鷺の停車場

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ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管演奏会

ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏会に行きました。


チケット購入時にもらったチラシ。

1743年に創設され、世界初の民間オーケストラとされるライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団。2018年からカペルマイスター(楽長)を務めているアンドリス・ネルソンスとの来日公演。なお、ゲヴァントハウスとは、ライプツィヒにある本拠地のホールの名前ですが、本来の意味は、織物会館(or繊維会館)といったもので、最初に本拠地になったホールが織物の取引所などに使われていた建物に設けられたことに由来しているようです。

管弦楽団の来日公演は4年ぶりだそうです。私自身は、18年前の2005年2月、当時カペルマイスターを務めていたヘルベルト・ブロムシュテットとの来日公演を同じサントリーホールで聴いたことがあります(その時のプログラムは、メンデルスゾーン交響曲第4番「イタリア」とブルックナー交響曲第7番でした。)が、生で聴くのはそれ以来になります。


ANAインターコンチネンタルホテルの脇を通って、サントリーホールに向かいます。


アーク・カラヤン広場。左手がサントリーホール、右手はテレビ朝日です。


きれいなクリスマスイルミネーションも飾られていました。


ホールの入口へ。


この日の曲目は、ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死、ブルックナー交響曲第9番ニ短調 の2曲プログラム。どちらもミニチュアスコアも持っていてよく知っている曲ですが、コンサートで生で聴くのはともに初めてです。

料金は、S席34,000円、A席28,000円、B席22,000円、C席16,000円、D席13,000円と、けっこうな値段です。ちなみに、国内のプロオーケストラのサントリーホールでの定期演奏会の料金は、楽団により違いはありますが、S席が10,000円~7,500円、最安グレードの席で4,400円~2,000円なので、国内のプロオケの演奏会の4倍くらいの値段ということになります。団員や楽器の移動、滞在に要する経費があるので高くなるのは当然のことですが、昨今の円安傾向も影響しているのかもしれません。


公演当日にサントリーホールのホームページを見ると、当日券はS席が50席程度あって、18時から販売とのことでした。私がホール入口に着いた開演15分ほど前でも、まだ当日券が販売されていたので、完売にはならなかったのだろうと思います。


ホールの中もクリスマスの飾りつけがなされていました。


購入していたのは22,000円のB席、場所は2階の右側、ステージのほぼ真横のRAブロックです。


ロビーには写真撮影の注意書きがありました。当然ですが演奏中の撮影は禁止、演奏終了後のカーテンコールの撮影はOKとのことでした。

ホールに入ってみると、全体にポツポツと空席が見えましたので、おそらく100~200席ほど空席になっていたのではないかと思います。もっとも、完売になっていた場合でも、急な事情などで来れなくなる人などがいるので、本当に満席となるのは稀なのでしょうけど。


座った席からステージを望んだところ。指揮台のほぼ真横でした。

第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置。これは18年前にブロムシュテットの指揮で聴いた時と同じです。第2ヴァイオリンだけは後ろの方が死角になって人数が確認できませんでしたが、第1ヴァイオリン16人、第2ヴァイオリン14人、ヴィオラ12人、チェロ10人、コントラバス8人のフル編成だったのだろうと思います。

開演時間の19時を少し過ぎて、オーケストラの奏者たちが入場。入場の仕方は、オーケストラによって多少の違いがありますが、このオーケストラでは、前半、後半ともに、入場した奏者がすぐには着席せずに客席に向かって立ったまま全体の入場が終わるのを待ち、全員が入場し終えたところで、コンサートマスターの合図で着席する形でした。

前半は、ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛の死。

この曲は、ドイチェ・グラモフォンからリリースされているブルックナー交響曲第1番のCDのカップリング曲として、2019年5月の録音が収録されています。

冒頭から、オーケストラの響きに魅入られます。ちょっとした部分の木管楽器の和声が美しく響くなど、このオーケストラに限ったことではありませんが、オーケストラとしての能力の高さを感じます。
見ていると、決め所などの音の出方は、必ずしも指揮者の棒のタイミングどおりではなく、棒を振り下ろしてからやや遅れて音が出てきます。このあたりは、日本のオーケストラとはちょっと違うところかもしれません。しかも、そのズレの程度は一定ではなく、場所によって伸び縮みがあるのも面白いところで、指揮者の指示どおりに従うということではなく、指揮者と合奏体としてのオーケストラの相互作用で演奏が成り立っているのだと実感しました。この曲では、前奏曲、愛の死ともにゆったりめのテンポの曲ということもあり、それがやや裏目に出て、探り合いになっているように感じる部分もありましたが、強弱、緩急ともに幅の大きい演奏で、特に、弱奏の使い方が巧みで印象に残りました。

開演時間から30分弱で前半は終了。19時半ごろから20分間の休憩に入ります。

休憩を挟んで後半は、ブルックナー交響曲第9番

こちらも、このコンビによる交響曲全集の1枚として、2018年12月のライヴ録音が収録されています。

第3楽章までしか完成せず未完となった作品、通常どおり、第3楽章までが演奏される形。

こちらは、トリスタンとイゾルデのように探り合いのように感じる部分はなく、手の内に入っている作品という印象。こちらも、楽譜にはないテンポの変化も多く、弱奏を効果的に使った振れ幅の大きな演奏。

聴いていてハッとしたのは、第2楽章で、冒頭を始めとしてスケルツォの主部に数回出てくる、弱奏の後、約1小節の全休符の後にffでオーケストラがリズムを打ち込む部分。最初の主部では、楽譜どおりのタイミングでオーケストラの強奏が入ってきましたが。中間部を挟んで戻ってきた後の主部では、直前の弱奏が終わったところで指揮者がホール内の残響を確認するかのように棒を止め、楽譜どおりよりも若干間を開けて棒を振り下ろしてオーケストラの強奏が始まり、その一瞬の静寂の間には、おおっ、と思いました。その後再びその部分が出てきた時には、その間隔はさらに開き、内心、いつになったら出るんだ、と一瞬思ってしまったくらい、ドキッとしました。これは録音では感じることのできない生のコンサートならではの体験でした。

CDでは意識しなかったパートの音が印象的に響くのも新鮮な感じで、気になった細部のキズもありましたが、全体としてはとても良い演奏でした。


終演後は大きな拍手。歓声も飛び、立ち上がって拍手する聴衆も少なからずいました。


管楽器のソリストだけでなく、弦楽器を含め各パートごとに立たせて労うネルソンス。


ネルソンスが4~5回戻ってきても、拍手は鳴りやみませんでした。


オーケストラが退場を始めると、多くの聴衆は席を立ちましたが、残る聴衆の拍手は鳴りやまず、指揮者のネルソンスが単身ステージに再び姿を現し、聴衆の拍手に応えていました。

素晴らしい響きと演奏に満足して、ホールをあとにしました。