ「アクト」のピアニスト。

  • 宮本 彩花:大の妹の中学1年生。

  • 宮本 雅之:大の兄で22歳。高校を出て仙丸化学工業の向上で働いており、一人暮らしをしている。大のためにローンでセルマー製のテナーサックスをプレゼントした。

  • 大の父:スーパー「グレート」の店長を務める。ジャズプレーヤーを目指す大を後押しする。

  • 由井:仙台で個人スタジオで音楽教室を開くミュージシャン。大の才能を見出し、大が上京するまでサックスを無償で教えていた。

  • 三輪 舞:大の高校時代の同級生の長身の女の子で、大が想いを寄せていた。地元の大学に進んでいる。

など。

 

各話のあらすじを、ごくごく簡潔に紹介すると、次のような感じです。

 

まず、単行本の第8巻。

第57話 BUT NOT FOR ME

平の厳しい言葉が頭に残る雪祈は、立ち直るために、その日、自分たちのライブを観に来てサインを求めたのを断ってしまった客に会おうと「JAZZ Spot 禅」などを訪ね回るが、見つからない。そんな時、大が雪祈のアパートを訪ねてきて、ソロをどう演るかで悩んでるなんて、次元が違いすぎて話にならない、悩むこと自体おかしい、悩んでる時間あるのか、と残酷な言葉を投げる。深夜の交通整理のアルバイト中、通りかかった金田豆腐店の軽トラックを見て気づいた雪祈は、バイトの後、金田豆腐店を探し出し、早朝に店を開けた主人を見て、あの人だと確信し、サインを渡して、次はもっといい演奏をするので、と頭を下げる。

第58話 ALONE AND I

自分のソロについて悩み続ける雪祈は、「TAKE TWO」に行き、アキコにお願いして翌日の定休日にずっとピアノを弾かせてもらう。考えを捨てた無の演奏をしなければとピアノに向かう雪祈。翌日、風邪気味のアキコは旧友と会う。その翌日、店を開けるためにアキコが「TAKE TWO」に行くと、雪祈はまだピアノの前に座っていたが、どうだった?との問いに、全然です、と答えるのだった。

第59話 MINOR MARCH

平は、往年の伝説のピアニストを「So Blue」に迎えるが、その演奏を聴いて、昔は良かったがもはや取り戻せないのだろうかと思う。別の店でジャズライブを聴ききながら、JASSは面白かった、だから感情のままに言いすぎた、と反省する平は、そのライブを聴きに来ていた大を見つけ、一杯おごる、とスナックに誘う。平の問いかけに大は、雪祈はしばらく苦しんでいる、カベを破れなかったら終わりだが、雪祈は破るでしょう、と話す。

第60話 AND MORE

ライブを行うJASSの3人だが、雪祈はまだカベを破れないでいた。苦しみながらソロを弾く雪祈に、大はまだソロを続けろとあおり、やるしかないと一心不乱にソロを弾く雪祈は、何かをつかむ。

第61話 NOW'S THE TIME

そのライブを聴きに来ていた五十貝は、正面からジャズをやるJASSに、自分がずっと探し続けていたのはこれだと感じ、終演後に声をかけ、通るか分からないが企画に出すからと音源を渡してもらう。五十貝は制作中の新人アーティスト・神木正人の初アルバムは1万枚はいけると思うが、1,500枚と値踏みされ、販売担当の部長に懇願して何とか2,000枚にしてもらう。神木は大喜びするが、五十貝はやりきれない思いになる。

第62話 DO A THING

ドラムに打ち込んで大学に行ってなかった玉田に、それを知った母親から電話がかかってくる。久しぶりに大学に行った玉田だが、肌に合わず再びドラムの練習に打ち込み、母親に留年させてほしいと電話する。そして、大と雪祈に練習してきたドラムソロを聞いてもらうと、2人の顔はほころぶ。

