鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」

久しぶりにMOVIX三郷に行きました。


映画館は、ホームセンターのスーパービバホームイトーヨーカドーなどのお店が集まった複合商業施設の一角にあります。ここに来るのは、3月に「いちばん逢いたいひと」を観に来て以来です。


ロビーはけっこう閑散としていました。


この日の上映スケジュールの一部。シネマ歌舞伎や舞台挨拶パブリックビューイングなども含めると、全部で36作品・38種類の上映が行われていました。36もの作品を上映しているのは、シネコンとしても非常に多いのではないかと思います。

この日観るのは、「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(11月3日(金)公開)。全国179館と中規模での公開。


上映は139+2席のシアター2。お客さんは10人ほどでした。


(チラシの表裏)

SDN48の元メンバーで作家として活躍する大木亜希子が自身の体験に基づいて執筆した小説を実写映画化した作品だそうで、監督は穐山芙由、脚本は坪田文

 

公式サイトのストーリーによれば、


元アイドルの安希子は、幸せで充実した人生を歩んでいると自分に言い聞かせながら、仕事もタフにこなしているつもりだったが、ある日の通勤途中、駅で足が突然動かなくなってしまう。メンタルが病んで会社を辞めた安希子は、仕事ナシ、男ナシ、残高10万円の現実にぶちあたる。そんな時、友人から勧められたのが、都内の一軒家で一人暮らしをする56歳のサラリーマン、ササポンとの同居生活。意外な提案に安希子は戸惑いながらも、まさかのおっさんとの奇妙な同居生活をスタートさせ…!?

 

・・・というあらすじ。

 

主な登場人物・キャストは、次のようになっています。

 

  • 青木 安希子【深川 麻衣】:28歳の主人公。元アイドルでフリーライターをしている。

  • ササポン(笹本)【井浦 新】:安希子が一緒に暮らすことになる56歳の会社員。

  • 児玉 ヒカリ【松浦 りょう】:安希子の友人で社長。ササポンとは旧知の仲。

  • 景子【柳 ゆり菜】:安希子の高校時代からの友人で、芸能活動をしている。

  • 高宮 浩介【猪塚 健太】:安希子が沼にはまった男性。婚約者がいるカメラマン。

  • 鳥羽 宏文【三宅 亮輔】:安希子が飲み屋で絡んだ年下の会社員。

  • 明美【森高 愛】:安希子のバイトで働く配送会社のギャル風のバイト仲間。

  • 木山 由美【河井 青葉】:大手出版社の雑誌「ブランシェ」の編集長。一度安希子に会いたいと声を掛けるが、取材が急に入って安希子と会う約束をドタキャンする。

  • 大熊【柳 憂怜】:安希子がメンタルを病んだ際に診察した心療内科医。

  • 隆【島 丈明】:景子が結婚を決めた相手。

 

自分が思い描く理想の姿と現実とのギャップで苦しんで行き詰った女性が、あまり干渉しないながらも、温かい目で自分を優しく、柔らかく包んでくれる男性との同居生活を通して、再生していく姿がうまく描かれていました。

元アイドル時代は描かれておらず、「人生が詰んだ」描写は駅前で立ち上がれなくなった部分の描写しかないので、「人生が詰んだ」状態と再生した後の状態の差はあまり大きく感じられなかったところはありました。その対比がもっと明確にわかるように描かれるとなお良かったと思いますが、変なデフォルメはなく、淡々と主人公の姿を描くことで、心に沁みる作品になっていたのではないかと思います。主人公を演じた深川麻衣とササポンを演じた井浦新も、ともにいい空気感を醸し出していて秀演でした。

 

ここから先はネタバレになりますが、備忘も兼ねて、より詳しいあらすじを記してみます。

 

元アイドルで、雑誌社でライターとして働く安希子。マンションの前で自撮りし、「今日は大事な商談です」とSNSに投稿するなど、仕事もプライベートも充実した日々を送っているとリア充を装っていたが、実際にはそこまで順調ではなく、マンションは彼女の家ではなく、家賃5万円の風呂なしアパートに住み、安い原稿料で記事を書かざるを得ないのが彼女の現実だった。

そんなある日、出勤のため向かった駅の手前で、ヒールがマンホールの蓋の穴にはまって転んでしまったのをきっかけに、激しい動悸に襲われ、足に力が入らず立ち上がれなくなってしまう。病院で診察を受ける安希子は、自分は順調で問題ないのだと説明しようと早口でしゃべりまくるが、診察した心療内科医からは、とりあえずゆっくり話せるようになりましょう、とアドバイスをされ、会社を休むことになる。それから3か月が経っても、安希子は朝起きることができず、会社を辞めることになる。

