鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

映画「658km、陽子の旅」

平日の夜、キネマ旬報シアターに行きました。


この週の上映作品。


上映スケジュール。


この日観たのは、「658km、陽子の旅」(7月28日(金)公開)。全国20館と小規模な公開。6月に開かれた第25回上海国際映画祭で最優秀作品賞、最優秀女優賞、最優秀脚本賞の3冠に輝いたというニュースを聞いて、気になっていました。


上映は148席のスクリーン2。公式SNSによると、昼間の上映回は連日お客さんがけっこう入っているようですが、平日のレイトショーということもあり、10人ちょっとという感じでした。


(チラシの表裏)

 

42歳のフリーターの女性が、疎遠になっていた父親の死の知らせを受け、故郷のある青森県弘前へ向けて東京からヒッチハイクの旅をする姿を描いたロードムービーで、監督:熊切和嘉、原案&共同脚本:室井孝介。

 

公式サイトのストーリーによれば、

 

東京から青森へ 明日正午が出棺。
父親の葬儀にも、人生にも何もかも間に合っていない―

42歳 独身 青森県弘前市出身。人生を諦めなんとなく過ごしてきた就職氷河期世代のフリーター陽子菊地凛子は、かつて夢への挑戦を反対され20年以上断絶していた父が突然亡くなった知らせを受ける。従兄の茂竹原ピストルとその家族に連れられ、渋々ながら車で弘前へ向かうが、途中のサービスエリアでトラブルを起こした子どもに気を取られた茂一家に置き去りにされてしまう。陽子は弘前に向かうことを逡巡しながらも、所持金がない故にヒッチハイクをすることに。しかし、出棺は明日正午。北上する一夜の旅で出会う人々―毒舌のシングルマザー黒沢あすか、人懐こい女の子(見上愛)、怪しいライター(浜野謙太)、心暖かい夫婦(吉澤健、風吹ジュン、そして立ちはだかるように現れる若き日の父の幻オダギリジョーにより、陽子の止まっていた心は大きく揺れ動いてゆく。冷たい初冬の東北の風が吹きすさぶ中、はたして陽子は出棺までに実家にたどり着くのか…。

 

・・・というあらすじ。

 

主な登場人物は、次のようなもの。

  • 工藤 陽子【菊地 凛子】:主人公の42歳のフリーター。18歳のときに家を飛び出し、実家と断絶していたが、父・昭政が死んだと茂に聞かされ、青森に帰る茂の車に乗るが、途中で置き去りにされていまう。

  • 工藤 茂【竹原ピストル】:陽子の従兄。妻と2人の子を連れて昭政の葬儀のため青森に帰る車に陽子を乗せるが、途中のサービスエリアで陽子を置き去りにしてしまう。

  • 立花 久美子【黒沢 あすか】:陽子が車に乗せてもらったシングルマザー。務めていた会社が社長の夜逃げでつぶれていまい、就職の面接のため行った東京からの帰りに陽子を乗せる。

  • 小野田 リサ【見上 愛】:車を降りたパーキングエリアで陽子が出会った人懐っこいヒッチハイカーの若い女性。中学までは陸上をしていた。

  • 若宮 修【浜野 謙太】:陽子が車に乗せてもらったライター。

  • 木下 登【吉澤 健】:陽子が車に乗せてもらった70代の農家。震災で家を失い、復興住宅に暮らしている。

  • 木下 静江【風吹 ジュン】:登の妻。登の体を気遣う明るい女性。

  • 八尾 麻衣子【仁村 紗和】:陽子が車に乗せてもらった若い女性。

  • 水野 隆太【篠原 篤】:陽子が車に乗せてもらった男性。

  • 工藤 昭政【オダギリジョー】:亡くなった陽子の父。

 

夢を追って実家を飛び出したものの、夢破れて家にひきこもりフリーターをしている42歳独身の陽子が、父の死を知り、その出棺までに実家の弘前に帰ろうとヒッチハイクをする中で、目を逸らしていた父との関係、夢破れてずっと逃げて生きてきた自分と向き合っていく姿が心に迫る作品でした。

 

ここからは、ネタバレになりますが、自分の備忘を兼ねて、もう少し詳しくあらすじを記してみます。

 

自宅のアパートの部屋でネット上でユーザーの問合せに対応する仕事をしている陽子。冷凍食品のパスタを食べ、トイレットペーパーもネット通販で注文するひきこもり生活を送っている。通販の荷物が届いて玄関まで取りにいった際に、スマホが床に落ち壊れてしまう。

陽子はパソコンで映画を観ながら寝てしまうが、その翌日、従兄の茂が突然部屋を訪ねてくる。前日の夜に陽子の父親が亡くなったが、陽子に連絡がつかないので訪ねて一緒に青森まで連れてきてほしいと頼まれたと話す。鞄に荷物を詰める陽子だが、体が動かない。急き立てられるように茂の車に乗せられ、出発する。茂が運転するミニバンの3列目でふと横を見た陽子に、若い頃の父親の姿が現れる。

