鷺の停車場

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アニメ「月がきれい」を見る③第9話~第12話

アニメ「月がきれい」の続きです。

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第4話で両思いになり、第8話でファーストキスにまで進んだ小太郎と茜。第9話からは、卒業後の進路に悩み、それぞれ友人から告白されても互いへの気持ちを変えず、紆余曲折あって遠く離れた別の高校に行くことになっても2人で進んでいくことを決意するまでが描かれます。

自室で部屋の蛍光灯の紐を相手にシャドーボクシングをする小太郎など、それぞれの細かい仕草がいかにもあるあるで、過剰さがないセリフと相まって、この年代のリアルを切り取ったように見せるところはすごいなあと思います。

スタッフの方のインタビューを見ると、実際の中学生に取材したときの仕草を入れたり、セリフでも実際には言わなそうな部分を削り込んだり、といったことをされたのだそうです。作品のリアルさ、また、深く残る余韻には、こうした工夫が大きいのだろうと思います。

本当の同年代から見てリアルなのかは、年代の離れた私には判断しようもありませんが、その年代だった頃の自分を思い出させられました。

 

 

 

 

引き続き、アニメテレビ公式サイトに掲載されているストーリーに触れつつ、各話の内容を紹介したいと思います。(以下<  >内は公式サイトの記載です。

 

 

 

第9話:風立ちぬ

<中3の秋は進路の季節。のんびり構えていた小太郎もいよいよ、茜との会話にその話題が出始める。そんな中、茜は中学最後の大会へ。こっそり観に来た小太郎の前でのラストランで自己ベストを更新、有終の美を飾るが――。>

タイトルは堀辰雄の小説(昭和13(1938)年)。これは読んだことがあります。今では宮崎駿の映画の原作(の一部)として有名なのかもしれません。当時は有効な治療法がなかった肺結核にかかり高原のサナトリウムで療養する若い女性と、彼女に好意を寄せ婚約者となった男性の切ない物語。本話では、卒業後の進路に不穏な風が吹き始めた、というニュアンスで使われた感じですが、小説では、女性が口にするポール・ヴァレリーの詩の和訳の一節として出てきます。

秋になり、みんなの話題は志望校のことになるが、小太郎も茜も自分の進路を決めかねていた。2人は同じ学校行けたら、と話し合うが、茜より成績が悪い小太郎は自信がない。

そんなある日、茜の父親の洋(岩田光央)が突然、来年は千葉の本社に異動になるかもしれないと家族に告げる。母親の沙織(斎藤千和)は茜に千葉の光明高校を受験することを勧める。小太郎が受験に本腰を入れないのを心配する母親。
川越祭りのお囃子の練習の後、小太郎が立花にラノベはどうか尋ねると、一度読んでみたらいいと勧められる。その夜、LINEで会話して、どっちも頑張ろうと励まし合う2人。茜の中学最後の陸上大会と知って、見に行っていい?と尋ねる小太郎に、茜は、絶対ダメ、恥ずかしい、と拒む。
迎えた大会の日、小太郎は茜の大会をこっそり見に行く。なけなしのお金をはたいてプログラムを買い、LINEで元気付けるメッセージを送り、スタンドで観戦する小太郎。小太郎や家族、部員たちが見守る中、茜は100メートル走で自己ベストを更新する13.70のタイムを出す。それを見届け、見つからないうちに競技場を後にするが、千夏は帰る小太郎の姿を見つける。お昼、千夏、葵と一緒にお弁当を食べながら感傷的になり、3年間ありがとう、と涙しながら感謝の言葉を掛け合う茜。結果を報告する茜からのLINEに、小太郎は、見に行ったことは伏せて、おめでとう、と返事する。大会が終わった後、比良に高校でも陸上を続けようと思うと話す茜は、千葉の高校なら光明高校が強いと聞かされる。その帰り、比良はみんなで川越祭りに行こうと部員たちを誘う。比良と電車に乗る千夏が「茜のことあきらめてないの?」と聞くと、比良は「まだ勝負すらしてないし」と答える。「しょうがないよね、気持ちは止められないし」と自らに言い聞かせるように言う千夏。
その夜、小太郎の部屋に突然父親が入ってくる。高校、別にいいとこじゃなくてもいい、やりたいことをやるために、好きなところに行っておけ、とだけ告げて出ていく父親。小太郎はLINEで、茜に大会を見に行っていたことを謝る。びっくりする茜だが、千葉のほうに引っ越すかもしれないと打ち明ける。

