鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

スクリーンで観た映画を振り返る2024(実写映画)

2024年も今日で最後ということになります。

さて、アニメ映画に続いて、今年1年間にスクリーンで観た実写映画を、印象が強かった順に振り返ってみたいと思います。

 

◎夜明けのすべて

2019年の本屋大賞を受賞した瀬尾まいこの同名小説を原作に、実写映画化した作品。PMS月経前症候群)で生理が来る直前になるとイライラが抑えられなくなる若い女性と、パニック障害を抱える若い男性、メンタルな症状によって生きにくさを感じている2人が、少しだけお互いを支え合うようになり、友達でも恋人でもない、戦友と言ってもいいような関係になっていく様子を、温かい眼差しで描いた作品。大きな出来事や恋愛の駆け引きなどの劇的な展開があるわけではありませんが、2人が勤める職場の社長や同僚たちが2人を見守る距離感が心地よく、何気ない日常を切り取った情景も美しく映り、心に沁み入るような作品でした。(2月9日(金)公開)

青春18×2 君へと続く道


ジミー・ライのエッセイ「青春 18×2 日本慢車流浪記」を基に、アルバイトをする高校生とバックパッカーの女性のひと夏の恋を描いた作品。一心不乱に仕事に打ち込んでいた会社から追放され、かつて思いを寄せた女性の故郷を目的地に当てのない旅に出た主人公の旅路と、18年前の恋の思い出がうまく重なり合う、巧みな構成の切ないラブストーリーで、心に響く作品でした。(5月3日(金)公開)

◎ぼくが生きてる、ふたつの世界


作家・エッセイストの五十嵐大による自伝的エッセイ「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」を原作に実写映画化した作品。「コーダ」(Children of Deaf Adults)とも言われる、音が聞こえる健常者の世界と音が聞こえない聾者の世界のふたつの世界を生きる聾者の子どもの健常者を主人公に、聾者の母親との関係の再構築、そして自らのアイデンティティをつかんでいく過程を描いていますが、障害のない普通の家族にも共通する、母と子の物語として、心に響く作品でした。俳優陣では、主役の吉沢亮の演技もさることながら、いつも微笑みを絶やさず、大に深い愛を注ぐ母親を演じた忍足亜希子がとても印象的でした。(9月20日(金)公開)

◎違国日記

ヤマシタトモコの同名マンガを原作に実写映画化した作品で、人見知りで不器用な生き方をする女性小説家と姪の高校生との共同生活で家族とも友人とも異なる関係を築いていく姿を描いた作品。穏やかな空気感の中で、2人の関係が少しずつ変容していく様子が優しい目線で描かれていて、心にじんわりと沁みる、いい作品でした。長めの上映時間ですが、途中で気持ちが途切れることなく観ることができました。優陣では、主役の新垣結衣もさることながら、朝を演じた早瀬憩の新鮮さと透明感がとても印象的でした。(6月7日(金)公開)

◎アイミタガイ

2013年に刊行された中條ていの同名の連作短編集を原作に実写映画化された作品で、親友を事故で亡くした若い女性を軸に、その周囲の人たちがそれぞれ抱えていた後ろ向きな気持ちから前向きに進んでいく姿を描いた群像劇。群像劇でありながら、それぞれ別に描かれていたエピソードが絡み合い、パズルのピースのように、最後はカチッとはまっていく感じで、幾重にも張り巡らされた伏線が見事に回収されていく脚本の妙が際立っていました。深く感動するという物語ではありませんでしたが、じんわり心が温まる作品でした。(11月1日(金)公開)

◎夜のまにまに


大阪を舞台に、映画館で出会った男女が再会をきっかけに徐々に惹かれあっていく様を描いたラブストーリー。何とも言えないいい空気感が漂い、それぞれ不器用さを持った登場人物が個性的で、ストーリーがはっきりしない感じもありましたが、関西らしいオチを織り混ぜで観客を笑わせつつ、観終わった後もじんわり余韻が残る作品でした。個人的には、ラブストーリーというよりは、真面目だが優柔不断で流されやすい主人公の青年が、型破りで行動的な女性と出会い、その行動に振り回されていく中で、少しずつ地に足を付け、自分自身の選択ができるようになる、成長を描いた作品という印象をより強く感じました。(11月22日(金)公開)