貯金があと10万円と底を尽きかけたとき、友人で起業家のヒカリから電話が入る。会社の若い子がり、今の安希子には話し相手が必要だと言い、会社の若い子が出ていったルームシェアで同居人を探していると持ち掛けるが、その家主・同居相手は56歳の男性だという。最初は抵抗を感じた安希子だったが、自分の経済状態と天秤にかければ、家賃3万円のルームシェアを選ばざるを得なかった。

ルームシェアの家を訪れた安希子に、出てきた男性・ササポンは、すぐに出ていくと早口でしゃべる安希子には構わず、ゆったり「適当に、よろしく」と声を掛ける。

安希子は、行きつけの水たばこの店で出会った浩介に沼った過去があった。最初は、「声がキンキンする」と文句を言われ言い合いになるが、その後浩介は花瓶を持って謝り、物事をはっきり言う安希子を気に入った浩介は、仕事を手伝ってほしいと安希子を誘い、一緒に撮影旅行に行くことになる。

安希子は、高校時代からの友人で、安希子と同じく芸能界入りしたが鳴かず飛ばずだった景子も働いている配送会社で時給1,300円のバイトを始める。経済的にはフリーライターより安定するものの、思い描いていた人生のレールから外れたような気持ちを抱く安希子は、ササポンと食事をしているときに、自虐話ばかりしてしまう。しかし、ササポンは安希子の話はおもしろいと言い、自分の周りの人と話しても子どもの話ばかりで自分の話をしない、夢とか野心とかの話を聞く方がずっと楽しいと語る。その言葉に、自分でも夢を持っている人に見えるだと少し元気づけられる。

浩介との思い出が再び回想される。浩介と一緒に行った撮影旅行、浩介は砂浜で安希子を被写体に写真を撮っていく。安希子は思い切って浩介に、はっきり言って好きかもしれない、ここでキスしてもいい、と告白するが、浩介の顔は曇り、恋人がいて、結婚すると打ち明ける。安希子は自分の気持ちに蓋をしてその場を取り繕い、もう浩介には会わないと決意する。

安希子が部屋の窓からリビングを見下ろすと、ササポンが通販で買ったスイカを切ろうとしていた。安希子に気づいたササポンは安希子をリビングに呼び、一緒にスイカを食べる。

安希子に再び浩介との思い出が蘇る。撮影旅行の後も、水たばこの店で浩介と一緒になった安希子は、浩介が持ってきたスイカを2人で分け合いながら食べる。結婚が決まっているのに女性と2人で会う浩介はどうなのかと思いつつも、スイカの甘いところを食べさせてくれる浩介に幸せな気持ちを感じる安希子。

そんなある日、「1記事1,000円君」と内心蔑称している編集者から、人気雑誌「ブランシェ」の編集長が会いたいと言っていると連絡が入る。これはチャンスだと張り切り、自己PR資料も作って待ち合わせ場所に向かった安希子だったが、急にハリウッドスターの取材の仕事が入った編集長からドタキャンの連絡が入り、その後、頼める仕事はないと更に連絡が入る。安希子がその顛末をササポンに話すと、ササポンはそんな媒体で書かなくて良かったねと言う。その言葉を聞いて、自分を追い詰める感情が一瞬和らぐように感じる安希子。

そんな折、バイト先の配送工場で、安希子は景子から、結婚することになったこと、芸能界は辞めることを聞かされる。景子の恋人に会いに、ヒカリと一緒に景子の家を訪れた安希子は、性格の良さそうな恋人と仲の良さそうな2人の様子を複雑な眼差しで眺める。景子は、自分からプロポーズしたことを明かし、安希子から結婚の決め手を聞かれ、2人なら不幸になっても何とかなると思った、と答える。それを聞いた安希子は、同じ景色を見てみたいと思う一方で、自分にはそんな相手は見つからないと感じる。

再び浩介との思い出が蘇る。行きつけの水たばこ屋で、浩介は仲間たちから結婚祝いを受ける様子をカウンター席から眺める安希子。いたたまれなくなって店を出た安希子だったが、浩介は酔っている安希子を心配して追いかけてくる。浩介を振り払おうとする安希子だったが、なおも引き留める浩介に、もう会えるのは最後だから、とホテルに誘う。しかし浩介は、大切だからできないと拒否し、安希子は、最低、サイコパス…と叫んで泣き崩れる。それが浩介と会った最後になった。

景子の家に行った帰り、飲み足りない安希子は、タクシーの中で行先を変え、ヒカリの知り合いの男性たちと飲むが、羽目を外してしまう。翌朝、安希子が目を覚ますと、シェアハウスのリビングの床で寝ており、毛布が掛けられていた。家に帰ってくるまでの記憶がない安希子がヒカリに電話すると、ヒカリから昨晩の失態を責められ、相手の年下の会社員・鳥羽に謝るよう告げられる。混乱した安希子は、自分がわからないと嘆く。

電話の後、安希子が家の外に出ると、ササポンがプランターに入れるため土いじりをしていた。安希子が昨晩のことを話すと、ササポンは、若いうちは何でも経験してみるべきだ、過ぎ去ったことは仕方がないと慰めてくれる。