第63話 MY FOOLISH HEART

12月27日、大がメンテナンスに出していたサックスを引き取って転がり込んでいる玉田のアパートに帰ると、玉田は留年の説明に帰省していく。財布を落とし全財産の10万円を失った大は、残りわずかなお金で何とか年末年始を過ごすことになる。大晦日、実家に帰省した雅之から電話が掛かってきて、代わった彩花に東京に来てから幸運なんだ、だから帰らないと話す。

第64話 STAR EYES

年が明けて、雪祈に電話があり、JASSに「カツシカジャズフェスティバル」への参加の誘いが来る。出演者打ち合わせに行った雪祈は、親睦会で、天沼から、演奏を聴いたことはないが、知り合いに若くて元気なグループを聞いたらJASSの名前が出てきたと聞かされる。音楽の方向性は何か聞かれた雪祈がジャズをやっていると答えると、天沼は、中身が言えない音楽をやっていると見下し、ニーズに答える努力をしないと、と説くが、雪祈は「アクト」に勝つと宣言して席を立つ。

 

なお、本編の後には、「BONUS TRUCK 1」として五十貝の回想を描いた短編が、「BONUS TRUCK 2」として、編集者と作者のやり取りをユーモラスに描いた短編が収められています。

 

続いて、単行本の第9巻。

第65話 STRAIGHT, NO CHASER

ムカついて帰ってきた雪祈は、大と玉田に天沼とのやり取りを話し、3人は「アクト」に勝とうとやる気になる。そして当日、JASSのリハーサルを聞いた天沼は、悪くない、と話すが、大は、メチャクチャ盛り上げるので、天沼さん達もガンバってください、と対抗心をむき出しにする。

第66話 STEP FORWARD

フェスティバルの本番が始まり、JASSの3人は、会場の大多数の「アクト」ファンをつかもうと、ステージ構成を組み換え、大のソロで観客の心をつかむ。天沼も、リハーサルとは一変した演奏に驚く。

第67話 CHANCE IT

そして玉田のドラムソロ。3人の演奏に観客は盛り上がり、JASSのステージは終わる。トリを務める「アクト」がステージに上がると、JASSの演奏に興奮した観客に迎えられ、天沼たちも必死で演奏し、喝采を浴びる。

第68話 MILESTONES

中学生になった彩花。大から贈られたフルートで由井のレッスンを受けるようになっていた。由井に訊ねられて大の様子を話す彩花。一方、雅之は、会社の新人を食堂でおごり、競馬はしないが、でかいのカケていると話す。そして、父は、スーパーの同僚と行ったスナックで、大は全然帰ってくる気配がないと話す。父が帰宅すると、雅之も帰ってきていた。彩花が作ったカレーを食べながら、大はどうしているのかと話す父に、彩花は絶対大丈夫、と断言する。

第69話 BLUES IN A LIFE

ライブを重ねるJASSは、80人の会場をいっぱいにできるようになっていたが、雪祈はこれでいいのか自問する。ある日のライブ、演奏する雪祈は、突然、ああ、そうだ、と何かに気づく。終演後、雪祈に、かつて母がピアノを教えていたアオイが声を掛け、ピアノを続けていたと話す。雪祈は、音楽やっててくれて良かった、と思いのたけを言葉にする。

第70話 SPEAK NO EVIL

玉田のアパートに転がり込んでいる大を、突然三輪が訪ねてくる。三輪の希望で、2人はお台場に行く。大は東京に出てからの経過を報告する。三輪のことは忘れていなかったと話すと、三輪は嬉しそうな顔をする。最後に乗った観覧車で、三輪は好きな人ができた、今日会って1年間ほとんど連絡を寄こさなかった大を怒ろうと思っていたけど、怒れなかったと打ち明ける。大は、そりゃそうだようね、と自らを納得させるようにつぶやく。別れ際、三輪は大が世界一のサックスプレーヤーになるのを疑ったことはないから、と言い、大は大きく手を振って別れる。

