鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

映画「彼方のうた」

休みの日の午前、キネマ旬報シアターに行きました。


この週の上映作品。


この日の上映スケジュール。


観るのは「彼方のうた」(1月5日(金)公開)。1月5日(金)の公開時は、都内3館のみの上映でしたが、その後上映館は広がって、既に上映が終了した館、今後上映予定の館を含め、上映館は合計28館となっています。この映画館では、2月24日(土)から2週間の上映です。


3月2日(土)には、杉田監督の舞台挨拶&サイン会が開かれたようです。


2階に上がったところにも、ポスターが飾られていました。


上映は2階の136席のスクリーン3。世間的には平日の午前、お客さんは10人ほどでした。


(チラシの表裏)

杉田協士監督の長編第4作で、デビュー作「ひとつの歌」以来12年ぶりとなるオリジナル作品。脚本も杉田監督が務めています。

 

公式サイトで紹介されているあらすじは、

 

書店員の春は駅前のベンチに座っていた雪子に道を尋ねるふりをして声をかける。春は雪子の顔に見える悲しみを見過ごせずにいた。一方で春は剛の後をつけながら、その様子を確かめる日々を過ごしていた。春にはかつてこどもだった頃、街中で見かけた雪子や剛に声をかけた過去があった。春の行動に気づいていた剛が春の職場に現れることで、また、春自身がふたたび雪子に声をかけたことで、それぞれの関係が動き出す。春は二人と過ごす日々の中で、自分自身が抱えている母親への思い、悲しみの気持ちと向き合っていく。

 

・・・というもの。

 

主な登場人物は、次の3人。

  • 春【小川 あん】:25歳の書店員。
  • 雪子【中村 優子】:45歳の女性。1人暮らし。
  • 剛【眞島 秀和】:45歳の男性。娘と2人暮らし。

公式サイトで紹介されている登場人物は以上の3人のみですが、そのほか、チラシなどでオープンになっている出演者としては、次のような方がいます。

  • Kaya:剛の娘・咲(さき)
  • 野上 絹代・端田 新菜・深澤 しほ:「キノコヤ」の常連客。
  • 五十嵐 まりこ:映画講座の受講生。
  • 荒木 知佳:「キノコヤ」の店員。
  • 黒川 由美子:「キノコヤ」の店主。
  • 金子 岳憲:「キノコヤ」店員の叔父。
  • 大須 みづほ:俳優。
  • 安楽 涼:映画監督。
  • 小林 えみ:春が勤める書店の店主。
  • 石原 夏実:春が勤める書店の常連客。
  • 和田 清人:春が参加する講座の講師。
  • 伊東 茄那:街角にたたずむ春を眺める女性。
  • 吉川 愛歩: 雪子に干し柿の作り方を教える女性。
  • 伊東 沙保:春の母親。※声のみの出演

 

静謐な雰囲気が印象的で、その部分は良かったと思いますが、説明されない設定、回収されない伏線が多すぎて、よく分からない映画でした。

上記のあらすじで紹介されている内容のうち、「こどもだった頃、街中で見かけた雪子や剛に声をかけた過去があった」、「自分自身が抱えている母親への思い、悲しみの気持ち」という部分は、本編では全く描かれていません。なお、前者については、春が中学生のときに駅のホームで剛と会ったことがあること、雪子が以前に会ったことがある気がすると言ったことだけが描かれています。また、「道を尋ねるふりをして声をかける」、「雪子の顔に見える悲しみを見過ごせずにいた」、「剛の後をつけながら、その様子を確かめる日々を過ごし」も、普通に観ているだけでは、なかなか感じ取れないだろうと思います。

このように、説明のための描写を全くと言っていいほど加えていないのは、杉田監督の意図したところなのでしょうし、描かれていない設定をあらかじめ頭に入れてから本編を観れば、心に響く描写もあったのだろうという気がしますが、注意深く見れば感じ取れる、というくらいには説明があった方が、より感銘深い作品になったのではないかと思いました。

 

ここから先はネタバレになりますが、自分の備忘を兼ねて、より詳しいあらすじを書いてみます。

 

左耳にイヤホンをしてポータブルカセットプレーヤーでカセットテープを聞く春(はる)。テープを聞きながら遠くに視線を向ける。

とある駅前で、春はどこか陰のある顔をしてベンチに座っていた中年女性・雪子(ゆきこ)に店への道を尋ねるふりをして声をかける。雪子は春の目当ての店「キノコヤ」まで案内してくれるが、お店は閉まっていた。春は雪子に美味しいお店を教えてもらおうとするが、雪子の家でご飯を食べさせてもらうことになる。雪子はオムレツを焼き、バケットを切って一緒に食事をする。