休憩のために入ったサービスエリアで、陽子は周囲を散策し、記念写真用のパネルを見て、家族旅行でここに来たことがあったこと、渋滞になると父親が機嫌が悪くなって怒られたことなどを思い出す。一方、茂は、自分の子どもが危うく事故に遭いかけるアクシデントが起きたことに同店し、陽子を置き去りにして出発してしまう。

車が停まっていた場所に戻って置き去りにされたことに気づいた陽子は、コートの中の小銭入れを出してみるが、お金は2,432円しか入っていない。仕方なく勇気を振り絞って青森まで行きたいので乗せてもらえないか、と声を掛け始めるが、気味悪がる人が多く、乗せてくれる人はなかなか現れない。しかし、ある中年女性に声を掛けると、その女性は快諾し、陽子を車の助手席に乗せる。一方、途中で気づいた茂は再びそのサービスエリアに戻るが、茂が着いたのは、陽子が車で出発した直後だった。

車中で女性は会社がつぶれて面接のために東京に行った帰りであること、子どもが引越しに反対していることなどを愚痴る。女性はパーキングエリアで陽子を下ろす。陽子は、電車で青森に帰るためにお金を貸してほしいとお願いするが、女性は手持ちがないと言って断り、車で走り去っていく。

そのパーキングエリアには自販機とトイレしかなく、なかなか車がやってこない。そこに、1人の若い女性が車を下りてくる。その女性もヒッチハイクをしているが、久しぶりにやってきた車に声を掛けても、走り去ってしまい、なかなか乗せてくれる人が現れない。その女性が1人でトイレに入るのを怖がり、陽子に付いてきてほしいとお願いしたことがきっかけで、2人は少し話をするようになる。しばらくして、ようやく乗せてくれる車が現れるが、1人しか乗れず、陽子はその女性に譲り、女性は陽子に自分がしていたマフラーを渡して車に乗っていく。

そして陽子を乗せてくれたのは、ライターで、東日本大震災直後に記事を書いた人たちのその後を取材するために東北に向かっていると話す中年男性だった。男性は陽子に自分のことを話してほしいと言うが、疲労で眠くなっていた陽子は助手席で眠ってしまう。陽子が目を覚ますと、車は停まっていた。男性は、青森まで乗せていく代償として性交渉を迫り、翌日の昼12時の出棺までに帰りたい陽子は、それを拒むことができず、ラブホテルで体を許す。しかし、男性に突然仕事の電話が入って、その先に車で乗せてもらうことができなくなり、陽子は泣き寝入りするはめになる。

何かから逃れるように海岸にやってきた陽子は、砂浜に身を預けて心の痛みを叫ぶ。砂浜で夜を明かした陽子は、海沿いの道を歩き、朝8時前、野菜の無人販売所に野菜の補充などに向かう老夫婦の軽トラックに乗せてもらう。心暖まる夫婦のやり取りに、何かを感じる陽子。復興住宅に帰宅した女性は、自宅近くの若い女性に掛け合ってくれて、陽子はその女性の軽トラックに乗ることになる。別れ際、陽子は老夫婦それぞれの手を握り、別れを惜しむ。

若い女性が運転する軽トラックに乗った陽子。その女性は、大学生だった震災後にボランティアで富岡を訪れたことがきっかけで、今は富岡に移り住み、何でも屋みたいなことをしていることを話す。

宮城県に入り、間もなく11時になる頃、道の駅で次に乗せてもらう人を探す陽子。若いカップルの車に乗せてもらい、岩手県道の駅くずまき高原にやってくる。そこで青森に行きそうな人を探して声をかけるが、冷たく取り合わない人たちに、陽子に怒りがこみ上げる。心を静めて、誰か乗せてくれる人がいないか周囲に聞こえるように大きな声で呼びかけると、学生服姿の中学生が手を上げる。その父親の車に乗せてもらったときには、既に時間は12時を過ぎていた。陽子は、車中で自分の思いを独白し、車に乗せてくれた父子に感謝する。すると、男の子は、スマホで連絡した兄がもっと先まで乗せてあげられると話す。陽子はその男の子の兄のバイクの後ろに乗せてもらってさらに先に進み、最寄りの駅のところで下ろしてもらう。

雪が降り始めた中、陽子は徒歩で実家に向かって歩く。そしてようやく、実家の前にたどり着くと、出てきた茂は、出棺は待ってもらっているから顔を合わせるよう話し、感極まった陽子はその場で涙して崩れ落ちる。しばらくその場を動けない陽子だったが、ようやく体を起こし、父に会うために家の中に入っていく。

(ここまで)

 

ちなみに、陽子が最初に置き去りにされてしまうサービスエリアは、「とものべサービスエリア」という架空のサービスエリアになっていました。常盤自動車道の「友部サービスエリア」を意識したものと思いますが、わざわざ言い換える必要はなかったのではという気もしますが、実際の友部サービスエリアでは思った雰囲気が出ずに違うロケ地で撮影したといった事情があるのでしょう。