◎ぼくのお日さま


フィギュアスケートを習う少女と、その姿に心を奪われた少年、そして少女にスケートを教える男性コーチとの関係を描いた作品。いい意味で余白が多く、落ち着いたテンポ感で進む物語、光と影をうまく使った抒情的な映像で、瑞々しく、じんわり心に沁みる作品でした。吃音のある小学6年生の少年はフィギュアスケートを練習する中学1年生の少女に惹かれ、その少女はコーチである元フィギュアスケート選手に好意を寄せ、そのコーチはその少年を応援し熱心に教える、という微妙にすれ違う関係性、通常とは違う意味での三角関係もいい設計だと思いました。映像面では、特に、スケートリンクに太陽の光が射し込む中で、美しく滑る少女、また、アイスダンスを練習する2人の姿が、とても美しく、瑞々しく映りました。(9月13日(金)公開)

◎PERFECT DAYS

東京・渋谷を舞台に、トイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたオリジナルドラマ。主人公が過ごす日常の日々と、その中でのさざ波のような心の揺れ動きを描き、心に沁みる作品でした。深く感銘を受けるというタイプの作品ではありませんが、本作でカンヌ国際映画祭の主演男優賞を受賞した役所広司の素晴らしい演技もあって、ふと涙腺が緩むシーンもありました。(2023年12月22日(金)公開)

◎ミッシング


𠮷田恵輔監督のオリジナル脚本によるヒューマンドラマ。心が締め付けられるような展開で、途中には目を背けたくなるような描写もありましたが、最後はほのかに心が温まるところに着地して、救いが訪れるわけではないものの、前を向いてちゃんと生きていこうとする(ように映る)主人公の姿で終わり、終わった後も深い感銘が残る作品でした。石原さとみの、良くも悪くも主人公の心情に入り切ったような演技は鬼気迫るものを感じましたし、夫役の青木崇高も、終盤の駅前でチラシ配りしているときに感謝の言葉を掛けられ感極まって涙するシーンなど、印象に残る演技がいくつもありました。(5月17日(金)公開)

◎マンガ家、堀マモル


新人賞を受賞したものの、それ以降は編集者にダメ出しされ続けていたマンガ家・堀マモルに、なぜか現れた男子小学生、男子中学生、女子高生の3人の幽霊が「マンガを描かせてあげる」と言ってそれぞれの思い出を語り出し、それをマンガに描いていく中で、蓋をしてきた自分の過去と向き合っていく、という物語。なぜ幽霊が突然現れて自分の過去を語り出すのかなど、スッと腑に落ちない設定もありましたし、マモルと幼なじみ・春との物語にフォーカスするのなら3人の幽霊はいなくても良かったかもしれませんが、それぞれのエピソードが丁寧に描かれ、物語が進んでいくについて、幽霊が語ったエピソードがマモルの過去にリンクして、伏線が回収されていく展開が良く、じんわり心が温まる作品でした。(8月30日(金)公開)

◎はじまりの日


名古屋を舞台に、伝説のロックスターの再生と若き歌姫の誕生を描いた音楽ファンタジー。現実のシーンからミュージカル風のシーンに切り替わったりするところはちょっと戸惑いましたが、何より主演の中村耕一と遥海の歌が素晴らしく、演技の方は素人っぽさは拭えませんが、良質な音楽映画になっていました。特に、遺影の前で中村耕一がギターを弾きながら歌うシーンはグッときました。(10月13日(金)公開)

