鷺の停車場

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橘由華「聖女の魔力は万能です 3」

橘由華「聖女の魔力は万能です 3」を読みました。

繰り返しになりますが、2016年4月から小説投稿サイト「小説家になろう」に連載が始まり、2017年2月にカドカワBOOKSから単行本として刊行が始まった作品で、テレビアニメ版が2021年4月からの2021年春クールに第1期、2023年10月からの2023年秋クールに第2期が放送されています。

第3巻の本巻は、2017年9月刊行の第2巻から1年1ヶ月後の2018年10月に刊行されています。

 

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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 奇跡的な効果をもたらす金色の魔力を発動したため、とうとう本物の聖女と認識されてしまったセイ。だがその"聖女の魔力"がどんな条件で発動したのかはわからないまま。
 そんなセイに、薬草の聖地への遠征依頼が舞い込む。薬師に弟子入りしたり、傭兵団長に気に入られたり、薬膳っぽい料理を作って振舞ったり、遠征を楽しみながらもポーション作りに精を出しているうち、彼女は聖女に関する、ある手記を見つけ……?

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本書の冒頭のカラー挿絵で紹介されている主要登場人物は、次のとおりです。

  • セイ(小鳥遊 聖):ついに聖女認定されてしまった20代OL。料理や化粧品の開発が息抜き

  • アルベルト・ホーク:第三騎士団の団長。ちまたでは”氷の騎士様”と呼ばれているほどクールらしいが、セイの前では……?

  • ユーリ・ドレヴェス:宮廷魔導師団の師団長。魔法や魔力の研究にしか興味がない

  • レオンハルト:クラウスナー領の傭兵団を取りまとめるリーダー。優秀な薬師の腕をもつセイを気に入っている

このほかに、この第3巻で登場する名前が付けているキャラクターとしては、次の人たちがいます。

  • ヨハン・ヴァルデック:薬用植物研究所の所長で、ヴァルデック伯爵家の次男。アルベルトの親友。

  • ジュード:薬用植物研究所の研究員。人懐っこく面倒見が良い、研究所に入ったセイの面倒を見ることになる。

  • 愛良:セイと同時に異世界に召喚された女子高生・御園愛良(みその あいら)。王立学園の卒業後は宮廷魔導師団に入ることが決まっている。

  • リズ:セイが仲良くなった侯爵令嬢のエリザベス・アシュレイ。第一王子のカイル・スランタニアの婚約者。

  • ダニエル・クラウスナー:クラウスナー領の領主。

  • コリンナ:クラウスナー領専属の薬師。

  • マリー:王宮でセイの世話をしてくれる侍女。
  • 国王:スランタニア王国の国王のジークフリート・スランタニア。

  • 宰相:スランタニア王国の宰相のドミニク・ゴルツ。

本編は、主人公・セイの視点から描かれる6章と、その間に挿入されるセイ以外の者の視点から描かれる「舞台裏」と題する2つの閑話で構成され、本編の後に、書き下ろし短編が1編収載されています。なお、第3巻となる本巻からは、本編の前に、前巻までのあらすじを紹介するページが挿入されています。

各章の概要・主なあらすじは、次のようなもの。

第一幕 旅立ち

召喚されてから1年が経った冬の終わり、セイは宮廷魔導師団の演習場で【聖女】の術を再現しようと試みるが、過去2回発動した術の再現手順は分からず、日が暮れるまで頑張ってみても、再現できずに終わる。
一段と冷え込んだある日、研究所に引きこもってポーションを作っていたセイは、所長から、材料の薬草の手配が難しくなりしばらくポーション作製を中止することになったと告げられる。
講義が終わった昼下がり、王宮の図書館で薬草事典を読むセイは、やってきた愛良やリズと話をする。クラウスナー領が薬師の聖地と呼ばれており、秘伝のポーションがあることを聞いたセイは、その調合方法を知ることはできないかとワクワクする。
アルベルトが所長を訪ねてきて、お茶を出すために所長室に入ったセイは、アルベルトがクラウスナー領に魔物の討伐に行くことになったと聞かされ、セイもそれに同行することになる。

舞台裏

文官の報告を受けた国王と宰相。王都周辺の魔物が減少し落ち着いてきたことで、貴族たちから領地の魔物を討伐するために騎士団や【聖女】の派遣を求める嘆願書が届くようになっていた。2人は、アルベルトとユーリを呼び出し、スランタニア王国でも一、二を争う薬草の産地で、魔物の増加で薬草の収穫にも影響が出ているクラウスナー領にセイを派遣することを告げる。アルベルトは【聖女】の術が自由に使えないセイを派遣するのは時期尚早と反対するが、宰相は使える使えないの問題ではなく派遣することが重要、派遣しなければ貴族たちから突き上げを食らうと言い、国王は派遣を決定する。アルベルトは一度仕切り直してどうにか派遣を阻止しようと心に決め、国王の執務室を後にする。

