鷺の停車場

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河野裕「汚れた赤を恋と呼ぶんだ」

河野裕さんの小説「汚れた赤を恋と呼ぶんだ」を読みました。 

汚れた赤を恋と呼ぶんだ (新潮文庫nex)

汚れた赤を恋と呼ぶんだ (新潮文庫nex)

  • 作者:河野 裕
  • 発売日: 2015/12/23
  • メディア: 文庫
 

「その白さえ嘘だとしても」に続く階段島シリーズの第3弾で、2015年12月に刊行された作品。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

 

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七草は引き算の魔女を知っていますか——。夏休みの終わり、真辺由宇と運命的な再会を果たした僕は、彼女からのメールをきっかけに、魔女の噂を追い始める。高校生と、魔女?ありえない組み合わせは、しかし確かな実感を伴って、僕と真辺の関係を侵食していく。一方、その渦中に現れた謎の少女・安達。現実世界における事件の真相が、いま明かされる。心を穿つ青春ミステリ、第3弾。

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作品は、5章とプロローグ・エピローグから構成されています。各章のおおまかなあらすじを紹介します。

プロローグ

8月31日、七草はネットで知った同じ高校1年生の少女・安達に会う。七草は、噂になっている「引き算の魔女」を探すのに安達と手を組むことになる。

一話、引き算の魔女の噂

  1. 二学期が始まって2週間ほど経った放課後、七草は2年ぶりに再会し、同じ高校に転入してきた真辺由宇と話す。七草は真辺がなぜ引き算の魔女に興味を持つのか気になっていた。
  2. 七草は安達と再び会い、引き算の魔女についての情報を交換する。七草は、8月28日に魔女から電話がかかってきて、人格の一部を捨てていた。
  3. 9月25日の放課後、七草は1月前に真辺と再会した公園で真辺と会う。2年前に別れたときになぜ笑ったのか問う真辺に、その理由を思い出せない七草は、作り話で答える。
  4. その夜、七草は階段でもう1人の自分と会う夢を見る。

二話、時計と同じ速度で歩く

  1. 10月に入ってすぐの日曜日、七草は待ち合わせて魔女に会ったという青年・秋山と会う。一方的に魔女から電話がかかってきたのは七草と同じだったが、細部には相違点があった。
  2. 文化祭が近づいたある日、七草は小学校から同じ学校の女の子・吉野から相談される。真辺が文化祭の手伝いを休んでトラブルになりそうなので休む理由を知りたいという。
  3. 七草は真辺を呼び出して理由を聞くが、秘密にすると約束したから考えさせてほしい、と教えてもらえない。悩みがあれば相談に乗ると声をかけるが、七草にだけは相談できないと言われ、内心ショックを受ける。
  4. 10月29日の夜、七草は再び階段の夢を見る。そこで会ったのは知らない少女だった。

三話、遠いところの古い言葉

  1. 真辺が魔女を探す動機が気になっていた七草は、11月に入っても魔女を追っていたが、7年前のネットの書き込みで、魔女を名乗る誰かが自分が通っていた小学校の校庭を待ち合わせ場所に指定していたことを知る。
  2. 11月14日の土曜日、小学校の校庭に行った七草は、そこで吉野に会う。真辺と友達になりたいという吉野は、真辺が自分の役割はヒーローを大声で呼ぶことだと言っていたと語る。その夜、七草に魔女から電話がかかってくる。真辺に電話をかけるべきか尋ねる魔女に、七草はかけてくださいと答える。
  3. 翌日、七草は真辺に会って、前日の電話のこと、秋山と会ったこと、自分が人格の一部を捨てたことを話す。
  4. 11月23日、七草はまた階段の夢を見る。会ったのは自分が捨てたもう1人の自分で、相原大地という少年を守れと強い口調で迫る。そして、真辺も自分の一部を捨てたことを知る。

四話、春を想うとき僕たちがいる場所

  1. 12月の最初の土曜日、七草は秋山と会い、魔女のことや捨てた人格について話をする。その後、安達に会った七草は、自分が以前に魔女に会っていたことを明かす。
  2. 12月7日の月曜日、真辺の家に招かれた七草は、真辺が相原大地から引き算の魔女を知ったこと、大地も真辺と同じ日に人格の一部を捨てたことなどを聞く。別れた七草は秋山に電話をかけ、魔女への伝言を託す。
  3. 冬休みが目前に迫った土曜日、七草は大地に会ってその話を聞く。大地は母親に手紙を残して1週間ほど家出することを考えていた。その夜、魔女から電話がかかってくる。七草は安達の話をするが、魔女はその話題を避けるように電話を切る。
  4. 12月25日、安達と会った七草は、安達と大地や魔女との関係について尋ねるが、安達の答にはどこか謎めいていた。

五話、ハンカチ

  1. 三学期の最初の土曜日、小学校の校庭で待ち合わせて吉野に会った七草は、真辺が文化祭の手伝いを休みがちだった理由、大地のことを脚色して話す。1月はこれといったことがなく過ぎていった。
  2. 2月10日の夜、真辺から大地がいなくなったと電話がかかってくる。七草は、大地は家出した、予定通りの行動だと説明して真辺を落ち着け、安達に大地の居場所を教えてとメールする。安達からの返信には、望む情報が書かれていた。
  3. メールに書かれた場所に向かった真辺と七草は、無事に大地を発見する。七草がやってきた安達と魔女について話をしていると、少女が現れる。少女は魔女だった。魔女は眠っている大地に会って、帰っていく。
  4. 眠る大地を見守る真辺と七草。真辺は自分が捨てたものが何だったのか、七草に説明する。目覚めた大地は、もう1人の自分に会ったと話す。
  5. 大地を家まで送って別れた後、真辺と話す七草は、真辺が自分が信仰していた理想主義者ではなくなっていることに心の痛みを感じる。

エピローグ

階段島の2月11日の朝、前夜に魔女に頼まれて大地を階段までエスコートするために外出していた七草は、安達と名乗る少女に出会う。捨てるためでも拾うためでもなく、奪い取るために来たと言う安達に導かれるように、七草は彼女をカフェに誘う。

 

(ここまで)

前巻の「その白さえ嘘だとしても」と同様、謎めいた雰囲気の作品。

ただ、本巻では、階段島ではなく、もう1つの普通の世界を舞台に描かれ、第1巻の「いなくなれ、群青」で階段島にやってきた七草や真辺、大地が、どうして階段島にやってきたか、その経緯が明かされるので、前巻ほどの消化不良感はありませんでした。

一方で、魔女がどうして七草や真辺たちを知って電話をかけることができたのか、安達や魔女が何者なのか、依然として明かされない、あるいは新たに撒かれた謎が残ります。

作中に出てくる「秋山さん」は、前巻までで出てくる「100万回生きた猫」のもう1人の姿であることが暗示されますが、終盤になって現れる魔女が誰かは、小学生のころ七草が逆上がりのやり方を教えた少女だと七草が推測する描写はありますが、階段島の堀との関係も含め、謎のままです。このあたりの謎は、次巻以降で少しずつ明らかになっていくのでしょう。