本編エンディングの後には、次のショートエピソードが挿入されています。

彩音のカレシ(2)

付き合うならハイスペック男子がいいよね、と友達と話しながら歩いていると、建設工事現場でばったり出会って一目惚れしたのが、彩音が今の彼氏と付き合うきっかけだった。やっぱり手に職よね~と茜に語る彩音

●男子女子の恋バナ

ラブホテルに行って代金を払わせる永原を嘆く節子。

第10話:斜陽

<「引っ越すかもしれない」茜は引越し先の高校の推薦入試を受けることになり、小太郎もその高校を受けると言い出す。動揺の中迎えた川越祭り、陸上部のメンバーと遊びに来た茜は、山車で舞う小太郎の姿に見惚れるが…。>

タイトルは太宰治の小説(昭和22(1947)年)。これも読んだことがあります。日本国憲法により戦前の貴族制度が廃止され、没落していく元貴族の家族の夜を目前にした夕暮れの陽のようなほのかな輝きを描いた作品。本話では、夕陽の中で山車で舞う小太郎をイメージしたものでしょうか。

引っ越すかもしれないとLINEで見た小太郎は動揺して電話する。茜から千葉の私立の光明高校を調べていると聞いた小太郎は、その高校を考え始める。三者面談で光明高校の推薦入試を受けることを決めた茜は、小太郎と同じ塾に通い始める。その夜、小太郎を呼び出した茜は、光明高校を受けることを報告し謝るが、茜ちゃんのせいじゃない、遠くなっても平気だから、と言う小太郎は、同じ高校を一般入試で受けようかなと伝える。
迎えた川越祭りの日、茜は比良たち陸上部員たちと待ち合わせて祭りに行く。夕方になり、やってくる山車を見る茜は、山車の舞台で舞う小太郎に見とれる。
夜になり、次の行程までの空き時間、立花は、そのままでいいんじゃない、この前に読ませてもらった小説はラノベ好きな人にも通用すると思う、とアドバイスする。その後、祭りを見に出る小太郎。茜は、じゃんけんで負けて比良と陸上部員たちのゴミを捨てに行くことになるが、その場で、比良は茜に、「俺、水野が引っ越すって聞いてどうしたらいいか・・・好きだった、ずっと・・・一生懸命走ってるとこ、ずっと見てたから」と自分の思いを告白する。それをたまたま目撃する小太郎。茜は「ごめん、私付き合ってる」と断わるが、比良は、「俺の方がずっと安曇のことよく知ってる、ずっと、初めから、一番好きだ!」と気持ちを伝える。「私、比良は友達だから、大事だけど・・・違う」と茜は答える。その後、小太郎は待ち合わせて茜と会うが、何となく冷たい態度をとってしまう。何かいつもと違う、何か怒ってると茜が言うが、小太郎は冷たく接し「むかついた、他の男子・・・」と吐き捨てる。比良に告白されて断ったことを伝える茜だが、小太郎は素直に接することができず、山車に戻っていく。泣きながら帰る茜。
帰宅後、小太郎は自分のとってしまった冷たい対応を悔やむが、翌日になっても、2人は話すことができない。その夜、茜は塾で光明高校の資料を見つける。なぜあるか職員に聞くと、リクエストがあったという。それを聞いて茜は走り出し、帰り道の小太郎を呼び止める。小太郎は、受けるから、親はたぶん反対するけど、説得する、ずっと一緒にいたいし、本気だから、と答える。感激した茜は、小太郎の胸に飛び込んで涙を流し、キスをする。

本編エンディングの後には、次のショートエピソードが挿入されています。

●さくらと卒アル

卒業アルバムの撮影、文芸部に幽霊部員がこんなにいたのかと驚く小太郎は、隣にさくらがいることに気付き、さらに驚く。

第11話:学問のすすめ

<茜と同じ高校に行くために勉強を始めた小太郎。だが三者面談の席上、志望校としてその校名を出し、母親と衝突してしまう。気まずい家の中で母親と話すことなく勉強に没頭する小太郎。一方、茜は推薦入試に合格する。>