ここまでが、テレビアニメ第1期のEpisode 09「聖女」にほぼ対応する部分になっています。

第二幕 クラウスナー領

討伐に向かう第三騎士団に同行し、馬車でクラウスナー領に向かうセイ。到着したセイを領主のダニエル・クラウスナーが出迎える。滞在する部屋に案内され、付いてきてくれたマリーたちにローブに着替えさせてもらい、食堂で行われるクラウスナー一家との晩餐に参加したセイは、ハーブが使われた料理にクラウスナー領のすごさを実感する。領主はこの城にも専属の薬師がいると話し、滞在中に薬師を紹介してもらえることになる。一緒に晩餐に参加したアルベルトは、下調べのために数日は周辺の調査を行うのでセイは城で待機しているよう伝える。
翌日、朝食の後に、領主に城の蒸留室で仕事をする薬師のコリンナを紹介してもらったセイは、討伐のない日はポーション作製を手伝いながら薬草やポーションのことについて教えてもらうことになる。

第三幕 傭兵団

セイが、朝から城の蒸留室に向かい、コリンナのポーション作製を手伝っていると、そこに前日の夕方に注文したポーションを受け取りにレオンハルトがやってくる。コリンナは、セイが作りためたポーションで注文した数を用意し、レオンハルトは目が点になる。
昼下がり、セイはコリンナに連れられて領都周辺に広がる薬草畑に行き、薬草のことについて教えてもらう。セイが知らない植物もあり、効能や注意点などを教えてもらう。そこに、討伐の帰りなのか、傭兵団を引き連れたレオンハルトが走ってきて、朝に渡されたポーションがいつもより効果が高かったと話す。
蒸留室に戻って作業が一段落し、部屋に戻るため歩いていると、アルベルトがやってくる。団長の執務室に向かいながら、セイは近況をアルベルトに話し、執務室に着くと、アルベルトは騎士団の現状や調査結果を話し、問題が沈静化するためには少し時間がかかるだろうと言う。

舞台裏

クラウスナー領の領主の執務室で、アルベルトと顔合わせをしたレオンハルト。今までクラウスナー領を守ってきた自負があるレオンハルトは、領主が騎士団の派遣を頼んだことは仕方がないことだと思いながらも、騎士団に良い印象を持つことはできない。討伐についての打合せとなり、レオンハルトは地理に不案内な騎士団よりも傭兵団が森の中の魔物を担当した方が良いのではないかと提案するが、ゴーシュの森と同じような黒い沼が森の中に発生していると考えるアルベルトは、その提案を断る。レオンハルトが【聖女】に対してどういう態度に出るか心配なアルベルトは、なるべくセイと傭兵団との接触を減らそうと心に決める。
傭兵団に与えられている部屋に戻ったレオンハルトは、打合せの結果を尋ねる副団長に、討伐は問題なく行えそうだと言い、アルベルトについて、仕事はきっちりしてそうだと話す。
一方、薬用植物研究所では、ヨハンとジュードが、セイは今ごろどうしているだろうかと思いをはせる。ヨハンは、セイは間違いなくクラウスナー領でもやらかして、アルベルトはその対応に追われるだろうと思い、苦笑を浮かべる。

第四幕 素材

出される料理のレパートリーが少なく、新しい料理が作りたくなってきたセイは、薬草畑での勉強の帰り、城に向かう途中にある市場で、珍しい食材はないかとキョロキョロしていると、古くからヨーロッパで栽培されている古代小麦を見つける。薬膳料理と似た効果のある料理が作れるのではと考えたセイは、コリンナに頼んで城の厨房を使う許可をもらい、古代小麦から作った小麦粉などでパスタを作り、領主夫妻やアルベルトたちにふるまう。
翌日、アルベルトや騎士団の人たちに確認すると、古代小麦で作ったパスタには、HPの回復効果が付いていたことが分かる。

