ピエール・ブーレーズ指揮クリーヴランド管弦楽団[春の祭典]、ニューヨーク・フィルハーモニック[ペトルーシュカ]
(録音:1969年7月28日 クリーヴランド、セヴェランス・ホール[春の祭典]、1971年5月11日 ニューヨーク、フィルハーモニック・ホール[ペトルーシュカ])
今では、「春の祭典」も、洋書であれば、比較的安価(千数百円)にポケットスコアを入手することができます。
スコアの最後のページ。5管編成の大規模な編成です。具体的に書き出してみると、次のようになっています。
オペラハウスのオーケストラピットには収まるのだろうかと思うような大編成であるだけでなく、アルトフルート、バストランペットといったオーケストラでは一般的ではない楽器も出てきます。
曲自体は、次の2部からなります。
- 第1部 大地礼讃
- 序奏
- 春のきざしと乙女たちの踊り
- 誘拐の遊戯
- 春のロンド
- 敵の都の人々の戯れ
- 賢人の行進
- 賢人
- 大地の踊り
- 第2部 いけにえ
- 序奏
- 乙女たちの神秘な集い
- いけにえの賛美
- 祖先の呼び出し
- 祖先の儀式
- いけにえの踊り(選ばれた乙女)
私自身は、かなり前になりますが、コンサートで聴いたことも、バレエも(生のオーケストラ演奏で)2~3回観たことがあります。CDやコンサートで聴くのもいいのですが、実際にバレエを観ると、この曲が本来はコンサート用の音楽ではなく、まさにバレエ音楽であることがよく実感できます。DVDなどの映像でも、一度バレエを観ていただくと、この曲のイメージが少し変わるのではないかと思います。
さて、本盤は、2016年1月5日に亡くなった作曲者・指揮者のピエール・ブーレーズが残した3枚の「春の祭典」のうち、1963年6月のフランス国立放送管弦楽団(現:フランス国立管弦楽団)との録音に続く2番目の録音で、1967年から首席客演指揮者を務めていたクリーヴランド管を振って1969年に録音したもの(なお、カップリングのペトルーシュカは、1971年から音楽監督に就任したニューヨーク・フィルとの同年の録音)。
この曲を一躍メジャーにした、今となっては古典的な名盤。1963年のフランス国立放送管との録音も、かなり昔に聴いたことがありますが、オーケストラが粗削りであまり感銘は受けなかった記憶があります。この録音は、アンサンブルの精度の高いクリーヴランド管、今聴いても、非常にアンサンブルの精度が高く、録音も古さを感じさせない鮮やかな音で、55年前の録音とは到底思えません。しかも、録音データによれば、1日だけで録音を終えているので、日を改めてのリテイクなどはせず、これだけレベルの高い演奏を実現していることになります。当時のクリーヴランド管のアンサンブル能力の高さがうかがえます。
後述するように、ブーレーズには1991年の再録音もありますが、この演奏の方が優れている部分もあり、今なお、この曲の名盤の1つだろうと思います。
ピエール・モントゥー指揮パリ音楽院管弦楽団
(録音:1956年[春の祭典]、1957年[ペトルーシュカ] パリ)
この2曲の初演時、ロシア・バレエ団の指揮者として初演の指揮を担当したピエール・モントゥーによる録音。モノラル録音の音の古さ、オーケストラの力不足は否めませんが、この曲においては、それも一つの味になっているところもあり、独特の魅力を感じます。純粋に演奏として素晴らしいかというとちょっと違いますが、これらの曲の演奏・録音の歴史の一端を示す歴史的な資料だろうと思います。
カレル・アンチェル指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1963年1月15・16日,3月4-7日[ストラヴィンスキー]、1962年1月30日-2月2日[プロコフィエフ] プラハ,芸術家の家(ルドルフィヌム))
アンチェルが、当時首席指揮者を務めていたチェコ・フィルと録音した1枚。今なお比較的容易に入手可能な「春の祭典」の録音としては、最初期のものの1つだろうと思います。録音データによれば6日間にわたって収録されており、実際に聴いても、オーケストラの響きが突然変化する場所、さらには8分音符1つ分くらい音が抜けている場所まであったりするので、部分的に録り直してマスターテープを継ぎはぎしたのだろうと思われますが、最近の整った演奏とは異なる、勢いのある直截的な表現は魅力的です。
ロリン・マゼール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団[春の祭典]、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団[ペトルーシュカ]
(録音:1974年3月25-28日 ウィーン、ゾフィエンザール[春の祭典]、1962年3月25日-4月30日 テル・アヴィヴ、ハラル・シネマ[ペトルーシュカ])
このCDは、このブログを書き始めた初めの頃に、一度紹介したことがあります。
今なお、ウィーン・フィルがこの曲を録音した唯一の正規盤。マゼールの「春の祭典」の録音としては、1980年5月の当時音楽監督を務めていたクリーヴランド管とのスタジオ録音、ライヴ盤として、1980年7月のフランス国立管との演奏会、1998年4月の当時首席指者を務めていたバイエルン放送響との演奏会の録音もあるそうですが、本盤はそれらの中で最初の録音となります。
