鷺の停車場

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三善晃:レクイエム/詩篇/響紋

今回は日本人作曲家の作品を紹介します。 

尾高忠明指揮NHK交響楽団、東京混声合唱(合唱指揮:田中信昭)[レクイエム、詩篇]、東京荒川少年少女合唱団(指導:渡辺顕麿)東京放送児童合唱団(指導:古橋富士雄)ひばり児童合唱団(指導:清水雅彦)[響紋]
(録音:1985年7月14日 東京文化会館(ライヴ録音))

サントリー音楽財団コンサート「作曲家の個展'85」演奏会のライヴ録音。

吹奏楽をやっていた高校生の頃、「響紋」をおそらくFMラジオのエアチェック(もう死語でしょうか…)で聞いて、とても衝撃を受けました。このCD自体は、高校を卒業した後になって、CDショップで見かけて購入したもの。現在は、残念ながら廃盤になっているようです。

この「レクイエム」、「詩篇」、「響紋」の3作は、三部作という位置づけであり、このCDのジャケットでは「声とオーケストラのための三部作」と、ブックレット中の解説は「生と死のトリロジー(三部作)」と紹介されています。このうち「響紋」は、1984年、第33回の尾高賞を受賞しています。

久しぶりにこのCDを引っ張り出して聴いてみたのは、5月に東京都交響楽団都響)の定期演奏会でこの三部作が再演されると知ったからでした。


(その演奏会のチラシ)

www.tmso.or.jp

このチラシでは、「反戦三部作」と紹介されています。なお、もともとは2020年の5月に予定されていた演奏会が、コロナ禍の影響で中止となっていたところ、三善晃の生誕90年・没後10年となる今年に、改めて行うことになったようです。

残念ながら、私自身はその日、運悪く別の予定が既に入っていて行けないので、久しぶりにCDを再聴してみました。

 

1曲目の「レクイエム」(22'40")は、3部に分かれています。
Ⅰ(約 8'20")は、上野杜夫「ラッパよ鳴るな」、三好十郎「山東へやった手紙(3)」、秋山清「象のはなし」、中野重治「新聞にのった写真」から、
Ⅱ(約 7'00")は、金子光晴「コットさんのでてくる抒情詩」、信本広夫二飛曹・林市造海軍少尉・上西徳英一飛曹・松永篤雄二飛曹・小薬武飛曹長の遺書、石垣りん「弔詞」から、
Ⅲ(約 7'20")は、田中予始子「ゆうやけ」、宗左近「夕映反歌」から、
それぞれテキストがとられています。

「誰がドブ鼠のようにかくれたいか!」と声を押し殺して叫ぶような語りで始まり、反戦詩や特攻隊の遺書をテキストに、オーケストラの激しい音響が叩きつけられる音楽は、レクイエム=鎮魂曲という安らかなものでは決してなく、戦争で死んでいった者たち、そしてそれを見送らざるを得なかった者たちが、慟哭し、戦争を激しく告発するかのように、心に刺さります。

 

2曲目の「詩篇」(28'44")は、タイトルにあるとおり、宗左近の詩集「縄文」からテキストがとられていて、次の8曲で構成されています。

Ⅰ はじめのはじめに・雲(約 1'40")
Ⅱ はじめのないはじめ・天体(約 3'00")
Ⅲ はじめのあるはじめ・夕映え(約 6'30")
Ⅳ おわりのないはじめ・人形(ひとがた)(約 1'20")
Ⅴ 途中の途中・滝壺舞踏(約 1'45")
Ⅵ はじめのあるおわり・夕焼け(約 3'25")
Ⅶ はじめとおわりの・鏡の雲(約 3'20)
Ⅷ おわりのないおわり・波の墓(約 7'45")

こちらは、生き残った者が戦争を見つめ、亡くなった者たちに呼びかける曲ですが、戦争と死の深淵を覗くかのような激しい音楽が繰り広げられ、最後は「花いちもんめ」のわらべ歌で幕を閉じます。

 

3曲目の「響紋」(13'33")は、子守歌の鬼遊びの唄(かごめかごめ)と、その歌詞を下敷きにした宗左近の詩をテキストにしています。
児童合唱は、「かごめかごめ」のわらべ歌を、原曲どおりのメロディで、少しずつ歌詞を変えながら歌っていくのですが、「虹のなかの骨は なぜなぜつっぺぇーった」といったように、戦争を見つめるようなものに変容していきます。中盤からはキーもじりじりと上がって、緊迫感が高まっていきます。そこに阿鼻叫喚するようなオーケストラがからみ合って、クライマックスを迎え、最後は「うしろのしょうめん だぁれ」と静かに幕を閉じます。子どもたちの純朴な目から、戦争を見つめるような印象を受け、改めて聴いても、心に深く刺さりました。

 

なお、このCDのブックレットには、それぞれの曲のオーケストラ編成も紹介されていますが、いずれも、木管楽器は3管編成(持ち替えは多少の相違があります)、ホルン・トランペット・トロンボーンが4人ずつ、打楽器が5~8人、チェレスタ・ハープ・ピアノが各1台、弦5部となっています。

「響紋」は、手元にもう1枚CDがありました。

民音現代作曲音楽祭'89

井上道義指揮大阪フィルハーモニー交響楽団[松村]・野島稔[Pf:松村]東京フィルハーモニー交響楽団[牧野・三善]東京放送児童合唱団(合唱指導:古橋富士雄)[三善]
(録音:1989年9月3日 大阪、ザ・シンフォニーホール[松村]、1989年9月9日 東京文化会館大ホール[牧野・三善](ライヴ録音))

こちらは、廃盤にはなっていないようですが、入手は難しいかもしれません。

民音現代作曲音楽祭’89

民音現代作曲音楽祭’89

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「響紋」についていえば、会場こそ最初のCDと同じですが、レーベル(録音)も指揮もオーケストラも異なるので、音の感じは少し違います。全体としては、こちらの演奏の方が整っているような気がしますが、やや大人しくまとまっている印象を受けました。 

 

このほか、これらの曲のCDで現在でも入手できそうなものは、以下のような感じになっています(いずれも私は未聴です)。

これは、「レクイエム」と「詩篇」の初演時のライヴ録音だそうで、「レクイエム」は1972年3月15日に東京文化会館で行われた岩城宏之指揮NHK交響楽団・日本プロ合唱団連合の演奏(モノラル録音)、「詩篇」は1979年10月16日に同じく東京文化会館で行われた小林研一郎指揮東京都交響楽団・日本プロ合唱団連合の演奏となっています。

このCDに収録されている「レクイエム」は、1977年3月10日に東京文化会館で行われた日本プロ合唱団連合第7回定期演奏会のライヴ録音のようで、外山雄三指揮日本フィルハーモニー交響楽団・日本プロ合唱団連合の演奏です。

三善晃作品集

三善晃作品集

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このCDには、2種類の「響紋」の演奏が収録されています。1つは、1984年6月に東京で行われた初演時のライヴ(尾高忠明指揮東京フィルハーモニー交響楽団東京放送児童合唱団)、もう1つは1989年9月に東京で行われた再演時のライヴ(井上道義指揮東京フィルハーモニー交響楽団東京放送児童合唱団)ということなので、こちらは上で紹介した「民音現代作曲音楽祭'89」に収録されている演奏と同じもののようです。