鷺の停車場

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橘由華「聖女の魔力は万能です」(第1巻)

橘由華「聖女の魔力は万能です」を読みました。

2021年4月から6月にかけてTOKYO MXなどで放送されたテレビアニメ第1期を見てけっこう気に入って、2023年10月から12月にかけて同じくTOKYO MXなどで放送されたテレビアニメ第2期も見ていた間に、原作も読んでみようと思い、まず第1巻を手にしてみました。

2016年4月から小説投稿サイト「小説家になろう」に連載が始まり、2017年2月にカドカワBOOKSから単行本として刊行が始まった作品。

 

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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 どこにでもいる、ちょっと仕事中毒な20代OL・セイは、残業終わりに異世界召喚された。……でも、急に喚びだした挙げ句、人の顔見て「こんなん聖女じゃない」ってまさかの放置プレイ!? 王宮を飛び出し、聖女の肩書きを隠して研究所で働き始めたセイだったが、ポーション作りに化粧品作り、常識外れの魔力で皆の"お願い事"を叶えるうち、どんどん『聖女疑惑』が大きくなってしまい……。
 聖女とバレずに夢の異世界スローライフを満喫出来るか!?

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本書の冒頭のカラー挿絵で紹介されている主要登場人物は、次のとおりです。

  • セイ:「聖女召喚の儀」で異世界に召喚された20代OL、小鳥遊聖(たかなし せい)。王宮での生活に暇を持て余し、薬用植物研究所の研究員として住み込みで働くことになる。

  • アルベルト・ホーク:第三騎士団の団長。ホーク辺境伯家の三男。瀕死の重傷のところをセイに助けられた。氷属性の魔法が使えることと、表情をあまり表に出さないことから、氷の騎士様とも呼ばれている。

  • ジュード:薬用植物研究所の研究員。人懐っこく面倒見が良い、研究所に入ったセイの面倒を見ることになる。

このほかに、この第1巻で登場する名前が付けているキャラクターとしては、次の人たちがいます。

  • ヨハン・ヴァルデック:薬用植物研究所の所長で、ヴァルデック伯爵家の次男。アルベルトの親友。

  • 愛良:セイと同時に異世界に召喚された女子高生・御園愛良(みその あいら)

  • カイル・スランタニア:スランタニア王国の第一王子。アイラこそが聖女だと確信し、セイを放置する。

  • エリザベス・アシュレイ:王宮図書室で出会った侯爵令嬢。すっかり仲良くなり、リズと呼ぶようになる。

  • ジークフリート・スランタニア:スランタニア王国の国王で、カイルの父。

  • ドミニク・ゴルツ:スランタニア王国の宰相。

  • ヨーゼフ・ホーク:スランタニア王国の軍務大臣。

  • アルフォンス・フンメル:スランタニア王国の内務大臣。

  • ミヒャエル・フーバー:スランタニア王国の特務師団の師団長。

  • ユーリ・ドレフェス:スランタニア王国の宮廷魔導師団の師団長。

  • エアハルト・ホーク:宮廷魔道師団の副師団長。

 

本編は、主人公・セイの視点から描かれるプロローグと7章、その間に挿入されるセイ以外の者の視点から描かれる「舞台裏」と題する2つの小編で構成されています。各章の概要・主なあらすじは、次のようなもの。

プロローグ

20代OLの小鳥遊聖は、深夜に仕事から帰宅したところで「異世界召喚の儀」で呼び出される。石造りの部屋には騎士たちやローブ姿の人たちがおり、見慣れた格好なのは自分と左側にいた10代中頃から後半の女の子だけだった。そこに入ってきた赤髪の王子は、女の子の前に跪き、貴女が聖女か?と言い、聖はあっけにとられる。

第一幕 薬用植物研究所

聖女となる乙女を召喚する儀式で、異世界にやってきた小鳥遊聖(セイ)。元の世界に戻れないことを知り、自分を無視する王子の対応に怒って出て行こうとするが、高官に説得され、王宮で過ごすことになる。しかし、2週間が経ち、やることがない日々に時間を持て余すセイは、散歩を始め、仕事のストレス解消にハーブやアロマテラピーにはまっていたこともあり、薬草園に興味を抱く。そこで薬用植物研究所の研究員に声を掛けられたことがきっかけで、薬用植物研究所の研究員の職を得て、研究所に住んで働くことになる。