タイトルは福澤諭吉の著作「學問のすゝめ」(明治5~9(1872~6)年)。その一部は読んだことがあったかもしれませんが、よく覚えていません。

小太郎は、茜と同じ高校に入るため猛勉強を始める。三者面談で、母親は地元の市立高校を、と担任に話すが、その場で、小太郎は突然、千葉の光明高校を受けると打ち明け、初めて聞いた母親の淳子は激怒する。家に帰っても母親の怒りは収まらず、好きな子がいるという理由で受けるなんてと責める。
その頃、クリスマスに向け、手編みのマフラーをひそかに作り始める茜だが、それを見つけた姉の彩音は、彼氏も同じ高校を受けると聞いて反対する。小太郎の決意は変わらず、勉強に打ち込む。
小太郎が茜と同じ高校を受験することは、クラスでも噂になるが、模試の成績は思うように伸びない。強く反対していた母親だが、受験勉強に打ち込む小太郎の姿を見て、考えるところがあったのか、担任の涼子を訪れ何やら相談する。
古本屋の立花を訪れた小太郎は、少し落ち着いたら、親と話した方がいいとアドバイスする。
迎えたクリスマス、小太郎は茜にデートに誘われる。小太郎はプレゼントにハンカチを買う。久しぶりに2人きりで会った小太郎と茜は、河岸でプレゼントを交換する。茜の手編みのマフラーのプレゼントに喜ぶ小太郎。街を散策し、神社でお参りした2人は、帰り道にキスし、体を寄せ合う。
小太郎は、塾で茜からLINEで推薦入試合格の知らせで受け、千夏とともに喜ぶ。
そんなある朝、小太郎は父親の龍之介(岡和男)に呼び止められ、光明は受けてもいい、ただし、ダメだったときは、併願で市立高校を受験しなさい、と告げられる。さらに父親から、この前、母親の淳子が担任に呼ばれ、小太郎の今の成績では光明はやめた方がいいと反対されたが、小太郎が真剣に頑張っているんだから、受けさせてやりたい、と突っぱねたことを聞かされる。
受験近くのある夜、台所に足を向けると、母親が夜食におにぎりを用意してくれているところだった。母親の気持ちに思いに馳せ、おにぎりを頬張る小太郎。
そして迎えた入試の日の朝、小太郎は両親に見送られて受験会場に向かう。小太郎の頭に、太宰治の「走れメロス」の一節が去来する。

第12話:それから

<茜の引越しが近づく。進路は決まったものの、遠距離恋愛の不安が二人に圧し掛かる。茜は引越し荷物に涙を刻み、小太郎は想いを文章に綴る。卒業式翌日、引越し前の最後のデート。同じはずの二人の想いはすれ違い――。>

タイトルは夏目漱石の小説(明治42(1909)年)。これは読んだことがあります。裕福な家に育ち、働かず不自由ない生活を送る主人公が愛する友人の妻と生きていくことを決意する物語。今風に言えば略奪愛の物語ともいえる設定なので、これも、タイトル以外は本話との共通点はありません。

