2024年も残りあとわずかになりました。
今年1年間にスクリーンで観たアニメ映画を、印象に残った順に振り返ってみます。
◎ルックバック
2021年に「少年ジャンプ+」で公開された藤本タツキの同名コミックを原作にアニメ映画化した作品で、ひたむきに漫画制作に打ち込む2人の少女の出会いと別れを描く青春物語。58分と映画としては短めの尺ですが、物足りなさは全く感じさせない濃密な物語でした。2人が出会い、ともに刺激し合いながら創作に打ち込む姿とその別れが、余計なシーンがなく描かれ、作品世界に引き込まれる感じがあって、本編中はもちろん、エンドロールになっても物語を振り返って涙が出ました。(6月28日(金)公開)
◎がんばっていきまっしょい
最初から諦めてやる気のない日々を送っていた女子高校生が、偶然のきっかけでボート競技に打ち込むようになり、仲間と一生懸命に努力することの意味を見つけ出していくまでを、仄かな恋模様も交えながら描いた青春物語。ボートが進む水面の美しさなど、繊細な風景描写も美しく、全てを説明しきらず、その行間を観客の想像に委ねる余白の残し具合も絶妙で、同世代の若い人たちにも響く作品になっていたと思います。(10月25日(金)公開)
◎デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章
2014年から2022年にかけて、「ビックコミックススピリッツ」に連載された、浅野にいお作のSFマンガ「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」を原作にアニメ映画化された作品の後章。個性的なキャラクター、予想外の目まぐるしい展開に、理解が追い付かない部分もありながら、作品の世界に引き込まれました。ボリュームある原作の要所を掴んでうまく組み上げた脚本の吉田玲子さんの巧みな力量が光ります。エンディングは原作コミックとは異なるアニメオリジナルだったようですが、うまい着地だったと思います。幾田りら、あの、の主人公2人の声も、それぞれのキャラクターにぴったりな雰囲気、語り口で、2人のキャラクターの対比もうまく付いていました。(5月24日(金)公開)
◎デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章
浅野にいお作のSFマンガ「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」を原作にアニメ映画化した作品の前章。独特な世界観の魅力的な作品。冒頭の緊迫感あふれるシーンから作品世界にグッと引き込まれ、予想外の目まぐるしい展開に、2時間の長さが全く気になりませんでした。次々に張られていく伏線に、続く後章でどうなっていくのか、とても気になりました。幾田りら、あの、の主人公2人も、後章と同じくそれぞれのキャラクターにとても合っていました。(3月22日(金)公開)
◎劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:
芳文社「まんがタイムきらら MAX」連載のはまじあきによる同名4コマ漫画を原作に、2022年に放送されたテレビアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」を再編集した劇場総集編2部作の前編で、ギターを愛する孤独な少女がひょんなことからバンドに加入することになる青春物語。総集編なので、原作やテレビアニメ版の予備知識がなくても、まったく問題なく作品の世界に入れる形になっており、ユーモラスな描写も交えながら、バンドの活動を通じて成長していく、かなりいい出来栄えの作品になっていました。スクリーンならではの音響も、音楽シーンの迫力と感銘を高めるのに貢献していました。(6月7日(金)公開)
◎劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:Re:
芳文社「まんがタイムきらら MAX」連載のはまじあきによる同名4コマ漫画を原作に、2022年に放送されたテレビアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」を再編集した劇場総集編2部作の後編。前編「劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:」と同じく、テレビアニメ版の続編ではなく総集編なので、原作やテレビアニメ版の予備知識がなくても、付いていける作りになっていました。バンドの活動を通じて成長していくいい青春物語になっていると思いましたが、物語としては、前編の方がより心に響いた感じがしました。(8月9日(金)公開)
◎きみの色
山田尚子監督のこれまでの作品と同じく高校生を主人公に、10代後半特有の繊細な心の揺れ動きを美しく描いた作品。しぐさに語らせる描写、足だけを映すシーンなど、山田監督に特徴的な語り口は健在で、心温まる青春物語でしたが、それぞれの登場人物の心の葛藤、陰の部分があまり描かれない(これは山田監督の意図的な選択のようですが)ので、物語としての彫りが浅い印象もあって、私にはそれほど刺さりませんでした。(8月30日(金)公開)
◎劇場版SPY×FAMILY CODE:White
「少年ジャンプ+」連載の同名コミックを原作としたテレビアニメ「SPY×FAMILY」の劇場版で、主人公たちフォージャー家の初めての家族旅行の行方を描くオリジナルストーリー。アクション、ギャグ、グッとくるシーンなど、テレビアニメ版で描かれていた要素がバランスよく盛り込まれ、満足度の高い作品でした。テレビアニメ版での定番のサブキャラクターにも漏れなく出番があり、構成もよく目配せがきいていました。メインキャラクターのフォージャー一家が冒頭に紹介されるなど、必要最低限の説明はあるので、原作コミックやテレビアニメ版を見ていない初見の方でも十分に楽しめるのではないかと思います。(2023年12月22日(金)公開)
◎好きでも嫌いなあまのじゃく
「ペンギン・ハイウェイ」などを制作したスタジオコロリドによるオリジナル長編アニメ。あまり期待しないで観ましたが、意外に良かったです。世界設定がはっきりとは描かれておらず、終盤部分は都合のよい展開に見えてしまい説得力に欠ける面はありましたが、そこまでの展開はなかなか良かったと思いますし、自分の思いを押し隠していた主人公が、鬼の女の子との出会いと旅を通じて、思いをきちんと伝えることができるようになる、という成長物語として、後味の良い作品になっていたと思います。(5月24日(金)公開)
◎トラペジウム
アイドルグループ「乃木坂46」の1期生だった高山一実の小説「トラペジウム」をアニメ映画化した作品。この主人公の女性にどこまで共感できるかで、作品の受け取りはかなり違ってくるように思います。私自身にはまずまずという感じでした。物語の展開は良かったと思いますが、主人公の人間性には今一つ共感が持てませんでした。(5月10日(金)公開)
このほか、再上映の機会に今年再び観た作品もありました。
○ガールズ&パンツァー 劇場版
MOVIX柏の葉で行われた「MOVIX柏の葉 映画祭 ライブ音響上映」で観ました。細部にはリアリティを無視して単純化している部分もあるのですが、そうした部分とリアルに描く部分のバランスがいい塩梅で、本筋の展開に引き込まれ、ユーモラスなシーンをはさみながら、ホロっとくるシーンもあり、観終わった後には爽やかな余韻が残りました。お目当ての音響も、砲撃シーンなど音圧の振動が身体に伝わる迫力ある音で、もっとうまく調整できていればと思う部分は各所にありましたが、音のヌケも良く、全体的には、特別料金を払う価値のある満足できる音響でした。(2015年11月21日(土)公開)
スクリーンで観たアニメ映画は以上の新作10本・旧作1本の計11本。ここ数年では最も少ない数になりましたが、心に沁みる作品も少なかったような気がします。来年はより多くのいい作品が観られると期待したいと思います。