鷺の停車場

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宮下奈都「メロディ・フェア」

宮下奈都さんの小説「メロディ・フェア」を読みました。

([み]3-1)メロディ・フェア (ポプラ文庫 日本文学)

([み]3-1)メロディ・フェア (ポプラ文庫 日本文学)

  • 作者:宮下 奈都
  • 発売日: 2013/04/03
  • メディア: 文庫
 

「よろこびの歌」を読んで、この作家さんの別の作品も読んでみようと手にしてみた作品。 

2011年1月に単行本化された作品。2013年4月に書き下ろしの番外編を加えて文庫本化されています。

 

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が載っています。

『大学を卒業した私は、田舎に戻り、「ひとをきれいにする仕事」を選んだ。けれども、お客は思うように来ず、家では妹との溝がなかなか埋まらない――。いま注目の著者が、迷いながらも、一歩ずつ進んでいく若い女性を描いた、温かく軽やかな物語。書き下ろし番外編を収録!』

作品は、章立てや見出しはなく、行を開けて少しずつ区切りながら書かれています。

大まかな内容・あらすじを紹介すると、

 

大学を卒業した小宮山結乃(よしの)は、地元に戻って化粧品カウンターで働くことを選び、とある化粧品会社に入社する。母と3歳下妹・珠美が暮らす福井の実家に戻った結乃は、デパートの化粧品カウンターを希望するものの、地元のショッピングモールの化粧品コーナーにある店に配属され、高い売上高を出す「凄腕」のパート・馬場あおいについてビューティーアドバイザーとして働き出す。なかなか固定客がつかず、売上げが伸びない結乃は、家でも、珠美との間の溝が埋まらない。しかし、化粧品は買わずに愚痴話をしに来る浜崎さんや来店する客への接客、ともに働く馬場さん、支部マネジャーの福井研一、幼なじみの真城ミズキ、今は占い師の前任の白田さんなどとの交流の中で、少しずつ成長し、前に進んでいく・・・という物語。

 

若い女性が、日々の生活を過ごしていく中で、ちょっとした気づき・発見を積み重ね、少しずつ前に進んでいく、という大きな骨格、爽やかな読後感は、年代は多少違いますが、先に読んだ「よろこびの歌」と共通しますし、仕事を始めた若者が社会人として成長していくという意味では、さらに前に読んだ「羊と鋼の森」との共通点も感じました。

私自身は化粧のことはまるで分かりませんが、その奥深さを感じさせるような描写が鮮やかで、化粧ひとつで、女性の内面がこうも変わるのだと、新鮮な感覚がありました。鉄面皮のように厚化粧していたミズキの変化、化粧することを通じて、姉妹のわだかまりが消えていく描写もとても印象的でした。

 

書き下ろし番外編の「若葉のころ」は、結乃が入社して2年が過ぎようとする春の日の夕方の出来事を、結乃を心の中で「よっすぃー」と呼ぶ馬場さんの視点から描いた短編。結乃の視点で描かれた本編では分からなかった馬場さんの仕事への思い、プロ意識が垣間見える作品で、さりげなく結乃の成長ぶりが描かれているところにも、著者の巧みさを感じました。