第二幕 ポーション

薬用植物研究所の研究員となったセイは、ジュードに作り方を教えてもらったポーション作りに打ち込むが、セイの作ったものだけ効果が5割増しになることが判明する。召喚されて3ヶ月が経つ頃には、製薬スキルは21レベルまで上がり、上級ポーションも作れるようになっていた。そんなころ、ゴーシュの森に魔物の討伐に行っていた第三騎士団に怪我人が多く出て、所長のヨハンの指示で、セイもポーションを運んで騎士たちの手当てに当たる。そして、重傷を負った団長に上級ポーションを飲ませ、回復させる。

ここまでが、テレビアニメ第1期のEpisode 1「召喚」にほぼ対応する部分になっています。

第三幕 料理

召喚されてから4ヶ月、サラマンダーの一件で特別報酬を得て、所長のヨハンは、一番の功労者であるセイに欲しいものはないか尋ね、この世界の料理レベルは低いと思うセイは研究所内に台所を作ってもらう。薬草を使ったセイの料理にヨハンは感心する。そして、ヨハンに呼び出されたセイは、訪れていた第三騎士団の団長であるアルベルトを紹介され、命を救ってくれたお礼に南の森に討伐に行く際に、薬草の採取に連れていってもらえることになる。サウルの森に向かったセイは、昼食作りを手伝い、騎士たちはセイの料理に美味しいと声を上げるが、王宮に戻った後、セイの料理のおかげで普段より戦闘能力が向上したことがわかり、ヨハンからはみだりに公の場で料理を作ることを禁止される。

舞台裏

王宮、そしてヨハンの視点から、増える魔物を討伐するために聖女を召喚すべく、スランタニア王国で数百年ぶりの「異世界召喚の儀」が行われた経緯、そして、薬用植物研究所で働き始めたセイがどう見られていたのか、舞台裏を描いた閑話。

第四幕 化粧品

召喚されてから5ヶ月、この世界に来てから、セイは自分で化粧品を作るようになり、その高い効果で綺麗になり、視力まで良くなって眼鏡も必要なくなっていたが、ジュードに綺麗になったと指摘されると、そういうことを言われるのに慣れていないセイは恥ずかしくと顔が熱くなる。休みの日、製薬スキルを上げるために上級ポーションよりも効果の高いポーションを作れないかと王宮の図書室に行ったセイは、侯爵令嬢のエリザベス・アシュレイ(リズ)と出会い、次第に親しい間柄になる。リズからニキビに悩む友人について相談を受けたセイは、ニキビに効果がある化粧品を作って渡すと、劇的に効果が出て話題となり、所長が懇意にしている商店にレシピを渡して販売してもらうことになる。

ここまでが、テレビアニメ第1期のEpisode 2「親交」にほぼ対応している部分になっています。

第五幕 王都

召喚されてから6ヶ月、研究所を訪ねてきたアルベルトに誘われて、セイは休日に一緒に街に出かけることになる。手を取ってエスコートするアルベルトに照れながらも、セイは楽しい時間を過ごし、馬車で送ってもらった別れ際、アルベルトはセイに贈り物を渡す。部屋に帰ってそれを開けると、髪留めだった。翌日、ヨハンにデートと冷やかされ、照れて否定するセイだったが、ただのお土産でアクセサリーを渡すことはないと真面目な顔で言われ、アルベルトが軽い気持ちで髪留めをくれたわけではないことを知る。翌日、図書館の前で会ったリズにも、髪留めの石の色がアルベルトの瞳の色と同じ、この世界では好きな女性に自分が持つ色の者を贈るのは一般的だと言われ、照れるセイは真っ赤になる。

