鷺の停車場

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村山由佳「海を抱く BAD KIDS」

村山由佳さんの小説「海を抱く BAD KIDS」を読みました。 

海を抱く BAD KIDS (集英社文庫)

海を抱く BAD KIDS (集英社文庫)

  • 作者:村山 由佳
  • 発売日: 2003/09/19
  • メディア: 文庫
 

本作は、1999年7月に単行本として刊行され、加筆・訂正を加えて2003年9月に文庫本化された作品だそうなので、先日読んだ「星々の舟」より少し前の作品ということになります。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

 

【超高校級サーファーであり誰とでも寝る軽いやつと風評のある光秀。一方、まじめで成績優秀、校内随一の優等生の恵理。接点のほとんどない二人がある出来事をきっかけに性的な関係をもつようになる。それは互いの欲望を満たすだけの関わり、のはずだった。それぞれが内に抱える厳しい現実と悩み、それは体を重ねていくことで癒されていくのか。真摯に生きようとする18歳の心と体を描く青春長編小説。】

 

作品は、第1章から第3章までの3章で構成されています。各章とも、山本光秀、藤沢恵理の視点からの描写が交互に出てくる形式になっており、光秀視点の描写は♠、恵理視点の描写は♦で区切られています。各章のおおまかなあらすじは次のとおりです。

第1章

父親と衝突して湘南の実家を出て、全国で唯一サーフィン部がある千葉県の高校に下宿している光秀は、サーフィンにばかり夢中で、彼女ができても長続きしない男だった。
一方、家でも学校でも優等生で通っている恵理は、早熟で、性的なことに強烈に惹かれ、自慰でそれを満たすようになっている自分に、嫌悪感を抱いていた。
男と実際にしてみたら何かが変わるのではないかと考えた恵理は、フェリーに乗って横浜に行き、誘われるままに中年男と関係を持つが、ホテルを出たところを、入院する父親の見舞いに戻ってきていた光秀に目撃されてしまう。
それから光秀が気になってしまう恵理は、ついに、光秀の下宿を訪れ、口止めという口実で光秀を誘い、性的な関係を持つ。

第2章

それから、恵理の身体が忘れられない光秀と、中年男には全く感じなかった光秀の性的な魅力に惹かれる恵理は、身体だけの関係を続けていくが、恵理は光秀と親密になることを頑なに拒む。
しかし、光秀は入院している父親が助かる見込みがないことを、また恵理も、唯一の友人で秘かに恋愛感情を抱いている工藤都の停学、そして光秀の友人でラグビー部の鷺沢隆之との関係を知って、少しずつ心境が変化していく。
そんな中、恵理は家業を継がずに家を飛び出したアキ兄から金を無心され、光秀にも金を借りて10万円を渡すが、久しぶりに会ったアキ兄はすっかり変わってしまっていた。

第3章

自分が助からないと知った光秀の父親は、延命措置を拒む書類を書いて家族に託す。結局、光秀が代理人としてそれにサインすることになる。
一方、アキ兄がふとしたことで一緒に住んでいた愛人を死なせて逮捕され、恵理は周囲の好奇の目に晒される中で、都や光秀にかけられる言葉によりどころを感じるようになっていた。
新年を迎え、恵理は借りていたお金を返しに光秀の部屋に行く。久しぶりに体を合わせても、関係が変わったことでどこかギクシャクしてしまうが、本音をぶつけ合った2人は、今度は、これまでとは違い、深く交わる。
父親が亡くなり、遺言に従って遺灰を海に撒いた光秀は、ある日、恵理を誘ってフェリーに乗り、恵理からもらった夏みかんを遺灰を撒いた海に投げ入れるのだった。

(ここまで)

 

優等生として振る舞う一方で、内面では激しい性的欲求を抑えられない恵理と、軽いやつという見た目と違って、女の子よりサーフィンに夢中な光秀。偶然に接点を持った2人は身体だけの関係を持つようになりますが、それぞれがトラブルに遭遇し、向き合う中で、その関係は変わっていきます。

はるか昔、自分がその年代だったころを思うと、このような関係はとても想像できませんが、特に、恵理の心象の描写が鮮やかでした。作中で触れられているように、これが普通ではないのでしょうけど、女性視点での性欲欲求の描写は生々しくて、いけないものを読んでしまった感じがありました。それと比べると、光秀の描写はやや弱い印象もあって、彼の心象の変化がより鮮やかだともっと説得力ある作品になったのでは、と思いました。