20歳代最後の29歳の誕生日、寂しさを紛らわすために安希子はバイトのシフトを入れてやり過ごすことにするが、バイトからの帰り、待ち伏せしていたヒカリと景子が突然姿を見せる。嬉しい驚きに安希子は、寿し食べたい!と言って3人は一緒に歩いていく。帰りの橋の上で、安希子は「幸せになりたい!」と叫び、その場の勢いで景子とヒカリも一緒に「幸せになりたい!」と叫ぶ。

そして、安希子はヒカリと景子をシェアハウスに連れてくる。バースデーケーキを出して楽しく過ごす3人。先に寝ようとするササポンに、ヒカリは廊下で声を掛け、安希子が迷惑を掛けてないか尋ねると、ササポンは、遠い親戚の大事なお嬢さんを預かっている感じ、と言ってヒカリの心配を否定する。一方、来年からは3人で集まるのは難しくなるかもしれないと不安になる安希子だったが、景子は、どんな環境になっても安希子とは一生友達、と言ってくれる。その言葉にほっとした安希子は、結婚おめでとう、と景子に伝える。

その翌日、リビングで目を覚ました安希子は、テーブルの上にササポンからの誕生日プレゼントが置かれていることに気づく。それは女性用の美容器具で、ササポンが店員の女の人に相談しながら選んでくれたのだろうかと思い、感謝の気持ちを抱く。

そんなころ、安希子はSNSで浩介が出産報告している投稿を目にする。その頃から腹部に違和感を感じつつも、我慢して働き続けていた安希子だったが、ササポンが数日間の出張に出かけていった日、バイトから帰って家の玄関を入ったところでついに倒れてしまう。安希子の中で浩介との撮影旅行での出来事が浮かぶ。あの時なぜ浩介は旅行に連れて行ったのか、なぜ自分もついて行ったのか、という思いが安希子の中に広がる一方で、あの時間がどこかのパラレルワールドで続いていてほしいとも思う。安希子は助けを求めようとヒカリや景子に電話を掛けるが、2人とも連絡が付かない。

安希子が気が付くと、病院のベッドに横になっていた。安希子から連絡を受けたササポンが出張をキャンセルして家に戻り、玄関で倒れていた安希子を見て救急車を呼んでくれたのだった。安希子は、家族でも恋人でもないのにごめんなさい、と謝るが、それ何か関係ある?とササポンに言われ、その言葉に安希子は泣いてしまう。そんな安希子にササポンは、大丈夫だよ、と優しく言葉を掛ける。虫垂炎だった安希子は手術を受けて回復する。

安希子は、風を通しに軽井沢の別荘に行くササポンに一緒に付いて行くことにする。安希子は、ササポンは自分がなぜ落ち込んでいるのかは知らないが、それでも自分の心を柔らかく包み込んでくれる存在になっていると感じていた。別荘に着いて、自分で作った野菜を採ってきれいにするササポンは、こうしていると大抵のことはどうでもよく思えてくると話す。安希子が死にたくなったことがあるか尋ねると、ササポンは、離婚したときにそう思った、空いてしまった穴を埋めようとしてもどうしようもなく、時間が経つ中で諦めていったのだと語り、安希子はササポンにもそんな過去があったのだと思う。

そして、安希子は、ササポンに見てほしいものがあると、ササポンと同居を始めた頃からの物語をまとめた原稿を読んでもらう。読み終えたササポンは、おっさんとの同居物語というより、1人の女の子が他者によって再生される物語だね、と言い、安希子はササポンに感謝する。

それから1か月後、出版されたその物語は、SNSでバズを起こす。安希子は出版社のパーティーに招待され、会場ではかつて自分をドタキャンした「ブランシェ」の編集長とも名刺交換を果たす。

再び心療内科医の診察を受ける安希子は、医師から、ゆっくり話せるようになりましたね、と言われる。

安希子の貯金も100万円を超え、安希子はシェアハウスを出ることを決める。荷造りをする安希子は、捨てられないでいた浩介からもらった花瓶も捨て、荷物を積んで出発する引越業者のトラックを見送る。別れの挨拶に、ササポンと暮らせて幸せでした、と言う安希子に対し、ササポンは微笑みながら、お互いまだ生きてるし最後じゃないでしょ、適当によろしく、それじゃ、と言って、家の中に入っていく。安希子は、入居時にポストに貼った自分の名前を書いたシールを剥がし、感慨にふけるのだった。

(ここまで)

 

私自身は原作未読の状態で本作を観ましたが、先に書いたとおり、SDN48の元メンバーだった大木亜希子が自身の体験に基づいて書いた小説が原作になっています。本作には原作から変更が加えられている部分もあるようですので、機会があれば、原作小説の方も読んでみたいと思います。