鷺の停車場

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河野裕「その白さえ嘘だとしても」

河野裕さんの小説「その白さえ嘘だとしても」を読みました。 

その白さえ嘘だとしても (新潮文庫nex)

その白さえ嘘だとしても (新潮文庫nex)

  • 作者:河野 裕
  • 発売日: 2015/05/28
  • メディア: 文庫
 

「いなくなれ、群青」に続く階段島シリーズの第2弾で、2015年5月に刊行された作品。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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クリスマスを目前に控えた階段島を事件が襲う。インターネット通販が使えない——。物資を外部に依存する島のライフラインは、ある日突然、遮断された。犯人とされるハッカーを追う真辺由宇。後輩女子のためにヴァイオリンの弦を探す佐々岡。島の七不思議に巻き込まれる水谷。そしてイヴ、各々の物語が交差するとき、七草は階段島最大の謎と対峙する。心を穿つ青春ミステリ、第2弾。

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作品は、3章とプロローグ・エピローグから構成されています。各章のおおまかなあらすじを紹介します。

プロローグ

12月18日、金曜日の夜、通販会社から配達をキャンセルするとのメールが入り、毎週土曜日にやってくる船で階段島に運ばれてくる通販の荷物が突然届かなくなる。そしてそのまま12月24日のクリスマスイブを迎えようとしていた。

一話、みんな探し物ばかりしている

1 七草 二四日までのこと

終業式の22日、犯人がハッカーだという噂を聞いた真辺由宇は、犯人探しを始め、七草はそれを手伝うことになる。そして、佐々岡がヴァイオリンの弦を探していることを知る。さらに、委員長の水谷から、真辺へのクリスマスプレゼントを探すのを手伝ってほしいと頼まれる。

2 佐々岡 二四日までのこと

佐々岡は、学校でヴァイオリンを弾く少女に出会う。E線が切れてしまってイブのパーティーで演奏できないと悲しむ少女に、佐々岡はE線を持っている人を探し始める。

3 水谷 二四日までのこと

水谷は、通販で注文していたクラスメイトたちへのクリスマスプレゼントが届かなくなったことから、島内でプレゼントを用意しようとするが、真辺へのプレゼントだけが決まらない。水谷は、社会性に欠ける真辺を変えようと、真辺に友達ができるきっかけとなるようなプレゼントを探していた。

4 時任 午前七時

24日の朝、郵便局員の時任が速達用のポストを確認すると、何百通ものクリスマスカードが投函されていて絶句する。その日のうちに配達し終えようと、急いで配達に出掛ける。

5 七草 午後一時 

昼ごろ起きた七草は、まず真辺と会って予定の確認をする。クリスマスの七不思議の噂を聞いた七草は、まずそれについて調べることにする。

6 佐々岡 午後一時三〇分

音楽をしている人間を探す佐々岡は、昼飯に入った屋台のラーメン屋で、ゲームセンターにたまに来るゲーマーがミュージシャンだという噂があることを聞く。

7 水谷 午後一時三〇分

水谷は七草と待ち合わせて、真辺へのプレゼントを探しにまず雑貨屋に入る。そこで七草に聞かれて七不思議の内容、そしてほんの4~5日前に聞いたことを話す。結局そこではプレゼントは見つからない。

8 時任 午後二時

クリスマスカードを配達して回る時任は、海岸近くのお地蔵さまで七不思議のひとつと符号する事態を目撃する。その直後、小学2年生の相原大地と出会った時任は、大地にクリスマスカードを渡す。

9 七草 午後二時三〇分

水谷と別れた七草は、カフェで再び真辺と会って得た情報を交換して、佐々岡との待ち合わせに向かう。途中で配達する時任のカブを見つけた七草は、そのレターボックスに出すつもりの3通の手紙のうちの1通を入れる。