一方、中年男性の剛(つよし)は、浮かない顔で公園で煙草を吸い、住宅街にある自宅に帰っていく。その剛の尾行していた春は、その家を確認する。

春が参加している映画講座では、ビデオカメラを使って、「あの日 あのとき あの会話」というテーマで、ワンシーンワンカットのショートムービーを撮ることになる。それぞれ、他の受講生に演じてもらって撮影していく。春は、「行ってきます」と言って家から出かける母親とそれを見送り、買い物をお願いする娘のワンシーンを撮る。撮影が終わり、受講生たちはそれぞれが撮った作品を鑑賞する。

春が勤めている書店に、剛が入ってくる。書店内でお茶が飲めることを知った剛は、ホットあずき茶を注文し、窓際の席に座る。お茶を持ってきた春に、剛は、この景色、キレイですね、と声を掛ける。一緒に電車に乗った春と剛は、キノコヤに入り、2階席でグラスビールを飲む。春が、いつから気づいていたのか尋ねると、剛は夏くらい、と答え、最初は気のせいかなと思っていたが、どこかでお会いしましたか?と尋ねる。春が、駅のホームで、中学生のときに、と答えると、それを聞いた剛は何かを思い出し、涙する。

春は剛の自宅を訪ねる。剛は娘の咲を紹介し、3人で一緒に食事を食べる。春は咲が書いた映画のシナリオを読んで、すごく良かった、この映画が観たい、と褒め、剛と咲は喜ぶ。春は、これ撮らないんですか?と、実際に撮ってみることを勧める。

雪子の家を訪ねた春は、雪子から作り方を教わり、自分でオムレツを作ってみるが、食べてみて、雪子さんのと違う、と残念がるが、雪子は、これは春さんのオムレツだから、と言葉をかける。食後、春はテープを雪子に聞かせる。雪子が、川?東京じゃなさそう、と言うと、春は、若い頃よく旅していたみたい、と話す。雪子は、前に会ったことがある気がすると話す。

春と雪子は、雪子が操縦するバイクに2人乗りで高速道路を走り、上田を訪れる。古びた映画館(上田映劇)で映画「偶然と想像」を観て、美味しいと評判のお店でかた焼きそばを食べた後、千曲川の河原でテープの音と聞き比べる2人、雪子はもっと小さい川なのでは?と言い、バイクで街中に戻る。春は付き合ってくれる雪子に恐縮するが、雪子は、付き合ってもらっているのはこっちだから、と言う。

街中の小さい橋の上で、テープの音と聞き比べる春。雪子は近くの喫茶店に入ってひとりお茶を飲み、春はテープを入れ替えて聞き比べる。店を出て戻ってきた雪子は春の隣に並んで立つ。春はテープに録音されていた母親が歌うメロディに合わせてラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」のメロディを口ずさむ。

上田から戻ってきた春は、映画講座の受講生たちと剛の家を訪れる。咲のシナリオを読んだ受講生たちは、そのシナリオを演じ、咲はそれをスマホで撮影していく。そのシーンの撮影が終わると、次のシナリオを渡して撮影していき、剛も出演する。撮影を終え、受講生たちは外に出ていき、咲もそれを追って外に出る。その姿を玄関から眺める春と剛は、顔を見合わせて笑顔を見せる。

映画が完成し、試写会が行われる。緊張してやってきた咲を春は出迎えるが、試写は好評に終わり、春はキノコヤでビールを頼み、試写を見た常連客の女性2人と乾杯する。そこに、外で歌を歌うカップルが姿を現し、歌いながら店に入ってくる。さらに、赤ちゃんを連れた若い夫婦もお店にやってくる。常連客たちも見守る中、お店の2階で赤ちゃんのお食い初めが行われ、一同は談笑する。

街角でひとりたたずむ春。ある女性が視線を向ける。

雪子がベランダで干し柿の作り方を教わっていたところに、春が訪ねてくる。雪子は春が持ってきた花を花瓶に生け、春の頼みでオムレツを作る。一緒にそれを食べ、後片付けをする2人。春が、ごちそうさま、と言って帰ろうとする。一度は見送ろうとした雪子だが、駅まで送るよ、と言って一緒に外に出ようとする。大丈夫、と言う春に、雪子は、ダメだよ、と言って、春を優しく抱きしめる。

(ここまで)

 

なお、映画講座で春が撮ったワンシーンが家から出かける母親とそれを見送る娘だったのは、春が母親との関係で何かあったことを示唆していたのだろうと、後になって気が付きました、らすじには「悲しい気持ち」とあるので、家から出かける母親を見送ったきり、会えなくなってしまった(あるいは亡くしてしまった)ということなのだろうと想像しますが、いずれにしても、本編中では、それがどういうものなのかは具体的には描かれていません。