光明高校の入試の不合格通知を受けた小太郎は、太宰治の「人間失格」の一節が頭に浮かぶ。茜と会った小太郎は合格できなかったことを謝り、併願で市立高校を受けることを伝える。立花は、小説家って、経験して困ることは何もない、全部ネタになるから、書いてみたら、少しは気が楽になるかも、と勧める。茜の姉の彩音は、遠距離恋愛を心配し、男子、めんどくさがりだよ、茜が泣くの見たくない、別れたら、とアドバイスするが、姉ちゃんのいじわる!と反発する茜に、まあ、好きならしょうがないけど、と言う。
そして市立高校の合格発表の日、小太郎は無事に合格する。同じく市立高校に合格した千夏は小太郎を呼び止め、一緒の帰り道で、これから茜とどうするの、と尋ねる。千夏は「私、ずっと言えなくて・・・茜のことも友達だから大事にしたいし・・・でも、ちゃんと言わないと」と覚悟を決めるように小太郎を見つめ、「小太のこと、ずっと好きでした」と告白し、私じゃだめかな、と小太郎に抱きつく。小太郎が、ごめん、と断ると、千夏は体を離してホッとしたように伸びをし「言えてよかった・・・高校行ってもよろしく!じゃあ、またね」と去っていく。
その日、学校で自習していた茜は、千夏からLINEで、合格したこと、その後小太郎に告白してフラれたことを報告され、これからも友達でいてくれる?と尋ねられる。うん!と茜が返すと、小太郎から、どこかに遊びに行こうとLINEが入り、卒業式の次の日に会う約束をする。
受験が終わった小太郎は、自分の経験を小説に書き始める。
卒業式の日、友人たちと写真を撮る茜、小太郎も心咲に呼ばれ茜と写真を撮る。書いた小説を読みたいろまんは、投稿サイトにアップしてよ、と小太郎に言う。その言葉で投稿サイトを知った小太郎は、その夜、「13.70」と題した小説を投稿サイトにアップし始める。
その翌日、茜が待つ橋の上に小太郎は手編みのマフラーをしてやってくる。川越の街を散策する2人、毎週会いに行く、週3くらいバイトすれば電車代くらいなんとかなる、と小太郎は話すが、不安でたまらない茜は、千夏に告白されたことを小太郎に尋ね「何で、言ってくれなかったの?・・・言わない、普通?・・・心配になるの・・・」と涙を流し、何で、と当惑する小太郎に「私、ずっと、ずっと不安で・・・小太郎君に迷惑ばっかり、それが一番辛い・・・どうしたらいいの?」と大粒の涙をこぼし、キスをして走り去っていく。走り去って1人で座り込み号泣する茜。その夜、自室で思いにふける小太郎。

翌日、水野家は引越しの日を迎える。荷物がすべて運び出された部屋で、茜は芋のマスコットを眺める。見送りに来た千夏と葵に一緒に涙を流す茜。両親が気遣って、茜は後で電車で来るように伝えて車で出ていく。そこで千夏から投稿サイトに投稿した小太郎の小説を見せられる茜。それは自分がモデルの小説だった。

その日、小太郎は小説の終章を書き上げてサイトに投稿し、お囃子の稽古に向かう。稽古を終えた小太郎は、立花から投稿した小説に結構コメントが付いているのを教えられ、そこに茜から「この先はどうなるんですか?」とコメントが付いているのに気付き、走り出す。

茜は駅で千夏と葵と別れ、引越先に向かう電車に乗り、更新された小説の終章を読む。そこに、離れても自分の気持ちは変わらない、と小太郎の強い思いが綴られているのを読み、涙する。小太郎は鉄橋を渡る茜の乗った電車に向かって「大好きだー!」と叫ぶ。好きな人が自分を好きになってくれるなんて、奇跡だと思った、と思う2人。

全て見終わると、千夏ってすごい、と思います。もともと、修学旅行の時、彼女が、自分の感情を優先して、スマホを没収された小太郎と茜の間の橋渡しをしなかったとしたら、こういう展開にはならなかったわけで、打算的でない人思いな彼女の行動は、正直凄いなあと思います。

 

エンドロールに出てくるLINEの会話の相手の名称は、第9話は「カレリン」、第10話は「ハニー」、第11話は「べにっぽ」になっています。
第12話のエンドロールでは、第11話までのエンドロールで挿入されていたLINEの会話が、今度はその状況を描いた静止画とともに再び流れます。出てくる順番と静止画からすると、
「ハニー」(第10話)・「ダーリン」(第8話)/「べにっぽ」(第11話)・「カレリン」(第9話)が高校時代、
「彼氏さん」(第1話・第5話)・「彼女さん」(第3話・第4話・第6話)がたぶん大学以降、
「よめ」(第2話)・「夫」(第7話)が結婚前後、ということでしょうか。
そして最後は、川越祭りの日、家族に囲まれ、生まれたばかりの赤ちゃんを抱いた小太郎と茜を囲む2人の家族の姿が映り、赤ちゃんに添えられた2人の左手に結婚指輪があることがアップで描かれて終わります。

そういえば、このエンドロールでは、小説家を目指す小太郎のその後は映りません。書き続けてはいるのかもしれませんが、デビューには至らず、普通に就職したような感じです。最後の画でも祭りの法被を着ているので、引き続き地元に縁のある生活をしているのでしょう。