第71話 COOL GREEN

JASSのライブを聴きに来ていた平。そのライブの後、雪祈は大の演奏がいつもと違ってヤワかったと指摘する。大は好きだった三輪が仙台から来てフラれたことを打ち明け、気持ちを仕切り直して、「ソーブルー」のステージに立つ、と目標を掲げる。一方の平は、「So Blue」でスタッフの内山が、1,000円くらいのライブにもたまに行くが当たり外れが激しい、10回行って1回良ければという感じ、「ソーブルー」は大当たりはないとしても外れはまずない、と話すのを聞いて、プレーヤー達に舞台に立つチャンスをどれだけ与えられているのかと自問する。そこに、海外から来日するグループのピアニストが体調不良のため代わりのピアニストを探してほしいと頼む電話が入り、平は雪祈に白羽の矢を立てる。

第72話 FULL HOUSE

平から出演依頼を受けた雪祈は、大と玉田にその話をすると、大はその場でそのステージ「フレッド・シルバー・カルテット」のチケットを予約し、玉田も雪祈の背中を押す。雪祈は、家で送られてきた楽譜を徹夜で練習し、「So Blue」に向かう。リハーサルを終えて、フレッド・シルバーも問題ないと言い、出演が本決まりになる。そして、大と玉田も見守る中、本番を迎える。

 

なお、本編の後には、「BONUS TRUCK」として、雪祈が代打で出演したライブを回想する平を描いた短編が収められています。

 

次に、単行本の第10巻。

第73話 REMEMBER

本番のステージが始まり、フレッド・シルバーのソロに、今まで彼が吹いてきた時間が一発で見えるソロだ、と感じ、自分のこれまでの回想が頭に浮かぶ。それを見守る大は、雪祈のオーラがスゴすぎて雪祈にした目が行かないと玉田に漏らす。雪祈は、自分のソロが近づき、「ソーブルー」でやる初めてで、最後かもしれないソロ、内蔵をひっくり返してやるとピアノに向かう。

第74話 PASSION DANSE

そしてやってきたソロ、雪祈は、正直に、自分のできることをやろう、と弾き、その演奏に平は震え、大は表情がほころぶ。演奏が終わり、フレッド・シルバーたちメンバーも雪祈の演奏を称え、雪祈も達成感を感じる。3日間の公演が終わり、フレッドは早くアメリカに来るといい、と言うが、雪祈は、JASSで「ソーブルー」のステージに立つのが目標だと話すと、フレッドは、いつ「ソーブルー」で演るんだ?と平に訊ね、平は一日でも早く、と答える。

第75話 SOMETHIN' SPECIAL

19歳で「ソーブルー」のステージに立った雪祈は、ジャズ雑誌でも記事となり、一気に注目を集める。翌月、平は雪祈に、JASSを「ソーブルー」に出演させたいと話し、「ソーブルー」は通常3日6公演で出演依頼するが、君たちの知名度では3日間は不可能、そこで4か月後に1日2公演のショーを組む、その間に客を増やし、音楽にも磨きをかけてほしいと話す。そのころ、五十貝もJASSを売り出せないかと策を考えていた。平はショーを成功させようと雑誌記者に電話して記事にしてもらうよう依頼する。「TAKE TWO」で3人で練習した後、店を開けるためにやってきたアキコに、雪祈は「ソーブルー」出演が決まったことを報告し、初めて聞いた大と玉田も驚き、アキコは3人には見られないようにしながら涙する。

第76話 FIRE WALTZ

「ソーブルー」出演に向け、曲作りも進める雪祈は、自分が作曲が好きなことを自覚する。一方、五十貝も「ソーブルー」での手応えを条件に、CD化の許可を取り付ける。しかし、「ソーブルー」出演を2日後に控えて、雪祈は深夜の交通整理のバイト中にトラックに轢かれてしまう。