第六幕 魔法付与

アルベルトから贈られた髪留めに魔法付与がなされていると知って、魔法付与に興味を抱いたセイは、ヨハンに連れられて宮廷魔導師団を訪れる。作り方を教わりやってみると、インテリ眼鏡の魔導師がやってきて、様々な効果付与を試させると、セイはそれらを全てこなし、周囲の魔導師たちは驚く。1週間後、ヨハンに呼び出されたセイは、訪ねてきていたインテリ眼鏡様に頼まれ、セイが先日作ったものの中に魔導師団では作れない魔法付与に協力する。そして、魔法付与を施した核を所長から紹介してもらった店で加工してもらい、髪留めのお礼に、魔法抵抗が上がる効果を付与したネックレスをアルベルトに渡すが、感謝するアルベルトから手にキスされる。

ここまでが、テレビアニメ第1期のEpisode 3「王都」にほぼ対応している部分になっています。

舞台裏

国王の執務室で、宮廷魔導師団の副師団長エアハルト・ホークは、セイが魔法付与した核を差し出す。それは、古代の遺跡からの出土か魔物の討伐でしか手に入らない伝説級の代物だった。エアハルトは、ヨハンからセイが魔法付与に興味があると連絡を受けて、セイの魔法の能力を調べることを国王に奏上しており、その調査の結果、セイの驚くべき能力が判明したのだった。セイの能力が公になればセイを手中に収めようとする者が現れて国が乱れる原因にもなりかねないと考えた国王は、セイには気づかれないようにつけていた護衛を強化することを決める。

第七幕 魔法

召喚されてから7ヶ月、第三騎士団にポーションの配達に行ったセイは、騎士達から第二騎士団との合同作戦で以前サラマンダーが出たゴーシュの森に行くことになっていること、第一騎士団は第一王子のカイルの修行のお守りで一番安全な東の森に行くこと、セイと共に召喚された愛良こそ聖女だと考える王子が愛良を保護していることを聞かされる。本当は自分が聖女らしいが、バレるまではただの一般人として過ごしたいと思うセイは、愛良とのレベルの差に、自分だけが聖女なのではないかと思って嫌な気持ちになる。ポーションを作り過ぎて午前中で仕事を終えてしまったセイが王宮図書館に行くと、不意に国王のジークフリート・スランタニアから声を掛けられ、カイルの無礼について謝罪される。恩賞に領土、爵位、屋敷でもと言われて固辞するセイに、今は諦めよう、と言ってジークフリートは去っていく。討伐で怪我をした騎士達を見舞いに行ったセイは、重傷者が集められた病室で、左腕を失った騎士を見て、見て見ぬふりはできないと、本に書かれていた回復魔法を施し、左手を再生させる。そして、乗りかかった舟、と重傷者全員を回復させる。そこにアルベルトとヨハンが顔を出す。派手にやったことを謝るセイに、ヨハンは良くやった、と声をかける。それ以来、騎士団などでは、セイは聖女だと噂されるようになる。そんなある日、セイはヨハンから宮廷魔導師団の師団長による鑑定がいよいよ行われることを告げられる。

ここまでが、テレビアニメ第1期のEpisode 4「奇跡」にほぼ対応している部分になっています。

(ここまで)

 

以上のとおり、この第1巻では、テレビアニメの第1期の最初の4話分に当たる部分が描かれています。

なお、この原作小説では、自分のステータスをゲームのステータス確認のように確認できる生活魔法があって、それにより、最初から、セイ自身も、ステータス上は基礎レベル55の「聖女」であることが分かっている(ただし、「異世界召喚の儀」で召喚しようとした【聖女】とイコールであるとまでは思ってない)という設定になっています。2回目の「幕間」では、基礎レベルは、一般の人で5~10、王立学園を卒業した者で15~20、王宮に勤める騎士や魔導師で30~35、40を超えるのは騎士団・魔導師団の団長たちくらいとされているので、55というレベルはそれを優に上回る高いレベルであることがわかります。テレビアニメでその設定が踏襲されなかったのは、あまりにゲームっぽくて、中世ヨーロッパを思わせるようなこの作品の世界観にはちょっと異質に感じられるためだったのかもしれません。今は、とある悲しい事件をきっかけに、原作の改変について厳しい視線が向けられるようになっているように思いますが、原作の骨格や世界観は尊重する前提で、こうした細部のアレンジは許容されるべきだろうと思います。

この続きも、少しずつ読み進めてみようと思います。