10 佐々岡 午後二時三〇分

ゲームセンターに向かった佐々岡は、黒髪で美人の「ミュージシャン」と呼ばれるゲーマーが月に1回くらい来るとの情報を得る。

11 水谷 午後三時

プレゼントを探しに入った書店を出た水谷は、時任に出会い、クリスマスカードを渡される。時任が去って「緊急」とだけ書かれた封筒が落ちているのに気付いて追いかけようとするが、同じ寮で暮らす中等部の豊川に呼び止められる。あとをつけられて振り返ると、姿はなく、七不思議のひとつのサンタクロースの帽子が落ちていたという。

12 時任 午後三時一五分

時任は配達途中に気になって七不思議のひとつの墓地に行くと噂どおりケーキが置いてあった。そこで堀と出会った時任は、彼女宛ての手紙2通を手渡す。

13 七草 午後三時三〇分

寮に戻って佐々岡と会った七草は、佐々岡の話から「ミュージシャン」の心当たりをつけ、電話で彼女をゲームセンターに呼び出すことに成功する。

14 佐々岡 午後三時四五分

ゲームセンターに向かった佐々岡は「ミュージシャン」と会う。噂どおり一言もしゃべらない彼女はゲームで勝負するよう促す。

15 水谷 午後三時四五分

豊川とカフェに入った水谷は、彼女からサンタクロースの帽子を預かり、店を出る。そこに七草の寮の管理人のハルがやってくる。大地を探しているというハルを水谷は手伝うことになる。

16 時任 午後三時四五分

アパートに配達に来た時任は、空室になっている部屋から泣き声のような物音を聞く。

二話、なりそこないの白

1 七草 午後四時

七草は知人と待ち合わせをしていた学校に向かうと、出会った堀から手紙を渡される。受け取って学校に向かう階段を上ろうとすると、引き返してきた堀に手紙を返してと言われ、その手紙を返す。

2 佐々岡 午後四時三〇分。

「ミュージシャン」とゲームで勝負する佐々岡だが、リズムゲーム格闘ゲームで完敗する。ゲームを変えて再び彼女と勝負する佐々岡。

3 水谷 午後四時三〇分

大地を探す、緊急と書かれた封筒を時任に渡す、サンタクロースのストーカーについて調べる、真辺へのプレゼントを買う、と懸案を抱え足取りが重い水谷に、真辺が声を掛け、水谷は真辺の協力の申出を受け入れて水谷がその内容を話す。真辺は封筒を開封して中の手紙を読むと、その手紙を水谷に返して、大地の居場所がわかった、手紙は七草に渡してと言って去っていく。

4 時任 午後四時四五分

時任が配達に寮に行くと、その寮で暮らす豊川からヴァイオリンを持っている人がいないか尋ねられる。時任が寮の人の分のクリスマスカードを渡すと、豊川は自分宛ての封筒を開封する。そこには、カフェの店主がヴァイオリンのE線を探していると書かれていた。

5 七草 午後四時四五分

七草は、学校の図書室で100万回生きた猫に会う。山頂に向かう階段を誰かが通ったか見張ってもらっていたが、誰も通らなかったという。

6 佐々岡 午後四時四五分

何度挑んでも佐々岡は「ミュージシャン」に勝つことができない。ついに口を開いた彼女はトクメ先生だった。先生は佐々岡に数年前の演奏会の案内を渡す。そこには、演奏者として「アリクイ食堂店主」と書かれていた。

7 水谷 午後五時

七草に会うために学校に続く階段の下にやってきた水谷は、七草に手紙を渡す。七草は、真辺へのプレゼントにペアのキーホルダーを勧める。

8 時任 午後五時一五分

時任が配達を終えたアパートを通りかかると、大地を探しにきた真辺と男性がトラブルになっていた。時任が間に入って、空き部屋から大地が出てくる。大地はハッカーとゲームをしていたと話す。