前述の以前の記事にも書きましたが、春のロンドの盛り上がった部分の金管のグリッサンドをテヌートで強調する、賢人の行列のチューバのメロディの分散和音を極端に抑揚を付けて強調する、選ばれた乙女への賛美の1小節前の11連打で極端にテンポを落とす、祖先の呼び出しでテンポを落としてレガート気味に演奏する、祖先の儀式のホルンの頭打ちの四分音符を長めにテヌートする、といった個性的な粘っこい表現が、一般的なウィーン・フィルのイメージとは異なる野性的な雰囲気を醸し出し、独特の魅力を感じます。
- ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」(1947年版)
- ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
- ストラヴィンスキー:バレエ音楽「カルタ遊び」
- ストラヴィンスキー:バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1911年版)
- ストラヴィンスキー:バレエ音楽「プルチネッラ」(1947年改訂版)
クラウディオ・アバド指揮ロンドン交響楽団
(録音:1975年2月[春の祭典]、1972年11月[火の鳥] ロンドン、フェアフィールド・ホールズ、1974年10月[カルタ遊び] ロンドン、アビー・ロード・スタジオ、1980年9月[ペトルーシュカ] ロンドン、ウォルサムストウ・アッセンブリー・ホール、1978年3・5月[プルチネッラ] ロンドン、ヘンリー・ウッド・ホール)
アバドが、当時音楽監督を務めていたロンドン響と録音したストラヴィンスキーのバレエ音楽を2枚組にまとめたCD。
アンサンブルも整っていて、決して悪い演奏ではありませんが、個人的には、飛び抜けて惹きつけられるポイントが特に感じられず、意外に地味な印象を受ける演奏。録音のせいもあるのかもしれませんが。
ピエール・ブーレーズ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1991年3月 クリーヴランド、マソニック・オーディトリアム)
最初に紹介したCDの23年後のブーレーズの再録音。変わらず精緻な演奏ですが、1969年の録音と比べると、いい意味で力が抜けて余裕が感じられ、この間にオーケストラの実力がさらに上がっていることが感じられます。ただ、よくよく聴くと、第1部の敵の部族の遊戯(12:10~あたり)、第2部のいけにえの踊り(16:15~あたり)など、細部の乱れが修正されずそのままになっているところもあるので、演奏の精度・正確性という点では、1969年の録音の方に軍配が上がるような気がします。
- ストラヴィンスキー:葬送の歌 Op.5 ※世界初録音
- ストラヴィンスキー:花火 Op.4
- ストラヴィンスキー:幻想的スケルツォ Op.3
- ストラヴィンスキー:組曲「牧神と羊飼いの娘」Op.2
- ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
リッカルド・シャイー指揮ルツェルン祝祭管弦楽団
(録音:2017年8月16・17・19日 ルツェルン、カルチャー・コングレスセンター(ライヴ))
シャイーが2016年に音楽監督に就任したルツェルン祝祭管とライヴで録音したストラヴィンスキー初期作品集。シャイーは1985年にクリーヴランド管と「春の祭典」を録音していますが、本盤は約32年ぶりの再録音ということになります。
洗練された見事な演奏。野性味という要素は少なく、トランペットなどパートのバランスがちょっと残念な部分もありますが、レベルの高い奏者が集まったルツェルン祝祭管を振って、スコアの細部まで目が配られ、精度が高くバランスのとれた演奏になっています。カップリングされている初期作品も魅力的です。
サー・サイモン・ラトル指揮ロンドン交響楽団
(録音:2017年9月21・24日 ロンドン、バービカン・ホール(ライヴ))
ラトルがロンドン響の音楽監督に就任した際に行われた演奏会のライヴ録音。ラトルの「春の祭典」のCDとしては、イングリッシュ・ナショナル・ユース管(1977)、バーミンガム市響(1987)、ベルリン・フィル(2003/2012)に続く5回目の録音だそうです。
1回の演奏会でこのストラヴィンスキーの3大バレエをまとめて演奏するとは、かなり意欲的なプログラム。鮮やかで迫力のある録音、リズムがきびきびと際立った鮮やかな音楽で、かなり魅力的な一枚になっています。他の2曲もレベルの高い演奏で、1晩でこの3曲を並べたコンサートでこれだけのレベルの演奏をするとは、ロンドン響の高い実力を感じます。
先のシャイー盤もそうですが、こうやって、古い録音から最近の録音まで並べて聴いてみると、全体としてオーケストラの技術水準が大きく上がってきていることを実感します。
なお、これらの録音の第1部・第2部の演奏時間を比べてみると、次のようになります。
- ブーレーズ(1968)Ⅰ16'41/Ⅱ17'56
- モントゥー(1956)Ⅰ15'38/Ⅱ17'20
- アンチェル(1963)Ⅰ14'58/Ⅱ17'38
- マゼール(1974) Ⅰ16'14/Ⅱ18'29
- アバド(1975) Ⅰ15'36/Ⅱ17'55
- ブーレーズ(1991)Ⅰ15'55/Ⅱ17'27
- シャイー(2017) Ⅰ16'02/Ⅱ17'52
- ラトル(2017) Ⅰ15'33/Ⅱ18'17
第1部は、大半の演奏は15分30秒~16分程度ですが、ブーレーズの1968年盤が16分41秒と一番長く、最も短いアンチェル盤と比べると1分40秒以上も長くなっています。第2部は、大半の演奏は17分30秒~18分程度で、マゼール盤が18分半近くと長くなっていますが、第1部ほどの時間の差はないことがわかります。