◎言えない秘密

大ヒットした2007年の同タイトルの台湾映画を原案に日本でリメイクした作品で、過去の出来事からトラウマを抱えた男子学生と、運命的に出会った謎めいた雰囲気のある女子学生との切ないラブストーリー。タイムスリップの仕掛けは少し腑に落ちない部分もありましたが、序盤から、やや不思議に思える部分が、終盤になって見事に伏線回収されていく展開も見事で、涙腺が緩むシーンもあり、心に響きました。主演の京本大我と古川琴音のピアノを弾くシーンがとても自然なのにとても驚きました。(6月28日(金)公開)

◎バジーノイズ

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むつき潤の同名コミックを原作に実写映画化した作品で、人付き合いが苦手で1人で籠って音楽を作っていた主人公が、下の部屋から聞こえてくるその音楽が好きになった女性との出会いによって、過去のトラウマを克服して、新たな道へと導かれていく物語。細部には取ってつけたような部分もなくもなかったですが、全体のストーリー展開がよくまとまっていて、爽やかな余韻が残るいい作品でした。主役を演じたのはアイドルグループのメンバーですが、私は特に演技に不満を感じることはありませんでした。(5月3日(金)公開)

◎52ヘルツのクジラたち

2021年の本屋大賞を受賞した町田そのこの同名小説を原作に実写映画化した作品。主人公がかつての自分と重なる境遇の男の子を救い出そうとするメインストーリーに絡み合うように描かれる、家族の呪縛から逃れて幸せを掴もうとするも打ち砕かれてしまう過去の回想シーンが痛々しく、気持ちが重くなりましたが、心に響く作品で、希望を抱かせるラストには温かい気持ちになりました。ただ、児童虐待、ネグレクト、ヤングケアラー、トランスジェンダーと多くの要素が盛り込まれているために、それぞれの要素をきちんと描き切れず、表面をなぞった薄っぺらい描写に感じられてしまうところもあったのは残念で、少し要素を絞った方がより響いたのではないかという気がしました。(3月1日(金)公開)

◎コットンテール

若年性認知症となり、闘病の末に亡くなった妻が残した最後の願いをかなえるためにイギリスを訪れた主人公とその息子。自分の世界に閉じこもり、息子と距離を置いていた父と、父に認められたい思いを抱えてきた息子が、妻が願った地を探して旅する中で、不器用ながらも互いの思いを明かし、新たな一歩を踏み出していく、和解、あるいは再生の物語。リリー・フランキーは独特の味のあるいい役者さんだと思いますが、個人的にはあまり好きではないタイプで、その部分の引っ掛かりはありましたが、認知症の妻を介護する描写も身に迫るものがあり、最初のとげとげしい関係が和らいていく展開も心に響きました。(3月1日(金)公開)

◎四月になれば彼女は

川村元気の同名小説を原作に、実写映画化した作品。心に響くシーンもあり、もっと彫りが深ければ、という印象はあったものの、意外といい作品でした。世界各地を旅する大学時代の恋人からの手紙が届き、結婚を控えた今の恋人が姿を消して、それを探し求める、という物語の骨格は原作小説と共通ですが、細部のエピソードや登場人物の設定はかなりアレンジが加えられています。ただ、脚本として原作者が参加しているので、映画化するに当たって、原作者も交えてストーリーを再構築した結果なのだろうと思います。この映画オリジナルのアレンジは、良く出た面もあり、悪く出た面もあった感じがしました。(3月23日(金)公開)

◎映画「からかい上手の高木さん

山本崇一朗の同名マンガを原作に、実写映画化した作品で、実質的には、原作で描かれた物語を下敷きに、その10年後を描いたオリジナルストーリー。淡く、ピュアな主人公2人の恋物語、現実には、25歳前後の男女に、こんな関係はとうていあり得ないだろうと思いますが、主役2人を演じた、永野芽郁と高橋文哉のいい雰囲気・演技もあって、初々しい恋愛物語として、素直に観ることができ、清々しい余韻が残る作品でした。冒頭に、中学生時代の2人の関係について簡単に紹介され、最低限の基本設定は分かるようになっていたので、原作を知らなくても特に消化不良感を抱くことなく観ることができる内容になっていました。ただ、冒頭やエンディングなど、中学生時代の描写がシンクロするので、原作やテレビドラマ版などで中学生時代の物語に触れていた方が、より心に沁みるだろうと思います。(5月31日(金)公開)