9 七草 午後五時三〇分

アパートの前で時任のカブを見かけた七草は、そのレターボックスに残り2通の手紙のうちの1通を差し込む。そこにやってきた時任は、大地を誘拐したのは七草だと話す。七草は話をごまかすが、その実、七草はある計画を大地に手伝ってもらったのだった。

10 佐々岡 午後六時

佐々岡はアリクイ食堂の店主を訪ねるが、ヴァイオリンは豊川にあげたのだという。

11 水谷 午後六時

水谷はサンタクロースの噂について友人たちに聞き回り、真辺へのプレゼントにペアのキーホルダーを買う。そこで出会った堀から、ヴァイオリンのE線を渡される。

12 時任 午後六時一五分

時任はようやくクリスマスカードを配り終える。自分宛てのクリスマスカードを開くと、豊川宛てのものとほぼ同じ文面だが、弦を欲しがっている人間がトクメ先生に変わっていた。時任は七草の仕業だと考える。

13 七草 午後六時三〇分

七草は真辺と大地がプレゼントを買うのに付き添い、大地を寮に送った後、真辺を送る。七草は七不思議が最近人為的に作られたことは知っていたが、今日一日起きたことを考えても答えは見つからない。

14 佐々岡 午後六時四五分

弦を入手できず、豊川に謝りに寮に向かう佐々岡は、出会った水谷から弦を渡され、大喜びする。

15 水谷 午後六時五五分

水谷が佐々岡と寮に向かうと、寮の前に待っていた七草は、サンタクロースにつけられていたのが誰かを尋ねる。水谷が寮のパーティー会場に入ると、豊川は七不思議が本当になった、ヴァイオリンの弦が切れて演奏できないと話す。

16 時任 午後七時

時任はアリクイ食堂の前で店主に出会う。彼女は寮のパーティーに行く予定だったが仕事で遅れていた。

三話、ぼろぼろのヒーローをみて一体だれが笑えるというんだ

1 七草 午後七時

七草は佐々岡に、七不思議はヴァイオリンの弦を切るために作られた、それを作り、再現したのは豊川だと語る。佐々岡は落ち込む。

2 佐々岡 午後七時一五分

佐々岡はそのまま引き返そうとするが、寮から出てきた真辺に勧められて、サンタクロースを装ってパーティー会場に乗り込み、豊川に弦を渡す。豊川は尊敬するアリクイ食堂の店主の前では普段通りに弾けないと話すが、店主が遅れている今のうちに弾いてしまおうと出ていく。

3 水谷 午後七時三五分

豊川がヴァイオリンを弾き終えると、既に佐々岡はいなくなっていた。真辺と水谷はプレゼントを交換する。

4 七草 午後七時四〇分

七草は寮の外でアリクイ食堂の店主と一緒に豊川のヴァイオリンを聴いていた。演奏が終わると店主はパーティーに加わるため寮に入っていき、入れ替わりに佐々岡が出てきて去っていく。堀が出てくるのを待っていた七草は、堀を寮に送りながら、堀が魔女なのか尋ねる。それを認めた堀は、一度取り返した手紙を再び七草に渡して別れる。

エピローグ

堀からの手紙を読んだ七草は、真辺と会ってクリスマスカードとプレゼントを渡すのだった。

 

(ここまで)

そういえば、昨年観た実写版の映画「いなくなれ、群青」にも、細部は忘れてしまいましたが、ヴァイオリンの弦を探すエピソードは出てきていました。同タイトルの前巻だけでなく、本作のエピソードも盛り込んでいたのですね。

 

前巻の「いなくなれ、群青」にも増して、謎めいた雰囲気の作品でした。

七草によって、七不思議などの謎は解き明かされるのですが、なぜ七草にそれが分かったかが分からないところが多くありました。これは意図的にそうしているのでしょうし、次巻以降への伏線として仕込んでいるのかもしれません。もう少し読み進めてみたいと思いますが、本作を単品としてみると、消化不良感も残りました。