第77話 SPEAK LOW

連絡を受けた大と玉田が病院に向かうと、雪祈は集中治療室で手術を受けており、バイト先の人から、命に別条はないが、右腕がひどくやられて、残せるかどうかわからないと聞かされる。その帰り、深夜の「TAKE TWO」に向かった大は、今は止まってはダメな気がする、と玉田と2人で練習する。翌日、大からその連絡を受けた平は、ライブはキャンセルせざるを得ないと話すが、大はやらせてください、と懇願する。平は緊急の会議を開き、2人での出演を受け入れる。そしてライブの当日、アキコも聴きに来た「So Blue」は、雪祈が出演しなくなって、客はだいぶ減ったが、6割ほどは入っていた。開演の19時となり、平は自らマイクの前に立ち、事情を説明し、2人をステージに招き入れる。

第78話 BLUE TRAIN

そして、アキコが心配そうに見守る中、ライブ本番が始まるが、2人の演奏は観客の心を捕らえ、演奏を終えた2人には励ましの声が飛ぶ。出迎えた平は目頭を押さえ、とても意味のあるライブだった、と2人を慰労する。意識が戻った雪祈の見舞いに行った大と玉田はライブの様子を報告し、雪祈は、右腕が元に戻るか分からない、元通りになるとしても何年もかかると話し、JASSは解散しようと言う。

第79話 BLUE MINOR

雪祈の言葉に、大はわかった、と答える。玉田は何だよそれ、と声を荒げるが、雪祈は、大は一日も止まっちゃいけない奴だ、と言い、オレは治すから心配するな、治ったらまたいつか演ろうぜ、と言って2人を帰す。その帰り道、玉田も、「ソーブルー」で演って、大がもっと上に行くヤツだってよく分かった、だからお前は俺とも離れなければ、と話す。1人で先に玉田の部屋に帰った大は、涙を流し、楽器を持って部屋を出て、飲み屋に入るが、酔客に絡まれてケンカになり、警察に捕まってしまう。身元引受人として仙台から上京してきた雅之に、大は海外に行くと宣言する。

最終話 EAST OF THE SUN

仙台に帰り、由井を訪れた大は、由井の前で演奏し、経緯を報告する。できればアメリカじゃなく他の場所に行きたいと話す大に、由井は、自分はジャズで有名なボストンにある「バークリー」に行ったが「世界のプレーヤー」にはなれなかった、「世界のプレーヤー」になる奴はどこから始めてもなる、と話し、大にヨーロッパのある国を勧める。大は、その国に行く、と決め、玉田の見送りで、空港行きのバスに乗る。自宅で左手で作曲する雪祈に、空港に着いた大から電話が入る。大は、オレはお前のピアノが好きだ、オレが一番のファンだと語り、それを聞いた雪祈は涙を流す。

 

なお、本編の後には、「BONUS TRUCK 1」として由井の回想を描いた短編が、「BONUS TRUCK 2」として、編集者と作者のやり取りという形で、読者への感謝と、物語が「ブルージャイアントシュプリーム」として続くことを伝える短編が収められています。

 

(ここまで)

主人公が世界一のジャズプレーヤーを目指してまっすぐに突き進んでいく姿を熱く描いたいい作品。音楽の盛り上がりを感じさせる作画も見事で、劇場版アニメを観たときの興奮を思い出しました。「BLUE GIANT」としてはこれで終結ですが、第10巻のBONUS TRUCK 2にあるように、物語としてはさらに先まで続いていっているので、機会あれば、続きも読んでみたい気がします。

なお、劇場版アニメでは、かつしかジャズフェスティバルに参加するシーンは、沢辺が平に酷評される前に描かれていましたが、本作では時系列が逆になっています。また、劇場版アニメでは、最後の「So Blue」でのライブで、病院を抜け出した沢辺が後半のステージに上がって、左手だけでセッションに参加する、という設定になっていましたが、アニメでは、劇伴として実際の音楽も聴かせなければならないので、サックスとドラムだけで観客を圧倒する音楽を用意するのは難易度が高かったのだろうと思います。