第五幕 聖女の術

蒸留室でコリンナと話をしているうちに、古代小麦ポーションにすることができれば上級ポーションより効果が高いものが作れないかと思い出すセイ。コリンナは、それは昔はあったが今はもうないと言い、奥の部屋に手招きし、鍵付きの本棚から1冊の本を取り出して、最上級HPポーションのレシピを見せ、使われる薬草が簡単に手に入るものではなく恐ろしく高価、それに作れる人間がほとんどいなかったと話す。
優秀な薬師が集まっているクラウスナー領でも最上級ポーションを作れなくなったのは、材料の薬草が採れなくなり、製薬スキルのレベルを上げることができなくなったからだった。コリンナは、製薬の祖、薬師様とも呼ばれる非常に優秀な薬師が様々な薬草の栽培方法を確立させたが、育てるためには色々と条件があり、何らかの条件が不足して最上級ポーション用の薬草が育たなくなったと話す。そして、全ての条件を知っているのはごく一部の人間、と言い、コリンナはもう1冊の本をセイに渡す。それはその内容を含め、様々な薬草の栽培方法が書かれた本だった。
それを読むセイは、栽培条件に、光や水の量、温度、肥料と並んで、「祝福」と記されているのを見て、【聖女】の術なのではないかと思ってドキッとする。
そしてコリンナは、金庫からさらに薬師様の日記を取り出し、機密中の機密扱いだ、と言ってセイに差し出す。そこには、薬草の栽培の試行錯誤の過程も記されていた。そこに、金色の魔力、と書かれているのを見たセイは、祝福は【聖女】の術なのだと理解し、呆然となるが、【聖女】の術の発動条件を見つけるヒントがないかと、数日の間その日記を読んでみるが、期待しているような記述は見当たらない。
セイが蒸留室に戻ると、傭兵団の人たちが慌しく城に向かうのが目に入る。レオンハルトは森の外縁近くにいつもは出ない魔物が出たと話し、セイは怪我人を回復魔法で癒すが、騎士団にも怪我人が出ていると聞いて、全力で走って騎士団のもとに向かう。重傷者が多く出ていると聞いたセイは、アルベルトの様子を見て、ひどい怪我と勘違いし、早く治療しないと、と思った瞬間、無意識に【聖女】の術が発動する。その後、アルベルトと話しているうちに、セイはアルベルトへの思いが発動条件だったことに気づくが、恥ずかしすぎて正直に話すことができない。

舞台裏

領主ダニエルの執務室を訪れたコリンナは、セイに薬師様の日記を渡したこと、セイが心当たりがある様子だったことを報告する。日記には、【聖女】の術が、魔物の討伐以外にも有益であることが書かれており、クラウスナー領にとって最も秘匿すべき事柄だった。それをセイに見せたのは、薬師様が祝福した畑での収穫量が落ちており、このままでは領が立ちいかなくなる日も遠くない状況だからで、この地に【聖女】を呼んだのも、表立っては魔物の討伐のためだが、本当の目的は再び畑を祝福してもらうことだった。コリンナの報告を聞いたダニエルは、本来の目的を達成できそうだと、表情が明るくなる。

ここまでが、テレビアニメ第1期のEpisode 10「日記」にほぼ対応する部分になっていますが、テレビアニメでは、原作の本巻と比べると、だいぶ駆け足で描いた格好になっています。

第六幕 発覚

翌日、セイは、朝から自室に引きこもって実験し、アルベルトのことを思うと【聖女】の術が発動することを確認する。食事の後、セイは蒸留室に向かい、祝福の実験をしたいとコリンナに伝え、コリンナの協力を得て、【聖女】の術を自在に発動できるようにするため練習を始める。そこにやってきたレオンハルトは、回復魔法が使えるセイを傭兵団に入れようと勧誘するが、アルベルトはセイは我々とともに王都から来ているから無理だと断り、レオンハルトは、セイが【聖女】であることに初めて気づく。

本章は、テレビアニメ第1期のEpisode 11「窮地」の中盤部分にほぼ対応する部分になっています。

書き下ろし短編

セイと第三騎士団がクラウスナー領に出発する数日前、ヴァルデック伯爵家の別邸にヨハンを訪ねたアルベルト。2人はワインで乾杯するが、ヨハンはセイがいない間、セイが作る新作料理が食べられなくなることに気付いて落ち込み、セイと一緒に行くアルベルトをうらやむ。アルベルトは、セイが料理したいと言っても城の厨房を貸してもらえることはないだろうし、野外で調理できるものは限られる、と否定するが、アルベルトは、セイが王都では手に入らない薬草を使って新しい料理を作らない保証はどこにもないことに気付いていなかった。

(ここまで)

 

以上のとおり、この第3巻では、テレビアニメの第1期の終盤の第9話の後半と、第10話、そして第11話の一部分に当たる部分までが描かれており、実質的には、テレビアニメで1.5話分くらいで駆け足で描かれた部分に対応しています。

 

この続きも、少しずつ読み進めてみようと思います。