カーリングの神様

本州最古のカーリング場がある長野県御代田町を舞台に、大きな壁にぶつかりながらもカーリングを通して未来へと踏み出していく少女たちの奮闘を描いたオリジナルの青春スポーツ物語。舞台の御代田町の美しい風景も織り込まれ、スポーツに打ち込む高校生を描いた青春物語として、まずまずの良作だったと思います。ハッピーエンドなのは予想どおりですが、ありがちな結末として予想していたものとはちょっと違う着地の仕方だったのも、より現実性が感じさせる流れで良かったと思います。(11月8日(金)公開)

◎風の奏の君へ


あさのあつこの小説「透き通った風が吹いて」を原案に、岡山県美作地域を舞台に実写映画化した作品で、ピアニストの女性と茶葉屋を営む兄弟が織りなすドラマを描いたラブストーリー。物語の骨格は良かったと思うのですが、元恋人の弟に勧められて、元恋人も暮らすその家にやってきて、弟と楽しそうに過ごす女性の心境は、私にはすっと腑に落ちないところがあり、まずまずの作品、といった感じでした。(6月7日(金)公開)

◎サイレントラブ

声を捨てた青年と視力を失った音大生が静かに思いを紡いでいくオリジナルラブストーリー。「ミッドナイトスワン」の内田監督の作品ということで、個人的には期待して観たのですが、結果的には期待外れでした。住む世界が違う2人が、偶然のきっかけで交わり、愛を育んでいく、というテーマは魅力的でしたが、その魅力が十分に伝わってこない感じでした。ヴァイオレンスなシーンは耐え難いものがあって、その刺激が強すぎて、メインであるラブストーリーが薄まってしまった印象がありました。「静かなラブストーリー」を描こうとするのであれば、こうした要素はむしろ邪魔なように思いました。(1月26日(金)公開)

◎ルート29


人と交流しない若い女性が、あるきっかけで少女と姫路から鳥取まで旅をするロードムービーロードムービーといっても、ドキュメンタリー風なリアリティある物語ではなく、周囲に現実性のない奇妙な言動をするエキセントリックともいえる人物を配置した、作家性が強く出た作品でした。物語のリアリティを捨ててシンボリックな描写を多く織り込んでいること自体は、独特な魅力も感じましたが、その企図するところがわかりにくく、あまり響きませんでした。(11月8日(金)公開)

◎彼方のうた


杉田協士監督の長編第4作で、デビュー作「ひとつの歌」以来12年ぶりとなるオリジナル作品。書店員の女性がかつて街中で見かけて声をかけた悲しみを抱えた男女とのかかわりの中で、自分自身の気持ちと向き合っていく物語。静謐な雰囲気が印象的で、その部分は良かったと思いますが、説明されない設定、回収されない伏線が多すぎて、よく分からない映画でした。説明のための描写を全くと言っていいほど加えていないのは、杉田監督の意図したところなのでしょうし、描かれていない設定をあらかじめ頭に入れてから本編を観れば、心に響く描写もあったのだろうという気がしますが、注意深く見れば感じ取れる、というくらいには説明があった方が、より感銘深い作品になったのではないかと思いました。(1月5日(金)公開)

 

今年観た実写映画は以上の22本。アニメ映画も合わせるとこの1年で33本の映画をスクリーンで観たことになります。コロナ禍以前よりは少し減ったものの、ここ数年、毎年40~50本はスクリーンで観ていたので、だいぶ少なくなりました。たまたまなのか、自身の趣向の変化なのか、行ってみようと思う作品が減ったことが要因なのですが、何か映画でも観ようと思った日に、気の向く作品の上映がなかったことが多かった気がします。

来年はより多く、印象に残る作品に出会えることを期待しています。